「大聖杯はこの奥だ。ちぃっとばかし入り組んでるんで、はぐれないようにな」
クー・フーリンが先頭に立ち、僕たちを案内する。
なんだろうか、洞窟?
街の中にある空間として、酷く場違いな感じだ。
ここだけ、まるで別世界であるかのような....
「雰囲気あるねぇ」
「お化けでも出そうってか?」
「うん」
「おぉ、肯定されちまったぜ」
『まぁ実際、その手の魔物がチラホラいるようだし、
「遠足気分かしら?貴方たち」
「.....」
談笑が起こっては、沈黙。起こっては沈黙。その繰り返しの道中。
突然「あ、」っと、何かに思い至ったかのようにオルガマリーが声を上げた。
「そう言えば大事なことを聞いていなかったわ。クー・フーリン、貴方セイバーのサーヴァントの真名を知っているの?」
「お、そうだったな。勿論知ってる。奴の宝具を見りゃ、誰だってその正体に辿り着くからな」
「そんなに有名な宝具なのか...つまり、余程の威力があるんだろうな」
「あぁ、他のサーヴァントがやられたのも、アイツの宝具が強力すぎたからだ」
『そ、それはまた肝が冷えるね....』
「それは、王を選定する岩の剣のふた振り目。お前さんたちの時代において最も有名な聖剣。その名は....」
「
「ッ!?」
突如、クー・フーリンの台詞を横取るように、そんな声が上がった。
閉鎖空間において、反響と共に聞こえてくるそれは、僕たちの誰かが発したものではなかった。
つまり、新手だ。
「...騎士の王と誉れ高い、アーサー王の持つ剣だ」
「あれは...まさか、アーチャーのサーヴァント!?それとも、実は生きていたキャスターのサーヴァントかしら?」
「キャスター?ふむ、何故そのような選択肢が上がってきたのかは分かりかねるが...私はアーチャーのサーヴァントで差し支えない」
「言ってるそばから信奉者の登場だ。相変わらず聖剣使いを守ってんのか?テメェは」
「信奉者になった覚えはないがね...まぁ、迷惑な来客を追い返すくらいの仕事はするさ」
「要は門番じゃねぇか。何からセイバーを守ってるか知らねぇが、ここらで決着をつけようや。俺ぁ、こんな長ったらしぃクソゲーから早く上がりてんだよ」
「...その物言い、事のあらましについては何も知らないようだな」
「...なんだと?」
「まぁいい。知らないなら知らないでそれで良し。はた迷惑なクレーマーを、さっさとこの剣で追い返してやろう」
「ハッ!弓兵がほざきやがる!」
何やら因縁を感じさせる掛け合いの後、二人は臨戦態勢へと移った。
少し遅れて、立香も再び
恐らく、立香は次の戦いを見据え、可能な限り魔力を温存したいのだろう。
それに、今回はアーチャー一人に対して、こちらのサーヴァントは二人だ。
「なに?それは投影魔術...いや違うな。私の扱う贋作でなく、本物のゲイ・ボルクのようだ。...ふん、キャスターがランサーの真似事などと...」
「アーチャーのくせしてセイバーの真似事やってる奴が何言ってやがる...と言いてぇが、嬢ちゃんよぉ。マジで
「ある程度ならクー・フーリンの身体能力と技量も
「問題ない。実際、立香は近接戦でライダーを倒している」
「そいつぁいいな。んじゃ、足引っ張んなよ!」
クー・フーリンは我先にと、地を蹴る。
ここから先は、サーヴァントたちの音速を超えた神速の世界だ。
邪魔にならないよう、オルガマリーと共に自衛に努めよう。
・・・
クー・フーリンが一番槍を入れ、そこから二撃、三撃と次々に叩き込んでいく。
...邪魔にはならないよう適切に間撃を入れよう...とか思ってたけど、甘かった。
近接系サーヴァント同士の戦いは、私みたいな外付け強化のキャスターが間に入れるほど、穏やかなモノじゃなかった。
...なら、と。
「
宝具の真名を解放する。
中途半端な横入りが無理なら、大胆に行こう。
これは、因果逆転の槍。
多少無理があっても、その結果を先に作れさえすれば!
「オラァ!!!」
「ぐ、」
クー・フーリンの腰の入った一撃に、エミヤが後方へ一時退避する。
今だ!
私は全力で地を蹴って、エミヤに突撃する。
「やぁっ!!」
「ふんっ!」
...けど、現実はそう易々とはいかない。
私の一撃は、危なげなくエミヤに弾かれる。
くそう、これって必殺の槍のはずじゃ...もしかして、私が未熟すぎたせい?
不可能な結果は作り出せない...のか。
ってヤバッ!
