もしもカドックがぐだ子を召喚したら?   作:ぬぬっく

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筆が乗りすぎるな。


プロローグ・終

...時間だけが、ただ流れていく。

瞳を合わせながら、その沈黙に、ただ身を任せている。

 

...ピタッと肌を合わせると...トクトクと、お互いの心音が混ざり合う。

最初は合わなかった歩調も、徐々に一つになっていく。

さながら、メトロノームみたいに。

 

...こんな関係。

記憶もないし、故に確証もない。

でも、確信はあった。

だって...この位置に、私は一番安心を覚えているから。

カドックに身を預けて、その温もりを感じている時間に...どうしようもないくらいの、幸せを感じているから。

 

「...ごめん。こんなこと言われたって困るよね...だって、貴方は私の知っているカドックじゃない。貴方にとっての私は、ただのサーヴァント」

 

「...さっきも言っただろ。お前とは他人な気がしないって。...幾分か、納得がいったよ。どうして立香が、そんな好意的に接してくれるのか。あんまり、実感は湧かないけどな」

 

「だろうねぇ」

 

...召喚された時は、凄く、嬉しい気分だった。

不謹慎なのは承知の上だけど...カドックと一緒に人理を修復する旅が出来るってことが、純粋に嬉しかった。

カドックへの気持ちを思い出すにつれて、それは増していった。

 

...けど、それは無理だと知った。

私は、この特異点F限定のサーヴァント。

修復すれば、それでバイバイするだけの協力者に過ぎない。

カドックには、ついていけない。

 

...サーヴァントなんて、そんなものだ。

会いたい誰かがいたとして、好き放題会えるわけがない。

会えたとしたら...それは、途方もない奇跡の所業であって、決して必然とはなり得ない。

だから、一つ一つの縁に想いを綴るのだ。

それが、マスターとサーヴァント。

 

「...分かってる。分かってるよ」

 

...やだなぁ、もう。

ほんと、バカみたい。

当たり前の事なのに...それはただの摂理でしかないのに...

 

「温かいなぁ、カドックは」

 

「立香?」

 

「ごめん、なんか目から汗が...変だよね。こんなの。カドックから見たら、よく分からない女の子が、よく分からず急に泣き出しちゃってるんだよね。あはは、何それ、滑稽すぎ」

 

「......」

 

自分が情けない。

自己嫌悪で更に涙がこぼれる。

 

...私は、カドックと離れたくない。

サーヴァントになって、再び出会えたこの奇跡の中で、永遠の夢を見ていたい。

それは、叶わないって、分かってるから。

だから、どうしようもなくなって、泣くようなことしか出来ないんだ。

 

...やだなぁ...こんな姿、見せたくなかった。

 

「...立香、聞いてくれ」

 

「...うん」

 

「聖杯に願おう。受肉して、一緒にカルデアに行けばいいじゃないか。ロマニも、オルガマリーも賛成してくれるさ。そもそも、私情を抜きにしたって、僕らには立香の力が必要だ...だから」

 

「...ダメだよ、それは」

 

「何故だ?」

 

「...今度こそ、助けなきゃいけない人がいるの。それに、カドックなら私がいなくたってやっていけるよ」

 

「...分からないな。それは、お前だけが知っている何かの事実なんだろうけど...立香は、それでいいのか?...どうして僕なんかを好いてくれるのかは分からない。一体僕が立香とどんな苦難を乗り越えた来たのか知らない。それでも、立香にそんな顔をさせちゃいけないってことくらい...僕にも分かる」

 

「...そんなこと言われたら、もっともっと離れたくなくなっちゃうじゃん」

 

「.....」

 

「...じゃあ代わりにさ。一つ、我儘を聞いてくれない?」

 

「あぁ。僕に出来ることなら」

 

...今から私がするのは、きっとズルいことだ。

カドックの優しさにつけこんで、最低なことをしようとしている。

この世界のカドックには、これから先沢山の出会いがある筈だ。

それはもしかしたら、私じゃない、運命の誰かとの出会いもあるかもしれない。

その上で私は...卑しくも、強請(お願い)する。

 

「目...つむって」

 

「...うん」

 

カドックは、素直に瞳を閉じた。

これから、何が起こるのかを分かった上で、閉じてくれた。

 

