○○○○勢マスター   作:花垣

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File.レジェンダリア
藍類イルイ【H】


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はオンラインのネットゲームでできるだけ私に似せて作り込んだアバターに着ぐるみの衣装を着せて、街中に出る事に背徳感と興奮を覚える嗜好を持っている。

 何故か、と問われれば『着ぐるみによって正体が隠れている』『けれど中身は自分である』『万が一脱げてしまったら正体が私だとバレてしまう』『マスコットとして振る舞っていたのがバレてしまう……!』みたいな所だろうか。

 

 

 だからまぁ、VR(バーチャルリアリティ)ゲームにも期待はしていたんだが、肝心のゲームとしての出来やシステムの完成度が悪く人が集まらず、必然的に『中身バレを恐れつつ興奮する』という状況まで行き着けないゲームばかりだった。

 残念。

 

 

 

 

 ……と思ってたら〈Infinite Dendrogram〉というタイトルが話題になり始め……。

 

 

 

 

 

 買ってみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいなこれは、現実そのものじゃないか……」

 

 

 天を覆う巨大樹、宙を舞う鮮やかな光粒、花や果実の香しき匂い、尖った耳や毛皮や羽を持つ幻想的な人々……。

 

 

 余りにも現実離れしているのに全てが現実だと訴える圧倒的な“世界”。

 〈Infinite Dendrogram〉は確かに新世界を提供していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうするか……」

 

 

 現在、レジェンダリア・霊都アムニール。

 とりあえず宿を借りたはいいものの……。

 このゲーム……、……本当にゲームなのかこれ?

 とりあえずこのゲーム、何を成すにも自分で動かなければならないようだ。

 渡されたのは初期装備と通貨だけ。

 メニューを開いてもお知らせなどは特に無く、ガチャの類も無いようだ。

 何をするにも『ジョブ』に就かなければ始まらないみたいだけど……。

 

 

「……ん?」

 

 

 何か光ってるのでふと、見ると手に付いた青い宝石が光り出していた。

 

 

「……そうか、これが」

 

 

 〈エンブリオ〉。

 〈Infinite Dendrogram〉が『新世界』の他に提供するという、『オンリーワン』。

 誰一人として同じ形にはならないらしいけれど……。

 

 

 さて、私の場合はどうなるか……。

 

 

 

 

 ──光が収まる。

 

 

 

 

「……、……ぅわぁ……」

 

 

 ごとっ、と転がったそれは人間大よりやや大きいくらいの大きさだった。

 その材質は布のように見え、色はピンクと白。

 ふっくらとした体に笑い顔、頭上には長い耳が二本立つ。

 

 

 名前は【護体保持 オオアナムヂ】。

 

 

 ……それはウサギの着ぐるみだった。

 

 

 ……私のエンブリオは私の性癖をダイレクトに反映していた。

 

 

 ……こっぱずかしいったらありゃしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……、ふぅー……」

 

 

 ……詳らかにされてしまった性癖に悶えるのを終え、改めて私のエンブリオに向き直る。

 私専用の、着ぐるみ。

 

 

「……」

 

 

 ……実の所、どうやって着ぐるみを手に入れたらいいかはまるで分かっていなかったのだ。

 チュートリアルの装備選びや国家選びで端から端までじっくり探したがそれらしいものはまるで見つからなかった。

 

 

「……」

 

 

 なのでまあ出だしで手に入ったのはありがたいと言えばありがたい。

 ……ダイレクトに性癖を反映するのはどうかと思うけれど……!

 

 

「……」

 

 

 ……カーテンを閉めて、部屋の様子の確認は終わった。

 壁に穴が空いていて隣室から見えてしまうとか、階下に音が漏れてしまうとかは多分無い。

 ドアの鍵もしっかり閉めた。

 誰にも見聞きされる事は無いだろう。

 

 

「……スフッ」

 

 

 ……そう思うと興奮してきた。

 誰の目につかずひっそりこっそりと着ぐるみになってしまう。

 この背徳感をどれだけの人が分かる事か。

 

 

「……!」

 

 

 興奮を抑えられないので、ひとまず着てしまう事にした。

 

 

「……」

 

 

 【オオアナムヂ】の構成はシンプルだ。

 ウサギの頭と、頭から下の手足と胴体。

 この二つしか無い。

 現実の着ぐるみは手首足首が分かれてもうちょっとパーツが多かったり、頭まで一つになってパーツが少なかったりするけれど……。

 まずは体からだ。

 

 

「……」

 

 

 背中のファスナーを丸い尻尾の上まで下げて、中に入れるようにウサギの体を開く。

 ……ウサギの中は詰め物でもかもかしていた。

 いい。

 

 

「……──!フゥ……!」

 

 

 ──足を入れると、詰め物にぎゅうっ、と押される。

 『中に入ってる』という感じがしてすごくいい。

 

