【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

96 / 126
【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


96落陽編 13・14:共鳴する獄門疆・裏、落陽に響く"人間"の産声

●13

 

 仙台隔離槽内、虎杖悠仁。

 

「くそっ……!」

 虎杖は祖父を抱えたまま、瓦礫を避けながら走る。

 隔離槽の内部は、逃げ場のない迷路だ。

 揺れのたびに、誰かの悲鳴が聞こえる。

 

 ポケットの中で、硬い感触。

「……!」

 メカ丸印の通信機。

 

 虎杖は走りながら、スイッチを入れた。

「こちら虎杖悠仁!」

 息が切れる。なんとか耳に装着した。

「仙台隔離槽内部! 五条先生と乙骨先輩が……ガチで戦ってます!」

 一瞬、ノイズ。

「建物が……人が……巻き込まれてて」

 通信の向こうで、誰かが息を呑む気配。

 

「ポイントが……」

 誰かの声が混じった。

 

 その直後だった。

 空間全体に、無機質な声が響き渡る。

 

『──プレイヤー、五条悟』

『五十点、付与』

 

 一拍。

 

『──プレイヤー、乙骨憂太』

『三十点、付与』

 

 上空に五条悟と、乙骨憂太が大きく映し出される。

 二人の得点は巻き込まれた人々の命を犠牲に上昇し続ける。

 

 空気が、変わった。

 ざわめきが、殺意に変わる。

 

 虎杖は祖父を抱えたまま、崩れかけた廊下を走る。

 床が傾き、瓦礫が転がる。

 遠くで、また爆音。

 

「くそ……っ!」

 

 耳に付けた通信機を片手で掴み、息も整えないまま叫んだ。

「こちら虎杖悠仁! 聞こえてますか!」

 雑音混じりでも構わない。

 一瞬のノイズ。

 だが、すぐに応答。

 

『落ち着いて状況を説明しろ』

 夏油傑の声だった。

 

「えっと……っ」

 走りながら、必死に記憶を引きずり出す。

「中に入る時、説明されたんです!」

 

 背後で、何かが崩れ落ちる音。

 虎杖は歯を食いしばる。

 

「呪術師を一人狩ると、五点」

「一般人を狩ると、一点」

「……百点貯めたら、ルールを追加できるか、隔離槽から出られるって……!」

 通信の向こうが、一瞬、静まり返った。

 

『……ポイント制か』

『やはりな』

 

「それで……!」

 虎杖は声を張り上げる。

「今さっき! ドクター・ゼロが……!」

「悟と乙骨先輩に、まとまった点数を一気に付けたんです!」

 建物の影から、誰かの視線を感じる。

 ただの視線じゃない。

 値踏みする、獣の目。

 

「だから……!」

 虎杖は祖父を抱き直す。

「今この中、二人を狙って全員が動き出してます!」

「巻き込まれてる一般人も……逃げ場、ないです!」

 

『……虎杖くん』

 傑の声が、わずかに低くなる。

『君の位置は』

 

「入院棟の北側!」

「でも……俺も、見られてる気がします」

 

 言った瞬間だった。

 

 遠くで、誰かが笑った気配。

 

 狩る側の視線が、“五条悟と乙骨憂太”から、別の獲物へと滑り始めている。

 

 虎杖悠仁。

 祖父を抱えた、無防備な少年。

 

「……爺ちゃん」

 小さく呟く。

 腕の中の祖父が、かすかに身じろぎした。

 

 再び瓦礫を蹴散らし、虎杖は走り出す。

 背後で、また爆音。

 五条悟と乙骨憂太の衝突が、隔離槽そのものを揺らしている。

 

「くそ……!」

 角を曲がった、その瞬間。

 

 ──音が、消えた。

 

 崩落も、叫びも、破壊の余韻も。

 まるでそこだけ、切り取られたみたいに。

 入院棟の中庭。

 瓦礫の上に、“それ”は立っていた。

 

 白い翼。

 光を反射する、異様に静かな輪郭。

 人の形をしているのに、人ではないと本能が告げる。

 

「……え?」

 

 虎杖の足が、止まった。

 呪霊じゃない。

 でも、呪術師でもない。

 

 隔離槽の中で、存在していいはずのないもの。

 理解が追いつく前に、

 その口が、ゆっくりと開く。

 

「──あなた」

 

 一拍。

 

「騙されているわよ」

 

 声は、静かだった。

 断罪でも、警告でもない。

 

 事実を告げるだけの声音。

 

 腕の中で、祖父が微かに動く。

「……爺ちゃん?」

 

 

●14

 

 腕の中で、祖父が微かに動く。

「……爺ちゃん?」

 その名を呼んだ瞬間、

 虎杖の背後で、何かが“狙いを定めた”気配が走った。

 

 白い翼が、音もなく畳まれる。

 

 天使は、虎杖を見ていなかった。

 その瞳に映っているのは、目の前の少年ではない。千年前、自らの誇りである翼を無惨に引き裂いた『あの男』の残像。復讐という名の義務を果たすため、彼女の理性は鏡のように冷たく、一切の容赦を排除していた。

