田舎出身ミアレ民「寝れない」   作:鳩胸な鴨

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ハルジオさんがひどい目にあう話です


番外編
番外編 寝れないハルジオさん


「ハルジオ。今日から数日間、睡眠を禁じますわ」

「……………は?」

 

衝動的にブン殴りそうになってしまった、と主人の無茶振りを前に己を抑えるハルジオ。

ハルジオは背に隠した拳をぷるぷると震わせ、恐る恐るユカリに問いかける。

 

「あ、あの、ど、どういうことで…?」

「先日、2日寝ていない状態のオトギリ様と一晩中バトルしまして。

バトルを重ねるにつれて増す、あの殺気…。私の命すらも狙っているかのような獰猛な目…。極限にまで研ぎ澄まされた感覚から放たれる痛恨の一撃…。

その全てにわたくし、感銘を受けましたの」

「は、はぁ」

 

「そりゃキレるわ」と2年前の彼女ならツッコミを入れていただろう。

しかし、今は外せぬ首輪をつけられた身。口答えなどすればどうなるか、口にするだけでも恐ろしい。

 

「わたくし、思いましたわ。最近のハルジオとのバトルはなにか物足りないと」

「そ、そんなこと言われましても…」

 

知らんわボケ。こちとら自由の身になるために必死こいて食らいついてるんだぞ。

…なんて言えたらどれだけ良かったか、とハルジオは頬を掻いた。

「物足りないと言われても困る」というのが正直な気持ちだ。

しかし、そんな文句を聞き入れるだけの器量など、目の前のバトルモンスターは持ち合わせてない。「誰だこれに権力与えたやつ」と何度思ったか。

 

「マンネリ化してしまったのかと思っておりましたが…、先日、オトギリ様と戦ったときに気づいたのです。

こちらの喉笛を掻き切るような鋭い殺気…。今のハルジオに感じられないものはそれだと」

「………それで、寝るな、と?」

「その通りですわ」

「…………………」

 

拒否したい。猛烈に。

しかし、この女のことだ。あの手この手で自分を寝かすまいと妨害するだろう。

訴えたとしても、風に乗って飛んできた木の葉のように軽くあしらう姿がありありと目に浮かぶ。

つくづく思う。どうしてアルセウスはこれに金と権力を与えたのだ。

何度目かもわからない辟易に、ハルジオはガックリと項垂れた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「ゔぅゔゔゔゔぅ…」

 

ユカリから命令を下されてから4日。

ハルジオの顔からは、すっかり生気が抜け落ちていた。

トレーナーが連れたヒトモシが、生ゴミを見るような目で一瞥し、目を逸らす。どうやらそのくらい生命力が削られたらしい。

足取りがおぼつかない。しゃんと背を伸ばす気力すら湧かない。

それもこれもあのバトルモンスターの横暴のせいだ。ちょっとでも寝ようとすると、見計らったかのようにホロで叩き起こしてくる。

アローラには一生を寝て過ごすポケモンがいるらしいが、今は無性にそれが羨ましい。

重い瞼をなんとか開くべく、ヌーヴォカフェで購入したコーヒーを一気に呷ろうと口をつける。

 

『ハルジオ。一気にカフェインを摂取すると逆効果ですわよ』

「………………………あ゛い゛」

 

紙コップを握りつぶしかけた。

ちび、と味もわからぬままにコーヒーを啜り、眠気を誤魔化しにかかるハルジオ。

が。限界が近い体は言うことを聞かず、ハルジオを寝かせようと力を奪っていく。

ぐぐぐ、と白目を剥きそうになる目に力をこめていると、聞き覚えのある声が響いた。

 

「あ、ハルジオさん。おはようございます…」

 

そちらを見ると、ずぶ濡れになったオトギリがびっしりとクマの重なった瞳を向けているのに気づく。

その様はまるでバケモノのよう。

オトギリは哀愁に満ちたため息を吐き、グリーズに注文を済ませた。

 

「…………あんた、今度は何日寝てないんだ?」

「体感、1週間寝てません…。ちょっと、別世界に飛ばされてたみたいで…」

「…最近噂になってる『変な輪っか』か?」

 