 

「……!」

 

 

 そのまま両足を履いて、腰を引き上げ、両腕を入れる。

 ウサギの中に(うず)もれていく。

 

 

「……、……⁉︎」

 

 

 体に入ったら、手を回してファスナーを閉める。

 ……閉められた。

 ……現実だとここまでふっくらもかもかしてると背中に手が届かないのが普通なのに、詰め物なんて無いTシャツでも着てるみたいにあっさり届いてファスナーを閉められた。

 

 

「え……⁈」

 

 

 驚いて触ってみるとウサギの体はちゃんとふっくらもかもかしている。

 ……けれど力を入れてみると、ぼすーっとしおれてあっさり縮まる。

 

 

 ……不思議物質だ‼︎

 

 

「すごいな、【オオアナムヂ(これ)】……‼︎」

 

 

 ただ着ぐるみとしか思ってなかったけど……!

 

 

「!おっと……」

 

 

 でもまだ終わってない。

 【オオアナムヂ】──ウサギの頭を両手で抱える。

 普通の服なら襟元、首まですっかり包まれて、あとはこれを被るだけで私はウサギに──、──人間から着ぐるみになってしまう。

 

 

「……。……フヘヘ……」

 

 

 私の格好良い顔はきっとだらしなく緩んでる。

 もっとだらしなく緩ませたいからウサギの頭を頭上に持ち上げて、ずぼっと被る。

 

 

『っ、……』

 

 

 ウサギの頭の中は僅かな光しか差さない。

 その僅かな光を入れる覗き穴はウサギの口と目元に空いている。

 そこから覗く外は狭く切り取られてるけど、着ぐるみらしくて満足だ。

 

 

『……』

 

 

 ぴょこぴょこと動いてこの部屋に有る数少ない調度、物書き用のテーブルに乗った小さめの鏡の前に移る。

 

 

『……』

 

 

 ぴょこん、と鏡を覗くのは笑い顔をしたウサギの着ぐるみである。

 

 

『……ゥェヘ……』

 

 

 鏡に映る姿を何かのマスコットキャラクターの仮託だとは私は考えない。

 顔は動かないし、こんなに大きな生き物はいない──多分現実には。

 これはあくまで布地で作られ、人が入って動かず着ぐるみなのだ。

 マスコットキャラクターを仮託されていても、ある程度知識がある人間なら多分それはマスコットキャラクターではなく着ぐるみだと思うだろう。

 人間を包み隠しただけでまるで別の種族、生命体であるかのような扱い。

 ──それがいい。

 私という人間はあざとくかわいく大振りに動き回る着ぐるみになってしまったのだ。

 

 

『ヘヘヘ……』

 

 

 ──そしてこのあざとくかわいく大げさに動く着ぐるみの中にはだらしなく気持ち悪く笑う私が居る。

 もし今ウサギの頭が脱げればかっこいい顔をだらしなく歪めてる事がバレてしまう。

 私が着ぐるみらしく振る舞ってる事がバレてしまう。

 

 

『イヘヘ……』

 

 

 これはもう街に繰り出すしか、

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

『(……危ない危ない……)』

 

 

 ……今この宿から出れば『宿を取ったイケメン』と『宿から出て来た着ぐるみ』で連続性が生まれてしまう所だった。

 あとネームもどうにか隠さないと幾ら顔形を包み隠そうがバレバレだ。

 ……それにこの作り込まれた世界なら街中でモンスターが暴れるという事もありそうだ。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ……仕方ないから頭を取って脱いでしまう。

 とりあえずジョブに就かないとだね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その日、〈Infinite Dendrogram〉でまた一つ、語り継がれる逸話(エピソード)が始まった。

 

 

「すいません、前衛系のジョブクリスタルはこちらで合っていますか?」

 

「あえっ⁈はいっ‼︎」

 

 

 余りに堂に入った美形の仕草。

 礼儀正しく、折り目正しく、美しい。

 まるで物語から飛び出して来た王子様のよう。

 

 

 ()()の名前は藍類(あいるい)イルイ。

 後に『妖精郷の清涼剤』と呼ばれるマスターである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【オオアナムヂ】にネーム隠蔽スキルがあった!

 

 

「(ヨシ!)」

 

 

 ……それはともかくとして、『オオアナムヂ』……、……知名度の有る名前で『大国主(オオクニヌシ)』は確かにウサギを助けたけどウサギそのものではないってそろそろ突っ込んだ方が良いだろうか。

 

 

「(まぁいっか)」

 

 

 それより着ぐるみだ!

 ジョブもレベル50までの下級職を二つ、レベル100まで上げたし一応の安全確保はできただろう!

