○○○○勢マスター   作:花垣

4 / 11
素顔(すがお)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てー、リリ!」

 

「……何よ?」

 

 

 ……とある隠れ家で。

 ルイが人一人入っても尚余りそうなくらいデカい箱を見せ付けてくる。

 でっかいプレゼントボックスみたいだ。

 

 

「この箱に入っちゃうとね、着ぐるみになっちゃうんだ……!」

 

「よかったじゃない、性癖が叶って」

 

「えへへー」

 

 

 ……リアルのコイツのファンに申し訳なくなるくらいの茶番が始まった。

 

 

「ああっ、ああ!引っ張り込まれちゃう‼︎」

 

「嫌ならすぐ助けてやるわよ」

 

「……えへへー、ありがとう」

 

 

 ……なんか片足入れながら茶番は続く。

 ……結構な塩対応をしてる自信があるけど、コイツはそれでも悦んでくるから始末におえない。

 

 

「んー、それなら普通に入ろうかな。じゃあねー」

 

 

 ……そう言って普通に箱の中に入ったルイは小さく手を振りながら、笑顔で中から蓋を閉じる。

 

 

「…………」

 

 

 ガタガタ、ガタ、と箱は揺れ動く。

 ……『中で着ぐるみに変えられてる』って表現だろうか、あの役者。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 ……そうしてぴょっこーん、と蓋を跳ね上げて箱からウサギの着ぐるみ……【オオアナムヂ】が現れる。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 ……『あれ⁉︎私、着ぐるみになっちゃった⁉︎』みたいにあわあわ動く着ぐるみ主演のこの茶番を、アタシはいつまで見てればいいのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ルイとは、ヤツの正体を知ってからの付き合いだ。

 エンブリオの種類も共通するアタシが正体を見破ったのがいたく嬉しかったらしく、それ以来ずいぶんと気に入られてる。

 ……ヤツは着ぐるみで興奮する立派なレジェンダリアンの、HENTAIだ。

 ……リリと呼ばせてるのは同類扱いされたくないアタシの最後の抵抗だ。

 

 

 ヤツのネームは藍類イルイ。

 東京に本拠を置くとある売れ筋劇団の役者に『蒼井(あおい)ルイ』なる見た目がよく似た花形役者がいる。

 めちゃくちゃ女性ファンが多い、男装女子なイケメン俳優だ。

 リアルでそいつが参加する名古屋公演のチラシを見たアタシは『なんかアンタによく似た蒼井ルイって役者を見たんだけどファンなの?』って聞いてみた。

 ……ヤツは『あぁ、それ私だよ』とブッ込んで来た。

 

 

 ……あれよあれよとお誘いを受け、東京の千秋楽公演のチケットをプレゼントされ(押し付けられ)、はるばる東京までヤツのリアルを拝みに行った。

 ……流石に売れ筋劇団、めっちゃクオリティの高い劇だったけど……、……アタシがヤバいと思ったのは劇じゃない。

 ……〈デンドロ〉のヤツ(藍類イルイ)は、『運(・)動(・)神(・)経(・)の(・)高(・)い(・)奴(・)が(・)蒼(・)井(・)ル(・)イ(・)の(・)真(・)似(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)動(・)き(・)』をしているのだと分かった。

 ……HENTAIだろうとアイツはヤバいくらい強いと思ってたけど、まだ図り間違えてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせー‼︎」

 

 

 ……で、問いただそうと東京某所・とある商業ビルの個室式喫茶店で待ってたら、女の子女の子な格好のヤツが現れて更にたまげた。

 

 

「ふぅ、ちょっと着替えるね」

 

 

 そう言って相手が女(アタシ)で扉付きの個室とは言え、躊躇なくロングのウィッグとワンピースを脱いでイケメンスタイルに着替えるコイツに、ヤツはヤバいHENTAIなのだと、改めて刻み直した。

 

 

「うーん……、ライフワーク。私にとって役者は生態だから」

 

 

 『……なんでそんなんやってんの』と聞いたらそんな答えが返って来た。

 ……ヤバいけど理解はできた。

 

 

「…………意識して解いた、いや全てをぶつけたからしてたかどうかも分かんないのは一回だけかな。楽し過ぎる時とか、O(オー)くんやディス、キミと戦った時みたいに『あっ、これ解けてるだろーなー』ってなったのもあるけど」

 

 

 ……一番聞きたいものになった『……〈デンドロ〉でアンタの演技を解いた事はあんの』という質問にはそう答えてきた。

 『……ナメられてはいない』と分かったアタシは幾らか溜飲を下げた。

 ……一番気になったのは『〈デンドロ〉でアタシと戦った時まで演技してたのか』、……何度か見たあの『ヤバいっ‼︎』って表情を作る余裕のある、ナメた戦いだったのか。

 

