まぁ、オルレアンを書きながら考えましょうかね。
第一特異点『邪竜百年戦争 オルレアン』開幕前
「立香。どうして僕たちの代わりに死ななかった?」
...吹雪の大地。
男は、忌々しそうに言い放った。
...なんだ?これは。
夢なのか?
分からない。
まるで映画を鑑賞してるみたいに...僕はそれを見ていた。
映っていたのは、僕だった。
あぁ、なんて目をしてるんだ。
劣等感、焦燥感、逃避、憎み、羨望、悔しさ。
それを自覚しながら、抑えきれない感情を吐き出し続けている。
その相手は...立香だった。
そうか、これは、彼女の記憶。
マスターは時折、契約したサーヴァントの記憶を、夢として垣間見ることがあるらしい。
まったく...酷い、ファーストコンタクトだ。
どうしてこんな最低な人間に、立香は好意を抱いてくれていたのだろう。
今となっては、もう分からない。
だって立香は...退去してしまったのだから。
・・・
「...ふーむ、君は不思議な生物だね。リスかウサギかネコか...どれにも当てはまらない。ま、可愛いしいっか」
「ふ、フォウ....」
薄く、瞳を開けてみる。
途端に、視界に光が溢れて何も見えなくなる。
少しばかりその真っ白な世界の中でぼんやりとしていると...次第に視力が戻り、僕の意識は完全に覚醒した。
「...おや?お目覚めかな?カドック君。気分はどうだい?一応身体スキャンを終えて、特に問題がないことは確認されていたけど、頭痛、吐き気、その他諸々、何かあれば遠慮せず言ってくれたまえ」
「いや、問題ないよ...無事だったんだな、ダ・ヴィンチ」
「あぁ、これでも、英霊の端くれさ...それに、私は爆発の中心からかなり離れた位置にいたからね。ほとんど、影響はなかったってわけさ」
...目が覚めると、そこにいたのは美の体現者。
かの有名なモナ・リザの姿を博した、その作者である性別不明のサーヴァント...レオナルド・ダ・ヴィンチだった。
「体調が万全なら、管制室に行くといい。色々と聞きたいこと、知りたいことがあるだろう。全てロマンにぶつけて一旦スッキリするべきだ」
「...そうしよう...てか、ちゃっかりフォウがいるな。お前、今まで何処にいたんだよ...まぁ、無事で安心したが」
「マシュに会えなくて随分寂しそうだからね。これまで懐いてくれなかった私にすら少しお触りを許してくれるくらいだ。カドック君も、思う存分愛でてやるといい」
...そんなこんなで、僕は管制室へ向かうことにしたのだった。
・・・
道中、何人か生き残ったカルデア職員たちとすれ違った。
みんな、悲壮感を滲ませつつも、慌ただしくしている様子だ。
けれど、僕を目に写した時、少しだけ表情を綻ばせる。
期待されているんだ。
僕なら、この現状をどうにかしてくれるだろうって。
ヴォーダイムやデイビッドに向けられていたそれが...今は、僕に向かっている。
それが...凄く恐ろしいことのように思えた。
「...いるか?ロマニ」
そう一言置いて、管制室へと入る。
「やぁ、目が覚めたようだね。体調は...大丈夫、なのかい?」
「目の周りの隈のせいで分かりにくいかもしれないけど、万全だよ」
「そうか、なら良かった」
ロマニは、少しだけやつれているように見えた。
「色々と説明しておかなければいけないこともあるが...敢えて先に報告しておこう。所長は無事だよ。今は、その...カタツムリみたいに自室で丸まっていて突っつきにくい雰囲気を漂わせていてね...もし良ければ、後で様子を見てきて欲しいんだけど....」
「あ、あぁ」
...地雷みたいな扱いだな。
けど、しょうがないか。なんせあんな出来事の後だ。
精神状態はこの上なく不安定だろう。少しでも触れれば、途端に爆発してしまいそうな具合に。
「次に現状について。レフ教授...いや、レフ・ライノール・フラウロスの言葉通り、既に人類は滅んでいる可能性が高い。外部との連絡が付かないことに加えて、調査に出た職員の消息が絶たれたことが根拠だ。恐らく、このカルデア内だけ、本来の時間軸からズレた立ち位置にいるんだろう。人類滅亡の直前で時間が止まっているようなものさ」
「.......」
