どうやら、私は死んじゃったらしい。
死んじゃったらしいというのは、つまり死んでしまったという実感だけを持っていた、ってこと。
こんがらがるけども、要は、どう死んだのかという記憶が曖昧なのだ。
老衰だった気もするし、病死だったかも。
...ともかくだ。
死後、自分はどうなるのだろうか。
生者なら、一度は考えたことのある問いに対して、私は一つの解を得た。
ほうほうなるほどなるほど?
実は、可能性としては念頭に置いてた。
自惚れってわけじゃなくてぇ...いやそれも少しはあったかも?
まぁなんていうか。
私はどうやら、英霊になったらしい。
英霊になった私は、ほぼ藤丸立香地続きの存在と言って差し支えない。
まぁ多少?生前の記憶が消えてたりするけど?
人理修復の旅とか、その頃の記憶はしっかりと持っているからね、問題ないのよ。
もしかすると、藤丸立香という存在を英霊とする時、そこがピックアップされたからかもしれない。
「...うん?」
...ある時、懐かしい気配に、私は目を覚ました。
その気配に導かれるように、手繰る様にしていると。
私はそれが、召喚に応じる行為だということに気づいた。
なるほどなるほど、縁ある何かに召喚されるってこんな感覚なんだ。
そう、私は朧げに考えながら...
・・・
召喚に応じてみれば、なんか辺りが焼け野原だった!
それも、妙~に見覚えがあるような気がする。
それはそうとして、私はキリッと表情を引き締めた。
何故って?
そりゃあ初召喚だからに決まってるじゃん!!
かっこつけなきゃだし!
まぁ実際に初召喚かどうかは分からないけどね。
サーヴァントは大体、座に記憶を持ち帰れないみたいだし。
でも、なんとなくこれが初仕事って感じがするので、そういうことにしとく。
「...サーヴァント、キャスター。真名、藤丸立香。召喚に応じ参上した。
問おう...貴方が私のマスターか?」
キリッ...と、確実な手応えを感じる。
心の中でガッツポーズを決めた。
ずっっっっと、言ってみたいと思っていた台詞なだけに、言い知れぬ感動が胸中を駆け巡った。
「...あ、あぁ...そうだ」
あっけらかんと私を見つめる召喚者に、しめしめと口元を緩める。
私を召喚したのは、目の周りに心配になるような隈を作った男の子だった。
どこか虚ろというか、自信なさげな表情。
それを取り繕おうとする、静かな強かさ。
...目を見開く。
覚えがあったから。
その何もかもに。
「...って...あれ?カドック?」
無意識に、そう口に出していた。
・・・
「...どうして僕の名前を?」
恐る恐る、問うてみる。
目の前の彼女...キャスターのサーヴァントは、まるで
「か...」
「...か?」
「カドックぅぅぅぅぅぅぅううーーーーっ!!!」
「うわぁっ!?」
止まった時間が突如動き出したみたいに、キャスターが僕に飛び掛かってきた。
反射的に回避を試みる。
しかし咄嗟のことに身体強化は間に合わない。
(まずい...やられる!?)
冗談抜きでそう思った。
そういう勢いだったんだ。
...けど、それは杞憂だった。
「会いたかった!!!」
「...????」
いや...え?
訳が、分からない。
彼女は僕を攻撃するでもなく、ただ胸に飛び込んできた。
まるで感極まったように、声を震わせながら。
「...あぁ、カドックだ...本物だ」
グリグリと頭頂部を擦り付けられる。
痛いというかそれ以前に、サーヴァントとは言え異性からの強烈なスキンシップに僕は耐えられなかった。
「...あの、ちょ」
「...あ...わぁぁぁああーっ!?ごめん!!!!あ、あれぇ??おかしいなぁこんなはずじゃなかったのに!!」
飛び込んできた時以上の速度で、今度は僕から離れる。
その顔は物の見事に真っ赤に染まっていた。
「いや、別にいいけど...その、僕と君...どこかで会ったことがあったか?」
すると、キャスターはハッとしたかのように息を呑む。
そうしてほんの少しだけ、寂しそうな顔を見せた。
「あっ...るというか...ないというか...まだないというか....」
「...どっちだよ」
まだ、という少し引っかかる表現。
けど、今は一々問い質している暇もない。
「...まぁいい、えっと。よろしく頼んでいい、のか?キャスター?」
「え?きゃす...あ、そっか。私か...キャスターか...」
「...不服か?」
「うん。出来れば、立香って呼んで欲しいかも」
りつ...え?
