田舎出身ミアレ民「寝れない」   作:鳩胸な鴨

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なんか思いついたので供養として放り投げておきます。


本編
田舎出身、キレた!!


寝れない。

 

ホウエンのトクサネという孤島暮らしに嫌気が差し、背伸びしてやってきたカロス。その中心に位置するミアレシティに腰を据えた私は、ここ数年の暮らしで軽いノイローゼに陥っていた。

おかしいと思ったんだ。プリズムタワーが見えるアパート、その最上階にしてはびっくりするくらい家賃安かったし。契約する際も不動産会社の人が「本当に住むの?この部屋に?本気?」と言いたげな顔してたし。その理由をよく考えずに契約した私も悪いんだけど。

 

理由はわかってる。「ZAロワイヤル」と呼ばれる大規模な大会だ。

 

ミアレの再開発を担う外資系企業…クエーサー社が主催を務めるそれは、言ってしまえば夜間ぶっ通しで続くなんでもありのポケモンバトル。

夜になると「バトルゾーン」と呼ばれる赤いホロで区切られた区画が現れ、その中では背後からの不意打ちすら合法となる。目と目が合えばポケモンバトルというのは教えてもらったが、ここまで蛮族じみたバトロワではなかったと記憶してる。

親戚の子から聞いたパルデアの治安の良さが別世界の話のように思えてくる。本当に同じ世界線か?

 

話を戻そう。正直言って夜間のポケモンバトルは別にいいのだ。地元でもそれなりにあったし。

なんなら弟がバクオングを手持ちに入れてたので、多少の爆音には慣れてる。

 

困っているのは音じゃない。衝撃なのだ。

 

ZAロワイヤルは場所を選ばない。正しく言えば、「バトルゾーン内ならどこで戦ってもいい」という無法地帯なのである。

そう。それがたとえ、建物の屋上だったとしても。

 

私が住んでいるアパートは、頻繁にバトルゾーンに指定される。

指定される際は事前告知があるものの、対策といえばそのくらい。上層階に住む人の大半はそこら辺の対策がしっかりしてるアパートを選んでいるし、クエーサー社もそこまで気にしてる余裕がないのだろう。

が。私の住んでるアパートは違う。

対策されてないのだ。バトルによって起きる衝撃が。これっぽっちも。

 

「みずでっぽう」とか、「たいあたり」とかならまだいい。だが、高ランク帯がドンパチし始めると「じしん」とか「りゅうせいぐん」とか、あきらかに衝撃が強い技が飛び交うせいでてんで眠れない。

屋根でバトルしてる奴らに聞きたい。お前ら寝れるのか?屋根が心配なくらい弛んで軋み続ける部屋で。

私は無理だった。諦めて引っ越そうとしたけど、現在残ってる部屋はどれもセレブ御用達。ZAロワイヤルに参加したとしても、私みたいな田舎出身には到底払えない家賃だった。

 

引っ越しを断念して数日。とうとう私の我慢が振り切れた。

 

私のアパートがある地区が、他地区の工事の事情で3日連続バトルゾーンに選出されたのだ。

事前告知が来た時は天を仰いだ。

どこかホテルでも取ろうかと思ったが、田舎出身工務店の内勤にそんな余裕などない。

職場に泊まろうにも、「夜中は社長のお孫さんがゲーム配信で発狂する時がままあるので、お前くらいの神経質だとたぶん寝れない」と先輩社員に聞いて断念。

 

口ではさんざっぱら言った。「衝撃対策されてないからやめてくれ」と。屋上に向かうトレーナーのほとんどに。

しかし、聞き入れられなかった。

クエーサー社にクレームを入れても、上まで届かなかった。

 

あらゆるフラストレーションが溜まりに溜まった結果。私はその3日目にボールを掴み、バトルゾーンと化した自分のアパートの屋根によじ登った。

 

「叩き落とせ。1匹残らず」

 

チャンピオンだとか、四天王だとか、そういう立場に興味もなければ、熱心にポケモンバトルに励んでいたわけじゃない。手持ちたちも実家での力仕事をこなすうちに経験値が溜まって進化しただけで、他と比べて特別強いポケモンということもない。

しかし、それでも。屋根から不心得者を叩き落とすだけならできる。

私の手持ちも私に似て神経質だったのだろう。鬼のような形相で来るポケモン全てを屋根の下に叩き落としていた。あの滅多に顔を歪めないことで有名なメタグロスですら、場に出ただけで相手を怯ませるくらい怖い顔を晒していた。お前たち、最高だぜ。

 

そうして朝を迎える頃には、屋根に近寄る人間は誰もいなかった。

 