「しかし、悲観しきるには早いよ。最悪な状況には変わりないが、手立てが全くもってない、というわけじゃない」
「あぁ、レイシフトだな」
「うん。人類滅亡の原因は過去にあると仮定して、復旧させたシバによる地球の状態のスキャンを行ったんだ。あ、過去の地球をね。すると...先の冬木と比較にならないほどの時空の乱れを観測した。知っての通り、歴史には修正力が存在するよね。並大抵の変化では、その時代が辿り着いた結末まで変えるに至らない。しかし...観測されたこれらの特異点は、究極の選択肢。人類史のターニングポイントの変化だ。この特異点が発生した時点で、人類史の焼却が決まる」
「...なるほど。つまり、今回の冬木と同様にレイシフトによる過去遡及を行って、特異点を修復して回る...それが、僕たちに出来る唯一の抵抗、ってことか」
「その通り...本当なら、君一人にこんな危険な任務を任せるべきではない。けれど、レイシフト適性、マスター適性共に必要水準に達しているのは、もう君だけだ...」
「気にしないでいい。元より、僕は...僕たちはその為に集まったんだからな」
「ありがとう...何にせよ、もう暫く特異点のデータの取得に時間が掛かると思う。だからそれまで、少しでも気を休めててくれ...ところで、」
「...なんだ?」
「実はカドック君に聞いておきたいことがあるんだ。彼女、キャスターのサーヴァント...真名、藤丸立香。あの子についてを」
「立香の?悪いが、僕も知ってることは限られてると思う...契約してたとは言っても、高々一日程度だしな」
「それでも、彼女の言動や行動。それを一番近くで見ていたのが君だ...まぁ、分かる範囲でゆるーく答えて欲しい」
「...勿論、答えられる範囲でなら答えるよ」
ロマニは軽く頷くと「ちょっと、着いてきて貰えるかな」と、僕を何処かへ案内し始めた。
黙って、彼の背を追いかけていく。
それから少ししして辿り着いたのは、凍結保存処置を続けているコフィンの並ぶ空間。
僕を除く、この作戦に参加するはずだった魔術師たちの姿が、そこにはあった。
「...ロマニ、アンタは、僕に何を見せようとしてるんだ?」
「...うん、それがね...最初は偶然かとも思っていたんだけど、アーサー王との戦いで判明した藤丸立香というサーヴァントの情報から、無関係とは考えにくい事実を発見したんだ」
「...それは、カルデアとの、か」
そうして、ロマニはとあるコフィンの前で立ち止まった。
その中に眠っていたのは...そう、僕と歳の変わらないような少年だった。
魔術師には見えない、酷く純粋な寝顔だ。
...あぁ、そう言えば、魔術師じゃない一般人からも、一人だけ適性者を連れてきていたんだったな、カルデアは。
「こいつがどうかしたのか?」
「...彼の名前は、藤丸立香。僕はこの子が、キャスターのサーヴァントと同一の存在だと考えているんだ」
「は?」
あまりに突拍子もない話に、思考が一瞬置き去りにされる。
「急に何を...いや確かに、同じ名前だってのは驚いたが、それだけで同一人物だと判断するのはどうなんだ?」
「彼女の力は、サーヴァントを召喚するものだったね。そして最後...所長を助けるために、レフから聖杯を奪い取った時だ。彼女は、確かにマシュを...マシュ・キリエライトを召喚していた。彼女曰く、彼女の宝具である令呪とは縁の集約物。つまり、少なくとも生前の彼女はカルデアの関係者だったと考えられる」
「...それは、確かにそうだな。立香は、異様にカルデアについて詳しかった...オルガマリーについても、アンタについても、最初から知ってる様子だった」
カルデアの関係者。
その説については、ずっと考えていた。
言動から、察するに余りあるくらいだ。
「やっぱりか...それにだ。彼女の発言や行動から、こうは考えられないかな?...彼女は、君と同じような立場だったのだと。元人類最後のマスターと名乗っていたこと、そしてこの世界にも、性別は違えど同じ名前の子が存在していること...それが根拠だ」
「...つまりロマニが主張するのは、立香は別の世界のカルデアで、人類最後のマスターとして...つまり今の僕と同じ立場で活動していた。ってことか?」
