【本編完結】旅する物語 異世界探訪 五条悟との邂逅 作:masuda028
世界を越えて、悲劇に抗う物語。
※本作は『呪術廻戦』の世界をベースにした二次創作です。
※キャラクターには独自解釈・改変を含みます。
※原作をご覧のうえでの閲覧をおすすめします。
◆ヒロインは名前固定&設定強めのオリジナルキャラクターです(夢主=“あなた”形式ではありません)。
◆「夢小説」タグは広義の意味で使用しています。不快に感じる方はご注意ください。
●17
隔離槽内、呪力の軋みが最高潮に達した、その時。
パン、と乾いた音が響いた。
「はい!」
五条悟が、両手を叩く。
「僕のカッコいい悪役ムーブはここで終わりーー!!」
一瞬の静寂。
乙骨が、心底うんざりした顔でため息をつく。
「……はぁ、本当にいいんですね」
虎杖は眉間を押さえた。
「ちょ、今その空気でそれ言うんですか」
「言うよ? だってもう終わったし」
悟は軽く肩をすくめ、隔離槽内をぐるりと見回す。
「で、本題ね」
ざわ、と人々が身構える。
「みんなの呪力を、僕に預けてほしい」
周囲にどよめきが走った。
「え? 信用できない?」
悟は笑う。
「うん、わかる。僕も逆の立場なら警戒するもん」
一拍置いて、指を立てる。
「でもさ。このままここに閉じ込められて、
いつ死ぬかわからないのと」
指を折る。
「呪力を渡して、一発逆転に賭けるの。
どっちがマシ?」
沈黙。
「……やり方、わかんない?」
悟は首を傾げる。
「あんまり難しくないよ。
“呪力、いけー”って思えばいい」
乙骨が小声で言う。
「……雑すぎません?」
「大丈夫大丈夫、僕が受け止めるから」
その時。
虎杖が一歩前に出た。
「……俺、やります」
悟が一瞬だけ真面目な目になる。
「無理しなくていいよ」
虎杖は深呼吸して、腹を押さえる。
「……ちょっと、気持ち悪いけど」
呪力が、虎杖の身体から溢れる。
「……っ、うぇ」
「ほら言ったー!! そこまで!!」
悟が即座に止める。
「吐く前にストップ! はい乙骨、後は任せた!」
「もう吐いてますけど」
「報告いらない!」
虎杖が息を整え終えた頃、五条悟はもう視線を外していた。
あたかも興味が失せたかのように、軽く手を叩く。
「はいはい、体調チェック終わり!」
その軽さに、虎杖は拍子抜けした顔をする。
「え、あの……俺、なんで吐いて――」
「あー、それね」
悟は振り返らず言う。
「器として慣れてきただけ。
前より呪力の流れが太くなった。以上」
「……以上?」
「以上!」
親指を立てる。
「宿儺の指は呪力の塊だからさ。
“扱える器”のところに寄る。
それを“コントロールできる”なら、むしろ悪くない」
虎杖はまだ不安そうだ。
「でも……俺が呼んでるって……」
「呼んでない呼んでない」
即座に、強めに否定する。
「君は何もしてない。ただ立ってただけ。
勝手に集まってきただけ」
その言い切りは、教師のものだった。
「吐いたのもね、初めて重たいものを持ったら筋肉痛になる、あれと同じ。慣れれば大丈夫」
虎杖は少し考え、それでも頷いた。
「……わかりました」
悟は、その背中を見送りながら、ほんの一瞬だけ“眼”を細める。
(……魂の輪郭が、はっきりしすぎてる)
呪力の流れ。
重なり合う指の気配。
そして、もし──
(両面宿儺が完全顕現したら)
悟はその続きを、自分の中で叩き潰した。
(それを見るのは、俺だけでいい)
虎杖には何も言わない。
言う必要がない。
言えば、彼は背負ってしまう。
「ほら悠仁、休憩終わりー!」
いつも通りの声で呼ぶ。
隔離槽の空気が、少しずつ変わり始める。
誰かが、恐る恐る呟いた。
「……本当に、戻れるのか?」