やった。やってやった。止まってたヤヤコマが「なんだこいつ」って顔してたけど知らない。私はやってやったんだ。

そんな達成感と共にやってきたのは、「今日仕事じゃん」という絶望。

工事中のプリズムタワーを照らす太陽を前に、急激にテンションが冷めた私は、慌てて身支度を始めた。

そうして工務店に顔を出した私を迎えたのは、ドン引きする皆の顔だった。

 

「おはようござ…、どうしたんです、そんなユキメノコに祟られたみたいな顔して」

「……い、いやぁ、な、なんでも、ないよ?」

「な、なぁ。なんでもないなぁ、うん」

「なんでもないぞ、うん」

「?」

 

おかしい。いつもだったら妙なハイテンションで仕事をこなす変態が揃って大人しい。

短期バイトで入った悪童ですら、たかが経理と見下してた私に畏まっている。

まさか、昨日のZAロワイヤルで叩き落とした奴がいたんだろうか。

そう思って顔を見たが、昨日の夜に見た顔はない。不思議に思っていると、ひょっこりと顔を出した社長の孫娘が私を見て「ひっ」と声を漏らした。

え、なに?今日の私、化粧失敗した?

そう思って手鏡を見るも、そこに映るのはいつもの冴えない工務店の内勤。

私は釈然としないまま、業務に取り組み始めた。

 

皆の態度の真実を知ったのは、それから半日経ったくらいのタイミングだった。

 

「新しいホロ機材が欲しいって…社長、二ヶ月前にも新調してましたよね?予備も買いましたよね?なんらかのプロモーションってわけでもないんですよね?」

「そ、その…カナリィの魅力を伝えるのにはやはり最新鋭の技術が必要じゃと…」

「この数字見てください。これで社員の給料払えますか?払ったらどうなりますか?」

「………あ、赤字」

「正解です。諦めるか、自腹でどうにかしてください」

 

私が資料を突き返すと、社長は見るからに肩を落とし、とぼとぼと去っていく。

おかしい。いつもだったら2時間くらい駄々こねて押し通すのに。

不思議に思っていると、社長と入れ違いである女性が顔を出した。

 

「こんにち…ひっ」

「こんにちは…って、ムクさん?なんでそんな顔するんです?」

 

社長の孫娘と仲がいい女性…ジャスティスの会という思想が物理的に強い連中の手綱を引くムクさんが私を見て悲鳴を漏らす。

私がそれに首を傾げると、ムクさんは恐る恐る私に問いかけた。

 

「……オトギリさん、もしかしてニュース見てない?」

「見てませんね。少しバタバタしてたので」

 

オトギリというのは私の名前だ。

私の態度に何を察したのだろうか、ムクさんはため息をつき、慣れた手つきでスマホロトムを操作し、画面をこちらに向ける。

ネットニュースの記事だろうか。ゲッコウガが大地に埋まって足だけ突き出してる写真がある。

…なんか、すごい見覚えあるな?

 

どっ、と冷や汗を垂らし、記事を読み込む。

写真に写っていたのは、ブレまくってはいるものの、どう考えてもすっぴん寝巻き姿の私。

それが「屋上でバトルしていると現れ、ポケモンを操ってポケモンを放り落とすバケモノ」として紹介されている。

じわじわとことの事態を理解した私は、ムクさんに問いかけた。

 

「………………え、と。もしかして、皆が怖がってたのって…」

「これが原因。私も怖い。埋められたくない」

「い、いや、その、これには事情が…」

「ホウエン人は事情があったらポケモンを屋根から叩き落とすの?」

「凄まじい風評被害!!」

 

そんなことはない。断じて。

戦慄くムクさんを前になんとか弁明を図ろうとしていると、社長の孫娘さんがひょっこりと顔を出した。

 

「そう思われても仕方ないんじゃないかな。こんな写真もあるし」

 

彼女が見せたスマホロトムに写るのは、鬼の形相でポケモンを叩き落とすメタグロスに、その背後で指示を飛ばすオニゴーリ顔の私。

たった一晩。たった一晩で私は安寧と引き換えに、何か大事なものを失ったらしい。

針の筵に晒されたような気分になりながら、私は業務へと戻った。




オトギリ…ラシーヌ工務店で経理をしてる、キレるとやべー女。相棒はメタグロス。ホウエンからミアレに越してきた田舎民で、ミアレ出身に比べるとかなり神経質。タラゴンが配信業に金を使いすぎないようブレーキを踏んでおり、同僚からは「おかん」と揶揄されてる。痛Tは着用してない。

ラシーヌ工務店の皆様…そのほとんどがオトギリの尻に敷かれてる。前までは徹底抗戦の構えを見せていたが、今回の件で発言権を自らドブに捨てた。
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