○○○○勢マスター 作:花垣
「そういえば、ランカーに遠距離攻撃に寄った人っていないよな。フィガロさんやジュリエットは近距離も戦えるし」
「……否、黒紫紅蓮を纏いし光と闇合わさりし勇者よ。彼の者、“
「え?そんな凄い【
「あ〜、備中か〜。『練習が性に合ってるみたいだ』ってあんま決闘には出て来ないけど強いよー」
「然り(うん)」
「──彼の者、獅子の王者をもその
「〜〜♪」
某日、アルター王国上空。
「我が装束、其の黒き深淵を深めん……!(黒系の良い素材がいっぱい手に入っちゃった♪)」
気鋭の決闘ランカー、ジュリエットは王国西部での素材狩りからの帰途に有った。
新たな素材の様々な色味の黒は、彼女好みの衣装への仕上がりを予感させる上質なものであり、上向く機嫌は上々だった。
「──むっ」
『KIEEE……!』
『KIAAA……!』
その背の黒翼で
飛び出して来るのは怪鳥種のモンスター、【クリムズン・ロックバード】。
次々に現れるその規模は群れと言って良い。
この世界で人が何も対策せずに空へと飛び出せば、たちまちこのような空中のモンスターに襲われ、八つ裂きにされ、餌となるだろう。
「──我が飛翔を妨げる事、能わず……!」
──だが、ジュリエットは既にこの空へと対策済みである。
「《
『GYEEE⁉︎』
その背のエンブリオ、TYPE:フュージョンアームズ【黒翼飛翔 フレーズヴェルグ】は闇と風を纏いて彼女を運び、
「《告別の黒闇》……ッ‼︎」
『GG、Y、……‼︎』
その身に宿る超級職【
瞬く間に数を減らす【クリムズン・ロックバード】の──、
『『『GE⁉︎』』』
「っ⁉︎」
──最後の数羽が纏めて射抜かれた。
ジュリエットは咄嗟にその
「(…………‼︎
反射的にしてしまった自らの行いにその顔を青褪めさせ。
「──っ‼︎」
──次の瞬間、豪雨の如き矢の斉射に突き上げられた。
「(……すごい、っ……!
襲い来る斉射は、一矢一矢が強烈な威力。
並みのマスターなら防ぐ事も弾く事も出来ずに
「(それに……っ、こんな正確で……っ……!)」
狙いも正確だ。
目、喉、心臓、肝臓、脇、手首。
致命傷か、抵抗が鈍る部位が正確に狙われている。
……
左右、背後、頭上、正面。
曲がって、畝って、落ちて、突き進んで。
如何なる手管に拠ってか、全方位から間断無く飛来する轟矢をジュリエットは両手に装備した呪われた剣、風を纏う【フレーズヴェルグ】、更には戦闘に耐える装靴の蹴りも交えてのフル活用で払い除け、逸らし、なんとか耐えていた。
……しかし、この場から動く事が出来ない。
「(この距離じゃ、
ジュリエットが今まで遭遇した事の無い、
射ち留められるこの上空は、矢が放たれている
「(そういえば、チェルシーが……)」
『“帰らずの森”?』
『そーそー、知り合いから聞いたんだけどねー』
それは、友人から聞いた話だった。
『王都の南西の方にある静かな森だって話なんだけどさ〜?そいつ結構ワルな奴で、人目につかないからアジトにしようとしてたんだって〜。──で、森の奥に進んだらあっという間に
『ふーん……、怖いね……』
『辺鄙な村だから油断してたけど、後でその森の周りで何人も指名手配のマスターが死んでるって知ったらしいよ?だから悪党を生きて返さぬ“帰らずの森”って、裏じゃあちょっと有名らしいよ?』
「(──ここ、王都から南西だ……。……じゃああの森が、“帰らずの森”?)」
「……え?」
身体に融合した黒翼のエンブリオ、【フレーズヴェルグ】がその根元から切り離されたのを、ジュリエットは翼の手応えの消失と遅れて来た痛みと地に堕ちゆきながら身体から切り離された後も揚力で上空に留まる【フレーズヴェルグ】の目視をした事で、初めて気が付いた。
矢を、感知出来なかった。
痛みすら、無かった。
迎撃が、すり抜けられた。
身体が、重力に引かれ、落下する。
「──〜〜〜〜っ‼︎⁉︎」
