間話『なんてこともあったな』
「なんてこともあったな」
そうして僕は、昔話を終えた。
昔話と言っても...実際には一年少し前の出来事なんだけどな。
けれど、大事な思い出というのは、褪せさせないよう定期的に話題に出しておかなきゃいけない。
僕は、そう思っている。
「...うーーーーーーーーー、それ、イジってるの?イジってるよね?イジってるに決まってるよね!?」
「.....?」
「言っている事の意味が分からないな...みたいな顔しないでよ!」
膝の上で真っ赤な顔を覆い隠し、パタパタと揺れているのは藤丸立香...特異点Fで一度退去し、カルデアで再召喚されたキャスターのサーヴァントだ。
カルデアで再会した時...彼女は、特異点Fでの記憶を失っていた。
...まぁ、全てじゃないが。
「もぉ、何してるの私ぃ...何て恥ずかしい、そして破廉恥な...うぅ、未だに信じられない」
「けど、キスの件、ちゃんと覚えてるんだろ?」
「そうだよ!そうですよ!はいそうなんですよ!『あ、カルデアに召喚されちゃった、まさか私が召喚される側になるなんて!』何て考えつつ、ふと召喚者を見てみればカドックで、その瞬間あっっっっついキスの記憶が蘇ってくるってとんでも体験しちゃったよ!」
「僕も、当時は唖然としたもんだよ。まさかあんな別れ方をしたサーヴァントと、数日足らずで再会してしまったからな」
「だからぁぁぁ、それをーーー、イジリって言うんだぞぉぉーー??」
「いたたたた...悪かったよ、ほっぺたをつねるのは止めてくれ。ほら、立香の反応が可愛いから、つい」
「最近のカドック、取り敢えず可愛いって言っておけば許してくれると思ってない??正解だけど」
「正解なのか」
「はいそうですよー、私は所詮ちょろいサーヴァントですよーだ」
「ぷんすかぷんすか」と自分で、怒っていることを主張する擬音を発しながら、立香は頭をグリグリ押しつけてくる。
僕は苦笑しつつ、その頭を撫でた。
...思い返せば、ここまで、色んなことがあったな。
人理焼却。七つの特異点。凍結保存していた筈のマシュの復活。オルガマリーのデミサーヴァント化。
...そして、ロマニ・アーキマンの....
「...なぁ、立香」
「...なぁに?」
「ちょっと、真面目な話、いいか?」
「うん」
「その...改めて、聞きたいんだ。僕は、最善の道を歩めただろうか。やれるだけのことはやったつもりだ...それでも時折、これ以上の結果があったんじゃないかって考えてしまう。...立香から見て...この結果は、どうだ?」
「...いつになく、弱気だね。私は採点者なんかじゃないよ?貴方の歩んだ道の価値を見定めるのは、他人じゃない...それは自分自身でしょ?」
「...なんとなく、そう言われるような気はしてたよ」
「でも、頑張ったねって褒めてあげることくらいは出来るよ。藤丸立香はマスターの心と身体をケアするパートナーサーヴァントだからね」
「そうか...じゃあ、お言葉に甘えるよ」
僕は、立香の頬に手をやった。
彼女の瞳が、色を帯びて潤む。
僕たちはそっと、口づけを交わした。
「...カドックって、キスしながら魔力供給するの好きだよね。なに?そういう癖?」
「...効率が良いからな。他意はないよ」
「ふーん、でもさ、もっと効率の良い魔力供給もあるみたいだよー?」
「...あんまり挑発しないでくれないか?」
「わ、目が本気だ。カドックこわーい」
さっきの仕返しかは知らないが、からかわれてしまう。
しかし、立香自身もこの手の話に耐性はないので、どれだけ威勢のいい台詞を吐こうが耳まで真っ赤だ。
自爆してどうするんだ。
「...カドックってあんまり顔を赤らめてくれないよね。私ばっかり恥ずかしい思いしちゃってない?何か弱点はないの?」
「裸を見られるのは、流石に恥ずかしいな」
「そりゃ誰だってそうでしょ。そうじゃなくてさぁ...もっとこう、ねぇ?」
「立香が本気で愛してるって言ってくれたら、思わず赤面してしまうかもな」
「ほんとぉ?どーせ、愛してるって言って真っ赤になった私を見て愉しみたいだけなんでしょ?」
「バレたか」
「コラッ」
ペチンと、デコピンを受ける。
「もういい、寝るからね私。ふん!」
立香は不貞腐れたように、僕を倒して、その上で寝息を立て始めた。
「いや寝るならベッドに行けよ」
「うるさい!カドックが悪い!責任とってベッドになって!」
「...ちょっとからかい過ぎたか」
こうなった立香は、言うことを聞いてくれなくなる。
...立香が満足するまでは、下に敷かれておいてやることにしよう。
「...愛してる」
ボソリと、顔を伏せた立香が、呟いた。
顔の赤面具合は分からなかったけど...結局、耳は真っ赤だった。