沈黙の中では、服が擦れるような微かな雑音でも、何一つ漏らすことなく耳に届く。

それは私に、私の挙動一つ一つを実感させる。

その罪深さを、自覚させる。

 

あぁ、もういいじゃん。

罰なら、幾らでも受けるよ。

 

私はカドックの首に手を回して、

 

「...ん」

 

静かに...唇と唇を重ね合わせた。

 

「...ふふ、もういいよ」

 

「...分かってはいたけど...やっぱ恥ずかしいな」

 

「カドックの初めてを貰っちゃった~。これから出会う運命の美女たちに申し訳ないなぁ~」

 

「茶化すなよ」

 

「ごめんごめん」

 

...この召喚は、きっと鮮烈な記憶となる。

この口付けは、座に戻った後も、新しく召喚された後も、決して忘れることは出来ない。

それが、私への罰。

この想いに、これから先一生苦しみ続けるんだ。

 

「...じゃ、行こっか」

 

「...あぁ、行こう」

 

そうして私たちは、また進み始める。

この特異点を、終わらせるために。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

「お、結構早かったな」

 

洞窟は、数分ほど歩けば抜けることが出来た。

抜けた先で、僕らはすぐに二人を見つける。

 

「...これは...これが、大聖杯。信じられないな、最早魔力の底すら分からない」

 

「こんな物が極東の島国にあるんだもの。この特異点の異質さが分かるわね」

 

『いや、大聖杯自体は史実でも存在したよ?どうやらアインツベルン家が製作したらしい』

 

「え、そうなの!?いや、そうなのよ。分かってたわよそんなの!」

 

「...お喋りはここまでだ。(やっこ)さん、痺れをきらして顔を出してきたぜ」

 

クー・フーリンの注意喚起に、僕たちは顔を上げる。

 

これが、最後の戦い...敵は、セイバー。

しかも、その真名...正体は、世界で最も有名と言っても過言ではない、ブリテンの王。アーサー王なのだ。

いくら数の利がこちらにあろうとも...厳しい戦いとなるだろう。

 

「...え?」

 

「うん?」

 

そうして見えたその姿に...僕とオルガマリーは同時に疑問符を上げた。

 

『なんて恐ろしい魔力出力量...計測器がイカれそうだ。気をつけて、みんな。かの王との戦いは、今までの戦い以上の苦戦を強いてくることが確約されている』

 

『...って、所長?カドック君?どうしたんだい?』

 

「いや、えっとだな...あれが、アーサー王?」

 

『あぁ、性別が違うって話か。確かに、伝説とは異なっているようだね。恐らく、男装でもさせられていたんだろう。ほら、男の子じゃないと王座にはつけないからね』

 

「それも、だけど!いや、だって...」

 

「「この顔見たことあるんですけど!?」」

 

「おぉ、息ピッタリだなお二人さん」

 

「むむむ...」

 

『見たことあるって、どういう?』

 

そう、見たのだ。

何処でって?

最初も最初...襲われているオルガマリーを救出するため、立香が召喚した、アルトリアと呼ばれる金髪の騎士。

髪色や雰囲気こそ違えど...間違いない。同一人物だ。

 

「...ほう、面白いサーヴァントがいるな」

 

「なっ!?テメェ、喋れたのかよ。だんまりを決めてやがったな!?」

 

突然、アーサー王の口角が若干上がったかと思えば、そう話しかけてきた。

クー・フーリンがややオーバーリアクションで応対する。

 

「あぁ、何を語ろうとも見られている...故に案山子(かかし)に徹していたが...だが、その宝具は面白い」

 

「...わ、私のこと?」

 

「気配がするのだ...数多の英雄たちの気配だ。そこの娘。貴様の宝具は、縁そのもの...面白い。見せてみろ、その証を」

 

「立香、無理に反応する必要はない」

 

「......」

 

...しかし立香は、静かに、アーサー王に手の甲を向ける。

次の瞬間、立香のその手が、輝き出す。

現れたのは、紅い模様。

見間違う筈もない...だってそれは、

 

「...それは、令呪か?」

 

「元はね...けど、少し違う。これは、令呪が宝具として昇華されたモノ。謂わば、記録であり、縁の集約物ってとこかな」

 

「なるほど、嬢ちゃんはサーヴァントのマスターとして座に記録されたサーヴァントだったってことか...へぇ~、んなこともあるんだねぇ」

 

「...数多の英霊を従え、その存在を世界に証明した者...ただ指揮が上手いだけでは、こうは成りえまい。...面白い、ならばこの剣で、貴様の人生を見定めてやろう」

 

アーサー王は、徐に剣を構えた。

それは、ただ両の手で強く握り、振り上げるだけのシンプルなもの。

 

...が、なんだ、この悪寒は?

