ちょっと修正しました
「オトさんさぁ、ポケモンバトル強いの?」
「近所の先輩に勝てた試しがない程度には弱いですけど」
私に関する不名誉なニュースがミアレ中を駆け巡った翌日、その昼休み。
大暴れした甲斐があってか、久方ぶりの安眠を堪能し、心身ともに健康になった私に社長の孫娘…カナリィちゃんの問いに堂々と答える。
その先輩は今やホウエンリーグのチャンピオンだが、彼以外にも負けそうなくらいにバトル経験は少ない方だ。
手持ちは揃って血の気が多いわけじゃなかったし、実家での仕事中に寄ってきた野生ポケモンを追い払うくらいしかしてなかった。
トゲトゲした「ギヤーオ!」と鳴く鳥ポケモンが寄ってきた時は機械が軒並みいかれて、ブチギレた社員全員でタコ殴りにしたっけか。捕まえて研究所に突き出す前に泣きながらどっかに逃げたけど、元気なのかな、あいつ。
「でもさぁ、オトさんの手持ちって結構強そうなの揃ってるよね?」
「メタグロスでそう思われがちですけど、どの子も実家での力仕事で経験値溜まって進化しただけですからね」
「実家何やってんの?」
「シルフの協力会社です。工場で使う機械を作ってます」
「え?オトさんお嬢様なんすか?」
「お嬢様ならあんなアパート住みません」
「あ、そっか」
親は偉いが、私は工務店の経理。そこまで偉いもんでもない。
ギャラドスの子はコイキングなのだ。
「…で、なんで急にバトルの話になったんです?」
「いや、Gランクのリスナーから『オニゴーリみたいな顔の女が連れてたメタグロスにポケモン叩き落とされた』ってコメントきて」
「んぶっふ」
見せられたスマホロトムに写るのは、メガシンカしたライボルトが見事に地面に突き刺さった写真。
すごく見覚えがある。確か、メガシンカしてものの数秒で叩き落とされたやつだったっけか。
冷や汗を垂らす私に、カナリィちゃんがさらに質問を重ねる。
「一応聞くけど、キーストーン持ってる?」
「まあ、一応は。先輩から『お土産』って言われてお菓子と一緒に渡されました」
「その先輩何者なんすか?」
「私は石変人って呼んでます」
曰く、「父に『普段世話になってる礼くらいしろ』と叱られて」という理由でわざわざ掘り起こしてきたのだとか。
キーストーンが当時いくらしたのか知ってんのか。家族が住める一軒家建つんだぞ。
ブルジョワが極まった先輩の奇行に呆れた過去を想起し、私はキーストーンが収まるメガネを懐から出し、カナリィちゃんに見せた。
「メガストーンもあるの?」
「まあ、はい」
「使わないのもったいなくない?」
「前に一度、ものは試しとメガシンカしようとしたんですが、うちのメタグロスはそれが極端に嫌だったみたいで、『本気でやめてくれ』って顔されました。
何でかと思って調べたんですけど…、メガメタグロスって、ダンバル2匹とメタング1匹がメタグロスと合体するらしいんです」
「あー…、コミュ障的な?」
「いえ。メタグロスは賢い分、同族が唐突に生えて合体するのがわかるみたいで…。それが意味わかんなすぎて怖くなってメガシンカを拒否するケースが多々あるそうなんです…」
「…………いや、進化もそうじゃん。メタグロスってダンバルの集合体じゃん」
「合体したのが全員兄弟でしたから…」
調べると、気心知れた相手を見つけてから進化するダンバルがほとんどなのだとか。そのせいか、メガシンカに苦手意識を持つメタグロスはかなり多いらしい。
ちなみに、稀に見るソロ専ダンバルはイマジナリー合体相手を脳内に浮かべ、気合いで進化するそうだ。悲しい生態である。
話を戻そう。一応、メガシンカできるポケモンは、メタグロス以外にも一体いる。
しかし、それにメガストーンを持たせようにも、石変人にもらったメタグロスナイト以外は高くて手を出せてない。
結果。私のキーストーンは完全にお飾りと化していた。
それを聞いたカナリィちゃんは、なんとも言えない顔を私に向けた。
「……つまり、メガシンカを使わずにメガシンカポケモンたちを叩き落としたと」
「屋根から叩き落としただけです。カナリィちゃんのシビルドンも出来ると思いますよ」
「ぼくのシビルドンまでオトさんたちみたいなバーサーカーにしないでほしい」
「知らないようだから言いますけど、私もメタグロスもバーサーカーじゃないんですよ」
「何言ってんだこいつ」みたいな顔された。何故だ。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「では、お先に失礼します」
