少し、思い返してみる。
生前の私が、どんな人間だったのか。
人理修復の戦いの中では、あまり色恋沙汰への頓着はなかったと思う。
そりゃあ、魅力的な
それでも、私は誰か一人を選ぶようなことはしなかった。
しなかったというか、出来なかったというか。
私は凡人だったから。
楽しい思いをしている暇なんてない、人一倍、いや三倍頑張らないと、世界なんて到底救えない。
無意識だったかもしれないけど、確かにそんな想いを持ってた。
恋はしたかった。女の子だもん。
けど、それは駄目なんだって、蓋をしてたんだ。
訂正しよう。頓着がなかったんじゃなくて、その余裕がなかった。
カドックには...なんと言うか、シンパシーのようなモノを感じていたと思う。
カドックは、自分を凡人だと卑下することがあった。
そこに、私を重ねてしまっていたような気がする。
いや勿論カドックの方が魔術の才能もあるし、私と比べたら全然凡人じゃないと思うけどね!?
そもそもカドックが比べてるのは、キリシュタリアとかディビットとか...その辺りの外れ値だったし。
私が重ねていたのは、心の在り方だった。
そして何より、劣等感の中で必死に踏ん張り続ける強さに惹かれてた。
惹かれてた...そう惹かれてたんだよ本当は!
だって、自分とマシュと新所長とシオンと、そしてカルデア職員のみんなくらいしか人間がいなかった中で、唯一歳の近い男の子なわけで。
そして凄く頼りになる先輩で。
...逆にそういう気持ちにならない方がおかしいって話だよ。
まぁ結局、あの頃の私は、それに気づいてなかった...というか気づかないようにしてたんだと思うけど。
さてそれが、人理修復を成して、ただの一般人に戻った私ならどうだろう。
もうなにも気にする必要もないし、誰にも気をつかう必要がない。
そんな時、カドックと再会したら。
...うぅーーーーーーーーーっ!!!!(悶絶)
「...か」
い、いや待て。
そもそも王様の発言が真実とは限らないのでは!?
「...つか!」
そうだよ、もー王様ったら、雑な召喚の腹いせにとんでもない地雷を置いてっちゃってさ!
「立香!」
「わぁっ!?」
「おい、大丈夫か?」
「え、何が?全然大丈夫だよ!?ちゃんとご飯食べてるし睡眠だってしっかりと!」
「いやお前はサーヴァントだろ...」
...しまった、つい反射的に答えてしまった。
昔はよくカドックに「ちゃんと食事は取ってるのか?睡眠は足りてるか?休息は大事だぞ」なんて聞かれてたから...その癖で。
「まぁ、なんだ。嬢ちゃんのことはよく分からねぇが、サーヴァントが知らないところで縁を作ってた、なんてよくある話...かは知らねぇけど、あるにはあるだろ。坊主に覚えがねぇんなら、そう気にする必要もないんじゃねぇのか?」
クー・フーリンの優しいフォローが沁みる....
「そう、だね。変に考え込んで、気まずくなる...なんて目も当てられないよね。ごめん、切り替える」
私は、両の頬にペチンと渇をいれた。
...なんてやり取りをしている間に、私たちは開戦地付近へと戻ってきていたのだが。
〔ドンッ!バキンッ!ガシャンッ!〕
かなーり穏やかではない音が響いていた。
「まさか所長、襲われてる!?」なんて走って駆けつけてみれば、現場は想定外の事態へと発展していた。
「やぁ!!とぉ!!!日頃のストレス!!解消!!私が!!何をしたってのよ!!アタック!!」
『凄いよ所長!!今のハイキックは得点高いです!!負の感情をこれでもかと感じる!流石所長!!』
「褒めてるのか貶してるのか、一体どっちなのよ貴方は!!」
「...何してんだ、アイツら」
なんか...元の場所に戻ってきたかと思えば、所長が低級の魔物を相手に無双してた。
それを、ロマンが楽しそうに観賞している。
さながらプロレスの試合を観ているかのように。
『あ、お帰りみんな!無事で何よりだよ』
「あ、やっと戻ってきたのね貴方たち!!遅いわよもぉ!こっちはこっちで大変だったんだから」
所長がプリプリと怒る。
いや、あんまり機嫌悪そうな感じないな。
凄く充実した時間だったんだろう。
「...それにしては、肌のツヤが格別に良くなってるようだが」
「随分とアグレッシブじゃねぇかよ。あんなにビビってた癖にな」
「そりゃあ、低級の魔物とサーヴァントとじゃ話が変わってくるに決まってます!...えぇ、こほん。よくやったわ、三人とも。これでやっと、腰を据えて話が出来るというもの」
最後の骸骨にジャーマン・スープレックスを
「...実は、あんまり怒らせない方がいいのか?この嬢ちゃん」
「私も所長にこんな一面があるなんて知らなかったよ」
『流石に人相手にあれはやってこないと思うよ??』
「そこ、こそこそと何を話してるのかしら?」
所長に睨み付けられ、少々ギョッとしつつも、口笛を吹いて誤魔化した。
「...ま、取り合えずあの家に戻ろうや。その方が落ち着いて話せるだろ?」
クー・フーリンのその提案に、私たち全員は頷いたのだった。
・・・
そうして、僕たちはクー・フーリンから、この特異点についての話を聞くことが出来た。
『...つまり、貴方はこの聖杯戦争唯一の生き残り、ってことですか?』
「負けてない、って意味ではな」
クー・フーリンがため息混じりに言う。
先も言っていた通り、この場所、冬木では聖杯戦争が行われていた。
