同じくらい曇って欲しいよね。
「あの、立香」
「...はい」
「ちょっと立香?」
「はい、はいはい」
「いや、だから、ちょ...待て、待てって!ストップ!頼むから逃げないでくれ!聞こえてるよな、っておい!耳を塞ぐな!」
「いやだぁ!!聞きたくないよそんな話!恥ずかしい!時間、時間を頂戴!一日...い、いや一週間!一週間でいいから!」
「待てるかそんなに!」
どうして僕は、サーヴァントと鬼ごっこをする羽目になっているんだろう。
僕はただ、ただ、立香と話がしたいだけなのに。
その為に、特異点Fの記録も見せなければいけないのは...まぁ必要経費だろう。
「く、召喚したばかりなのに土地勘が良すぎる!見事に行き止まりを避けつつ、的確な逃走ルートを...って僕は何に感心してるんだ!頼む、エミヤ、クー・フーリン!」
「あー...ま、了解だぜマスター」
「まさか、初仕事が駄々っ子の捕獲とはね。私も焼きが回ったものだ」
エミヤとクー・フーリン...さっき、立香に続いて召喚されたサーヴァントたちだ。
この特異点Fの三人組は多分、同一の縁によって召喚に応じてくれたんだろう。
「まぁ、落ち着きたまえ、キャスターの君。ここで行き止まりだ」
「お転婆が過ぎたな。何から逃げてるのかは知らねーが、観念しな嬢ちゃん」
「は、反則でしょそれは!」
一瞬の間に、立香の進行方向へ回り込む二人は、流石近接系サーヴァントと言ったところか。
エミヤのクラスはアーチャーだが...まぁ、細かいことは言うまい。
そんなこんな、立香はエミヤに抱えられて戻ってきた。
「わー!はなせー!エミヤの筋肉!料理長!ドン・ファン!」
「なんでさ!?」
「あははははは!いいねぇ!もっと言ってやれ嬢ちゃん!」
「相性が良さそうな三人で何よりだな...」
例えるなら、お転婆な
「...さて、もう逃がさないぞ、立香。お前には色々と聞きたいことがあるんだ」
「ワタシノソンゲンワマモラレル?」
「それは、まぁ覚悟しててくれ。...善処はする」
「やだやだ!お嫁にいけなくなる!」
「そうか、ならしょうがない。...選んで貰おう。
「...ひぅ...一対一でオネガイシマス」
「鬼かよ...」
「だが、良い詰め方だな。戦場において、このような冷酷さは強いアドバンテージになる」
「テメェ...天然だろ、さては」
「え?」
漫才を繰り広げる二人は置いておいて、僕は抵抗しなくなった立香を空き部屋に連行したのだった。
僕が
・・・
立香を問いただして、色々と分かったことがある。
まず、特異点Fで今生の別れのような退去をしたにも関わらず、再び立香を召喚した出来てしまった理由。
これはシンプルに...多分、カルデアでの再召喚の可能性を失念していた為、とのことだ。
正直そんなことだろうとは思っていた。
続いて、立香自身について。
ロマニの推察通り、彼女は別世界のカルデアで人理修復を成し遂げた英霊だった。
これは大きな収穫だ。
実際にこの現状を打破し、人類を救ったお手本が、立香なのだ。
この上なく頼もしい。
特異点攻略の詳細については、またロマニを交えつつ、改めて聞くことにした。
立香曰く、「私のいた世界とこっちの世界って絶妙に色んなところで
それでも参考にはなるだろう。
...そして最後に。
あっちの世界の僕は...何をしていたのか。
具体的な内容は分からない...けれど、僕は立香の在り方を否定しようとしていた。
それだけは、なんとなく分かった。
自分自身のことだから。
立香は、少なくとも今はまだ知る必要がない、と教えてくれなかった。
けれど、いずれは知ることになるんだろう。
なんとなく、そんな気がしていた。
「...これで、大方聞きたかったことは聞けたかな」
「ハァー、ホントニマエノワタシハナニヲシテクレタンダー、ハズ、ハズゥ...」
立香はダンゴムシみたいに膝を抱えて丸まってしまった。
...結構、無理をさせてしまったかな。
「ありがとう。お疲れ様、立香。そして改めて、これからよろしくたのむ。立香が再び召喚に応じてくれて嬉しかったよ。凄く頼もしい」
「~~~~ッ!しょ、しょうがないなぁ。そんなに言われちゃったら、頑張るしかないじゃん。...うん、分かった。人理修復経験者として、カドックの力になるよ」
「あぁ、ありがとう...って、そうか。つまり、立香は先輩ってわけだな。人理修復の」
「う、うん。まぁ、そう?なのかな...なんか、カドックの先輩って変な感じ」
立香はくすぐったそうに微笑んだ。
...そんなに変かな?