「考え事とは余裕そうで何よりッ!!」
「うぐっ!?」
超速の薙ぎが、私目掛けて放たれる。
どうにか間一髪のところで槍を挟み込んで、防御の形は取った...けど、私は完璧にその衝撃を受け止めることは出来ない。
いやそれどころか、両手で受け止めた私に対して、片手のエミヤはそのまま腕を振り抜いた。
私は後方へ激しい慣性を受ける。
勢いそのまま、洞窟の側面に強く打ちつけられた。
肺の中の酸素が、強制的に押し出されて...意識が、飛びそうになる。
「立香!」
「まずは一人目だ」
「たい、きゅう、C...舐めんな!」
「な!?」
私の首筋へ的確に振り下ろされた、短剣...すんでのところで、私は槍にてそれを防ぐ。
「ァァァァアアッ!!」
呼吸の出来ない苦しさを圧し殺して、私は無我夢中に槍を振るった。
一瞬、エミヤは私の対処で、クー・フーリンから意識を逸らしてしまう。
「いいガッツだぜ嬢ちゃん!」
「しまっ、」
「隙を見せたな弓兵!これで終いだ!冥土の土産に味わっていきな!これが本家本元の
禍々しい
クー・フーリンが地を蹴ると、槍はまるでエミヤの心臓に吸い寄せられるかのように...
「させる、かッ!!」
しかし、流石は歴戦の猛者。
すんでのところで、エミヤは槍を横に弾いた。
脇腹を抉りながらも、確実に急所からを守りきってしまう。
...けれど、
「いや、言ったろう、終いだとな」
瞬間、槍は物理法則を完全に無視した挙動で、再びエミヤの心臓へと躍動した。
これこそ...因果逆転の効果。
今度こそ確実に...槍はエミヤを貫いた。
〔グチャッ〕
「...どうやら、この場は私の敗けのようだな」
貫かれた胸を見つめて...エミヤは静かに呟いた。
クー・フーリンは、「ケッ」とその態度に悪態をつく。
「なぁにがこの場は~だ、格好つけやがってよ。別に嬢ちゃんがいなくたって、テメェくらい狩れてたっての」
「ふ...それは、やってみない限り分からないな」
...エミヤの体が、崩れ始める。
「では、いくがいい。ここで、私の仕事は終わった。最早引き留めておく理由はない」
「...エミヤ!」
「...なんだ?」
無意識に...そう口をつく。
理由はない。
本当に、無意識だったから。
...でも、あれ?
なんで今...私のエミヤって呼び掛けに...応じてくれたの?
「...えっと、あの」
「...ふむ、あの新米マスターが...随分と逞しくなったものだな」
「え...それって」
「あぁすまない、忘れてくれ。君と、剣と槍を交えている時、一瞬見えてしまっただけだ。これは本来、この私が持っているべきではない
「......そっ、か。うん。じゃあ、またね...エミヤ」
「あぁ。縁があれば、また相見えることになるだろう。もうお互い、サーヴァントなのだからな」
エミヤは...まるで少年のように爽やかな笑みを浮かべ...消えていった。
うん、やっぱりエミヤはエミヤだね。
皮肉屋で現実主義だけど、根にあるのはやっぱりお人好しさだ。
「立香!大丈夫か!?」
それからすぐに、カドックと所長が駆け寄ってくる。
いやぁ...カドックには格好悪いところ見せちゃったな....
サーヴァントになったからって、浮かれて調子に乗ってた...みんなと戦えることが嬉しくて。
流石にキャスターが近接戦は良くないのかなぁ。
けど私の場合、キャスターだけど魔術が使えるわけでもないので、戦い方ってのが必然的に決まってしまう。
サーヴァント頼りか、外付け強化の近接戦...あれぇ?もしかして、私の性能って結構ピンキリ?
「あのアーチャー、汚染の影響を受けていた筈なのに、信じられない強さだったな...怪我は...ないわけがないな」
「ごめん、素直にクー・フーリンに任せておけば良かったね....」
「ったく、何しょぼくれてんだよ。確かに勝つだけなら嬢ちゃんは必要なかったかもしれねぇ。しかし、嬢ちゃんの助太刀で、
『そうそう、凄い槍捌きだったよ』
「ロマニを見てみなさい。何もしてないのに偉そうにふんぞりかえってるわよ」
『酷くないかい!?僕だって一応敵性反応を事前に伝えているじゃないか!?』
「みんなぁ...ありがと」
あぁ、なんて優しい世界...ここにカドックからのフォローまで加わっちゃったら、これまで以上に頑張れちゃいそうだな...チラチラ
「...立香」
「うん」
「ちょっと触るぞ」
「うん?え、今なんt、ひゃんっ!?」
な、ななな、なんかカドックが背中に腕を突っ込んで来たんですけど!?
やだ、ちょ、そんな、えぇ!?
