○○○○勢マスター 作:花垣
マズかったらなんか変わったりするかもしれません。
まずは紋章から一式取り出す。
全身タイツとでかい手首足首、
そして2040年代に入ってもギリギリ現役なプロパンガスのボンベそっくりなものに、真正面に一つ、左右の脇に一つずつ穴が空いたものを。
「…………」
まずはちー、とファスナーを開けて全身タイツを着る。
つるつるに包まれて顔だけ出してるのはこの時点で面白い。
「…………」
そしたらでかい手首足首──分厚い手袋と靴を履く。
これだけだと全身タイツの先にアンバランスなパーツが付く事で全身タイツの統一感が崩れてちょっと微妙。
「よっ、と」
最後にガスボンベの底の穴から中に潜り込み、ずぼっ!ずぼっ!ずぼん‼︎っと両手と顔を穴から生やせば。
「──おっ待たせしましたーっ‼︎ガスボンベのタンクちゃん、参!上!です‼︎」
自称・レジェンダリア一のネタキャラ、タンクちゃんが出動できるという寸法なのである。
『へー面白そー』程度の気持ちで〈デンドロ〉を買って、ログインして現れたエンブリオがガスボンベの着ぐるみだった時は途方に暮れた。
こんなんどうしろってんだよ。
探せばこんなキャラいるぞ、著作権はどうした。
【
浮かぶだけの罵倒が頭に浮かび、〈デンドロ〉は封印する事にした。
『ねぇーヒロー、なんかデンドロってゲームがすごいんだってー』
『へえー……。そーなんだー』
『それマジだよこーこ、ヤッベーリアルですっげー人いんから。てかスカイダイビングさせられたんだけど‼︎』
『マジ⁈ビー、マジ高所恐怖症なのに⁈ヤッベーじゃん!』
『ガチチビったわー』
……その封印を、〈デンドロ〉がゲームなんて興味無さそうなうちの友人達にまで届くくらいヤバいムーブメントとなった事でどうするか迷う事となった。
『エッ、ヤッバ……』
スカイダイビングで腰抜かして必死に転がり込んだ宿屋でガスボンベが出てきて絶望して周りを気にする余裕など無かった私は、プレミアになる前に手に入れられたというのにプレイ動画の数々に映るこれまでのVRゲームどころかどんなゲームも上回るリアリティに感嘆していた。
『…………』
やってみたい、と思った。
『…………』
……でも
〈デンドロ〉は脳波を読み取るらしいからアバターの作り直しも、エンブリオのリセマラもできない。
なら脳みそをすげ替えれば……。
『いやいや』
あの着ぐるみなんとかするのに脳みそすげ替えるのは割に合わないなんてもんじゃない。
『…………』
……となると……。
『……ネタキャラしかっ、無いっ……!』
と、いう訳で。
「おっ疲れ様でした〜‼︎また会う日を雨に打たれ、風に吹かれながらお待ちしてます……っ‼︎」
「定期点検サボるなよ〜」
「元気でなー」
「タンクちゃんさんも無理しないでくださいねー」
私は『ガスボンベの着ぐるみマスコット、タンクちゃん』というネタキャラロールで〈デンドロ〉をやってる。
……これが案外、近付く事もはばかられるのにやたら目立つネタキャラとも呼べない変態どもの跋扈するレジェンダリアだとウケがいい。
あと【ガフ】がHP・MP・SPを大量に溜め込んでおける上にそれなりに頑丈なので、【
……私がギリ関西人で、アバターがリアルとは違うアイドルフェイスで、ビルドが強くて、好意好感をたくさん向けられて、【ガフ】が脱げるもので、〈デンドロ〉プレイに必須という訳でも無いのなら続けられなかった。
引っ張りだこなのはいいし、ノリノリでネタキャラもやれるけど、ノリが切れると『……私なにやってんだろ……』と虚無らずにはいられない。