しかしある時突然炎が全てを攫い、街から人間が消え失せた。
残ったのはサーヴァントと魔物のみ...しかしそのような状況にも関わらず聖杯戦争は終わらなかった。
つまり、聖杯戦争だったそれは、別の狂った何かへと変貌してしまった、ということらしい。
「経緯は俺にも分からねぇが、真っ先に聖杯戦争を再開したのはセイバーのヤロウだ。奴の手で、アーチャー、ライダー、アサシン、バーサーカーが倒された」
「うん?そのうちの三騎と...さっき戦わなかったか?」
「あぁ、どうやら、セイバーに負けた奴は真っ黒い泥に汚染されるらしい。連中はボウフラみてぇに湧いてきた怪物どもと一緒に、何かを探してるようだ。そして面倒なことに、その中には俺たちサーヴァントも含まれている。なんてったって、残りのサーヴァントを倒せば聖杯戦争は終わるんだからな」
『では、セイバーを倒すことが出来れば、逆に僕たちがこの聖杯戦争を終わらせることが出来る...ということかな?』
「セイバーだけじゃないでしょ?今の話に、キャスターが倒された、なんて情報はなかったわよね?聖杯戦争は七つのクラスの七騎のサーヴァントによる戦争。当然、そこにはキャスターのサーヴァントもいるはずよ」
「あぁ、そういうことか」
なるほど、ようやく合点がいった。
「そういうことって、何が?」
「よく思い出してみてくれ。僕たちが最初にクー・フーリンと出会った時、彼が言ってたことを。共闘しよう、そう言ったんだ。つまり、クー・フーリンは僕の契約したキャスターのサーヴァントを、この聖杯戦争にて召喚されたキャスターのサーヴァントだと勘違いしていた、ってことだろう?」
「その通りだ...が結局、関係なかったようだがな。実のとこ、キャスターのサーヴァントだけは、この聖杯戦争が始まってから一度も見てねぇんだ。異変が起きる前も後もだ」
『それは...かなり不気味な話だね。まさか、何処かから奇襲でも狙ってるんじゃないかい?』
「いや、ちょっと待ちなさいよ」
オルガマリーが、何かに気づいたような表情で、立香を見つめた。
「そのキャスターって...この子なんじゃないの?」
「...は?」
かなりの突拍子のない意見に、思わず困惑の声が漏れてしまう。
「あり得ねぇだろ。そいつぁ、その坊主が召喚したサーヴァントなんだろ?聖杯戦争が始まったのは、お前らがやって来るよりずっと前だ」
『そうだね。それに、聖杯戦争とカルデアの英霊召喚は少しだけ違う...カルデア式英霊召喚を構築したのは前所長で、これは聖杯戦争のための英霊召喚ではないはずなんだ...ん?いや待てよ?』
...そこで、僕はふと思い至ってしまう。
「...カドック...貴方、どうやって英霊を召喚したの?」
「あ?どう言うことだ?なんでそんな話になる?」
『そ、そうだ。そうだよ!おかしいんだ!どうして気づかなかったんだ!カルデア式の英霊召喚は、英霊が集う円卓によって安定する。その役割を担っていたマシュがいない、そして触媒もない中で、個人が易々と召喚が行えるわけがなかったんだ』
「...あぁ、そうだ、その通りだと思う」
思い出した。
僕が、どうやって立香を召喚したのか。
【告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ】
これは、カルデア式の英霊召喚の詠唱じゃなかった。
これは...聖杯戦争。
そのマスターとなるための詠唱。
つまり...立香は。
「なんだか話が見えてこないんだけど...もしかして私って、この聖杯戦争によって現界したサーヴァントだった...ってこと?」
「その可能性が高いだろうな」
「マジか、んなことあるのか?いや...この聖杯戦争自体、最早成立してないようなもんか。だから、ありえねぇ話でもない...のかもな」
「じゃ、じゃあ。私って聖杯を破壊したら...座に還されちゃうってこと?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない...今はまだなんとも.....」
『そもそも、サーヴァントとの契約は特異点修復までって話だし、それは仕方ないんじゃないかい?』
「ロマニ!貴方はちょっと黙ってなさい!」
『え、えぇ!?ご、ごめんなさい?』
...ロマニの言うことは正しい。
所詮、サーヴァントとマスターの関係は一時的なものだ。
いかに絆を育もうとも、いかに共に困難を乗り越えた記憶があろうとも...相容れることはけしてない。
それこそ、聖杯に願わない限り。
「...そういうことなら、仕方ないか」
立香は、何処か遠くを見つめ、呟くように言った。
「よーし、それはそうと、やることは決まったね!私たちでこの歪んだ聖杯戦争に終止符を!セイバーなんてなんのその!私たちの力を見せてやろう!」
「...あぁ、そうだな」
...僕には、彼女との記憶がない。
けど、彼女は僕を知っていた。
それが、いつどのようにして作られた縁なのか、推察も及ばない。
それはきっと、未来の話だから。
はたまた、並列世界での出来事かもしれない。
彼女の目に僕はどう写っていたのか。
僕は彼女をどう想えばいいのか。
分からない、なにも。
けど...それでも、
...僕はどうしようもなく...立香のその空元気に心を乱されてしまっていた。
出会いと別れこそ、マスターとサーヴァントの宿命なのであった。