僕は、戦うことを選んだ。
まぁ幾つか理由はある。
一に曰く、僕がマスターとしての経験を積むため。
二に曰く、立香というサーヴァントの実力を知っておくため。
三に曰く、クー・フーリンからの信頼を勝ち取るため。
勿論、リスクはあるだろう。
二人は自信満々のようだが、生き物、負けるときはあっさり負けるものだ。
しかし、逃げるのだってまたリスクが伴う。
背中を狙われてはたまったものじゃない。
どっちにしたって危険なのだとしたら、出来るだけリターンのある方を選ぶべきだろう。
「...ドコニイル...サーヴァント。聖杯ハ、私ノ物ダ...ッ!」
「...ひゅー、
憶測だが、サーヴァントはサーヴァントの魔力を辿って探している。
だから、魔力の痕跡の偽造や気配遮断の魔術で具体的な位置の特定だけは避けられるはずだ。
...まさか対獣魔術の訓練がこんなところで役に立つとはな。
しかし、
「...大技一つでも放てば、すぐ位置は割れてしまう。だから、出来れば一撃必殺で頼みたい。そうすれば、少なくとも数の不利はなくなる」
物陰に身を潜めながら、作戦をまとめる。
要は、奇襲なわけだ。
ここで一人でも討ち取れれば万々歳だろう。
そして、好機にも孤立したサーヴァントを発見。
多分、クラスはアサシンだ。
「一撃必殺なら、クー・フーリンが適任中の適任だね」
「嬢ちゃん、俺の宝具まで知ってんかよ。まぁいい、今さら隠し事はなしだ」
「ほ、ほんとにやるのね。どのみち通らなきゃいけない道かもしれないけど...うぅ、心の準備が...」
『あれだよ?無理だと少しでも感じたら即撤退で頼むよ!』
「...善処する」
....深く、空気を吸い込んで吐き出す。
拳を握り、僕は令呪に意識を集中させた。
「じゃあ、いくぞ」
「おうよ!」
「令呪をもって命ずる!敵を穿て!クー・フーリン!」
令呪が輝きだし、同時にクー・フーリンの魔力が一回り以上大きくなる。
これが、令呪の効果か!
確かに、マスターの切り札と言われるだけはある。
「っ、何奴!?」
この異常な魔力の膨れ上がりに、当然アサシンは感づいてくる。
...が、もう遅い。
「奇襲で悪ぃが、その心臓貰い受けるッ!
「なァっ!?」
クー・フーリンの放つ、超絶の一撃。
それは音速を遥かに超越した速度でアサシンに迫り、その心臓を穿とうと躍起した。
いかにサーヴァントであろうと、その凄撃を受け流すどころか、回避すら儘ならない。
「がぁッ!?」
アサシンの急所を貫き、次の瞬間極大の衝撃が発散する。
猛風が吹き荒れ、瓦礫が飛び散り、目を開けているのがやっとだ。
令呪ブースト込みとはいえ、よもやこれほどの一撃を浴びせるとは...これがケルトの大英雄、クー・フーリンか!
「...っとぉ、いっちょあがり」
「...す、すごい」
オルガマリーが放心しつつも絞り出すように呟く。
...多分、僕も今似たような表情をしてる。
それくらい圧倒的だった。
『...はっ!み、みんな我に返ってくれ!サーヴァント一騎の消滅を確認したが、それと同時に残り二騎が超スピードで近づいてくる!厳戒態勢を!』
「あ、あぁ!」
呆けている場合じゃなかった。
これで、他サーヴァントにこの位置がバレた。
一騎削ったが、それでも数的には五分。
ここからが本当の戦いだ!