「その通り、だけど、それだけじゃない」
「...だけじゃない?」
「彼女は、英霊となっていた。つまり、それだけの偉業を達成していたんだ...ここまで言えば、分かるかな」
まさか、そうか...そうだとしたら、色々と辻褄が合ってくる。
数多の英霊のマスターとなり、英霊の座にすら迎え入れられる存在。
そう成るに必要な偉業と考えれば...自ずと解は一つに定まる。
「...立香は、人理修復を成し遂げていた?」
「そう!きっと!多分!そうに違いない!」
信じられないことだが、考えれば考えるほどそうとしか思えなくなる。
強めのバイアスが掛かっている自覚はあるが...可能性が高いのは事実だろう。
「だから、どうにか彼女の言動の中から、人理修復のヒントになり得るモノを見つけたかったんだけど...流石に覚えてないよね」
「...分かることと言えば、マシュがサーヴァントになっていたことくらいだな...それが、人理修復の大きな足掛かりになるのかもしれない」
「...だとしたら、望めないことかもだ。残念だけど、マシュの容態は特に悪かった。このまま解凍したとして、一日もつかどうか...」
「けど、マシュの中には英霊が今も住んでるんだろ?なら、それがマシュを助けてくれるかもしれない」
「希望と言えば、その程度か.....」
「とにかく、思い出したことがあれば、随時報告しに来る」
「あぁ、頼んだよ」
・・・
暇ができた。
暇と言っても、これは次の特異点までに、状態を万全にするための準備期間ではある。
体調面は問題ない。
魔力も万全。
故に、これからやるべきことは明白だ。
例えば、サーヴァントの召喚...カルデア内にある召喚サークルを用いて、戦力を増やすことは必須だろう。
その為の素材はロマニから預かっていた。
「...もう、やっておくか」
レイシフトの適性次第では、これから召喚するサーヴァントと、次の特異点を共に攻略することになるだろう。
ならば、早いうちにお互いのことを知っておくに越したことはない。
故に、僕はその召喚サークルまでやって来ていた。
「さて...出来ることなら、協力的なサーヴァントが召喚されるといいんだが」
僕は、召喚サークルに素材を捧げる。
...召喚されるのは、合計で三つだ。
その全てがサーヴァントとは限らない。
もしかすると、別のモノが召喚されるやも....
〔キュイーーーン〕
...などと考えている間に...素材が消費されて、召喚が始まる。
光の輪が回り始めた。
それは、計三本。
確か、サーヴァントの合図だったような記憶がある。
つまり、これから新しい英霊が舞い降りてくるのだ。
...少し、身構える。
人理修復の為...人類救済の為。
どんなサーヴァントが現れようとも...僕は手綱を握ってやる!
「...サーヴァント、キャスター」
...そうして、光が晴れると共に...僕はそこに、人の姿を認めた。
「真名、藤丸立香...召喚に応じ参上した。問おう、貴方が私のマスターか?」
「...????」
「...ってあれ?カドック?...ん?あれれ?...ん?」
見間違いか?
なんか、目の前に...立香がいるように見えるのだが。
目を擦る。
再び見る。
...いや見間違いなんかじゃない!!!
え!?立香!?嘘だろ!?
そんなことあるか!?あんな別れ方をして!?次の日に再会!?
「...いや、ツッコミたいことは無限にあるが...何にせよ、また立香と会えたことを喜ぶべき...なんだろうな」
「......」
「...立香?どうした?」
「...あ...ぁあ、アアアアアッ!?」
突如、立香は彼女の唇に手を当てながら、茹で蛸の如く顔を真っ赤に染め上げた。
「な、ななな、ななにこの記憶!?なん、なんで、なんで私...カドックと、き、ききききs...っ!えぇ!?!?」
「...え?」
あぁ、そっか。
そこで、僕はようやく思い至ったのだ。
サーヴァントは、座に記憶を持ち帰ることは殆どできない、ということを。
「...
僕はサーヴァントという立場に少しだけ同情を抱きながら...とにもかくにも、再び巡り会えたこの縁を喜ぶのだった。
ちまみに残りのニ枠でクー・フーリンとエミヤが召喚されました。