僕はよく分からないまま、そんな立香を見つめていたのだった。
・・・
サーヴァントってのは、座に記憶を持ち帰ることは殆どない。
だから、現界した時の経験とか、感情とか...なんとなーくうっっっっっすらとした何かが残っていても、鮮明に思い出すことはほぼ出来ない。
けど、まぁ、うん。
何事にも例外はある!!
例えば、座に帰っても消えることがないくらい鮮烈な出来事。
それは、後悔かもしれない。恐怖かもしれない。喜びかもしれないし、怒りかもしれない。
または...感動かもしれない。
つまり、本当に忘れることの出来ない感情や思い出は、逆に忘れることが出来なくなる。
次の現界にすら、影響を与えてしまう。
それが私にとっての...
あの感触。あの時の感情。
何から何まで、鮮明に思い出せる。
もはや、忘却補正でも発動してんのかってくらいだ。
それに連鎖するように、生前に抱いていた想いも引き出されてしまう。
すると、記憶はなくてもなんとなくで悟ってしまう事実もある。
...多分、結婚してたんじゃないかな、私とカドックって。
この感じ絶対そうだと思うんだ!
愛しいとか、恋しいとか...単純な好きだけじゃなくて、沸き上がってくるモノの中にそういう深みを感じる。
つまり、愛だよ、LOVE。
も、もちろん、その感情をカドックに伝える気はなかったよ?
私を召喚したこのカドックは、私の生きていた世界のカドックとは別人なんだから。
こっちのカドックには、こっちの人生がある。
私の世界の関係を押し付けるべきじゃない。
押し付けるつもりじゃなかったけど、それでも、あの私はカドックに生前のような関係を迫ってしまった。
それが良くないことだって知りながら、それでも堪えきれなかった。
奇跡的に好きな人と巡り会えたのに、一生のサヨナラをしなきゃいけなくなった。
それが悲しくて、苦しくて。
少しでも思い出が欲しいって願ってしまった。
我ながら卑しい...けど、仕方ないよねぇ...
まぁ何にせよ、同じような間違いは繰り返さない...結局のところ、私はサーヴァントだからね。
マスターとは結ばれない...そういう運命なのさ。
それこそ、受肉でもしない限りね。
...あ、すればいけるのか。
ふーん。
そっか。
...や!?やらないよ!?だ、大事な聖杯をそ、そんなことには使えないもん!
「おや、終わったかね?」
部屋から出ると、近くの壁にエミヤが背を預けていた。
「あれ?クー・フーリンは?」
「散歩...とだけ言って消えてしまった。流石に問題を起こすようなことはないと思うがね」
そっかぁ、ま、クー・フーリンなら問題ないよね。
「...一応聞くが、エミヤ。聞き耳なんて、立ててはなかったよな?」
「まさか。私とてプライバシーの侵害は慎むべきだと思っている。そんな真似をする筈がない」
「そ、そうか。疑って悪かった」
「分かればいい。それで、聞きたいのだが。この施設に厨房はあるかね?」
...エミヤは、相変わらずエミヤだった。
・・・
目を閉じて、何も考えないように、思考を塞ぐ。
見ないし、聞かないし、関わらない。
だって、何かを考えようものなら、意識しようものなら、とてつもなく恐ろしい不安に支配されてしまうから。
私は、死んだ。
レフの仕掛けた爆発によって、肉体は消滅した。
けど、まるで奇跡のように、私の意識だけが
私は死んで、やっとレイシフトの適性を得た。
...死んだら、何の意味もないのに。
このまま、意識さえも消滅してしまうはずだった。
けど、助かった。
藤丸立香...謎の多い、キャスターのサーヴァント。彼女とカドックと...そしてマシュに、私は助けられた。
肉体も復活した。
聖杯によって...言うなれば、受肉のような形で、私は蘇ることが出来た。
そして目が覚めた時、全てが終わっていた。
人類は...滅亡してた。
「...う、うぷっ」
吐き気が込み上げてくる。
考えちゃダメなのに...どうしても考えてしまう。
人理は焼却されて、もはや私たちも同じ運命を辿るしかない。
そんな...辛い話があるだろうか。
頑張ってきたつもりだった。
カルデアの所長なんて大役を、父の後継として恥じのないように、全うしようと努力した。
それでも、誰かに褒められたことはなかった。
認められたことはなかった。
...当然だ。
まず、上司を褒めるなんてすっとんきょうが部下にいるはずないし、組織外からは嫌でも父と比べられてしまうから。
...それに、アニムスフィア家の人間ともあろうものが...マスター適性、レイシフト適性共になしだなんて....
