「みなさま、お待たせいたしました!
わたくしによるわたくしのためのトーナメント!開催に必要なピースが全て揃いました!」
「みあれこわい」
監禁されてる間に何があったのだろうか。セイカちゃんが半泣きで戻ってきた。
ミアレは怖いよ。碌に寝れないし。文句言っても改善しないし。
セイカちゃんに同情を送る横でユカリさんの口上が続き、トーナメント表が表示される。
ユカリさんは最後の最後で立ちはだかるシード扱いだった。自分勝手もここまで行くと清々しい。
が。それより気になる点が一つ。
「………なんでシード枠なんですか、私」
「オトギリ様はCランクトレーナーを一方的に叩きのめされたとお聞きしまして。
シードとさせていただきました」
「荷が重いです。10年まともなバトルしてないんです」
「では、一回戦といたしましょう」
「スルーされた」
屋上から叩き落としただけだってば。
私の抗議など聞き入れられず、ユカリさんが進行を続けるのに戸惑っていると。
一回戦を控えたカナリィちゃんが私の裾を引っ張った。
「オトさん、オトさん。ぼくとセイカだったらどっちが勝つと思う?」
「セイカちゃんだと思いますよ」
「キッパリいうなぁ…。ま、そっちのが燃えるしいいけど」
「これっ!DG4ならカナリィを応援せんか!」
「応援はしますけど、勝てるかどうかは別問題です」
ZAロワイヤル中に姿を見たが、相手を金ヅルとしか見てない目をしてた。
あの域の修羅にならないと、セイカちゃんに勝つのは難しいだろう。
しかし、そこはミアレ1を張る負けず嫌い。カナリィちゃんはマスクの下で笑みを浮かべ、コートへと歩み出した。
「DG4のみんなに、ぼくの強さをみせてあげるだけだね」
「みんなに見せてあげてよ、かわいい吠えヅラ」
セイカちゃん煽りスキル高っ。いつの間にそんなに口悪くなったの?
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ぼくが連敗…。ぼくが連敗…」
「惜しかったのう、カナリィ…」
数分も立たず、カナリィちゃんが半泣きになりながらこちらに戻ってきた。
これで3連敗というのがよっぽど悔しかったのだろう。「仇取ってぇ」と私に抱きつくカナリィちゃん。カナリィのファンとしては理想的なシチュエーションだろう。
「……………………」
「む、ムク…?どうしたのですか…?顔が恐ろしいことに…」
そして、そんなシチュエーションを掻っ攫った私へ殺意と充血した目を向けるカナ友が1人。
違う、違うんだ。ラシーヌ工務店唯一の女性社員だから距離が近いだけなんだ。
次からは挨拶してもらえなさそうだな、と思いつつ、次の試合を控えた社長を見送った。
「次はわしか。頑張って仇とるからのう」
「じーちゃん、あの筋肉に勝てたことないじゃん」
「…………」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「一回戦が滞りなく終わったところで…、二回戦と参りましょう。
セイカ様が勝てば連戦となりますが、ポケモンたちはきちんと回復いたしますのでご安心を」
結局、社長はシローさんに敗れてしまい、DG4で残ったのは私だけ。
私はセイカちゃんと共にコートに立ち、軽くストレッチする。
「オトギリさんと戦うの、いつぶりかな。
ちっちゃい頃、アチャモ貸してもらって戦ったのが最後だったっけ?」
「うん。私、まともなバトルは久しぶりだから、お手柔らかにね」
「悪いけど、手加減はできないなぁ。
その代わり、今度は『かけて』いいよ。どーせ私が勝つし」
『かけて』いい。
その一言を聞いて、私はため息を吐き、懐に入れたキーストーン入りのメガネとメタグロスが入ったボールを取り出した。
「メタグロス。今日は我慢してね」
かたっ、とボールが静かに揺れる。嫌な時はもっと激しく揺れるため、今日は我慢してくれるらしい。
私はメタグロスが入るボールをしまい、メガネをかける。
前にこれをかけたのは、トゲトゲした鳥ポケモンと戦った時か。
互いにボールを投げ、ポケモンの名を呼ぶ。
「ヌメルゴン、よろしく」
「ぬめーっ!」
「カイリュー」
「りゅーっ!」
私が出したのはヌメルゴン。
元はトゲトゲした鳥ポケモンが足に握っていたヌメラで、私の手持ちとして仕事の手伝いをさせてたらいつの間にか進化してた。
対するセイカちゃんが繰り出したのは、とてつもなくデカいカイリュー。
最近見るオヤブンというやつだろうか。鳴き声も低いし圧がすごい。
「カイリュー、しんそく」
「ヌメルゴン、れいとうビーム」
先手を取ったのはカイリュー。巨体が目にも止まらぬ速さでヌメルゴンにぶつかりにかかる。
しかし、ヌメルゴンはこれを粘液で滑ることで避け、ガラ空きになったカイリューの背にれいとうビームを叩き込んだ。
