【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


93落陽編 7・8:理不尽を壊す賭け金、不夜城(カジノ)に揺れる不器用な信頼

●7

 

 ──世の中はいつだって不公平で、他と違うというだけで厄介者のレッテルを貼られる。

 

 我の強い俺と、女みたいな格好をしたがる星。

 まったく違うものを軸にしながらも、俺たちは昔からの知り合いのような関係にいつの間にかなっていた。

 

 公園の砂場は冷え切り、錆びついたブランコが風もないのに微かに軋んでいる。

「世の中はいつだって不公平だ」

 俺が吐き捨てた言葉は、夕闇に溶ける間もなく地面に落ちて消える。隣に座る星の、派手なスカートの裾が風に揺れるのを見て、俺はさらに深くフードを被り直した。俺たちは、この美しい夕景を「汚している」側の人間だと、幼いながらに確信していた。

 

「──君たちここで何してるの?」

 ふわふわの金髪に青い瞳の女児が話しかけてくる。

 普通の大人が言えば「尋問」に聞こえるその言葉が、彼女の口から出ると、ただの「天気の確認」と同じくらい無垢に響いた。俺たちが必死に抗っている社会のルールを、彼女はそもそも重荷だと思っていない。そんな軽やかさが、苛立ちを通り越して、俺の胸をひりつかせた。

「別に、意味なんてない」

「今って学校に行く時間でしょ?」

 学校、子供を扱いやすく教育する場所。

「行かねぇ」

 大人たちはいつだって、厄介者に厳しい目を向ける。

「そっかぁ、そういう気分なんだね。じゃあここにいようか!」

 どっこいしょ、と小さな尻がベンチの上に落ち着く。

 俺と星の間に、彼女の体温が割り込んできた。

「「!?」」

 拒絶する理由はいくらでもあったはずなのに、その「どっこいしょ」という力の抜けた一言の重力に、俺たちは抗えなかった。

 誰もいない公園の、冷え切ったベンチの上。

 彼女が隣に座っただけで、ここが「逃げ場所」から「居場所」に変わってしまったような、そんな錯覚に陥った。

 ちらりと横を見ると、星が少しだけ戸惑ったように、けれどどこか嬉しそうに睫毛を伏せていた。

 自分の格好を「女みたい」だとも笑わない、それどころか、最初から俺たちのありのままを"せいら"は見ていた。

「何かお話しするー? それとも公園にいるんだし、追いかけっこでもしようか!」

 

 あの日"せいら"が差し出してきた小さな手は、泥だらけの俺たちの手よりも、ずっと強引で、ずっとあたたかかった。

 

 ──

 

 呪術学園の地下深くに存在する不夜城。

 鳴り響く重低音、壁際に居座る面々はどこか世間から弾き出されたような印象を受ける。

 対極の雰囲気を纏った七海建人は眼鏡を押し上げて小さく息を吐いた。

「私が同行することで反感を受けないでしょうか」

 その言葉は、彼らへの軽蔑ではなく、自分という「正しさの象徴(この場所でのイレギュラー)」がこの場所の「秩序(ノイズ)」を乱してしまうことへの、彼なりの誠実な懸念だった。

「まぁ、平気さ。秤くんも星くんもこの学園の生徒なんだから」

 傑がぽんと七海の肩を叩いて先を歩いていった。

 