それはつまり、名前呼び...をしろってことか。
思ったよりグイグイくるんだな、サーヴァントって。
「あ、あぁ。じゃあそうするよ...にしてもまさか、あっさりと真名を教えてくれるなんてな」
真名を知れば、伝承を辿り自ずとそのサーヴァントの正体や弱点に行き着く。
よって、サーヴァントはあまり真名を話したがらないことが多いらしい。
使役するサーヴァントの真名を当てるのも、マスターの仕事なのだとか。
にしてはと、少し拍子抜けをした次第だ。
「日本風の名前だな...この土地の縁で召喚されたサーヴァント...でいいのか?」
「...多分カドックとの縁だと思うけど(ボソリ」
「ん?」
「いや、なんでもないなんでもない~、えへへ...って...あー!」
また、きゃs...立香が高い声を上げる。
「フォウだ!!」
「...フォウ?」
どうやら、少しはなれた場所でこちらを伺っていたフォウを発見したらし...いやなんでフォウのことまで知ってるんだ?
「フォウ~、おいでぇ~」
「ふ、フォウゥ?」
...なんだか僕のサーヴァント、妙に謎が多いみたいだな。
まぁ、いい。
とにもかくにも、サーヴァントとは非常に心強い存在だ。
それが敵意なし...よもや好意的に接してくれるのだ。
まさに大当たりってやつだろう。
「き...コホン。立香。今から二キロくらい移動するけど...いいか?」
「あ、うん」
立香はフォウをもふりながら返事を返す。
「そう言えば聞いてなかった。これってどんな状況なの?」
「あ、あぁ。そうだな、そこから説明しなきゃだな」
と言っても、なかなか難しい。
人類滅亡、それを回避するためのレイシフト。
どう説明したもんか。
「キャァーーッ!!」
「なっ!?」
その瞬間、甲高い悲鳴が耳朶を揺らす。
かなり遠くからだ。
魔獣にでも襲われているのだろうか。
いや待て、それ以前に、僕以外にも生存者がいるのか?
もし、悲鳴の主が抵抗の術を持たない一般人なら...間に合わないかもしれない。
どう急いだって、五分は掛かってしまう。
「行こうカドック!!」
「え、あ、あぁ」
次の瞬間には、立香は走り出していた。
考えるのは、後だ。
僕は数秒遅れてその後を駆ける。
・・・
「うぅ、サーヴァントになっても人間よりちょっと速いくらいかぁ...」
息を切らせながら、立香は悔しそうに呟く。
「まぁ、キャスターなら仕方ないんじゃないか?ほら、見えてきたぞ」
走り出してから五分と少し。
僕は声の主であろう女性の姿を見つけた。
「何なの、何なのよこいつら!?なんで私ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」
「あれは...オルガマリーか?」
「所長....?」
「もうイヤ、来て、助けてよレフ!いつだって貴方が助けてくれたじゃない!」
そこにいたのは、骸骨の化物に襲われる寸前のオルガマリー・アニムスフィア...