「■■■■■■■■ッ!!!」
「見ツケマシタ、残リノサーヴァント。聖杯ヲ、我ガ手二」
「へ、バーサーカーとライダーか。いけるか嬢ちゃん」
「うん、カドック指示をお願い。あとフォウをよろしく」
「フォウなら結構前にどっかに消えたぞ」
「あれぇ!?ま、まぁいつものことか....」
「ちょっと!戦いに集中しなさいよ!」
所長の叱咤に苦笑しつつ、立香は瓦礫を飛び越え前に出た。
もう、目に見える距離にサーヴァントは迫ってきている。
「立香!サーヴァントを二手に分断する!何でもいいから地面に向けて打ち込め!」
「了解!借りるね、クー・フーリン」
令呪を通して、僕の魔力を立香に注ぎ込む。
再び、召喚の光が弾けた。
けどさっきまでのとは違う。僕はそこに、新しい魔力の流れを感じた。
「んなっ!?そりゃ俺の宝具じゃねぇか!?」
「
召喚されたのは、まさかの槍。
しかもただの槍じゃない...あれはまさしく、先ほど超絶の威力を発揮したクー・フーリンの宝具、ゲイ・ボルクだった。
立香は力一杯、紅く光る槍を投擲した。
まるで、落雷でも落ちたかのような衝撃。
本家本元には限りなく劣るが、それでも地面に向かって投擲されたそれは、視界を覆い尽くす巨大な土煙を発生させた。
「■■■■■ッ!!!」
「...小賢シイ」
・・・
土煙の中を、カドックの指示通り進んでいく。
なるほど、むやみに二対二の状況を作って戦場を過激化させるでなく、一対一に分断することで確実に一騎一騎倒していく作戦か。
私は召喚した宝具、ゲイ・ボルクを構える。
私が召喚可能なのは、何もサーヴァント本体だけじゃない。サーヴァントの一部、つまり宝具やその概念としての伝承を召喚できる。
言い換えるなら...私は宝具を召喚したとき、その持ち主に近い身体能力と技量を得る、ということだ。
自分で言うのもなんだけど、中々にチート染みた性能じゃない!?
まぁ問題は、ぶっちゃけ自分で宝具を召喚して戦うよりも、
でも実は、サーヴァントの召喚には結構な魔力を使う。
だからむやみやたらに召喚しまくってたら、忽ちの内に魔力枯渇に陥ることだろう。
人間の頃の召喚人数の制限がなくなったり、私自身も戦えるだったり、メリットも多いけど、やはりデメリットも無視はできないのだ。
故に、召喚を宝具に抑えて魔力の節約をする必要が出てくるわけだ。
「さて...やれるだけのことはやろう」
いつだってそうしてきた。
やれる精一杯を尽くす。
それが、結局のところ私の全てだった。
...少しして、霧が晴れる。
「...誘導サレタ?マサカ、アノ人間ガ......?」
霧が晴れると、私と相対するライダーの姿が見えた。
最初の場所から、随分と離れたらしかった。
何気にカドックは凄いことをしてくれる。
対獣魔術の応用か...視界が不明瞭な中で、敵を向かわせたい方向へ向かわせる。
多分そういう技術なんだと思う。
「よし、取り敢えず分断は成功だ...あとは立香、お前の力を見せてくれ」
「うん、役に立ってみせるよ」
槍を構える。
初めての感覚だけど、それと同時に体に染みついているような奇妙な感覚だった。
「いやちょっと待て!?どうしてキャスターの立香が接近戦を!?」
「舐メルナ!」
ライダーが地を蹴った。
と同時に鎖が波打ち、私へと飛来してくる。
反射的に全てを弾き落として、私もライダーとの距離を縮める。
〔ガキンッ!〕
鈍い金属音と共に、武器をぶつけ合った衝撃が腕を伝った。
「っつぅ...」
「甘イ!」
衝撃に不慣れな私は、それを逃がしきれず、いとも容易く態勢を崩してしまう。
それを見逃してくれるほど、敵は甘くない。
「メドゥーサ」
「ッ!?」
瞬間、私に迫っていたナイフが弾かれる。
「ナニッ!?」
「ふぅ...なるほど、立香も人が悪いことをしてくれますね」
「ごめん、ありがと!」
メドゥーサはフッと微笑んで...次の瞬間には消えていた。
これは謂わば、瞬間的な召喚。