悟は即答した。
「戻れる戻れる」
そして、にこっと笑う。
「最強の僕がいるでしょ?」
その瞬間。
最初の一人が、呪力を差し出した。
●18
最初の一人を皮切りに、隔離槽のあちこちで呪力が揺れ始めた。
恐る恐る。疑いながら。
──それは信頼ではなかった。期待ですらない。
ただ、「何かが変わるかもしれない」という、かすかな願いだった。
差し出された呪力は、糸のように、光のように、五条悟へと集まっていく。
「おー、いいねいいね」
悟は軽く手を広げたまま、受け止める。
拒絶も、反発もない。
すべてが“当然のように”流れ込んでいく。
乙骨が息を呑んだ。
「……受容量、どうなってるんですか」
「んー?」
悟は首を傾げる。
「無限かな」
あっさりと言い切った。
次の瞬間、隔離槽の空間が──軋んだ。
床でも壁でもない、“空間そのもの” が歪む。
まるで、見えない膜が内側から押し広げられているかのように。
「……来た」
悟の声だけが、妙に落ち着いていた。
彼は一歩、前に出る。
何もないはずの空間へ、指先を伸ばす。
「獄門疆」
その名を口にした瞬間、
空気の奥で、“何かが応えた”。
視えないはずの境界が、悟の“眼”にははっきりと映っている。
封印の構造。
内と外。
表と裏。
(……やっぱり、対になってる)
悟は確信する。
獄門疆の表
獄門疆の裏
本来、交わらないはずの二つの位相が、
今この瞬間、同時に“こちらを向いている”ように見える。
「ふーん……なるほどね」
悟は、楽しそうに笑った。
「じゃあ──やっぱり繋げばいいか」
その言葉が合図だった。
悟の呪力が、一気に跳ね上がる。
集められた呪力が、圧縮され、編まれ、一本の道を形作っていく。
空間が裂けた。
それは破壊ではない。
無理やりこじ開けた穴でもない。
“最初からそこにあった通路”を、可視化しただけ。
隔離槽の中央に、歪んだ光の輪が浮かび上がる。
向こう側が、見えない。
けれど――確かに“続いている”。
「はい、ゲート完成!」
悟は満足そうに手を叩いた。
ゲートが安定し、隔離槽内の混乱が少しずつ沈静化していく。
五条悟は一度だけ振り返った。
「はいはい、みんなここで待機ね」
指を二本立てる。
「ちょっと原因のところ行って、
元凶をぶん殴ってくるだけだから」
その言い草に、空気が一瞬止まる。
「……え?」
「今、殴るって……」
「殴るよ?」
悟は即答した。
「殴れる原因があるなら、殴るのが一番早いでしょ」
乙骨が半歩前に出る。
「……僕も行きます」
「うん、来て」
悟は当然のように頷き、もう一人を見る。
「悠仁も」
「え、俺も!?」
「そりゃそうでしょ」
虎杖の肩に、軽く手を置く。
「一番状況分かってない顔してるから。それにこれも勉強!」
「それ理由ですか!?」
「理由」
悟はもう振り返らない。
「ここは安全。少なくとも、今はね」
そう言い残して、三人はゲートの前に立つ。
悟が、何気ない調子で言った。
「じゃ、行こっか」
光の輪に足を踏み出す、その直前。
「──あ」
悟が思い出したように振り返る。
「もし僕ら帰ってこなかったら」
一瞬、間が空く。
「……まあ、その時はその時で」
にこっと笑った。
隔離槽に残される人々は誰も笑えなかった。
「その頃には、もっと状況悪くなってるから頑張ってね」
「縁起でもないこと言わないでください!!」
乙骨が即ツッコむ。
「大丈夫大丈夫」
悟は手を振る。
「僕は最強だから──っと、その前に。憂太、二人に反転術式ヨロシク」
二人というのは虎杖悠仁の祖父と獄門疆裏を植え付けられた天使にだ。
「──わかりました」
そして。
三人の姿は、光の向こうへ消えた。