 

「来るぜ!宝具だ!防いでくれるよな、嬢ちゃん!」

 

「...うん、出し惜しみはなし」

 

立香は力強い眼差しで、アーサー王を見上げる。

 

...戦いが、始まろうとしている。

僕も、出し惜しむ必要はないな。

 

「令呪をもって命ずる!...フルスロットルだ!二人とも!」

 

「おうよ!」

 

令呪のブーストで、二人の魔力が一段と上昇する。

アーサー王は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ...

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

 

その、極大の宝具を放った。

 

「元人類最後のマスター、藤丸立香の名をもって命ずる。来て!アルトリア・キャスター!!」

 

『...藤丸...立香だって?』

 

宝具が迫る中、立香はサーヴァントを召喚する。

光が弾けて、人の影が成った。

それはまた、アーサー王と同じ顔をした少女だ。

 

「わわわわ!?なんだかすっごい責任重大な場面で召喚されちゃった!?取り敢えず、あれを防げばいいん...強くない!?防げるかなぁ!?」

 

「お願いアルキャス!」

 

「むむ、やれるだけはやりましょう...それはいつかくる兆しの星、希望の地、楽園の跡、誰に呼ばれるまでもなく、貴方は星をかざすでしょう。運命は誰のために──きみをいだく希望の星(アラウンド・カリバーン)

 

優しい光が僕たちを包み込んだ。

アーサー王の極光は、絶えず迫ってくる。

けど、僕たちは逃げることはしない。

何故なら、僕たちの前に、立香が立っているのだから。

 

「ちょ、来るわよ!?え、なんで逃げないの!?いや、あ、呑まれる!?」

 

オルガマリーの慌てように、少しだけ不安が再燃した。

 

え?大丈夫なんだよな?

 

次の瞬間、極光が僕たちを呑んだ。

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

極光が、私たちを呑み込んだ。

けれど...光の中で、私たちは無傷だった。

一瞬が、数十秒にも数分にも感じる。

決して短くない時間、光に全てが削り取られていく様を見つめながら...終わりを待った。

 

「...ふーーー、なんとかなりましたぁ」

 

極光が過ぎ去る。

私たちは、傷一つ付かず、耐えきったのだ。

 

「...対粛清防御か。見事だな...」

 

アルトリア・オルタは、感服と言わんばかりに目を見開いた。

 

「え、えぇ?私、生きてる?」

 

『みんな無事だ。バイタルも異常なし。凄いよ、あの威力を無傷だなんて!』

 

「...生きた心地はしなかったけどな」

 

「なんかすっごい褒めてくれます。なんてホワイトな職場!私の自己肯定感も鰻上りです!」

 

「うん、流石アルキャス。頼りになる」

 

これで、相手の一番の武器は防げた。

ここから、やっと勝負の土俵に上がることが出来る。

 

「まだまだいくよ。追加召喚!ジャンヌ・オルタ!千子村正!」

 

続け様に、戦力を増やす。

魔力を令呪に流すと、召喚の光が弾けた。

 

「...ふん、ジャンヌ・ダルク・オルタ...召喚に応じ参上したわ。また、復讐の焔が必要になったのかしら!マスターちゃん?」

 

「なんでい、老体に鞭打たせやがってよ...ま、請負った仕事はきちっとやってやらぁ」

 

「...なぁんか、これまた癖の強そうな奴らが出てきやがったなぁ」

 

これで、私たちの戦力は単純計算で倍以上。

これなら、聖杯から無限の魔力を供給されてるアルトリア・オルタにも対抗できる筈だ。

 