 

 

「……エヘヘ……」

 

 

 人目に付かない物陰でいそいそと【オオアナムヂ】を着込む。

 

 

『……!』

 

 

 そしてぴょっこーんと、私は着ぐるみになった。

 

 

『イヒヒ……』

 

 

 仕草はあざといくらい大振りに。

 着ぐるみになった私は人間より一回り大きいのだ。

 人間としての動きでは小ぢんまりとしたものになってしまう。

 まぁそれが魅力になる動きもあるけど……。

 

 

 

 

『ん、』

 

 

 と、道の向こう側で何人かの女性がきゃいきゃいと着ぐるみ()を見ているのに気付く。

 ぴょこん、と立ち止まって、ぴょこぴょこ、と手を振れば、きゃー、と騒いでる。

 手に紋章があるからみんなマスターだ。

 

 

「すいませ〜ん、みんなと写真いいですかぁ〜?」

 

 

 そしてその内の一人が歩み寄って来る。

 カメラあるんだ……。

 ……それはともかく、グッ、と親指を立てて、マル!と腕を丸にして『いいよ!』とジェスチャーする。

 伝わったかな?

 

 

「ありがとうございます〜!いいって〜!」

 

 

 伝わったみたいだ。

 ぴょこぴょこ、と近付いて写真撮影だ。

 

 

「「「「「はい、チーズ!」」」」」

 

「「「「「チーズ‼︎」」」」」

 

「「「「「チーズ!」」」」」

 

 

 それからその人達と写真を撮りまくった。

 私は着ぐるみとしてピースしたり、手を広げたり、顔に手を付いたりしながら常にその中心に居た。

 みんな良い人達で、予告無しに抱きつかれた時も驚いてみせたら『あっ、すみませ〜ん』って謝ってくれたから『あの、抱きついていいですかぁ〜?』って改めて聞かれた時は『いいよ!』ってOKした。

 

 

「「「ありがとうございました〜‼︎」」」

 

「またね〜」

 

「またねウサちゃ〜ん!」

 

 

 そうして撮りまくった後は、『バイバ〜イ』と手を振って別れる。

 ……あの人達の手には、写真がある。

 

 

 中身が私の、写真が。

 

 

 

 

 

 

 

 

『〜〜〜〜〜〜〜〜ンフゥッッ‼︎』

 

 

 証拠を残してしまった事に、興奮する。

 頭に爆速で血が昇って卒倒しそうだ。

 

 

『ウフフフフフフフ……!』

 

 

 もう人前なのに気持ち悪い笑いが抑えられない。

 ヤバい、ヤバいかもしれん。

 リアルのイベントで着て限られた人の前に出るのとはやっぱり比べ物にならない。

 

 

 『不特定多数に見られてるかもしれない』『不特定多数に晒されてしまったかもしれない』『中身が私である、着ぐるみが』ってのはやはり最高の悦楽だ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

『〜♪、♪』

 

 

 中で気持ち悪く笑いながら、着ぐるみになった私は可愛らしく歩く。

 

 

 

 

 ──最高だぜ、〈デンドロ〉は!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 この作品は創作です。
 どうか現実の無辜のスーツアクターさんに偏見の眼差しを向けないでください。


|藍類イルイ
 レジェンダリア民。
 恐らくクマニーサンより後に始めた。
 隠しはするタイプ、……だろうか?
 ……正確に言えばその性的嗜好を満足させる時は隠さなければ意味が無いし、自分のパーソナリティと結び付かないようにする。
 ……内心興奮しながら人前に出るのはどうなのか、って?
 それはまぁ、だからレジェンダリア民なのだとしか……。

 ゲームにこだわるのはリアルで着ぐるみ着て人混みの中に出るには警察とか許可とか色々めんどくさかったから。
 さらにめんどくさい事に遊園地などの『着ぐるみがいて当然』な場所で着ぐるみになってもあまり興奮できない。
 『うわ、変な格好してんなー』的な視線も混ざる不特定多数の視線が欲しい奴。
 リアルでも着ぐるみの着用経験はあるし、職場でも交流イベントなんかで着ぐるみ役を務めているが、満足できてない。

 顔が良い(クール寄りの王子様系)し、それをある程度自覚している。
 ……充分ナルシストだけどちょっとだけ足りてない。
 ……着ぐるみの中での笑いも、印象は変わるけどイケメンの部類。
 バレた時の衝撃と味わう興奮を大きくする為普段からキャラを作っている。

|【オオアナムヂ】
…イルイのエンブリオ。
 ウサギの着ぐるみ型のTYPE:アームズ。
 能力特性は不明。
 少なくともネームの隠蔽はできる。
 これを着て着ぐるみとなった後のイルイは脱ぐまで喋らない。
 なんなら着ている最中でさえ喋らないようにしている。
 ただし外に漏れない声量のHENTAIな笑いは上げる。
 ……とりあえずマスコットはやれてる。

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