結局、もうあとは終わりを待つだけになってしまった。
抵抗の術は、ない、とは言えないけど...どうせ、こんな状態のカルデアには何も出来ないだろう。
...もしかしたら、カドックなら何とかしてくれるのかもしれないわね。
ロマニも、なんやかんや優秀だし、諦めも悪いし。
それに...レオナルド・ダ・ヴィンチだって健在。
...私なんていなくても、きっと...何とかなるなら何とかなるし、何とかならないなら何とかならない。
なら...もういっそ、ずっとこのまま静かに過ごしていよう。
そして、もし人理修復が成された時は...こんな私には過ぎた
後は、ロマニにでも任せておけばいい。
...そんなことを、考えていた時だった。
「...オルガマリー、いるか?」
不意に、ノックが鳴り響いた。
私は咄嗟に、毛布の中に潜り込んでしまう。
「...いや、いないわけないよな。入るぞ」
「え、ちょ」
有無も言えぬまま、扉が開く。
しまった、鍵、かけ忘れてた。
「...悪い。ロマニに、オルガマリーの様子を確認してくるよう頼まれただけなんだ」
「...そう」
「その、なんだ。無事で良かったよ...あとは、えっと」
「...用は、済んだじゃない。会話を続ける必要、ある?私の安否の確認はいいでしょ。大丈夫、首を吊ったりなんてしないわ。痛いのは嫌だし、せっかく助かった命を粗末になんか出来ないもの。そんなの、あの子に申し訳が立たない」
「...そっか」
...命の恩人に対して、なんて態度なのかしら...私。
こんなんだから、嫌われるのよね。
でも、もういいの。
もう、誰とも関わりたくない。
「...じゃあ、帰って。貴方には貴方のやるべきことがあるでしょ。私になんて構ってる暇はないはずよ」
「...ところで、オルガマリー...少し前、特異点についての下調べが終わったってロマニから聞いたところでな。もう少ししたら特異点攻略についてのブリーフィングを行うらしい」
「...突然なに?」
「参加してくれ、オルガマリー。これからの戦いには、お前の力が必要だ」
...理解出来なかった。
私の力が必要?
そんな筈ないでしょ。
「帰って。別に、慰めとかいらないから」
「慰め?お前には、僕がそんなに気のきいた人間に見えるのか?」
「...ッ!じゃあ...言ってみなさいよ。私が一体、何の役に立つって言うの!?口喧しく罵り立てること!?偉そうにしてること!?レイシフトもマスターになることも出来ない私に...何をしろって!?」
「......」
「もう、自分でも分かんないのよ...自分が何をすればいいのか。頑張ったって、どうせ報われない...こんな性格の悪い女、嫌われるしかない...誰も認めてくれない。褒めてくれない...なら、最初からなにもしない方がまだマシじゃない!!」
「...悪い、オルガマリー」
...ぽつりと、カドックは呟いた。
...幻滅したでしょうね。
えぇ、所詮、私なんてこんなちっぽけな人間なのよ。
十分に失望して、嫌って...もう、それでいいのよ。
〔ドンッ〕
その瞬間...カドックは近くの机に、何か紙を叩きつけた。
「今の僕に...いや、カルデアに、お前の弱音に付き合ってられる余裕はないんだよ」
「え、何...それ?」
私は恐る恐る...毛布から出て、その紙に手を伸ばす。
【オルガマリー 分析結果
レイシフト適性○
マスター適性○
作戦への親和性○】
「こ...れ。なんで...私、マスター適性も、レイシフト適性も.....」
それは、帰還直後の身体スキャンの結果を記した紙だった。
私は、レイシフト適性、マスター適性、共に必要水準をクリアしていた。
あれだけ切望していた適性を...生きたまま、手に入れていた。
「立香は聖杯に
カドックの推察には納得だった。
けれど、実感が湧かなかった。
私に...本当に、そんなことが?
私は...本当に、役に立てるの?
人理修復に...人類救済に...ほんとに?
...そんな私を見かねたのか、カドックは、真剣な表情で口を開く。
「...どうせ報われないとか、嫌われるとか。役に立つとか立たないとか。認められないとか褒められないとか。だから、何もしない方がマシだって?そんなの知ったこっちゃないね!お前はただ、示せばいいだけだろ。特異点を修正して、焼却された人理を修復して、ごちゃごちゃ言ってくる奴らに、こう言えばいいだけだろ!!」
「.....」
「うるさい、世界を救ったのは私だ!!ってな」
手が、震える。
呼吸が小刻みになる。
涙が、溢れてくる。
「...それに、誰にも認めて貰えない、何てことはないよ。少なくとも、僕はお前のことを尊敬してる。その若さで、カルデアという組織を束ねていたんだ...それがどれだけ辛く、苦しく、大変なことなのか...凄いよ、本当にな」
そう...カドックは、優しく微笑んだ。
「あ...ァア、うぐ...ひぐ...」
嬉しい...嬉しかった。
必要としてくれること。認めてくれること。褒めてくれること...欲しかった言葉を、くれたこと。
私は泣いた。
それはそれは、子供みたいに、大声で泣いた。
カドックは、私が泣き止むまで、そこにいてくれた。
...たった、一人の承認だったけど。それでも、それでも私にとっては...これまでの全てが報われたような。
そんな...とても、素敵な気持ちになれた。
カドックの...ハーレム...あー
うーん
そーだなー
うーーーーーん...まぁ、考えとくか