 不夜城の中心部。

 重低音はここまで届かない。代わりに、じっとりとした静寂が張り付いている。

「──話は聞いてるよ。あんたらが、今回の一件の対策本部を担ってるんだってな」

 値踏みするように秤は一同に視線を向ける。

「まさか俺の城に特級様が三人も一度に来るとは……」

 ローラースケートの乾いた走行音と共に、極彩色のメイド服が視界を横切る。

 七海は、自分の眼鏡が「バグ」を起こしたのではないかと疑うように、指先でブリッジを押し上げた。

「にゃんにゃーん! ウェルカムドリンクですよー!!」

 猫耳メイド姿のせいらがドリンクをのせたトレーを手にローラースケートで乱入してきた。

「おいせいら! 勝手に入ってくんなって言っただろ!」

 秤の怒鳴り声は部下に向けるそれではなく、家で勝手に部屋に入ってきた母親に対する言い方のような、どこか締まりのない響きを含んでいた。

彼は派手な宝石のついた指先でこめかみを叩き、七海に向かって不器用な溜息をつく。

「……見ての通りだ。この城の『ルール』は、そいつの気まぐれ一つでよく壊れる」

「えー? だってお客様ならドリンク出さないとーって、すぐるー!!」

 ドリンクを配り終わってから、ぴょーんと傑に抱きつく。

「せいら……今日はここにいたのか」

 傑が、胸にしがみつく彼女の腕を、優しく、けれどどこか確かめるように叩く。

 彼の瞳には、親しき者への慈しみと共に、薨星宮で聞いた隔離槽(タンク)の非道な仕組みに対する、静かな怒りが再燃していた。

 せいらが満足げに笑って傑から離れ、鼻歌混じりに奥のカウンターへ滑っていく。その軽快な走行音が遠ざかると、不夜城の空気が、剥き出しの刃のように鋭く冷え切った。

 

「俺の持ってる情報は、俺の信頼する仲間たちが命がけで持ち帰った情報だ。その情報を共有するに値するのか……あんたらの熱、感じさせてくれよ──」

 

 

●8

 

 秤金次は腕を組んだまま、獲物の器を測り直すように細めた視線を投げ、ソファの奥へと深く身を沈めた。

「で?

 特級様が揃って俺の城に来て、欲しいのは“隔離槽の話”だって?」

 値踏みする目が、七海、乙骨、九十九そして最後に夏油傑へと向く。

「言っとくけどな。

 俺は“正義”に協力する気はねぇ。

 ましてや上層部の後始末なんざ、真っ平だ」

 七海が口を開こうとした瞬間、傑が静かに一歩前に出た。

「安心してほしい。

 私たちは“正義”の話をしに来たわけじゃない」

 秤の眉が、わずかに動く。

「隔離槽に囚われているのは、

 五条悟が“守る”と決めた人間だ」

 その名を、傑は出さなかった。

 だが秤は、一瞬で察した。

「──なるほどな」

「彼は、世界から切り離された存在を救うために、世界の敵になる道を選んだ。

 それがどれほど愚かで、孤独な選択か──私は知っている」

 傑の声は荒れていない。

 だが、逃げ場もなかった。

「そして今度は、彼が守った“その人”を取り戻すために、別の若者が自分を“死刑執行人”に差し出そうとしている」

 乙骨が、わずかに肩を震わせる。

「……私はもう“守れなかった後悔”の上に何かを積み上げるつもりはない」

 傑は秤を見据えた。

「だから聞きに来た。君が握っている情報が、この理不尽を壊す鍵になるなら、私はそれを、どんな代価を払ってでも受け取りたい」

 傑の瞳は、穏やかでありながら、目的のためなら自らを燃やし尽くすことすら厭わない「静かな狂気」を宿していた。

 

 一瞬の沈黙。

 

 次の瞬間、秤が笑った。

「……あーあ」

 頭を掻き、舌打ちする。

「一番ムカつくタイプだわ、あんた」

 星が小さく肩をすくめた。

「熱、感じたの?」

「感じたよ。賭け金、デカすぎだろ」

 秤はそう吐き捨てると、テーブルに無造作に置かれていたチップを一つ、指先で弾いた。カラン、と乾いた音が不夜城の重低音に混じって消える。それが、彼がこの無謀な賭けに乗った合図だった。

 

 ソファの背もたれから身体を離し、秤は近くの端末に手を伸ばした。

「いいぜ。

 隔離槽の“外側”の話なら、俺たちが一番詳しい」

 モニターに、歪んだ円環の図形が浮かぶ。

「まず前提な。

 隔離槽は“箱”じゃねぇ」

 秤は指で円をなぞった。

「外側に、何かが回ってる。

 誰かが見て、誰かが続けてる限り、中は壊れねぇ」

 その円環は、まるで生き物のように不規則に脈動し、見る者の平衡感覚を狂わせるような「不快な幾何学」を描いていた。

 七海が眉を寄せる。

「つまり……」

「正面突破は無理だ」

 秤は即答した。

 

 沈黙。

 

「で、ここからは推測だ」

 秤はソファに深くもたれた。

「こんな桁違いの代物、

 最近ポンと生えてくるわけがねぇ」

 視線が年長組に向く。

「封印に特化した、頭おかしい呪具。

──心当たり、ないか?」

 

 傑が一拍置いて答えた。

「獄門疆……」

 

 秤は口角を上げる。

「やっぱりな。

 その線までは俺たちも掴んでる」

 そして、肩をすくめる。

「けどよ。

 それ以上は、まだ俺たちの手の外だ」




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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