「お疲れ様です」
「おう、お疲れさん」
遡ること、バトルゾーン展開より少し前。
私が休んでしまったことで滞っていた業務を終わらせ、夜間工事が控えてる社員に挨拶しながらタイムカードを通す。
と。同じように作業を終えた1人が残業申請を終え、タイムカードを通した。
「やっぱオトギリさんいると早いわー。
もう昨日の社長なんて最新マニュアル見ながらえっちらおっちらやってて…」
「そこ。余計なこと言うな」
「無理もないだろ。社長がやってた頃といろいろ変わってるし」
社長が経理やってたのなんて、数年近く前だったような。
私が経理として働いている間にも勤怠管理のツールをGo-kazalに変えたりしたし、社長が戸惑うのも無理ない。
私はバトルゾーン展開の事前告知が来てないことを確認し、工務店を去ろうとノブに手をかける。
瞬間。ミアレを揺らすような轟音と衝撃が響いた。
「わっ!?な、なに!?なに!?」
「なんだ!?」
「出るぞ!確認急げ!!」
とうとう私の家が崩れたか?
いや、あんな安アパートが崩れた程度でこんな衝撃は起きないはず。
工務店を出て、違和感に気づく。
街がメガエネルギーの光に包まれてる。
何が起きてるんだろうか、と思い、カナリィちゃん含む社員一同、大通りへと出る。
「……………なに、あれ…?」
カナリィちゃんの声が震える。
壁に隠されていたはずのプリズムタワーが剥き出しになっている。
いや、それだけじゃない。プリズムタワーが明らかに電光ではない光を放っている。
クエーサーめ。なんてものを隠していたんだ。
そう呆れるより先、カナリィちゃんがスマホロトムを起動する。
「やっほー、カナ友のみんな、無事かなー?カナリィのかなりいい感じの時間だよー。
ミアレ暮らしの人はわかるだろうけど、ちょっとヤバげだから緊急配信するねー。
ほら、見てよ。プリズムタワーがラブホみたいになってる」
「カナリィちゃん、今そんな場合じゃ…」
「そんな場合っしょ。
これ、ミアレに住んでるカナ友が現状を確認できるようにするための配信だし」
「…………………本音は?」
「カナリィ史上初のナンジャモ超えのバズが期待できるかなって!」
「だと思いました」
強かなのはいいんだけど、もうちょっと危機感覚えよう?タワーを隠してた壁が一つ残らず剥がれてるんだよ?
カナリィちゃんに呆れていると、謎の光の玉がプリズムタワーに突っ込んでいくのが見えた。
「んー?今のなんぞ?」
「色からして、メガシンカしたポケモン…ですかね?」
「……ポケモンのせいだったりする、あれ?」
「いえ、まだなんとも…。でも、ポケモンの仕業だと被害がしょぼいと言うか…」
「え、しょぼいの?あれで?」
「故郷でもっとヤバいの見たことありますし」
「ホウエン怖っ」
この世の終わりのような大雨と日照りが拮抗したあの日を思い出す。
それに比べると、タワーを覆う壁が崩れた程度で終わっているのが不思議でならない。
まるで、何かの予兆のような。
わずかな違和感を覚えた瞬間だった。
タワーから黒い蔦が突き出たのは。
「うぉっ!?」
「メタグロス、パージしてアイアンヘッド!」
従業員たちに飛んできた瓦礫を、分裂したメタグロスが破壊する。
視界の奥では見る見るうちにタワーの外壁が弾け、黒い蔦が街を蹂躙していく。
間違いない。ホウエンを、世界を襲った超古代ポケモンの復活と似た現象が起きてる。
「カナ友のみんな、無事!?
ぼくは工務店のおねーさんに助けてもらったから無事だけどさぁ!!