定時を少し過ぎ、今日の分の業務を終えた私はタイムカードを通す。
再開発もそれなりに落ち着いてきたように思える。野生ポケモンが生活するワイルドゾーンが増えてるのが多少気になるものの、それ以外は至って順調。バトルゾーンが展開される直前まで仕事漬けだった日々が遠い昔のようだ。
凝った体を伸ばし、カナリィぬいの担当に軽く頭を下げて職場を去る。
今日も私の住むアパートはバトルゾーンに入らない。大暴れした甲斐があってのことだろうか。
帰りにどこか寄って、夕食を済ませようか。予定を組み立てていると、ある人物がこちらに駆け寄るのが見えた。
「こんにちは、オトギリさん。お疲れ様」
「マチエールさん、ご苦労様です」
話しかけてきたのは、マチエールさん。
ピチピチスーツに丈の短いコートという青少年の教育にあまりよろしくない格好で探偵業を営むアグレッシブな女性である。なんでも国際警察ともパイプがあるとか。
柔らかな笑みを向ける彼女と軽く社交辞令を交わし、私はふと浮かんだ疑問を口にした。
「ここらに来るなんて珍しいですね。調査ですか?」
「うん。とは言っても、オトギリさんならなんの調査かわかってると思うけど」
だろうな、としか言えない。
恐らくはクエーサー社からの依頼か。ZAロワイヤルを荒らした注意喚起でもされるのだろうか。世は理不尽だ。
悪い想像を膨らませ、辟易の息を吐く。
「言っときますけど、私は正当な権利を主張しただけですからね」
「わかってるよ。オトギリさんが何度もクエーサーにクレーム入れてたって情報も掴んでるんだから」
「クエーサーは知ってるんじゃないですか?」
「マスカットさんが知らないくらいだから、把握してないんじゃないかな?」
「は???」
女らしからぬ低い声が喉から漏れた。
ごめん、父さん。私は今から女であることを忘れます。
「つまり、なにか…?クエーサーは都合の悪い意見は聞こえませんムーブしてると…?」
「オトギリさーん…?
その、お顔が怖いよー…?」
「みんな、ごめんなさい…。これからは実家で暮らしてくださいね…」
「ボールに謝らないで怖いから!!」
「冗談です」
「オトギリさんが言うと冗談かどうかわかんないよ!!」
もちろん、冗談などではない。
しかし、冗談ということにしておかないと自分が抑えられない。この3日で完全にブレーキが壊れたことを自覚し、自己嫌悪に陥る。
このままだといつしょっぴかれるか。ため息を吐き、私はなんとか納得しようとマチエールさんに問うた。
「答えてくれるかわかんないんで聞きますけど、下が揉み消してるとかだったりします?」
「揉み消してる…というよりは、クレームが多すぎて捌ききれてないんだよ。
ほら、最近はワイルドゾーンが増えて『ミアレを守る会』っていうデモグループが立ち上がってるでしょ?」
「む、むぅ…」
そう言われては納得するしかあるまい。
クエーサー社も大変なんだなぁ、と今更なことを思っていると、スマホロトムが懐から飛び出し、私に画面を見せた。
「わっ、急にどうしたの………」
画面に映る文字列を読み、顔が歪んでいく。
事前告知?なんの?理性が問いかける。
もうわかってるだろ、現実から目を逸らすな。本能が怒り叫ぶ。
通知を開くと、そこには。
ワイルドゾーン拡大の影響で2日ぶりに私の住む地区がバトルゾーンに入ることが告知されていた。
まだ満足に安寧を堪能してない。たった一粒の飴だけで、この怒りが静まるとでも思っているのか。
マチエールさんの顔が恐怖で引き攣っているが、気にしている余裕がない。
私はボールに手を据え、マチエールさんに告げた。
「…………マチエールさん」
「な、なに?」
「私が捕まったら、この子たちのお世話をお願いしてもいいですか?」
「待って待って待って待って!!お願いだから思いとどまって!?」
その後。マチエールさんによる決死の説得により、私はクエーサー社への襲撃を取りやめた。
ポケモンを屋根から叩き落とす妖怪にはなった。ちくしょう。
オトギリ…結局、1日しか満足に安眠できなかった人。元からかなり短気だが、一度キレたことで完全にブレーキがぶっ壊れた。ホウエンチャンピオンの石変人とは腐れ縁。
石変人…いったい何ブキ・何ゴなんだ(すっとぼけ)
マチエール…青少年の教育に良くない探偵。クエーサー社に依頼され、ZAロワイヤルで大暴れしたオトギリのことを調査していた。お金関係の管理はオトギリから学んだ。
クエーサー社…寄せられるクレームが多すぎてパンク気味。そのため、ZAロワイヤルによる騒音関係は完全に後回しにしてる。