「...あら?あらあら?なぁんか見たことある性悪顔だと思えば...まさかの敵は黒女。ふふ、燃やし甲斐があるってものね」

 

「...ふん、貴様のことなど欠片程の記憶もないが...どうにも癇に障る。真っ先に八つ裂きにしてやろう」

 

「そう言えば、お二人はオルタ同士とても仲良し(仲が悪かったん)でしたね」

 

「えぇその通り。この女をなぶれる機会をくれたマスターちゃんには感謝しかないわね...うん?なんだか今、言葉の裏に別の意図を感じたような...」

 

「おい、談笑はその辺にしとけよ。(オレ)たちの召喚維持にだって、バカにならねぇ魔力を使うんだろ?」

 

「そうだぜ、さっさと決めねぇとな。どこの英霊かは知らねぇが、その力ぁ、貸して貰うぜ」

 

「では、サポートは私に任せてください!」

 

...複数の英霊が結託する。

 

それはとても...懐かしい光景だった。

 

「んじゃ、いくぜ!」

 

クー・フーリンが地を蹴った。

一瞬でアルトリア・オルタとの距離を詰めて、槍の雨を浴びせる。

クー・フーリン全力の連撃だ。私の目には、到底追いきれない。

けれど、アルトリア・オルタは的確に全てを捌ききる。

 

「余所見してていいのかしらッ!!」

 

死角から、ジャンヌ・オルタが迫る。旗を武器のように巧みに操り、アルトリア・オルタへ渾身の一撃を放った。

 

「軽いな」

 

「チッ!」

 

しかし、クー・フーリンに対応しながら、その一撃を小手で防ぐ。

 

「こんの、ゴリラッ!!」

 

「ゴリラではない!」

 

「おい、敵はもう一人いるぜ?」

 

更に、村正の一撃が襲いかかった。

流石に、腕を増やさない限りは対応出来ない。

 

「甘いな」

 

瞬間、アルトリア・オルタは魔力を放出する。

ただの魔力放出も...超規模の魔力炉心から供給を受けているアルトリア・オルタのそれは、並みの宝具以上の衝撃波を全方向へ向けて発するに至る。

 

三人は、それぞれ三方向へ強力な慣性を受けた。

 

「結界、展開します!」

 

アルキャスはアルトリア・オルタを取り囲む、巨大な防壁を展開。

 

「いっくぞー!ファイアー!」

 

やや気の抜けた雄叫び。

しかしそれに似合わない規模の爆発が、結界内部で巻き起こる。

 

私は「やったか!」っと、思わず叫んでしまった。

 

「ちょっと立香!それ多分言っちゃダメなヤツですよ!」

 

「あ、ごめん」

 

アルキャスの言った通り、土煙が晴れると...アルトリア・オルタの何食わぬ顔が確認できた。

ほとんどノーダメージ。未だHPゲージは健全だ。

 

「かったい!反則染みたレベルの魔力による防御よ!並大抵の一撃じゃ傷一つ付かない!」

 

「ほんじゃま、宝具しかねぇわな。(オレ)が威力を溜めてるから、(わけ)(もん)たちでそれまでの時間を作ってくれ」

 

「しゃーねぇ、時間稼ぎってのは性に合わねぇが背に腹だ」

 

「時間稼ぎが必要なら、私がずっとこの結界に閉じ込め続けてればいいのでは?(名案)」

 

「ふん」

 

「わぁ!?殴って破壊された!?嘘!?」

 

「...へっ」

 

「何鼻で笑ってんだ村正ぁッ!!」

 

やっぱり、この状態のアルトリア・オルタの攻撃力は反則級だ。

と同時に、防御もピカイチ。

簡単には打ち崩せない。

 

「...貴様ら、何かを忘れてないか?サーヴァントは所詮、召喚者ありき」

 

アルトリア・オルタが、私を睨んだ。

刹那、その姿が残像を残して消える。

 

「まずい!マスターを守れ!」

 

「行かせませんよ!」

 

アルトリア・オルタが一直線に私へと迫る。

その間に滑り込み、アルキャスが何重にも防壁を前面に展開した。

 

しかし、アルトリア・オルタの突進力を前に、防壁は次々に破られていった。

 

「や、やばっ!?」

 