──ぐんぐん地表が近付いて来る。
マスターなら誰もが経験する、初ログイン時のフリーフォールがジュリエットの脳裏に過ぎる。
だが経験を積んだジュリエットはあの時のようにただ叫ばずに済んだ。
「(…………あんな人、
──しかし、経験を積んだジュリエットでもあんな射手は知らなかった。
決闘の、闘技場の限られた広さの舞台では弓はやや不利だが使い手が居なかった訳ではない。
野外の狩場なら弓使いを普通に見かけた事も何回も有る。
他国の強力な射手を動画などで見た事だって有る。
それらジュリエットが見知った弓使いには、さっきまで間断無く襲い来ていた矢より威力で上回る一矢を放つ者が居た。
不可思議さで上回る一矢を放つ者も居た。
打ち込む数で上回る者も放たれる矢の速度で上回る者も知っている。
──しかしその全てを兼ね備えるとなるとどうか。
……ましてやあの余りにも静かな、
…………あれは、ジュリエットの埒外に在った。
「(…………、…………私……、……調子に乗ってたかもしれない)」
──地表はぐんぐん近付いて来る。
超級職に就き、決闘を勝ち上がり、マスターとして上がり調子にあるジュリエットは己の内に慢心や油断が有ったかもしれないと自省する。
「(……でもっ‼︎)」
しかし、自省を悲観に繋げて大人しく墜落死するような、ネガティブな殊勝さとジュリエットは無縁である。
「《カースド・ファランクス・ディスオーダー》‼︎」
それはつい先日習得した【堕天騎士】の奥義。
呪われた武器を射出するスキルを
手腕に痛みは走ったが、そのまま──
「──、…………すっ、」
──……謝ろうとして、ジュリエットは『……私の喋り方で、謝ったって分かってもらえるかな……?』と一瞬迷ってしまい……、
「──もしかして、
「‼︎然り‼︎我、汝に謝罪を‼︎」
──相手の理解力に助けられた。
「いや、こちらこそ済まなかった……。あれだけの距離から魔法が届く相手に手加減が出来なかった」
「鏡面の謝意……。あっ、えっと……、……こちらこそ、すいません……」
それがぬいぐるみを腰に提げた【
ロアはこの森を弓の練習場として居着いたマスターで、近くの村に森を借してもらう条件としてモンスターの間引きをしているらしい。
それは森の中だけでなく上空にも及ぶ。
特に火を吹く【フレイム・ドラゴン】や【クリムズン・ロックバード】などは火災という二次被害を引き起こしかねないので、気配を覚え込み、感知したらすぐ射るようにしていると言う。
「だから、こちらこそ済まないと言う話だ」
今回はログイン直後で確認と呼び掛けより早く射てしまったとの事だ。
「だが射られてないのに攻撃されたから指名手配の一人かと思ってなぁ……」
「……すごく脅威的で、思わず反応しちゃいました、ごめんなさい……」
例え狩場の割り込みであっても闇魔法を撃つのはやり過ぎだ。
ましてやただの村の上空なのだ。
確認を怠ったロアにも非はあるが、ジュリエットの非はより大きい。
「──兎に角、誤射には気を付けた方が良いぞ?人によっては取り返しのつかない結果を招き兼ねない」
「……すみませんでした……」
……どこか実感の有るロアの説教に、ジュリエットは小さくなっていた。
「いや、かと言って縮こまり過ぎる必要は無いぞ?お前さんが義心の無い奴だとは思って無いさ、ジュリエット。……漸く思い出したが、お前さん決闘の順位を勝ち上がっていたな?並々ならぬもの有ってこそのものだ、おめでとう」
「……‼︎光栄なり!」
が、目の前の弓手は小さくさせっぱなしにするような人物でもなかった。
「……もしや、汝も武闘の
「ん?ああ、余り熱心ではないがな。確か十七か、八……、……十八位で楽しませて貰っているな」
「‼︎……段上の、強者……!(……私より、上だ……!)」
決闘と言う同じ話題を見つけ会話も盛り上がる。
「おお、追い抜かされるかもしれんな」