 もしそうだったらコイツとは絶交だった。

 

 ……だがそうなるとOにディス……、……名だたる〈超級〉である【血帝(ブラッド・エンペラー)】ブラッド・Oや【暴食魔王(ロード・グラ)】ディス・サティスファクタリィを差し置いてヤツから演技を意識する余裕さえも奪い去った『何者か』が気になってくる。

 

 

 

 

「【ネルラ・ルナ】だよ」

 

 

 

 

 そうして口に出されたのはヤツが単独討伐して手に入れたという、特典武具の銘であり──、──生前は神話級のUBMだったものの名だった。

 

 

 

 

「……あれは、私の全てを賭けた戦いだった」

 

 

 

 

 ──そう言うルイは、いつになくアンニュイで、悲しそうな顔をしていた。

 

 

 

 そうしてアタシは、ネルラ・ルナという悲しき人形の顛末を知る事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──は?『キミも入らない?』って?フザケてんの?アンタ?」

 

 

 ……手を取って『入ると着ぐるみになっちゃう箱──という設定のただの箱』に誘(いざな)ってくるコイツと本当の意味で、……、…………、……フレ、ン、ド…………………になったのは、それ以来だと、思う。

 コイツはHENTAIで、気取った演技派だけど、心の芯は真摯で真剣な英雄気質だと分かったから。

 

 

 藍類イルイ。

 芸名を蒼井ルイ。

 本名を瑞穂(みずほ)初夏(しょか)。

 イケメンで、優しくて、クソ強くて、礼儀正しく振る舞え、でも意外と子供っぽくて明るく、人を守り助ける事を躊躇わず、心の広い……、……着ぐるみ好きの、HENTAIだ。

 ……ついに、滋賀の片隅の我が自宅にも訪れた、普通に社会生活を送れる、HENTAIだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着ないって言ってんでしょーが!」

 

『…………』

 

「『リリ、着ぐるみになってくれないんだ……。しょぼーん……』じゃないわよこの野郎‼︎」

 

 

 

 

 

 

 






|イルイ 
 リアルは『蒼井ルイ』という芸名で劇団俳優をやっている本名・瑞穂(みずほ)初夏(しょか)(26)。
 女性。
 ……だがほとんど男、否、イケメンとして見られてる。
 男装でイケメンの男役を務める事が多いが女役も普通に高水準でできるし違和感も無い若手実力派俳優。
 身体の動かし方・意識の通り方・無意識の仕草……に見える些細な仕草にとりわけ定評がある。
 殺陣も上手く、そもそも戦闘能力が高く、体力も高い。
 メディア露出は少ないほぼ劇団専任の俳優ながら、多数のファンを抱える人気俳優でもある。

 ……その素顔は人懐っこいHENTAI。
 まぁすっごいできた人なのも嘘ではないけど、王子様モードより着ぐるみモードの方が素に近い。
 〈デンドロ〉で素顔たる中の人モードの人懐っこいとこを見せるとこまで行ってるのはごくごく少数、【妖精女王】相手だと時間的余裕があれば出てくる。
 リアルで素顔を知ってるのも劇団の座長含めごく僅か。
 ……メディア露出が少ない理由の一つはHENTAI性への危惧があったから。

 神話級UBMの単独討伐者。

 リアルの公演が近付くにつれログイン時間は短くなるが、それでもできるだけログインするくらい〈デンドロ〉は気に入っている。

 尚、藍類イルイというマスターは目撃が少ない為レアキャラ扱いされている。
 ……が、それは数々の隠密行動や着ぐるみモードでの活動を計上されてないからであり、実際はレイレイさんを軽く上回るくらいログインしている。
 パブリックな蒼井ルイっぽい容姿のアバターではあるが、動きが微妙に素人っぽいしネームが『愛・ルイ』とも読めるからファンなんじゃねーの?と思われる程度で正体が蒼井ルイその人だとは思われてない。
 
|リリ
 イルイのフレンド。
 リリは愛称。
 東京より名古屋に近い県に在住。
 イルイのような着ぐるみへの嗜好は無い。
 【オオアナムヂ】を着たイルイの正体を見抜いた、エンブリオが同じ種類、強さに見所があって刺激になる、観察眼に長けてるから喋らない着ぐるみモードでも伝えたい事を見抜いてくれる、雑に対応してくれるのがイイ……、……など様々な理由で複数確保している隠れ家に招かれたりリアルを暴露されるくらいイルイに気に入られている。
 イルイの事を心底HENTAIだと思っているが……。

|箱
 そのうちアイテムボックス仕込んだマジックアイテムで本当に『蓋を閉じられると中の着ぐるみを着ないと出られない箱』や『蓋を閉じると、中に入った人間を着ぐるみにしてしまう(に着ぐるみを着せてしまう)箱』を作ってもらう、気がする。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。