○○○○勢マスター 作:花垣
ておりはたおりひとており、と読みます。
機織りというものが好きだ。
ぎーこ、ぎーこ、ばったんたん。
手を動かす度に糸が平らかな布になって行く。
小学一年で郷土資料館で体験してから自家用として手に入れるまでの十五年間、毎年郷土資料館の機織り体験に参加していた。
そして、そう、二十一歳でついに自分用の、私物の、自家用機織り機を手に入れたんだ……っ!
で、終わっとけば万々歳だったんだけど。
……いざ手に入れると『何故産業革命が“革命”なのか』をありありと実感させられてしまったんだ……。
機織り機、クッソ遅っそい。
ぎーこぎーこばったんばったん動かしても遅々として布はでき上がらない。
いやそれは動かしてればいずれでき上がるからいい。
いいんだけど……、……ユ○ワヤ行くと私が体感二十万円くらい労力かけて織るサイズの布が一万円以下でいつでも買えたりする。
……私は払った労力に見合う報いを求める俗なタチだったらしい。
……けどどうしろと言うのか。
ほとんど毎晩織ってはいるけど、売り物にできるだけの品質管理やらクオリティがあるかと言われれば微妙だし……、……売り物とする為それらを整えるのにも二の足を踏む。
そうこうしているうちにだんだん捨てるなんて事もできないけど使い道も無い布が溜まってって……。
〈Infinite Dendrogram〉という近頃話題のVRゲームでは機織り機が現役だと知った。
なので、買って、やってみる事にした。
……けど……。
「こんな事になるなんてねー……」
……私がいるのは障子で区切られた昔の農家みたいな一室。
私の目の前には古びて見える機織り機。
…………私の格好はツルの着ぐるみ。
…………それも顔が出てるやつ。
……私のエンブリオはラビリンス・アームズの【
ツルの格好でいい布を織る機織り機と機織り部屋のエンブリオだ。
「……いや、なんで?」
なんで着ぐるみまで追加した?
バチ?
バチか?
昔なんかで見た頭の上に細っこいツルの首と頭をひもでくくり付けてツルの格好してた芸人だかタレントだかを『バカな格好してんな〜』ってバカにしたバチが当たったか?
……顔しか出してないけど、この格好は私の頭を入れる為に太くなった首とそれに合わせたツルの頭が全体をややアンバランスにしていて負けず劣らずバカみたいな格好だと思う。
せめて普通の顔なんて出ない着ぐるみにしてよ。
それか誰かに見られたらパー○ンの罰みたいにツルに変えるとかエンブリオを使えなくするとかさあ。
やりようはあったでしょ。
私別に着ぐるみに興奮する性癖無いんだけど。
レジェンダリアスタートでずっとレジェンダリアにいるけど変態なつもりは無いんだけど。
花火大会でキスとかいいなー、くらいしか思ってないんだけど。
はああぁ〜…………。
「…………ふう」
内心の不満を消化して、機織り機に向かう。
……この着ぐるみ指なんてなんも分かれてないように見えるのに器用に糸を扱えるし、デカすぎて邪魔な首とか頭とか羽の端々はびよ〜んとかぐに〜んとか勝手に曲がって避けてくれるからなんの支障も無く機を織れる。
……めっちゃめちゃに不満だし、脱げるもんなら脱ぎたいし、実際脱げはするけど。
『この部屋の中で』『この着ぐるみを着て』『この機織り機を使わないと』【ツルノオンガエシ】のスキルは機能しない。
「…………」
だからバカみたいな格好でいっぱい織る。
「いっつもありがとうございますねぇっ。オリーさんっ」
「……いえ、エンブリオあってのものなので」
そうしていい布をいっぱい、すばやく織れるとどうなるか。
私が体験した〈デンドロ〉生活でも変わらないこの世の真理だ。
「こちらこそいつも買い取っていただきありがとうございます」
「全然いいのですよっ、好きな時に売ってくれてっ。わたしはいつでも買い取りますからっ」
……ただ。
……後ろめたい。
「今度ご一緒にお茶でもいただけないかしらっ?」
「もちろんいいですよ。長くこちらにいる時はご連絡させていたたきますね、サファナさん」
「まぁっ、嬉しいわ!オリーさん‼︎それじゃあ楽しみにしてますねっ!」
「ええ、それでは」
「…………」
……この世界の人間はジョブというものに就けて、様々な能力を上げられる。