「然様には、思索能わず……(そうは思えないです……)」
……しかし、順位戦でこの猛者と当たるかもしれないと思うと、その盛り上がりも萎えてしまう。
「……厚顔なれど汝に、我が心苦しき願いを届けたい(……厚かましくてすいませんロアさん、頼みづらいお願いがあるんですけどいいですか?)」
「ん?なんだ?」
「汝が“射”、我が目にしたい(ロアさんの弓の“射”を、見てみたいです)」
……だが、萎えたとて。
いずれ決闘の舞台で対峙するかもしれない相手への闘志を、ジュリエットは失いはしなかった。
いや、失わない為に、あの凄まじき弓射が行なわれる様を、目に焼き付けんと。
目を逸らさずに願い、頼んだ。
「……いいとも。意気の有る目は良い」
「──射抜きがいが有る」
その、凄まじき気配は。
技を磨き、戦いに躍る者特有の、戦意だった。
「何射が良い?」
「……二射」
「……良いとも、見逃すな?」
『私の翼を断った弓射も見たい』という願いを汲み取ってくれたのか、妖しい笑みをロアは浮かべる。
「──」
静かに、弓が取り出される。
あの気配、あれがロアのエンブリオ。
「……」
……そのまま矢を番え、木に懸けた的を睨む。
「──」
「!」
──緩んだ。
音を聞く前に、矢が放たれたと分かった。
……
「……、──」
……的に矢が突き立つ音を聞いて、ロアが弓をしまう所まで見てから、的に目を向けた。
「……露骨過ぎたか?」
……あの違和感の時だ。
……一射目ですら、余りにも速く、自然で、静かだったが、それでも矢を放ったのは分かった。
……前衛戦闘系超級職のAGIを有するジュリエットの目にも、弓弦を離した瞬間は映らなかったが。
……二射目は違和感でしか分からなかった。
射られた経験だけが辛うじて、違和感として警鐘を鳴らしたのだ。
『
……認識出来なかったが、だからこそ、その二射目こそがあの静謐の弓射で間違いない。
「……ありがとうございました」
「応。気を付けて帰れよ」
心から、頭を垂れた。
得難き経験をした事を、ジュリエットは確信していた。
「(……どうやって帰ろう)」
絶技の余韻が漣のように心地良く、静かに去って行く中で、ジュリエットの頭に『帰り道』の事が浮かぶ。
普段は【フレーズヴェルグ】が有るからソロなら気にする事ではないが、生憎
自ら羽根を切り離しばら撒く《
そうするにしてもまだ時間に余裕は有る、一旦王都かギデオンに……、
「……、……?」
……と、ここまで考えた所でジュリエットは服に違和感を覚えた。
「これって……」
手を回して探ってみると、一本の矢が引っ掛かっていた。
見た目からして、ロアが使っていたものと見て間違いない。
何かの拍子に引っ掛かってそのままになってしまったらしい。
「どうしよう……」
幸い、状態も良くまだ使えるものだが……、
「……うん、届けに行こう」
悩んだのは僅か、快く……と言うには戦意が大きかったが、あの絶技を見せてくれたロアにこの矢を届けに行く事を決め、ジュリエットはロアの向かった森の奥へと歩を進めた。
「……‼︎妖しき、影纏いし館……‼︎(すっごく、いいおうち……‼︎)」
そうして森の奥で見つけたのは、薔薇の生垣に囲まれている、雰囲気と言い、作りと言い、なんともジュリエット好みの小さな館。
「──ハッ!……んんっ」
……思わずはしゃいでしまったジュリエットは、あれだけの名人が住むであろう館なのだから、と気を引き締め直し、
「御免‼︎魔鏃の射手は在宅であろうか⁈」
──館の扉を開いた。
『……おやぁ?』
……薄暗いホールで振り向いたのは人程の大きさをした、巨大なぬいぐるみ。
固められた表情の、動かぬ目がこちらを捉える。
「え……」
ホラーのワンシーンのようだと想起した、ジュリエットに向き直って──。
球が、回る。
赤、青、緑。
鮮やかに、軌道を描く様は、星が回る美しさを思わせた。
「わぁ──‼︎」
『まだまだ参りますよー?』
