「ふんどのこぶし」
「クチート、背を低くしてじゃれつく」
セイカちゃんのクチートがふんどのこぶしを潜り抜け、コノヨザルをめったうちにする。この技見るたびにいつも思うけど、「じゃれつく」ってレベルじゃないだろ。
湧いた疑問を飲み込み、倒れたコノヨザルをボールに戻す。
「まかせた、ワルビアル」
次に出したのは、ワルビアル。普通の個体よりも小ぶりな彼は、出ると共に穴を掘って地面へと潜る。
彼もまた兄に並々ならぬ恨みを持つ一体。場に出た瞬間、一瞬で大地に隠れての奇襲を得意とする。
先ほどの学びからだろうか。間に合わないと判断したセイカちゃんは背後を取られたクチートに指示を飛ばす。
「クチート、アイアンヘッド!」
「ワルビアル、じしん」
クチートの頭突きが当たるより先、「じしん」のエネルギーをまとった拳がクチートの大顎をたたき伏せる。
兄に範囲攻撃は効かない。飛び上がって逃げるから。その姿がまあ気持ち悪い。虫ポケモンでももうちょっとマシな挙動すると思う。
話を戻すと。私のポケモンは兄をボコボコにするため、揃って「範囲攻撃のエネルギーを一点集中させて叩き込む技術」を会得している。
範囲は狭まるものの、その威力は絶大。
まともに受けたクチートはそのまま倒れ、セイカちゃんのボールに戻って行った。
「…………オトさんさぁ、確か10年はまともなバトルしてないんだよね?」
「言うとったな」
「10年バトルしてないやつの動きかな、あれ?」
セイカちゃんが次に繰り出したのは、ゲッコウガ。
アクロバティックな動きでワルビアルを翻弄し、着実にみずしゅりけんを浴びせる姿はまさしく忍者。
どうしたものかと考えあぐねる横で、私は観客の会話にも意識を向ける。
「あら、ご存知ないのですか?
オトギリ様はかのツワブキ・ダイゴ様が『ミクリ様に並ぶライバル』と公言していた方ですのよ?」
げ。あの石変人そんなこと言ってたのか。自分の発言に責任を持てと何度言えば。
里帰りしたらシバこう、と思いつつ、私はゲッコウガに倒されたワルビアルを戻す。
「なんでそんなんがあんなやっすい給料で経理やってんの!?」
「リーグ向けの履歴書にも書けるじゃろうに…。なんでそれをせんかったんのか、甚だ疑問じゃのう…」
こちとら石変人に一回も勝てたことないんだぞ。ジムバッジなんて一つも持ってないし、そんな職に就ける実力もない。
よしんば就けたとしても、金回りがいいせいで兄が金の無心に来たり、石変人に振り回されたりする光景がありありと見える。
この先の一生をそれで終えるなら、薄給安アパート暮らしの方が億倍マシだ。
ロズレイドを繰り出し、ゲッコウガと激しい攻防を交わす中、カナリィちゃんの呆れ声が聞こえた。
「も、もったいねー…。ZAロワイヤルで稼げばもっといいとこ住めるじゃん…」
「わしも『参加せんのか』と聞いたが、『夜は寝たい』と言っておったぞ」
「現時点でも寝れてないんだし、いっそ参加すりゃいいのに」
そうしようかな。「やり始めたら絶対寝れないから」と参加を見送っていたが、ここまで寝れないとそれもいい気がしてきた。
屋根から叩き落としても勝利カウントされるのだろうか。あとでクエーサーの関係者に聞いてみよう。マスカットさん、外回りとかしてないかな。
戦闘に割いてた思考がガクッとそちらに持っていかれ、ロズレイドがゲッコウガと相打ちになって倒れる。ごめん、ロズレイド。
私はロズレイドをボールに戻し、次のポケモンを繰り出す。
「バシャーモ」
「しゃもっ!」
「オーダイル!」
「だぃるっ!」
「しゃもっ!?」
セイカちゃんのオーダイルが出ると共にアクアジェットをかまし、バシャーモがたたらを踏む。
あのオーダイル、コノヨザルの先手パンチを見て盗んだな。セイカちゃんもびっくりしてるぞ。
血筋なのかな、と浮かびかけた疑問を振り払い、私はメガネの位置と意識を正した。
「バシャーモ、ほのおのうず」
ぶわっ、とバシャーモの周囲に炎が渦巻くと共に、その足を燃やす。
思い出すのは、兄の愚行によってバシャーモが進化した時のこと。
アレは確か、私がまだ幼く、アチャモがワカシャモになったばかりの頃。
進化祝いにプレゼントを買いに出かけた先で、彼女はバシャーモナイトのレプリカが結ばれた耐火性ミサンガを所望した。そのキラキラした瞳を見て、「メガバシャーモ好きだもんねー」と苦笑を浮かべたものだ。
当時の私としてはかなりの痛手だったが、日頃の感謝を込めてこれを買い、彼女の足に結んであげた。
その次の日。ミサンガは兄に売り飛ばされていた。
「本物じゃなかった」と信じられない愚痴を吐くカスにブチギレたワカシャモは、その勢いで一気にバシャーモに進化。ほのおのうずでカスを閉じ込め、同時にブレイズキックで顔面がトマトみたいに腫れ上がるほどに蹴り続けた。状況を把握した私と兄の手持ちも参加して半殺しにした。