「なんだ坊主、辛抱堪らなくなったか?」
「カドック!?ちょっと!何してるのよ!」
『...最近の子は大胆だなぁ』
「いや、誤解だ。治癒魔術をかけたいだけだよ」
「ち、ちゆ?」
ビックリした...そっか、そうだよね。
そう言えば、背中がすっごく痛いや。
結構強めにぶつけたもんね...心配かけちゃってたみたい。
「ありがと、カドック」
「ん」
「...けど、乙女の柔肌に無遠慮に触れてくるのはどうなのかなぁ?」
「ん?あ...そ、それは悪かった」
「もう...カドックじゃなかったら、流石の私もひっぱたいてたかもだよ」
「す、すまん....」
「...じゃあ、はい。これでやり易いかな?」
私はカドックに背を向けて、上着を捲り上げる。
「...先に進んどくか」
「そうしましょう」
『ゆっくりでいいからね、二人とも』
「もう、ちょっとした魔物くらいしか、ここに脅威はいねぇからな。俺たちは帰ってこねぇぞ。どれだけお前らの治療に時間が掛かっても絶対確認しに戻ることはねぇからな。あと、この洞窟から出たら、なんとなくルーンで防音魔術を掛けとくからな。なんとなくな。じゃあ、ごゆっくり」
「なんだか世迷い言が聞こえるわね。さっさと行くわよ変態オヤジ!」
「いってぇ!?蹴りをいれるな蹴りを!悪かったって!」
...??
なんだか良く分からないけど、クー・フーリンは所長に引っ張られながら、先に進んでいった。
・・・
あれから少しだけ、沈黙の時間が流れた。
硬い地面に座って、カドックに背を任せる。
ゆっくりと...カドックの魔力が流れてくる。
まるで、染み込んでいくみたいに。
どうやら、治療には魔力の補充も兼ねてくれているようだった。
「...いい機会だな」
沈黙を破ったのは、カドックだった。
「うん?」
「立香、実はお前に聞きたいことがあったんだ。その...言いにくかったら、別に強いる気はないんだが」
カドックは治癒魔術を続けながら、遠慮気味に言う。
「勿論、私に答えられることなら何でも答えるよ」
「...そうか」
背を向けているから、カドックの表情は分からない。
けど、なんとなく緊張しているような気配を感じていた。
「...僕は、お前のなんだったんだ?」
「.......へ?」
そうして飛び出してきたのは...予想だにしていなかった質問。
同時に、私自身が一番知りたいことでもあった。
「分からないんだ、お前との接し方が。ただのサーヴァントとマスター、そう割り切ることが出来ない。自分でも分からないんだ。お前といると、お前を見てると...心臓の奥の、何かがくすぐられる...他人だって思えない。ずっと前から一緒に戦ってたような感覚を...まるで、前世の思い出のように、微かに感じるんだ」
「...それは」
どうして、カドックが突然こんなことを言い出してきたのか。
考えられる理由としては、パッと出てくるものが一つある。
カドックは私と契約したことで、私の記憶の一端に触れてしまったのではないだろうか。
私の、人理修復の旅路の記憶。
そしてもしかすると、それ以上の...人理修復を終えた、その後の記憶にも干渉している可能性はある。
「私と、カドックは.....」
「......」
「...あ...う」
上手く、答えられない。
だってまだ、私自身でも答えを見つけられてないから。
...カドックとの関係。
先輩と後輩?いや、そのことじゃない。
人類最後のマスターとクリプター?いや、論外だ。
やはり、この答えは私の覚えてない領域に存在しているんだと思う。
そう、答えられず押し黙る私を見かねて...カドックは後頭部を掻いた。
「...すまない。答えられないなら、それでいい」
「待って!...ふぅ、答える...ちゃんと答えるよ」
何故だか分からない。
ただ、決着をつけたかった。
その為に、答えなきゃいけないと思った。
私には記憶がない。
全て終わった後の、カドックとの思い出がない。だから分からない。
...それは嘘だ。
覚えてなくても感じるモノがある。
この形容し難い温かさの中に、ちゃんと答えはあるんだ。
これはきっと間違いじゃない。
カドックの問いの本質は、解じゃなくて、確認なんだと、やっとその時に気がついた。
答えは、決まった。
(...落ち着け、落ち着け)
心臓が、煩いくらいに早鐘を打ってる。
それは多分、背中に触れてるカドックにも伝わっている。
それがとても恥ずかしいような...それでいて心地好いような、不思議な感情に包まれる。
「...私と...カドックはね、」
私は徐に脱力して...カドックに、身を寄せて、
「...こういう関係...だったんだよ?」
そう...精一杯の上目遣いで...伝えきったのだった。
キャーーーーーーーーー!!!(赤面)