リズム良く、テンポ良く、球は増やされ、跳ねて、踊る手と宙を行き来する。
「わぁ、わあっ‼︎」
『ふふふっ、少し広がりますよ?』
口にすると手の動きが変わる。
上下跳ね回っていたのが、波を現す様に左右へも。
球の動きも左右に広がり──、──ホールいっぱいに巨大な周回軌道を描き出す。
『星々の輪は斯様に広く、美しいのでございます』
「‼︎、!」
仄暗いホールを、星行く夜空へと変える妙技は楽しく、見事で、コクコクと頷く感銘を観客に与える。
『──そして、星々の輪は、如何なる星をも拒みはしないのでございます』
「⁉︎」
──ここで手元に、更なる球が現れる。
紫、橙、黄、白、黒、灰。
滑る様に現れ、手を取られて踊り出し、新たな星となる。
「わぁ────……」
星が回る。
空一杯の周回軌道。
忙しない楕円軌道。
色彩達は、遊び、踊り、追いかけては追い越され、口付けの様に、撫で合う様にすれ違っては感嘆の空を描く。
『楽しき夜の時間、にございます』
──そして全ての星が、周回軌道の、一つの輪を疾る。
素早く、ゆるやかな時間。
『──星を束ねる夜』
星の軌道が、色鮮やかに束ねられていく。
……それは軌道がゆるゆると縮まり、行き交う球の密度が高まったからであり、
──……この夜の、終わる予感を告げていた。
『如何でございましたでしょうか?』
ぱし。
と、優しく、魔法のような時間が終わった。
「────‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
──ジュリエットは万雷の拍手を送った。
自分が大会場の満員の観客となったかのように、その感激を形にした。
「すごかった、すごかったよ、クラウさんっ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
『恐悦至極、誠にありがとうございますでございます』
──感情の限りの絶賛を、
『この度の星空にて、備中様が担われた星、お分かりになりましたでございますか?』
『⁉︎』
「えっ、ほんと⁉︎」
──その暴露に、
「全然分からなかった‼︎すごかったです!」
『……いや、その、クラウの助けの中だから……』
『もー、ご謙遜なさらずにぃー。備中様への称賛は、備中様に、ですよ?』
『わ、分かった!分かったから‼︎』
称賛に悶える着ぐるみは頭に手を回して──、
「…………その、少ししかやってないけど、ありがとう」
──被っていた頭を脱ぎ、髪を後ろで纏めたロアが顔を出した。
両手で抱える着ぐるみの頭の陰に半分隠れた顔は、紅潮している。
『──改めて、煌めくような喝采を誠にありがとうございます。ジュリエット様』
──
「こちらこそありがとう‼︎すごかった‼︎ロアさん、クラウさん‼︎」
──女道化師の着ぐるみが、自律した意思を持ち、自ら動き喋れる特典武具の着ぐるみ【はいぱーきぐるみシリーズ くらう】ことクラウだと知っているジュリエットはそれを不気味がらない。
最もあの素晴らしいジャグリングの後では称賛の思いが出ない事は難しいだろうが。
『──……愛嬌の権化……‼︎』
『──えっ?』
──……いや、そもそも薄暗いホールでこちらを振り返る巨大なぬいぐるみ、もとい着ぐるみをキラキラした顔で『すっごくかわいい……‼︎』と言えるジュリエットは初めから不気味がってなどいなかったが。
確かに『ホラーのワンシーンみたい……』とは思っているが、それにはすぐ『……おうちの雰囲気に合ってて、すっごくかわいい‼︎』と続くのでネガティブな感情ではなく、すっごく褒めてる。
むしろ着ぐるみ故の無機質さや無表情さ、それでありながら動き回り弓を射る生物感、人が中に入るが故に人を上回る大きさ他で、暗い中や墓標迷宮での出会い頭などで怖がられた事も有る中の人がそのような反応をされて驚いている。
『……?……もしかして、ロアさんですか?』