カルデアの所長だった。
「...っ!貴方たちは!?」
「ガンドッ!」
咄嗟にガンドを撃ち込む。
当然倒しきるダメージにはならないが、怯ませることはぐらいはできた。
「頼む、立香!」
「了解!」
僕の叫びに呼応するように、立香の周りに魔力が走り始める。
どこか見覚えのあるような魔力の流れだった。
「お願い!アルトリア!」
瞬間、超速で飛び出していく何かが見えたかと思うと、骸骨が爆ぜた。
上がった土煙の中で、その何かは静かに灰となって消えていく魔物を見届ける。
「...ふむ、他愛のない相手です」
それは、金髪の騎士。
只者じゃないってことは、纏う魔力によって明らかだ。
新手か?とも思ったがどうもそうじゃない。
その証拠に、立香がその騎士の元へ駆けていった。
「ありがとうアルトリア!助かったよ!」
「はい、いつでもお呼びくださいマス...いえ、今は貴方も同じサーヴァントなのでしたね」
「...うん」
「同じサーヴァントとして共に戦えることが嬉しい一方...少し、複雑ですね」
「...心配してくれてありがとう。でも、私は大丈夫!実際サーヴァントにはなってみたかったしね!」
「ふふ、マスター...いえ、立香らしいですね」
...立香は騎士と幾つか言葉を交わす。
そして、それから間もなく、アルトリアと呼ばれたその騎士は...光の粒子となって消えた。
「...何が...起きた、の?」
オルガマリーは目の前で起きた出来事が信じられない様子で、目をぱちくりとさせる。
...それは僕も同じだった。
今、立香は確実に...
「...サーヴァントを召喚した、のか?」
「あー...あはは、まぁそうなるかなぁ」
・・・
「...という経緯だ。オルガマリー」
僕はそれから、ここに来るまでの出来事を彼女に話した。
「...大方把握したわ。あの現場を生き残り、サーヴァントと契約、そしてここまで駆けつけてきた。ご苦労様、流石はAチームね。期待以上よ、カドック・ゼムルプス」
「...あぁ」
「そして、キャスター藤丸立香ね。今この場は貴方が頼りだから、頼むわよ」
「....(どうやって助けようかと思案している顔)」
「随分と複雑そうな表情だが、何か所長に思うことがあるのか?」
「な、何よ」
立香が何故か、渋い顔を浮かべている。
まさか、オルガマリーに並々ならぬ因縁が...なわけないな。
「ふっ、今はまだ語るべき時ではない」
立香はやけに芝居チックな台詞と共に、そっと目を逸らした。
「...な、何故かしら。何故かこの子を見ていると無性に腹立たしくなってくるわ。例えるならそう、演説中に居眠りをされたかのような腹立たしさよ」
「妙に具体的だな」
「まぁいいわ。取り敢えず霊脈の強いポイントを見つけなきゃ。そこにいけばカルデアと通信ができるはず」
そう言えばだな、と思い、ロマニから貰った座標を見る。
「あ...ここ、だな」
「え?」
「ちょうどここだ。霊脈の強いポイント」
「うぇ!?そ、そうね、そうみたい。分かってる。分かってたわよ、そんなことは!」
「そ、そうか?」
「あとは、そうね。何か触媒になるものがあればいいのだけど」
「...ねぇ、ずっと気になってたんだけど」
とその時、立香が口を開く。
「あぁ、どうした?」
「...マシュは?」
「え?」
「いや、その、いるでしょ?マシュ・キリエライト。Aチームに...こっちに来てるはず、じゃ?」
「...フォウ.....」
まぁ今さら、どうしてマシュのことを知ってるのか、なんて聞くまい。
「マシュは...分からないな」
「少なくともこっちに来てはないでしょうね」
「ッ、そ、そっか」
「...どうして貴方がマシュ・キリエライトのことを知っているのかは、取り敢えず後回しにしておくわ。とにかく、触媒になるものを見つけなきゃ」
「...なら、いいかな?」
「...立香?」
再び、立香は魔力を帯びる。
また召喚か?
一体どんな原理なのやら...それに、英霊を召喚する英霊なんて聞いたことがない。
「...来て、マシュ!」
「...は?」
光が溢れ出す。
聞き間違いか?
今、マシュと....
考える暇もなく、光の柱が立ち上ぼる。
「...シールダー・パラディーン、マシュ・キリエライト、参上しました...お久しぶりです、先輩!」
そこに現れたのは、白い霊衣、
そして人の背丈ほどもある大盾を装備した...
マシュだった。