 視線の先にあるのは、ただ一つ。

 

 宿儺の器。

「今の内なら」

 淡々と、そう告げる。

「完全に同化する前に、殺せる」

 その手に、いつの間にか細身のナイフがあった。

 

 ──

 

 ──かつて、平安の世に。私は降り立った。

 翼を持つ天上人と、敬われ崇められ私はそのように振る舞っていた。

 

『──目障りだ』

 

 そんな理由で、両面宿儺は私の翼を手折った。

 翼を折られたことで、私は故郷へ帰れなくなってしまった。

 ──私は激しく奴を憎んだ。

 どうすればこの怨みが晴れるか考える日々が続いた。

 

 そんな時に、白百合を思わせる美姫が両面宿儺を退けたという噂を聞いた。あの大男に美しい姫と称される女が、どのように退けたのか興味が湧いた。

 両面宿儺を倒す一助になって欲しいと、そんなことを頼んだ。しかし、彼女は頷きはしなかった。

 

『憎い相手だから懲らしめたいの? 本当にそれで良いのかしら──』

 

『あなたの復讐は今世では叶わない。いずれ転生した先で両面宿儺を見つけたら、今世の怨みで来世を犠牲にしてしまうの? そういう生き方を選ぶ人とは、分かり合える気がしないわ……』

 

 ──

 

 呪力の流れを断ち切るためだけに作られた、無駄のない刃。

「ちょ、待っ──!」

 虎杖が祖父を庇うように体を捻る。

 

 その刹那。

 刃が、一直線に虎杖悠仁の胸を狙った。

 

 ──だが。

 鈍い音。

 何かが割り込んだ。

 

「……やめなさい」

 低く、掠れた声。

 虎杖悠仁の祖父の肉体が、虎杖の前に立ち、刃を受け止めている。

 ナイフは深く、胸元に突き立っていた。

 

 血が、静かに滴る。

 天使が、初めて眉をひそめる。

「計算外ね」

 

「だろうな」

 悠仁の祖父は、笑った。

 自分でも驚くほど、穏やかな笑みで。

 

「俺自身も……今、知った」

 千年の思考が、今の行動を『非合理的』だと罵っている。だが、指先が感じる悠仁の温もりと、胸に突き刺さった刃の痛みが、それらすべての計算を塗り潰していた。死にゆく肉体の最後に宿ったのは、呪いではなく、ただの『祖父』としての安らぎだった。

 

 胸に手を当てる。

 ──死にかけの身体でも、血液は温かかった。

 

 虎杖が叫ぶ。

「なんで……!」

 

 祖父の体が、ぐらりと揺れる。

 

 ──その瞬間。

 

 虎杖悠仁の腹の奥で、何かが蠢いた。

 祖父の命の危機に反応した、無意識の叫び。

 その叫びが"一度腹におさめた両面宿儺の指を喚び寄せる"異能となる。

 

『……くだらん』

 低く、響く声。

 

 その声が響いた瞬間、廊下の空気が凝固し、重力そのものが反転したかのような錯覚が一同を襲った。天使が展開していた術式さえも、その圧倒的な不快感に耐えかねて、ガラスのようにひび割れていく。

 

 空気が、歪む。

 僅かに天使の目が見開かれた。

 

「──既に、遅かったか……」

 天使は即座に距離を取った。

 

 空中へ跳ね上がり、明確な警戒を向ける。

「……やはり、危険ね」

 

 仙台隔離槽全域で、呪力が軋みを上げる。

 悟と乙骨、宿儺、天使。

 許容量を超えた呪力が、一点に集中した。

 

 ──反応したのは、獄門疆・裏。

 

 天使の胸部。

 そこに埋め込まれた“裏”が、悲鳴のように共鳴する。

 

 遠くで、悟が呟いた。

「……裏も、同じようにしたのか」

 

 次の瞬間。

 天使の意識が、焼き切れた。

 

「──っ!」

 翼が失速し、身体が空から落ちる。

 誰もが、一瞬、止まった。

 

『ほぅ……』

 宿儺が嗤う。

 

 だが──

 虎杖悠仁は、走った。

 反射的に。

 考えるよりも先に。

 

「……っ!」

 落下地点へ飛び込み、両腕で抱き留める。

 衝撃。

 骨が軋む。

 

 それでも、離さなかった。

 

 ──人命優先。

 どこかで、炎のような声が重なる。

『命を、守れ!』

 

 祖父の体温を、確かめる。

 まだ、生きている。

 

 深い、かつては羂索と呼ばれた思考の中で、誰かが、静かに微笑んだ。

『やっぱり……あなたも、変われたわね』

 

 それは、断罪の果てに見つけた、たった一つの赦しのような響きだった。

 落とした涙は、羂索が遠い昔に捨て去ったはずの人間性の結晶であり、虎杖悠仁という命を育んだ、歪で、けれど確かな愛の証明だった。

 

 涙が、一筋。

 虎杖悠仁の祖父の頬を伝って、地面に落ちた。




ここまでご覧いただきありがとうございました。

●メインはpixivで活動しています。
https://www.pixiv.net/users/2225877
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。