『……あっ』
……そう、着ぐるみの中の人であるロアは驚いて、声を出してしまった。
声を出してしまったが故に、気付かれてしまった。
つい先程出会い、ネームを名乗り、ばっちり会話して、声も覚えてしまっている、ジュリエットに。
『腰の、ぬいぐるみ……でしたよね、それ?』
『……これはもう隠し通せないでございますよ、備中様』
『ちょ、っ、クラウ⁈』
『先刻は挨拶も致さず、大変失礼致しましたでございます。ワタクシ、クラウと申しますでございます。元道化人形──、』
『⁉︎分かった、分かったから‼︎私がやるから!』
そうして名乗りを上げた着ぐるみは頭を脱ぎ──、
『──今現在は銘を【はいぱーきぐるみシリーズ くらう】と名付けられた伝説級特典武具として、このように備中ロア様の道化着ぐるみを拝命させて頂いておりますでございます。どうぞ、お見知り置きをば、ジュリエット様』
『…………、……その……、……よろしく……』
『……喋った……』
──紅潮するロアの顔とひとりでに喋れる着ぐるみである事を明かし、その正体を晒した。
『かわいい……!』
『えっ、『えっと、握手っ、なでなでっ、ハグ……』『そう焦らずとも大丈夫でございますよ、ジュリエット様。……ふむ、ささやかながらジュリエット様に挨拶代わりの一芸をお目にかけたいのですが、よろしいですか?備中様』『えっ⁉︎』……⁉︎ちょっ、ちょっと待ってくれっ』
怒涛の如くやって貰いたい事が溢れ出ようとしているジュリエットを前に手慣れた様子で芸を披露しようとするクラウの身体を着たロアは、修練に励む武人らしい泰然さと、──……一筋の矢の如き危険な鋭さを併せ持つ弓手の顔が嘘であるかの様に焦るしかない。
『
『──……分かったよ……』
『?』
しかしクラウの意を汲んでまた着ぐるみの頭をすっぽり被って──、
「えっと、なでなでしていいですかっ⁉︎」
『もちろんでございますよ、ジュリエット様。またワタクシを被って頂けますか、備中様?』
「えっ⁉︎」
──一芸と言うには余りに鮮やかな星空を見せ、かわいい着ぐるみがそんな凄技を披露した事による感激ですっかりテンションが振り切れて素の口調で喋っているジュリエットにおねだりされるに至っている。
「ううん……、その……、…………まずクラウさんの頭だけなでなでして、その後ロアさんに被ってもらって、またなでなでしてもいいですか……?」
『……おや、これは失礼をば。備中様、よろしいですか?』
「……ああ。…………それとジュリエット」
「……“備中”と呼んでくれないか?弓を志した故に日本語の『必中』、英語の『アロー』で“備中ロア”なんだ」
「……うんっ‼︎備中さん!」
そのテンションに、備中も歩み寄りを見せる。
『……あのー、ジュリエット様。ワタクシ道化故、さん付けされるといささかこそばゆくございます。差し出がましい要望申し訳ございませんが呼び捨てで「分かった‼︎クラウ!」お願いしたいのでって爆速でございます……!』
──こうして。
「わあー‼︎」
『にゅにゅにゅ……』
着ぐるみに思う存分戯れるという、
「いいですか……?」
『はい、お好きなように』
「じゃあ…………!……むぎゅ、っ!」
得難い経験をしたジュリエットは満足して、
『分かり辛かったかもしれないが、其処にノッカーが有る。……また来ると良い」
「‼︎うん……っ‼︎ありがとう、備中さん!」
『どうか更なる一芸をお目にかける日が訪れん事を。お気を付けて、またお越しくださいませ、ジュリエット様』
「ありがとう、クラウ‼︎またね‼︎」
幸せ気に帰って行ったのであった。
「やれやれ、騒がしい一日だったな……」
『しかしそう悪くも思っておられないでございましょう?』
「……まあな」
「……ん?この気配……」
「ひ、一晩の宿を乞うっ、魔鏃の射手よっ……(ひ、一晩泊めてくださいっ、備中さん……)」
「……乗合馬車を逃して暗くなって道に迷ったか、いいぞ」