「邪魔だ」

 

アルトリア・オルタから放たれた、強烈な前蹴り(ヤクザキック)

それは、アルキャスの鳩尾を的確に撃ち抜いた。

 

「...コホォッ」

 

「キャスター!!!」

 

その衝撃が、空気を伝って私にまで届く。

アルキャスはくの字に折れ曲がりながら弾き飛ばされて、壁に激突した。

 

再び、アルトリア・オルタが加速する。

その後ろから、クー・フーリンとジャンヌ・オルタが追いかけてくるけど、もう間に合わない。

 

「やるしかない!!!」

 

このレベルの威力の攻撃は...瞬間的なサーヴァントの召喚による防御じゃ防げない。

だから、回避しかない。

 

私は咄嗟に宝具(エクスカリバー)を召喚する。

アルトリアの身体能力をペースト。

これなら、一度くらいの回避は!

 

「...出来る筈がないだろう?」

 

瞬間、爆発的な加速が起こる。

目前に迫る、アルトリア・オルタ。

 

あ、やば...無理だこれ。

 

「ガンド!!!」

 

「なっ!」

 

刹那、振り下ろされたエクスカリバーの、軌道がズレる。

剣を振るう為に踏み込んだその瞬間、カドックのガンドがアルトリア・オルタの足場を崩し、重心を狂わせた。

 

私の真横に、エクスカリバーは叩きつけられる結果となる。

 

「ダァアアア!!」

 

召喚したエクスカリバーを、アルトリア・オルタに全力で振り抜いた。

傷一つ負わせた手応えはないけど...その体を遠くへ吹き飛ばすことには成功する。

 

「喰らっときなさい!吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!!!」

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!!」

 

「チッ...約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!!」

 

ジャンヌ・オルタとクー・フーリンの、超絶の威力を誇る宝具に対して、アルトリア・オルタは空中にて、体勢が非常に不安定にも関わらず、宝具で応戦。

 

流石のアルトリア・オルタも、二人の宝具の合わせ技は相殺できない。

 

大きな衝撃。暴風が吹き荒れる。

 

「...やるな。少しだけ効いたぞ」

 

「マジか、宝具の威力の大半が殺されちまった」

 

「チッ、腹が立つわねこの怪物ゴリラ」

 

「アルキャスは!?」

 

私は、アルキャスが吹き飛ばされた方向に視線を飛ばす。

まさか、さっきの一撃で消滅してないよね....

 

「ゴホッゴホッ...ゲボ....」

 

見れば、アルキャスの元にカドックが駆け寄り、治癒魔術を掛けていた。

アルキャスは大量の血を吐血しつつも...大きく霊基を損傷している様子はなかった。

 

「...羽虫と侮っていたが...なるほど、虫にたかられるというのは、確かに鬱陶しいモノだったな」

 

「...羽虫は羽虫で、出来ることをするだけだ」

 

「なら、貴様から....」

 

「準備、出来たぜ」

 

刹那、声が響く。

それは...アルトリア・オルタの背後から発せられた。

 

「かつて求めた究極の一刀。其は、肉を断ち骨を断ち。命を絶つ鋼の(やいば)にあらず」

 

「何!?」

 

フィールドが、村正を中心に塗り替えられる。

それは、固有結界。

村正の心象世界を具現化する、魔術の極地。

 

「貴様!」

 

アルトリア・オルタは、当然のように背後の村正を切り捨てようとする。

 

...しかし、

 

「させ...ませんよぉ...ゲホッ」

 

再び、アルトリア・オルタを閉じ込める防壁。

 

「芸がないな!」

 

同じように破壊される。そう思っていた。

しかし、アルトリア・オルタがどれほど攻撃を畳み掛けようと、傷は付けど一向に破壊される気配はない。

 

「なんだと?」

 

「へへ...この霊基の、全ての魔力を込めてますから。そう簡単には、ね」

 

「我が()が求めるは怨恨の清算。縁を切り、定めを切り、業を切る。即ち。宿業からの解放なり」

 

詠唱が、進む。

少しずつ、アルトリア・オルタの表情に、焦燥が滲んでいく。

 

「其処に至るは数多の研鑽。千の刀、万の刀を(かたちど)り、築きに築いた刀塚。此処に辿るはあらゆる収斂(しゅうれん)。此処に示すはあらゆる宿願。此処に積もるはあらゆる非業。我が人生の全ては、この一振りに至るために。剣の鼓動、此処にあり」

 

それは、集約。

究極の一。

村正の手の中に...燃え盛る、最高最強の刀が現れた。

 

「受けやがれ、こいつがオレの、都牟刈、村正だぁ!!」

 

猛る声と、完成する究極の一撃。

しかし、それが放たれる直後...なんと、アルキャスによる拘束の防壁が破られた!