お前らみたいな運動不足どもが無事に逃げおおせてるとはとても思えないよーな大惨事になってんだけど!?」
「また燃えますよ」
仮にも自分のファンになんちゅう言い草だ。
私がツッコミを入れると同時、叩きつけるような咆哮が街を揺らす。
そちらを見ると、ドラゴンポケモンのような出立ちとなったタワーが街を睥睨するように首らしき部分をもたげた。
「あれ…、ポケモンなの…?」
「それはわからんが、悠長に話してる場合ではないようじゃぞ」
「んぇっ?」
社長の言葉に、皆が視線をそちらに向ける。
そこにいたのは、メガシンカしたハッサム、ボスゴドラ、サメハダーの3匹。
野生の個体なのだろう、彼らは苦しげな顔で私たちを睨み、喉奥を鳴らす。
この場でキーストーンを持ってるのは3人。
私たちは前に出ると同時、それぞれボールを握る。
「ぼく、サメハダーね。ボスゴドラとハッサムはちょいキツいし」
「わしはボスゴドラにしようかのう。ドリュウズがウズウズしとるわ」
「寒いですよ、社長。…じゃ、私はハッサムで」
「オトギリ、お前さんも寒いこと言っとるぞ」
繰り出すのは、それぞれがメガストーンを持ったポケモン。
バシャーモナイトを買って良かったと思う日がこんなに早く来るなんて、と呆れつつ、メガネに付いたキーストーンを押した。
「溶かせ、バシャーモ!!」
「貫けい、ドリュウズ!!」
「焦がせ、シビルドン!!」
─────メガシンカ!!
♦︎♦︎♦︎♦︎
『やっべーなぁ…。オトギリさん家、完っ全に潰れてる…。終わったら埋められる…』
『キュルル…』
「ま、まあまあ。もう制御できない段階まで来てたってことで許してくれる…かなぁ?」
「こういう時、『それはそれ、これはこれ』で埋められるよ。私はそうだった」
「前例、あるんですね…」
暴走したタワーの下にて。
タワー内部にメガシンカしたフラエッテ共々突っ込み、暴走させてしまったガイの嘆きを慰めようとするデウロ。
彼らの視線の先にあるのは、オトギリが暮らしているアパート。
黒い蔦に押し潰され、原型を留めないそれをオトギリが見ればどうなるか、火を見るより明らかだろう。
制御方法は合っていた。
タワー内部にある装置…『アンジュ』に溜まったエネルギーを、最強のメガシンカ使いと呼応してメガシンカしたフラエッテが操る。彼らはその手順に従いアンジュを鎮めた…はずだった。
落ち度があるならば、その対応が遅すぎた。
伝説のポケモン…「ゼルネアス」と「イベルタル」の力が込められた最終兵器の光を浴び、呼応して起動すること5年。
浴びるだけでただの石をメガストーンに変えるほどのエネルギーを持つその光を、アンジュは溜め込んでしまっていたのだ。
その総量はもはや、メガシンカしたフラエッテの手に負えるものではなかった。
ジガルデがこの街に居た理由、そしてセイカを選んだ理由を考え、最強のメガシンカ使いの称号であるAランクにまで上り詰めたガイがタワーの制御を買って出たのは確かに英断だった。ただ、その何もかもが手遅れだっただけで。
しかし、その言い訳ができるだけの情報を、ガイは持っていない。
「余計な言い訳は火に油を注ぐだけ」とオトギリの怒りを買ったことがあるセイカの忠告に、ガイは音声だけでもわかるほどガックリと項垂れた。
『やっぱり、事前に最強のメガシンカ使い決めてった方が良かったか?』
「ガイのことだし、勝っても負けても、どのみちジガルデに選ばれたセイカが残るようにしたでしょ。
今更なこと気にしないで、今はローズ地区に向かうルート探しに集中する」
『……ま、それもそうだな!任せとけ!』
「生きて帰って埋められてくださいね」
『それだけは勘弁してくれ!?』
ピュールの一言に叫ぶガイ。
緊張感のかけらもないやりとりだが、そこにいつものような温かな空気はない。
誰もがわかる危機を前に、いつも通りでいようと努めている。
セイカは「作戦会議を始めよう」とちょうどいい瓦礫の前で手を振るデウロを横目に、ローズ地区のある一点を見やった。
「………ジガルデ。あなたはどうして私を選んだの?」
秩序の守護者たる伝説のポケモン、ジガルデ。
今は濡れたパルスワンのような姿のそれが、目にあたる部分をセイカに向けた。
オトギリ…間近で見た訳ではないが、復活したグラードンとカイオーガの激突を経験している。そのため、割と冷静。まだ自分の家が壊れたことは知らない。
グラードンとカイオーガ…この世界ではエメラルドをベースにしたORASみたいな流れで復活し、世界を滅ぼしかけた。
最終兵器…サブミッションEX1でとんでもねー情報が開示された装置。多分、制御できたはずのアンジュが暴走した原因コイツだろ。
アンジュフラエッテ…サブミッションEX1のマチエールのセリフから、防衛のために起動した際、最終兵器のエネルギーを取り込んでしまったものと推察。現在、大暴走中。