クッソお洒落でシックな喫茶店でブラックコーヒーっぽいもの飲んだり、危険植物を火炎魔法で焼き払ったり、危険植物を暗黒火炎魔法で焼き払ったり、危険植物を呪術で祟り殺したりできなければどれだけストレスが溜まっていたか。
……いやもう普通に私の暗黒面が膨らんでる気がするけどいつかこの恨みで運営を祟り殺してやるんだからいいよね、ハハっ。
「…………」
……だからあの格闘家が『……あいつ、まさか……』みたいなリアルで知ってる奴見かけた時の視線向けてるのなんて気のせいだよねっ。
「…………」
……近付いて来る。
……白に黒がびっびっびっびっびっ!と走る白虎みたいな髪のショートに、腕も腹も腿も出した格闘家らしい身軽な格好で不機嫌そうなツラのアイツは確かリリック。
一匹狼でエンブリオも使わないのに超級職並みに殴り合いの白兵戦がクソ強いマスターだとの噂だ。
「……ねぇ」
「タンクちゃんにファンレターですかっ⁈ありがとーございます‼︎」
有無を言わさずペンと便箋を渡す。
「…………」
さらさらさらさら、と、書き記される。
『アンタ、大崎?』
──その文字列を見た瞬間、暗黒火炎魔法を解き放った事を誰が責められようか。
身バレした。
|タンク
身バレした。
本名 、
滋賀県在住の高校二年。
変態ではない。
やった後は虚無顔になるくらい疲れてるネタキャラロールは、顔と言動がマッチしている為『タンクちゃんを討伐ランカーに押し上げる会』なんてのがあるくらい人気がある。
ピンポイントで同じ高校の同じクラスの同じ列の席である動きを見てれば同一人物判定ができる奴に出くわした為、身バレする。
頑張れ。
ジョブは上級職に【導師】【賢者】、下級職に【苦行僧】【魔術師】【司祭】【呪術師】【付与術師】【???】を入れたエンブリオを活用した万能魔法ビルド。
……マスターでありながら自力で魔法を開発・運用する才に目覚めつつある。
特に火属性魔法が得意で闇属性魔法・呪術の腕もめきめき伸びてる。
|【ガフ】
ガスボンベの顔出し着ぐるみと全身タイツ他のエンブリオ。
ルール・アームズ。
非超級職ながら短時間ならなんとか煌玉蟲を運用できるくらいHP・MP・SPを貯めている。
全身タイツは貯められたエネルギーから身を守る防護服でもある。
ガスボンベもまあまあ頑丈。
(特典武具の着ぐるみは装備枠を食うからスキルが多いっての、エンブリオが着ぐるみの場合にも適用されるんだろうか……)
| 暗黒火炎魔法
……とタンクは直感的に呼んでるが正式名称は《
火・闇・HP減少系複合のレア上級魔法。
火・闇属性魔法と呪いや《ペネンスドライブ》系などのHP消費スキル使用回数が一定以上でかつ合計Lv.250以上で習得できる。
生命体と腐葉土など生命体由来のものを燃やし、燃料となるものかHPがある限り燃え続ける。
消耗は多いが対象が燃え尽きるかHPが尽きる、ないし魔法などMPによる干渉、あるいは高度なHP操作などでないと消しきれない。
習得者は少なく、細菌汚染の滅却など有用な場面も多いものの特にレジェンダリアでは危険過ぎる為、使用には免許が要るし免許があっても使用禁止な土地もある。
タンクは免停された。
|リリック
こいつも着ぐるみ勢マスターであり、しかもタンクと同じ顔出しタイプである。
知人のせいで『着ぐるみ=HENTAI』と脳内で結び付いており、同じクラスに変態がいた……⁈と愕然として身元を聞きに行ってしまった…………羞恥に興奮する立派なHENTAI。
あと《獄炎》を的確に見切れるくらい強い。
HENTAIをご覧になっても大丈夫という方は、詳しい所は同じタイトルの話を読んで確認してください。
既に読んでおられる方はいっぱいいっぱいありがとうございます。