 

「ここは、回避しか!」

 

「させると思うの?」

 

逃げようとするアルトリア・オルタを、ジャンヌ・オルタが羽交い締めにする。

 

「バカが!貴様も消滅するぞ!」

 

「えぇ構わないわよ?そも、私には煉獄の炎こそ相応しい...共に焼かれてあげようじゃない」

 

「良い覚悟だ!歯ぁ食いしばりやがれ!!!」

 

村正は吠える。

最早、アルトリア・オルタに退路はない。

文字通り...チェックメイトだ。

 

「ぐぁぁあああああああああ!!」

 

放たれたそれは、巨大な火柱を伴って、全てを切り裂く。

そうして...その炎が消えた時。

...そこには、アルトリア・オルタの姿も...ジャンヌ・オルタの姿も...なかったのだった。

 

「...っと...(オレ)らの勝利...だな」

 

村正は、灰になって消えていく自身の身体を見つめながら...ニカッと笑う。

その姿に、クー・フーリンはやれやれと肩を竦めた。

 

「...ったく、良いとこ全部持っていったな」

 

「悪いな、青いの。どうも(オレ)は、こういう役ばっかみてぇでよ」

 

「...ありがとう、お疲れ様、みんな」

 

「あぁ、おつかれさんだな、マスターも。一瞬ヒヤッとするとこもあったが、よくやれてたじゃねぇか」

 

「村正ぁ、私には何かないのですか?こんなぼろぼろになってまで貢献したんですけど?」

 

「おーおー、お前さんもよくやったよ」

 

「なんか適当ですね!!ごっふぅ!?」

 

「...どこぞの剣士みてぇなことになってんな」

 

...そうして、役目を終えた霊基は少しずつ消滅を始める。

 

「...あの、治療ありがとうございました」

 

「あ、あぁ」

 

「あぁ、そう言えば、立香はお前さんに召喚されたんだな...別の世界のお前さんだから改めて言っておくが、(オレ)らの元マスターはじゃじゃ馬だからよ。何かあったら尻でも叩いて手綱を握りな」

 

「失礼だな村正ぁッ!!」

 

「そうだぞ村正ぁッ!!デリカシー村正ぁッ!!」

 

「息ピッタリじゃねぇかよ」

 

もぉ...ほんと、村正ったら。

...まぁでも、良い意味で、懐かしいな。

 

「じゃあ、またね二人とも」

 

「はい、お元気で、立香!」

 

「用があれば、いつでも呼べよ」

 

二人はそう言って...座に還っていった。

残ったサーヴァントは、私とクー・フーリンだけだ。

 

「...んじゃ、俺も還るとするぜ。これで、正しい形で聖杯戦争は終わる...あれは、お前たちのもんってこった。大事に使えよ」

 

『おーい、三人とも、無事かい?』

 

後の方から、所長が駆けてきた。

あ、なんか腰が抜けてる。

めっちゃガクガクしてる。

 

「最後の辺り、カドックが飛び出していった時はどうしようかと思ったわよ...もう!どうして貴方たちはそう無茶が好きなの!?」

 

「乗り越えられない壁はないから、かな?」

 

「格好つけてんじゃないわよ!」

 

「しまらねぇなぁ最後まで」

 

クー・フーリンは呆れ顔で空を仰ぎつつも、笑った。

 

「じゃあな、わりと楽しかったぜ」

 

「あぁ。ありがとう、クー・フーリン」

 

『ここまで来れたのは、貴方の協力のお陰です。心からの感謝を』

 

「うん、またね、クー・フーリン」

 

「...えぇ。感謝するわ」

 