『変な輪っか』。かつて、ホウエン地方で頻繁に見られた物体で、その中に入ると強大なポケモンに会えると聞いたことがある。

現在はミアレにも目撃例が増えており、無闇に入らないように注意喚起されていたっけか。

ハルジオが回らない頭から記憶を引っ張りつつ、オトギリとグリーズの会話に耳を傾ける。

 

「はい…。しょっちゅう家の前に出て…。

今回は1週間不眠不休で紫色のでかいホエルコと戦ってました…」

「………ちょっとそのホエルコ見せてみろ」

「色が違うだけでなんの変哲もないホエルコですよ…。出したらこの世の終わりみたいな雨が降るだけの」

「それ絶対ホエルコじゃないよな?あのサンドって言い張ってるポケモンと同類だよな?」

「ホエルコです」

「いや…」

「ホエルコです」

「……………」

「ホエルコです」

「………ホエルコ、なんだな、うん」

 

絶対にホエルコじゃない。

あの「でかいサンド」と言い張っているポケモン…グラードンと同格の存在だろう。ホエルコという比喩から考えるに、カイオーガあたりだろうか。

「どこに向かってるんだ、このOL」と呆れていると、グリーズがハルジオをアゴで指した。

 

「ったく、不健康なツラの客が2人もいると売り上げが減るんだよ。

テメェら2人、とっとと飲んで帰って寝ろ」

「そうします…」

「……うちは、むずかしいな…」

「あん?」

 

しまった。つい正直に言ってしまった。

今更誤魔化しようがなく、どう説明しようかと考えていると、オトギリが何かを察したように口を開いた。

 

「ユカリさんの無茶振りですか?」

「………その、実は…」

 

繕わなくては、と思うも、言い訳が出てくるほど脳みそが回らない。

ひどく酩酊したような感覚に飲まれそうになりながらも、ハルジオは辿々しくこれまでの経緯を語った。

 

「えげつないこと命じるな、あのセレブ…」

「私たちでもやりませんでしたよ、そんなの…」

「えっと…、無茶振りの原因になっちゃったみたいで、ごめんなさい…」

「いえ、全部ユカリ様のせいなので…」

 

フレア団でもやらなかったと言われると、相当なことをやらされている実感がひしひしと湧いてくる。

いつか絶対に逃げ出してやる。そう決意を抱いていると、3人が申し訳なさそうに眉を顰めた。

 

「どうにかしてやりたいけど、首突っ込むとこっちまで被害受けそうなんだよなぁ…」

「ごめんなさい。今はあのクソ輪っかだけで手いっぱいで…」

「申し訳ございません、私たちヌーヴォカフェも余裕がない身。コーヒーを用意することでしか力になれません」

「……………」

 

目頭が熱くなる。

ユカリに首輪をかけられたことを悔いる日々だったが、こうして気遣ってくれる友人と巡り会えたと考えると、そう悪いことでもないのかもしれない。

そんなことを思っていると、ハルジオのスマホロトムが目の前に躍り出た。

その画面に映るのは、セイカからの着信。

リワード戦だろうか、と思いつつ、ハルジオは断りを入れて電話に出る。

 

「すみません…。もしもし?」

『ハルジオさん、今どこ!?!?』

「ぉわっ、セイカ…?ど、どうかしたか…?」

 

やけに声が焦っている。

何かあったのか、と身構えていると、セイカの叫びが響いた。

 

『ユカリさんが四徹してぶっ倒れたの!!!』

「…………………………」

 

それを聞き、ハルジオはその場に倒れた。

 

『ハルジオさん!?ハルジオさーん!?』

「…………ぐごー…、がー…」

「……あーあー…、ウチの店で寝るなよ…」

「まあ、常人に四徹は無理ですからねぇ…」

「グリさん、それ私が常人じゃないって意味でいいです?」

「ノーコメントで」




ユカリ様…ハルジオに命じるからには、自分も同じコンディションでバトルをしようと思い、四徹。セイカとのスーパーユカリトーナメント∞で4日間を過ごしていたところ、興奮のあまりぶっ倒れた。

ハルジオ…ユカリ様が倒れたんならいいよね精神でぶっ倒れた。

でかいホエルコ…山のようなたんこぶを作りながらカナリィぬい担当の横でマスコットしてる。雨を降らすとたんこぶが増える。
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