【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅   作:masuda028

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【呪術廻戦/五条悟/煉獄杏寿郎】
世界を越えて、悲劇に抗う物語。

※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。

◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。


97落陽編 15・16:不正規ログの肉体(ドール)ジャック、推しへの情熱は"不具合"を超えて

●15

 

 七海建人が前田まるこからの連絡が途絶えていることに気付いたのは、虎杖悠仁が仙台の隔離槽に向かったことを聞かされた時だった。

 ふと自分の携帯に視線を向ける。普段からやり取りしていたのはそよかや五条悟が主だったが、任務に関わる連絡を除くと、その次ぐらいにはやり取りがあったから違和感があった。

 

「え? 前田さんですか? あぁ、昨日遅かったからまだ寝てるのかも。時々あるんですよね──誰か連絡受けてる?」

 周囲にいた窓も補助監督も心当たりがないようだった。

 

「なんなら交代時間に様子を見に行きますよ。心配してくださりありがとうございます」

 七海は、会話をした補助監督に短く礼を言い、視線を再び資料に戻した。

 だが、胸のざわつきは消えない。

 前田まるこは、職務において「寝坊」で連絡を絶つような人間ではない。

「……嫌な予感がしますね」

「七海さん、お電話です!」

「はい」

 

 ──通話が終わり、七海が受話器を置こうとした、その時。

「お疲れ様です、七海さん。資料の不備、確認いたしました」

 背後から響いたのは、聞き慣れたはずの、けれど記憶よりも一段階「平坦な」声。

 七海が振り返ると、そこには前田まるこが立っていた。服装に乱れはなく、背筋は定規で測ったように真っ直ぐだ。

 昨晩の激務を感じさせないほど顔色は良く、その瞳には睡眠不足の隈ひとつない。

「……前田さん。いつからそこに?」

「先ほど十五分前に現着しました。七海さんがお取込み中でしたので、別の業務を遂行しておりました」

 まるこは、淀みのない動作でタブレットを差し出した。

 中には、七海が指示するはずだった項目が、完璧な優先順位で整理され、完了報告として並んでいる。

 

 七海は、完璧な報告書を差し出す「前田まるこ」を、無機質な眼差しで見つめた。

 一分の隙もない事務処理。だが、その姿からは、以前まで感じられた「早く帰って推しの動画を見たい」という必死な熱量が、完全に霧散している。

「前田さん」

 七海が短く呼ぶ。

「あなたが一昨日話していた、今期おすすめの作品名と、その推しキャラの名前を言いなさい」

 まるこは、瞬きひとつせずに答えた。

「……質問の意図が不明です。業務に関わりのない、娯楽に割くリソースは、現在の最適化フェーズにおいて全て破棄しています」

 その瞬間、七海は深く、重いため息をついた。

 それは、失われた部下への哀悼というよりは、あまりに"クソで不条理な現実"を目の当たりにした時の怒りに近かった。

「……そうですか。それは残念だ。あなたは、彼女が何のために死ぬ思いで定時退勤を目指していたのか、何一つ理解していない」

 七海が背中のナタを握り込み、低い声で断じる。

「趣味を奪われた人間は、ただの動く部品です。……私は、そんなものを同僚(なかま)とは認めない」

 その様子を後ろで見ていた夏油傑が、ゾッとしたように周囲の職員たちへ目を向けた。

「……七海。本部でも、似たような『完璧な事務連絡』が増えている。まさか、一般社会の隅々にまで、ドクター・ゼロの作り出した『趣味のないドール』が入れ替わって入り込んでいるとでもいうのか?」

 

 ──

 

 私、こと前田まるこは再び死にました。

 ピンポーンって鳴って出た先にオタ友でもある補助監督がいたんです。

 深々と胸に突き刺さるナイフ、反撃もろくに出来ずに私は意識を失いました。あの戦闘動作は只者ではないー。

 そして人間が丸ごとミンチに出来そうな機械に入れられて消滅。短いエージェント生でした……チーン。

 

『あぁ、忙しい忙しい……次から次へと……』

 

 そんな女性の声がしました。なぜか吸い寄せられるように思考を向けると──。

 

『あら、前田まるこまでここに来たの?』

 

 えっ? あなたは私をご存知なんですか? もしかして魔女? だとしたら大問題ですけども、もう私死んでるから別に問題ないですよね。一目お会いしたかったんですぅ。

 

『私は、ドクター・ゼロの機械の中にいるただの妖精さんよ』

 

 ──は?

 

 

●16

 

『ドクター・ゼロはね。人間が嫌いなのよ。無駄が多いから』

 

 はぁ……。

 

『だから精密な人形(ドール)を使って、人形だけの世界を作りたいんですって。そんな危険な思考で、大昔に社を追い出されたそうよ』

 

 大昔に社を追い出されたぁ!? つまり──。

 指名手配リストの最深部、『名無し(ノーネーム)』の記録にある……あの、“人形使い”のことですか!?

 まるこの思考が、エージェントとしての膨大な知識の海を高速で検索する。

 それは、呪術界の暗部において「記録することすら禁忌」とされた、ある災厄の記憶。

 かつて一晩でひとつの村の全員をドールに入れ替え、互いに殺し合わせることで『効率的な淘汰』を試みたっていう……あの狂信者……!