...自主退去によって、クー・フーリンは光の粒となり、空へと舞い上がって消えた。

これで、やっと、聖杯戦争は終わる。

 

「...あとは、だね」

 

残った、聖杯。

私たちはその方へ向き直った。

 

...勿論、忘れてなんかない。

これから起こる悲劇。

 

絶対に、繰り返してなるものか。

 

「さぁ、聖杯を回収しましょう。この特異点の原因はどう見てもあれだし」

 

「あぁ、回収を...」

 

「いや...まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛大さの許容外だ」

 

「ッ!?」

 

そうして...知識の通り、その声と共に現れたのは、一人の男。

 

緑のスーツに、長い帽子。

 

顔に張り付けた、作り物の笑みは、まるで私たちを嘲笑しているかのようだった。

 

「まさかカドック君が助かっていたとはね...もしや、ペペロンチーノ君のお陰かな?」

 

「...なん、だと...アンタは...レフ?」

 

『レフ!?レフ教授だって!?まさかそこにいるのかい!?』

 

「うん?あぁ、その声はロマニか...すぐ管制室に来るようにと伝えた筈なのに...まったく、」

 

レフは、徐にため息を吐くと。

 

次の瞬間、その本性を露にした。

 

「どいつもこいつも、統率の取れていないクズばかりで吐き気が止まらないなぁ。人間というのはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」

 

「何を、言っているんだ?レフ」

 

「カドック...お願いだから下がってて...あれは、貴方の知ってるレフ教授じゃない」

 

「君は...召喚されたサーヴァントの筈なのに、どうも違和感があるな...何処かで会ったことでも?」

 

「答える気はないよ」

 

私の答えに、レフはわざとらしく肩を竦めて見せた。

 

「レフ...あぁ、レフ、レフ、生きてたのねレフ!」

 

所長は、明らかに疑わしい存在である筈のレフに対して、少しの疑問さえ抱かずに、駆け寄ろうとする。

 

「...ダメ、所長」

 

私はそんな所長の腕を掴んで制止する。

 

「はな、離しなさい!私はレフのところに行くのよ!」

 

「いや、違うよ。あれは、所長が信頼するレフじゃない」

 

「そんなわけがないでしょ!?レフが、レフがそこにいるのよ!!行かせてよ!!何で止めるのよ!!!」

 

所長は、狂ったように私の手を払おうと、ぶんぶん腕を振る。

 

それでも離さずにいると、とうとう腕を噛もうとまでしてきた。

 

...所長は依存しているんだ、レフ教授に。

 

父親が死んで、若くしてカルデアという組織の舵取りを任せられて...上からも下からも父親のような働きを期待されて、その為に頑張って。

 

それで嫌われて、それでもやるしかなくて。

 

そんな時...レフ教授は、大きな心の支えだった。所長の心を支えていた...それだけは、動機がどうあれ、紛れもない事実だったんだ。

 

「...やぁオルガ、元気そうで何よりだ。君も大変だったようだね」

 

レフは、優しい声音で、所長に話しかける。

 

「えぇ、えぇ、そうなのよレフ!管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアには戻れないし!予想外のことばかりで頭がどうにかなりそうだった!でもいいの、貴方がいればなんとかなるわよね?」

 

「.....」

 

「だって今までもそうだったもの...今回だって、私を助けてくれるんでしょ?」

 

所長の瞳に写るのは、希望だった。

 

まるで救いを求める狂信者のように...ただただ、レフという支えにすがりつこうと必死だ。

 

「あぁ、勿論だとも。本当に予想外のことばかりで頭にくる」

 

...けれど、今目にしてるのは、所長の知る優しいレフじゃないんだよ。

 

「この中で最も予想外なのが君だよ、オルガ。爆弾は君の足元に設置したのに、まさか生きているだなんて」

 

「.......え?れ、レフ?あ、あの、それ、どういう、意味?」

 

「いや、生きているとは違うな。君はもうとっくに死んでいる。肉体はとっくにね。トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念となった君をこの土地に転移させてしまったんだ。...ほら、君はレイシフトの適性がなかっただろ?肉体のままでは転移できない。分かるかな?君は死ぬことで初めて、あれだけ切望していた適性を手に入れたんだよ。だから君はカルデアには戻れない。君が戻った時点で、君のその意識は消滅してしまうからね」