「…しんそく避けるって何?」
「実家で仕事を手伝わせてただけと聞いておったが…、それだけであんな動きができるもんかのう…?」
用事すっぽかして爆速で逃げる石変人と兄を捕えるために編み出した移動方だ。れいとうビームもそのためにわざマシンを買って覚えさせた。
が、しかし。カイリューはれいとうビームを耐え、地面に広がる粘液に拳を握る。
「粘液にれいとうパンチ」
「かえんほうしゃ」
やばっ、粘液ごと凍らされたら終わる。
粘液を伝う冷気を溶かすべく、地面に炎を吐くヌメルゴン。
その判断が良くなかったのだろうか。隙をついて飛び上がったカイリューが重力のままにヌメルゴンへと迫る。
「ドラゴンダイブ」
どっ、とヌメルゴンの脳天にカイリューの繰り出した一撃が直撃する。
急所に当たってしまったのだろう。ヌメルゴンはふらふらとたたらを踏み、そのまま崩れ落ちた。
「ぬ、ぬめ〜…」
「ヌメルゴン、おつかれさま。ごめんね、バトル嫌いなのに」
やっぱり鈍ってる。石変人とドンパチしてた頃なら対応できたのに。
すぐにやられてしまったことに衰えを感じながら、私は次のポケモンを繰り出した。
「コノヨザル」
近年発見されたオコリザルの進化、コノヨザル。その姿を見て、カナリィちゃんが小さく呟く。
「まんまキレた時のオトさんじゃん」
「埋めますよ」
「ごめんなさい」
ギリ悪口だからな、それ。
カナリィちゃんに半目を向けたその時、ずぱぁん、と乾いた音が響く。
私がそちらへ視線を戻すと、そこには。
「り、りゅ…」
床に頭が突き刺さったカイリューが見えた。
「……………………えっ?」
セイカちゃんがびっくりしてる。
それもそうだろう。私はコノヨザルに何の指示も出してない。
だというのに、コノヨザルはカイリューを物理的に沈めてしまった。
この状況だと誤解されるだろうが、なついてないだとか、言うこと聞かないだとか、そういうわけじゃない。
その理由は、私の兄にある。
私の兄はカスだ。
弟妹の私物を勝手に質屋に売り、その金をスロットで溶かすなんて序の口。
ひどい時は自分でこさえた億越えの借金を、どうにか会社に押し付けようと奔走していたこともある。
最初こそは家族ぐるみで叱ったり、体罰に訴えたが、腐った性根が直ることはなく。
むしろそこに逃げ癖が追加されるという最悪の事態に陥った。
その逃げ足は恐ろしく速く、いちいちポケモンを出してから指示しては遅い。
そう思った私はカスの心を徹底的にへし折るべく、手持ちの中で最もカスを殴り慣れてるコノヨザルにある命令をくだした。
「ボールから出た瞬間、目の前のものを全力で殴れ」と。
今回もそれを守っただけに過ぎず、何もおかしいことはしていない。
いつもとは感触が違ったからか、コノヨザルが不安そうな顔でカイリューと私を見比べる。
「大丈夫、殴って良かったよ」
「ぎぃっ」
「……お、お疲れ様、カイリュー…」
ああ、周囲の「こいつのポケモンだしな」って視線が痛い。
やめろ、そんな目で見るな。私が一番わかっとるわ。
棄権したい気持ちに駆られる中、私はメガネの位置を直した。
「…………今思ったんだけどさ、オトさんのポケモンって、逃げる相手特効だよね」
「看守でもしとったんかあいつ」
ヌメルゴン…オトギリの手持ちの愛され末っ子枠。オス。元はギヤースと鳴くトゲトゲした鳥ポケモンに飯として囚われていたヌメラ。オトギリの手持ちとして仕事を手伝ううちに進化していた。バトルが苦手。
粘液を使って床を滑り、素早く背後に回って特殊技を放つ。れいとうビームはオトギリの兄を凍らせるために覚えた。オトギリの兄が嫌い。
コノヨザル…オトギリの手持ちのオカン枠。メス。オトギリが初めて自分で捕まえたポケモン。普段は温厚。
オトギリの兄による横暴の被害を数多く受けたため、誰よりも手が出るのが早い。大事にしてたぬいぐるみ(オトギリからのプレゼント)をオトギリの兄に売り飛ばされた怒りで進化した。
逃げるオトギリの兄を殴るべく鍛えられたそのパンチは、もはや神速の域に達している。オトギリの兄が嫌い。
バシャーモ…オトギリの手持ちの長女枠。メス。オトギリが親からもらったポケモン。オトギリの兄が嫌い。
オトギリの兄…カス。過去にオレンジアカデミーに通っており、髪にキラーメついてる同級生から「音の出る生ゴミ」、「この世の悪の集合体」、「存在自体がストレス源」とボロクソに言われるほどやらかしてた。手持ちからも嫌われてる。
竹でできたロケットみたいな生物を怒らせ、どこかへ攫われたため現在行方不明。たぶん生きてる。
オトギリの手持ち
1.ヌメルゴン♂
2.コノヨザル♀
3.?????
4.?????
5.バシャーモ♀
6.メタグロス(メガストーン持ち)