 

『そう。名前すら捨てさせられたはずなのに、まだ生きて、しぶといわねぇ』

 

 妖精さんは、まるで明日の天気でも語るような軽さで続けた。

 

『彼はね、各地の隔離槽を巨大な“糸車”にしようとしているの。吸い上げた呪力で、世界中の人間を、彼にとっての“正しい部品”に交換するためのね。……ねぇ、まるこ。あなた、バラバラになっちゃったけど、これからどうする?』

 

 は? いや、死んでるし、ミンチだし!

 

『ふふ、ここは機械の中よ。電力さえあれば、あなたはいつだって私の“共犯者”にもなれる。……あいつに一泡吹かせてやりたくない?』

 

 やってやりますよーーー!!!

 

 かくして、ドール生産マシーンが精巧なドールを着々と量産する合間に一匹の猫(ハチワレ)を吐き出した。ドクター・ゼロと視線が合ったが、前田まるこ(猫)は「にゃーん」と無害な畜生を装って秘密基地を離脱するのだった。

 

 背後で、ドクター・ゼロの冷ややかな呟きが聞こえた気がした。

「……また不具合か? まぁいい、一匹の猫など計算の邪魔にはならん。この機械が一番ドールの精度が高いからな……なぜか天気の悪い日は失敗が続くが──」

 

 計算の邪魔にならない? 甘いですよ、名無しさん。

 私はこれでも、敏腕エージェント(の成れの果て)なんですから。

 まるこは、猫の鋭い嗅覚で「自分(ドール)の通信ログ」の臭いを辿り、現実世界で戦っているはずの七海と傑のもとへ、ゼロの拠点の物理座標(GPS)という最高のお土産を持って駆け出した。

 

 ──

 

 うおおおおお!!!

 猫らしからぬ猛ダッシュで呪術学園に滑り込む。

「なんやこの猫」

 首根っこ掴まれて持ち上げられた。禪院直哉さん!? 相変わらずお顔が良い!!

「えらい血相変えて。……汚いハチワレやな、どっから入ったんや」

 直哉の冷ややかな視線に、まるこ(猫)は心の中で叫ぶ。

(汚いとは何事ですか! それより七海さんは!? 夏油さんは!?)

「にゃ、にゃーん!(離せ色男! 急いでるんです!)」

「……あ? なんや自分、妙に人間臭い声出しよるな。気色悪いわ」

 直哉が不審げに眉を寄せ、猫を目の高さまで持ち上げたその時。廊下の先、奥の校舎へ続く出口から、険しい表情の七海建人と夏油傑が歩いてきた。

 その横には、傑の呪霊に腕を掴まれ、人形のように引きずられている「前田まるこ(ドール)」がいる。

「──直哉さん、そこを動かないでください!」

 七海の鋭い声が響く。

「七海? 自分ら、こんなところで何を……。ん? その横におるん、前田の姉ちゃんやろ。なんでそんな、魂抜けたみたいな顔して縛られとるんや」

「……先ほどから彼女の様子がおかしいんです。支離滅裂な事務処理を始めたかと思えば、今は完全に沈黙している。ドクター・ゼロによる何らかの干渉かと──」

 七海が言いかけた、その時だった。

 今までピクリとも動かなかったドールの瞳が、カチリと音を立てて直哉の手元にある猫を捉えた。

「不正規ログ(魂)の接近を確認。……これより、完全削除を開始します」

「……っ、また暴走か!?」

 七海がナタに手をかけた瞬間、ドールの体が不自然な角度で跳ね、猫を奪い取ろうと手を伸ばす。

 

『ただ、気をつけなさい』

 

 脳内に思い出される妖精さんの声。

 

『あなたの姿をしたドールは、あなたを感知したら消しにくるでしょう。そしたら──』

 

「うわっ、なんや急に! こわっ!」

 直哉が反射的に猫を放り出した。

 

『──逆に取り込んでやりなさい』

 

 まるこ(猫)は空中で反転し、自分自身の肉体(ドール)の顔面目がけて、魂を込めたヘッドバットを繰り出す。

「にゃあぁぁぁぁぁぁ!!(私の役割を勝手に奪うなーーー!!)」

 ドールの額に猫が触れた瞬間、パァァン! と、まるで回路が直結したような電子音が響き、ドールの全身が激しく明滅した。

 猫の体が光の粒子となってドールの胸の中へスゥ……と溶け込んでいく。

「エラー……上書き……。趣味、復活。……推しキャラ、再ロード完了」

 ドサリ、と膝をついたドール。いや、再起動した前田まるこが、重い瞼を持ち上げた。

「……あー、繋がった。……七海さん、傑さん……。一回ミンチになりましたけど、最新モデルの肉体(ドール)で復帰しました」

「……その独特な『残業嫌い』の語彙。間違いなく本人ですね」

 七海がナタの構えを解き、眼鏡の位置を直しながら、心底安堵したように長い息を吐いた。

「いやぁ、まさか自分の偽物を乗っ取って戻ってくるとはね。前田さん、君のバイタリティには、お驚かされるよ」

 傑が愉快そうに笑う横で、直哉だけがポカンと口を開けていた。

「……なんなん、今の。……というか、自分、誰や。前田の姉ちゃんか?」

「あ、自己紹介が遅れました。ミンチから逆転満塁ホームランで帰還しました、前田まるこです! 直哉さん、生で見るとさらにお顔が強いですね! まずはお友だちからお願いします!」

「……気色悪いわ!! 寄んなや!!」




ここまでご覧いただきありがとうございました。

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