私の召喚は、目的に一番最適な霊基を作成して行われる。
それは今回みたいに、ただ一瞬の防御のための召喚、みたいな荒業もやってのけることができるのだ。
そして消費魔力も節約できてお得。
「ウグッ!」
一瞬前と、立場が入れ替わる。
予想外の防御から、ライダーの重心は大きく乱れる。
もう解放してあげよう。
私は、槍を構えて、
「
私はライダーに...聖杯によって汚染されたメドゥーサの心の臓目掛けて、槍をついた。
「ア...ァァ...ッ」
「...お休みなさい」
...辺りに、真っ黒に染まりきった灰がヒラヒラと舞い上がっていく。
霊基の完全消滅を確認して...私は振り返った。
「じゃあ、次はクー・フーリンのとこだね」
「...あ、あぁ」
・・・
「おいおいどーしたぁ!?動きが随分と錆び付いてるぜ?」
「■■■■■■■■ッ!!!」
「チッ、相変わらずバカみてぇにでかい声出しやがって」
「クー・フーリン!」
僕たちが駆けつけたとき、戦況はかなり安定していた。
クー・フーリンはバーサーカーを翻弄しているようだ。
「お、そっちは片付いたか。こっちは...まぁ、ぼちぼちってとこだな」
クー・フーリンはバーサーカーから一度距離を取って、僕たちは再び合流した。
「野郎、汚染の影響か...それに抗ってるせいか知らねぇが、随分と性能が落ち込んでるようだぜ。あれじゃただ燃費の悪いデカブツだな...けど、」
「12の試練、でしょ?」
立香が間髪入れずに答える。
どうやら立香は、あのサーヴァントの力の正体を知ってるみたいだ。
「はぁ~、物知りだなぁお前。ま、そういうこった。あれに生半可な攻撃は通らねぇ。そして殺しても何回か復活してくる」
その言葉に、脳内でピースが一つずつハマっていくような感覚を覚える。
「殺しても?12の試練?...まさかあのサーヴァント、ヘラクレスか!?」
「かぁー!!おいおいこれじゃあ有識者の面子丸つぶれだぜ!ま、頭のいいガキは好きだがよ」
「...ところでクー・フーリン、ヘラクレスを放置してていいの?」
「あ?...あー、あれ?」
「■■■■■■....」
ふと、バーサーカー...もとい、ヘラクレスに目を向けてみる。
ヘラクレスはただ、低く唸るだけだその場から動こうとはしなかった。
「襲ってこないね」
「多分...疲れたんだろう。終わりを求めているんだ...なんとなく、そんな感じがする」
バーサーカーとして理性を失い、本能を顕にし獣に近づいているからだろうか。
僕はその表情から、ほんの少しだけ感情を読むことができた。
「そうか、じゃあさっさと終わらせてやろう...と言いてぇが、俺じゃ火力不足だな...嬢ちゃんはどうだ?なんか隠し球を持ってそうだが」
「ある、にはあるけど...あんまり魔力を消費したくないな...カドック、魔力の方は大丈夫そう?余裕はある?できることなら、令呪を切って欲しいんだけど」
「あぁ、問題ない。令呪は残り二画ある、一画ならここで使ってもいいと思うぞ。どのみちカルデアに戻れば令呪は回復するし、出し惜しむつもりはない」
「分かった。じゃあ...やるね」
立香は低く呟いて、一歩前に出た。
二画目の令呪だ。
再び、手の甲へと全神経を集中させる。
「令呪をもって命ずる、思う存分蹴散らせ!立香!」
「オッケー任せて!」
一度そう口にすれば、これまでとは比較にならないような魔力の渦が、立香を中心に立ち上る。
令呪まで使って、一体誰を召喚しようというのか。
その疑問は、すぐ晴れる。
「さぁ、出番です!お願いします、ギルガメッシュ王!!」
立香は右手を天に掲げて、叫んだ。
ギルガメッシュ、と。
「待て、それは...あの英雄王、ギルガメッシュのことか!?」
僕がそう驚いたのと同時に、光の柱が天を突き抜けて更に奥へ奥へと上っていく。
それは目が潰れるくらいの神々しさを放ち、この終末世界のような街を覆い尽くすかのようだった。
今までとは、明らかに違う。
神でも降りてこようとしてるのか!?