『(……あの赤面っぷり、後から自分の喜悦っぷりが恥ずかしくなってしまった相手しか頼る相手がいなくて更に恥ずかしくなったのでございますね……。……そっとして触れずにおきましょう)』
……おまけでぬいぐるみ状態のクラウも堪能した、翌日に。
「──そして、愛嬌と妙技の権化……‼︎」
「あ、愛嬌?」
「アイドルでもしておるのか……?」
「……ん?あのぬいぐるみは何かの?何やら旗、いやうちわを持っておるようじゃが」
「!言霊、彼の者を呼び給えり……(!噂をすれば影、だね……)」
「あー、来たね〜。備中」
「──面白そうなのが居るな」
|ジュリエット
まだ決闘四位に至ってない、超級職に就いたばかりのこれからどんどんランキングを上がろうかという頃のエピソード。
後に再び『愛嬌の権化……!』となった時は(恐らく)できなかった着ぐるみとのグリーディングを存分に堪能した。
テンションが上がり過ぎてクロウ・レコードの頃のマックスが見たら「だ、誰だお前⁉︎」となる言動になってた。
……備中の全方位からの弓射を防ぎ切り静謐の矢を繰り出させるに至る、土壇場で咄嗟にスキルの改造に成功するなど、バトルセンスもこの頃から高い。
|備中
【弓神】に就けてないだけの凄腕。
Lv.500カンストながらエンブリオと技術が相互にその弓射を強める、カシミヤと同格の準〈超級〉。
修練の甲斐あって無事ジャンル違いへと覚醒しつつある。
在位者がいるので【弓神】には就けない。
決闘では大多数を目にも止まらぬ一射で仕留める事から“
原作開始頃でも十七位だが、楽しみこそすれ熱心ではないからこそこの順位なだけでもっと上に行ける。
だがまあ色々と完璧ではない。
王都アルテアでは普通にクラウを着ているが、ギデオンではあまり着ていないので狼桜など同一人物であると気付いてない者も多い。
着ぐるみユーザーと知られた事でなんだかんだジュリエットと打ち解ける。
一度目の見送り時にはクラウの口から顔を出した顔出し着ぐるみ状態も披露してみせた。
その後ジュリエット経由でランカー達とも知り合う。
|クラウ
身体はふかふかで抱き着くととっても気持ち良い着ぐるみにして道化師。
備中に着られてない時は大体ぬいぐるみサイズになって腰に吊られてる。
観客席で応援してたり、備中が忘れた事をこっそり教えてたりもする女房役(今話では備中が忘れてた順位を八回触れて教えてる)。
優れたモーションをインプットされ、主を待つ間に100年余り磨いて来た大道芸は見る者を感嘆させる見事な腕前。
それは着ぐるみとなってからも失われない。
|チェルシー
後にジュリエットと一緒にクラウの大道芸に感嘆したり、備中と模擬戦して射られまくったりしている。
……決闘ランカー達はちょくちょく模擬戦に現れるようになった備中の影響で弓矢を意識せざるを得なくなっている。
|チェルシーの知り合い
すごく頑丈な骨格のエンブリオと強盗系の強奪スキルを持つ上位の実力者であるPK。
が、帰らずの森では骨格とか関係なく目と喉と肋骨の隙間から心臓を射られて死んだ。
他国にセーブポイントを取ってなかったら危なかった、とあるPKクランのオーナー。
|ネラバ村
微妙に交通の便と道の具合が悪く、特に夜は道に迷いやすい場所にある。
絶妙に王都・ギデオン双方に近く、追跡を巻きやすいという犯罪のアジトに使えそうな地勢にあり、強力なモンスターや災害に遭った時の救援に困りそうな場所にあるが、平和を謳歌できている。
とあるマスターは道など関係無しに分け入った末に到達し、近傍に居着いてからは“駆除”を行なっている。
近傍の森に入るのは特に犯罪ではない。
|【フレーズヴェルグ】くん(あるいはちゃん?)
フュージョン系が融合部位から切り落とされ、紋章への帰還も実行できない距離に離れた場合どうなるのだろう?
本作ではその後無事マスターの元に帰還できたのでご安心を。