今の状況も、その時と一緒。展開したほのおのうずを巻き上げるようにバシャーモが駆け、オーダイルを閉じ込める。
「オーダイル、アクアジェットで抜け出せ!」
「だぃっ!?」
オーダイルがアクアジェットでほのおのうずを破ろうとするも、バシャーモが蹴りを入れることでそれを許さない。
大体の突破法はカスの悪あがきで経験済みだ。
バシャーモをどうにかしようにも、ほのおのうずが保護色となってどこから攻めてくるかわからない。
じわじわと体力が削られていくのを感じたのだろう。オーダイルの顔に焦りが滲む。
「オーダイル、なみのり!!」
「あ、やばっ」
ざばぁっ、とオーダイルから噴き出た水がほのおのうずを消し、飛んでいたバシャーモの姿を晒す。
カスの拘束にはいいんだけど、なみのりやだくりゅうがあるポケモンには通じないんだよな、これ。
そう呆れるより早く、オーダイルがアクアジェットで迫る。
「バシャーモ、とびひざげり」
「しゃもっ!!」
「んなっ!?」
「だぃ!?」
アクアジェットで向かっていたオーダイルの脳天に、バシャーモのとびひざげりが突き刺さる。
それがとどめとなったのだろう。オーダイルはそのまま落下し、目を回して倒れた。
「しゃも…っ」
が、しかし。ダメージが殺しきれなかったのだろう。バシャーモもまた落下し、倒れてしまった。
メガストーンがあれば良かったのだが、私の給料だとボーナスを待つ他ない。あと10日我慢してくれ。
「ありがとう、バシャーモ。
…出番来たよ、メタグロス」
「……………ぐろぉーすっ!!」
うわっ、死ぬほど嫌そうな顔してる。
頼むから我慢してくれ。加減するとそこの厄介セレブに何されるかわからないんだ。
対するセイカちゃんが繰り出したのは、アブソル。少し前にメガシンカさせていたのを見たが、アレが切り札なのだろうか。
後の一体は見れないかもな、と思いつつ、私は深く息を吐く。
「親戚のお姉さんとして、ちょっとは壁になってあげる。メタグロス、腹括りなさい!!」
親指でメガネに収まるキーストーンに触れ、メガシンカエネルギーを解放する。
トゲトゲの鳥ポケモンと対峙して以来、久しぶりに浴びる光だ。
その光はメタグロスを包み込み、繭へと変化する。
次の瞬間、繭に亀裂が走り、中からメタグロスとは似ても似つかぬシルエットが姿を見せた。
「ぐろぉぉおおーーーーーすッ!!!」
メガメタグロスの放つ威圧がアブソルとセイカちゃんを威圧する。
こちらは最後の1匹。相手は無傷のポケモンがあと2匹。
正直言って勝てる気はしないけど、せめて終わるまではカッコつけさせてもらおう。
「…………ほんとなんでウチで経理なんてやってんの?もっといいとこあったでしょ?」
経理の資格と実家で働いてた実績以外になんも誇れる経歴がないから、ラシーヌ工務店より条件のいい企業に採用されなかったんだよ。
カナリィちゃんの指摘に悲しくなりながら、私はメタグロスに指示を飛ばした。
「メタグロス、"パージ"してアイアンヘッド」
次の瞬間。アブソルは地に伏していた。
ワルビアル…オトギリの手持ちの長男枠。オス。オトギリの兄にいつでも奇襲できるよう、出てすぐあなをほるで地中に隠れるのをルーティンにしてる。
元はイッシュのリゾートデザートに住んでたメグロコ。母がお守りにくれた牙を化石と勘違いしたオトギリの兄に奪われ、ホウエンのトクサネまで追いかけ回してオトギリの実家に転がりこんだ。
共に兄をボコボコにしてるうちにオトギリと意気投合し、オトギリの手持ちに。首には母の牙を通したネックレスがぶら下がってる。オトギリの兄が嫌い。
ロズレイド…オトギリの手持ちの次女枠。メス。描写はなかったが、リーフストームやマジカルリーフの中にやどりぎのたねを紛れ込ませて放つ戦法を取る。
元はオトギリの実家の近くで日向ぼっこを日課にしてたスボミー。
オトギリの兄の不注意によりお気に入りのスポットごと燃やされてから彼に復讐を誓い、当時から彼を半殺しにしてたオトギリの手持ちに。オトギリの兄が嫌い。
バシャーモ…オトギリの手持ちの長女枠。メス。メタグロスと違い、メガシンカに憧れてる。スマホロトムをおやつで買収してオトギリに隠れて石変人に催促してるものの、未だ収穫なし。オトギリの兄が嫌い。
メタグロス…オトギリの手持ちのオトン枠。ボス。メガシンカすると、相手を逃さぬよう、「パージ」してダンバル8匹がかりで取り囲んでボコボコにする戦法を取る。オトギリの兄が嫌い。
オトギリの兄…カス。オトギリが強くなった理由の9割を占めてる。現在はムッキムキなむしポケモンみたいな生物を怒らせ、タコ殴りにされてる。残念なことにまだ生きてる。