「ッ、...あれ、は?」
光が晴れ...僕たちの目に移ったのは。
「ふはははははははは!!この
「ブフッ!?おま、何てもん召喚しやがる!?」
「火力と言えば王様一択だよ!」
「...まったく、毎度毎度、立香には驚かされてばかりだな」
もはや、乾いた笑いしか出てこない。
よし、考えるのはやめた。
僕は無心で、英雄王ギルガメッシュへと魔力を注ぎ込む。
「■■■■■■■ッ!!!」
「そう吠えるな、今こそ
ギルガメッシュは口端を吊り上げ、悪役の如き笑みを浮かべる。
そうして、手を空に掲げると...刹那、世界がヒビ入る。
英雄王の手には、武器が握られていた。
それはあまりに、異質な気配だった。
「あれが王様の対界宝具。乖離剣エアだよ」
立香がそう、そっと耳打ちした。
「さぁ、その極在を示すが良い、エアよ!原初の理、天上の地獄。墜ちた英雄よ、この一撃をもって安息を享受せよ!
「■■■■■■■■■ッーーーー!!!」
それは、抵抗の一縷も許さない極大の一撃。
世界が崩壊するかのような、まさに規格外の規模で放たれた対界宝具。
ヘラクレスはいとも容易く蒸発して、消えた。
...オーバーキルが過ぎやしないか?
その所業は、王の中の王としての実力を見せつけるためか、はたまたかの大英雄への敬意故か。
どちらにしろ、色んな意味で絶句する他なかった。
「...ふん、
ギルガメッシュが心なしか、上機嫌な様子で地に降りてきた。
「あ、ごめんなさい王様。多分、あと十秒と霊基が持たないかと...」
「なにぃッ!?貴様雑種!これでは本当に
「また、その...今度はもっとゆっくりできる霊基で召喚します!今宵の御礼はそのときに」
「ぬぅ、英雄王に剣を抜かせた挙げ句、あまつさえ応接の用意もないとは!召喚者が貴様でなければ、既にその首を切り落としていたわッ!」
ギルガメッシュは大層ご立腹なご様子だが...それでも本気ではないらしかった。
謂わば、王としての体裁のための叱咤なのだろう。
「まぁいい、此度の
「...む、そこな雑種」
「え?」
突然、ギルガメッシュが僕に鋭い視線を飛ばす。
「...な、なにか?」
ギルガメッシュはジロジロとなめ回すように、くまなく僕を見回した。
そして、茶化すような人の悪い笑みを浮かべて、立香に言の葉を飛ばす。
「サーヴァントになろうとも、愛する者の元へ召喚されようとは...中々に健気な女ではないか?藤丸立香よ」
「...え?」
...言葉の意味が、よく分からなかった。
ん?誰が誰を愛してるって?
気のせいだろうけど、立香が僕を愛している、という文脈のように思えたのだが...
「...な...なっ!」
「ん?」
「何言っちゃってるんです!?え?ど、ど、どういう意味ですかそれ!?わた、わたわた、私が!?カドックを!?」
「まさか貴様、覚えていないのか?...ふはははははははは!!そうかそうか!!それは間の悪いことを言ったな!赦せ雑種!」
ギルガメッシュは大層愉快そうに高笑いしつつ、下半身から徐々に消え始めていく。
「ま、待ってください!ちょ、ちょっと!待て、待てコラーー!」
「面白いものを見た!興じさせて貰った礼に、今宵の無礼は全て水に流してやろうではないか!!ではな雑種どもよ!この英雄王と
「.......」
最後まで、英雄王は、それはそれは愉快そうに笑い続けた。
もうあれは、英雄王というより愉悦王だろ。
なんてわけの分からないツッコミを考えてしまう。
「...あー...よし、取り敢えず...戻ろうぜ?」
何事なかったかのように歩きだしたクー・フーリン。
その背を見つめながら...僕たちは気まずい沈黙の中に立ち尽くすのだった。
人類最後のマスターなカドックは、本編よりもメンタル面に上方修正が入ってます。
自己肯定感がわりと一般レベルには持ち直している感じ。