【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●11
『人を理解する上で、最も重要視するべき点は何か! はい、そよか』
「それは人のみる夢です」
『正解。人のみる夢は無意識の領域まで広がっています。ただ会話をしただけでは知り得ない情報もそこから知ることが出来るでしょう。次、せいら』
「は、はいぃぃ!!」
『人にとって、悪夢とは何でしょう』
「えぇ? えっとぉ、お腹が減る夢かな……」
『不正解』
「ぴえ!」
「お師匠様、正解は?」
『それはね──』
──
暖かな春の日差しに誘われて、悟と一緒に街を歩く。
そこには、呪霊がいなかった。
空はやけに高く、風は穏やかで、街には意味もなく人の笑顔が溢れている。
──恐怖も警戒も必要ない世界。
「ね、悟」
隣を歩く彼は、黒いサングラスも目隠しもしていない。
六眼を使い過ぎる理由がなくなったから。
「平和すぎて拍子抜けしない?」
私が笑うと、悟は肩をすくめた。
「まあねぇ。これじゃあさ、僕──顔が良くて、ちょっと空飛べるだけのイケメンじゃん」
「顔が良くてイケメンって、何よその言い方。どんだけ自分の顔面偏差値を誇っているわけ」
「へへへ」
二人の足音だけが、穏やかな舗道に溶けていく。
呪力はもう必要ない。
戦う理由も、守る理由も、ない。
「ずっと、ここにいられたら……」
ぽつりと自然に口から出た。
「悟が全部背負わなくていい世界でさ」
悟は立ち止まり、空を見上げる。
「……うん」
微笑む。
「いいかも」
手を伸ばせば、触れられる距離。
幸福は完成していて、これ以上何も要らない。
完璧な⬛︎だった。
──壊す理由のない、幸福という名の。
だからこそ──
⸻
「……だめだよ、そよか」
声は、夢の中ではなく、外側から響いた。
悟は、そよかの方を見ない。
代わりに、自分の手を見る。
「"眠り姫"はさ」
指を握り、開く。
「静かに眠ってなきゃ」
夢の空が、わずかに歪む。
「悟?」
そよかが呼ぶ。
「ここはね」
悟は笑った。
でもその笑みは、どこか痛々しい。
「僕が望んだ世界じゃない」
そう言った悟の瞳には、六眼が映し出す"現実の残酷な情報"ではなく、ただ目の前のそよかを失いたくないという、ひどく人間らしい揺らぎだけが、一瞬だけ宿っていた。
一歩、距離を取る。
「呪霊がいなくなった世界」
「戦わなくていい僕」
「君が傷つかない日常」
全部、甘すぎる。
「……気付いちゃったんだ」
悟は目を伏せる。
「これ、“用意された幸福”だ」
獄門疆の内側。
閉じられた時間。
そよかを縛る、優しい檻。
「そろそろさ」
悟は顔を上げる。
「外、騒がしくなってる」
夢の向こうで、誰かが戦っている気配。
何かが集まり、世界が軋み始めている。
「だから──」
悟は、そよかに背を向ける。
「起きないで」
「……君は、ここにいて」
そして、囁くように。
「全部、取り戻したら迎えに来るから」
瞼が、静かに閉じていく。
⸻
仙台隔離槽の縁に、五条悟は立っていた。
「……さて」
指を鳴らす。
「そろそろ本気で急がないとね」
その背後から、落ち着いた声。
「先生、約束通り来ましたよ」
振り返ると、乙骨憂太。
「集中してくれてないみたいですね、先生」
静かな眼差し。
「そんな状態で、僕に勝てるんですか?」
悟は一瞬だけ、困ったように笑った。
「やっぱバレるよね」
そして、視線の奥に光が戻る。
「でもさ──負ける気もないんだ」
⸻
昔、お師匠様は言っていた。
『人にとって、悪夢とは何でしょう』
あの時は、質問の意味すらわからなかった。
──けれど今なら、わかる。
この世界は、優しくて。
誰も傷つかなくて。
悟が、笑っていて。
だからこそ──
『──幸せな夢よ』
●12
仙台隔離槽内部、某所にある総合病院内。
──無事だった。
その事実だけで、虎杖悠仁の胸の奥に溜まっていた何かが、どっと崩れ落ちた。
「爺ちゃん……!」
「おお、悠仁か。大袈裟だな」
病室で顔を合わせた祖父は、いつも通り少し憎まれ口を叩けるくらいには元気だった。
その姿を見た瞬間、虎杖悠仁はようやく息を吐く。
「よかった……ほんと、よかった……」
──その時。
ドン。
建物の奥から、腹に響く衝撃。
「……?」
次の瞬間、
ドォン!!