例えば【
私は【
更に私はエンブリオで機織りが強化されるので織った布はめちゃめちゃ高品質になる。
……そうしてできた布には純粋な私の腕があまり絡んでない。
……これがなんらかの条件を満たさなければジョブには就けないとかだったらまだ違ったのかもしれないけど……、レベルを50までしか上げられない下級職でよければジョブクリスタルに触って選ぶだけで就けてしまう。
上級職になるとたくさん布を織るとかの条件がいるけど、【オンガエシ】の機織り機はめっちゃスムーズに動くし部屋の中は機織りしてる間は外よりゆっくり時間が流れるからたくさん織れるしでそんな苦労した覚えが無い。
エンブリオに至ってはログインした時から付いてるから0円・ジョブクリスタルまで行く手間すら無い。
そんなのまぁ他の人達だって同じといえば同じだしサファナさんはあなたの布はとっても真摯だわっ、って言ってくれるけど……。
「……ふうっ」
まだまだ足りない。
素の私の腕前は七十くらいまで無事織り続ける事ができたら売り物にしてもいい、くらいでしかないから。
それに今の腕で織った布が売られた先で誰かを確かに支えられるという矜持も覚悟も自信も切迫性もない。
だから二十代の今機織りを生業にはしないと決心もついた。
……溜まってく布はまあ、頑張って整理して耐えよう。
……後ろめたさもあるけど、〈デンドロ〉もやめない。
ジョブとエンブリオ込みなら後ろめたさはあっても売ってもいい仕上がりだし、機を織るということの練習にもなる。
現実での機織りの練習や機織り機の手入れにも時間が割けるし、さらっと実装されてる三倍時間が総合的な感じに大いに役立ってる。
機を織る、という事はなんだかんだ私の根幹であり──、私の思いを余さず伝えきるにも、やっぱり機が必要だと思うから。
「鶴の恩返し」のように──。
「……なんか食べに行こっと」
……着ぐるみは別に好きでもないけど、
「鶴の恩返し」というお話は大好きだ。
機織りが出てくるとことか。
確実に今までやった事の無い機織りを見事にこなすツルとか。
のぞかれるまでは調子を悪くしながらも人間生活を営めていたらしいバイタリティとガッツと適応力がすごいツルとか。
一生ものの恩を身を削ってでも返そうとするツルとか。
一生ものの恩であっても約束が破られたら立ち去ってしまう切ないくらい律義なツルとか──
「──って私ツルしか見てなくね……?」
……まあ権六だか兵蔵だかはツルを助けた所しかいいとこ無いし。
そんだけ気持ちが寄ってるならツルになるのも──
「──いややっぱ
動物に変えるくらい訳ないでしょ、〈超級〉だけど【忘却王】サマがいるんだしさぁー……。
もう何百何千回目になる不満を抱きながら、私はお気に入りのレストランへと霊都の人混みをかき分けて行く。
fgoのミス・クレーンさん。
おててが真っ黒で鋭い爪がきらりと金に輝いてるんですよねえ。
着ぐるみ勢マスターの一人だがそれ以前に機織り勢マスターなマスター。
ネームが名前らしくないのでオリさんとかオリーさんとか手織さんとか呼ばれる。
二十代女性。
変態ではない。
あっさり【
ジョブは上級職が正統派の【高位織工】に特殊な布を織れる【
戦闘は苦手だし、センスも才能も無い。
リアルは日本の中部地方で伝統工芸品に織物が無い田舎在住の
郷土資料館の暮らしの道具コーナーの担当の一人を務める。
|【ツルノオンガエシ】
機織り部屋、機織り機、ツルの顔出し着ぐるみから成る機織り特化のエンブリオ。
【誂】は『あつらえる』の意味。
めちゃめちゃ高品質な布を織れる。
一応バラバラにも扱えるがそうするとスキルが機能しない。
着ぐるみは長時間着ても支障は無い(※これだけはバラバラに扱っても機能する)し機織りの邪魔にもならないが、特に飛べたりはしない。
あと顔の出し方は首の穴から顔だけすぽっと出すタイプ。
|サファナ・サファラ
レジェンダリアで大手布問屋を営むエルフの女性。
手織のお得意様。
ほわほわした優しい町娘といった感じで全くエルフらしくない親しみやすさを持つが、アルター王国・カルディナ・グランバロアにも販路を持つやり手の商人でもある。
曰く『都会っ子なんですよお〜』とのこと。
手織を高品質な商品の提供者として以上に気に入っている。