床が揺れ、天井の照明が激しく軋む。
それは物理的な震動というより、空間そのものが「悲鳴」を上げているような、生理的な嫌悪感を伴う揺れだった。壁のヒビが生き物のように走り、窓ガラスが衝突の余波だけで粉々に弾け飛ぶ。
「な、なんだ……!?」
祖父の声が震える。
虎杖は即座に祖父を抱き寄せた。
「爺ちゃん、掴まって!」
廊下へ飛び出した瞬間、窓の外が白く閃く。
──空間そのものが、殴り合っている。
遠くで衝突する呪力の奔流。
重なり合う圧力が、空気を引き裂いていく。
「……五条先生、だ」
直感的にわかった。
そして、もう一つ。
「……乙骨、先輩……?」
五条悟と乙骨憂太。
その二人が本気でぶつかっている。
──
仙台隔離槽上空。
空が、悲鳴を上げていた。
圧縮された呪力が幾重にも重なり、青空の奥行きそのものが歪む。
衝突のたび、遅れて爆音が地上へ落ち、隔離槽全体が軋んだ。
先に踏み込んだのは、五条悟。
空を蹴る。
無下限が足場となり、常識的な距離感は意味を失う。
だが──
乙骨憂太は、追いついていた。
乙骨が踏み出す一歩ごとに、大気が爆ぜる。
内側で里香が叫ぶたび、乙骨の呪力は「因果」を無視して五条の懐へと彼を叩きつける。洗練などという言葉を置き去りにした、命を燃料に変える究極の駆動がそこにあった。
背後に顕現している呪霊姿の里香。
それは暴走する呪霊ではない。
“中にいる”。
生身の里香が、乙骨の内側に深く重なり、呪力の流れを完全に掌握している。
呪刀が振るわれる。
空間そのものを叩き潰すような一撃。
悟は受け流しながら、楽しげに笑った。
「ははっ、いいじゃん憂太」
六眼が、乙骨の内部状態を正確に捉える。
「南米で相当無茶したでしょ。対人戦、かなり洗練されてる」
乙骨は答えない。
ただ、距離を詰める。
「でもさ」
悟は半歩、退いた。
それだけで世界が引き延ばされる。
「その状態、何分もつ?」
一瞬。
乙骨の眉が、わずかに動く。
「小休止、挟まないと」
悟は指を鳴らした。
「君たちの方が先に限界来る」
事実だった。
乙骨の鼻から、一筋の血が滴り落ちる。
だが、それすらも溢れ出す呪力の熱ですぐに蒸発していく。彼の瞳は、限界を超えた過熱(オーバーヒート)で蒼白く発光し、師である五条を、ただ一点の曇りもなく射抜いていた。
里香が制御しているからこそ、呪力は完璧に回る。
だがその代償を支払っているのは──乙骨憂太自身。
脳。
神経。
肉体。
すべてが、限界速度で削られていく。
「……それでも」
乙骨は一歩も引かない。
「今、止まる理由はありません」
次の瞬間、呪力が跳ね上がった。
隔離槽の呪力循環が、目に見えて乱れる。
悟の笑みが、ほんの一瞬だけ鋭くなった。