 

「え...え?しょ、消滅?私が?カルデアに...戻れない?」

 

「だがそれでは、生涯をカルデアに捧げた君が不憫でならない...だから特別に、今のカルデアがどうなっているかだけ見せてあげよう」

 

レフが、指を鳴らす。

 

それと同時に...辺りは荒れた大地から、カルデアの内部へと移り変わる。

 

「...な、何よあれ...カルデアスが真っ赤になってる?嘘、よね?あれ、虚像よね、レフ?」

 

「本物だよ。君のために時空を繋げてあげたんだ。聖杯があれば、こんなことも出来るからね」

 

「そ、そんな....」

 

「見たまえ、アニムスフィアの末裔よ!君たちの愚行を!人類の生存を示す青は一片もない。あるのは燃え盛る赤色のみ!これが、今回のミッションが引き起こした結果だよ。...今回も、君の至らなさが悲劇を起こしてしまったわけだね」

 

「...ッ違う!!私のせいじゃない!!私の責任じゃない!!私は失敗してない!!私は死んでなんかない!!...アンタ、どこの誰なのよ!?私のカルデアスに何をしたって言うのよぉ....!!」

 

「アレは...君の、ではない。まったく、最期まで耳障りな小娘だったなぁ、君は」

 

...体の奥底から、煮えたぎるような怒りが沸いてくる。

 

許せない...赦しちゃいけないって、細胞の一つ一つが訴え駆けてくるようだ。

 

私は、堪えきれない怒声に、身を任せそうになって....

 

「ふざけるな!!!!!!!」

 

...けど...隣から響いてきたそれに...少しだけ頭が冷えた。

 

「...カドック?」

 

「さっきから聞いてれば...ふざけたことを抜かすなよ!!赦されるわけがないだろう!!そんなことが!!!こんな結末が!!!頑張った奴がバカを見る!?精一杯努力した奴が酷い目に遇う!?おかしいだろうが!!!認められるか...そんなことが!!!!」

 

「...ふむ...あぁ、そうか。同情するんだね、君は彼女に。確かに、君はその余地があるのかもしれないな。...何故なら君は平凡で、魔術としては二流...ただ卓越したレイシフト、マスター適性によって選ばれた人間だからね...努力しても埋められない壁。認められない結果。その劣等感の中で生きてきたわけだ...だから否定したいんだね?彼女の結末を。それを容認するってことは、君自身のこれまでを全て否定することになるからねぇ?」

 

「...黙れ!」

 

「ふ、犬かと思いきや...なるほど、狼だったか」

 

...こんなに怒っているカドックを、私は見たことがなかった。

 

その激情に...胸が熱くなるのを感じた。

 

あぁ、そうだね。認めちゃダメだよ。

 

「...まぁいい」

 

再び、レフは指を鳴らす。

 

「...え、なに!?体が...吸い寄せられる!?」

 

所長の体が...突如、カルデアスに向かって動き始める。その力に、私まで吸い込まれそうになる。

 

「このまま殺すのは簡単だが、それでは芸がない...最後に、君の望みを叶えてやろう。さぁ、君の宝物に触れたまえ...これは、私からの慈悲のようなものだ」

 

「ちょ...何を言っているの?私の宝物?カルデアスのこと?...や、止めて。だってカルデアスよ?高密度な情報体なのよ?次元が異なる領域、なのよ?」

 

「あぁ、ブラックホールとなんら変わらない。それとも太陽かな?まぁどちらにせよ、人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」

 

吸引力が...どんどん強くなっていく。

 

私の体まで、徐々に浮かび上がってきた。

 

「...ぐ!」

 

「いや、いやぁ!!誰か...立香!カドック!助けて!!わた、わたし!こんなところで死にたくない!!」

 

「...オルガマリーッ.....!!」

 

「だってまだ、褒められてない!誰も、私を認めてくれてないじゃない!どうして、こんなことばっかりなの!?誰も、私を評価してくれなかった!みんな、私を嫌ってた!」

 

所長が泣き叫ぶ。

 

私まで地面から完全に離れそうになった瞬間...カドックが、それを繋ぎ止めた。

 

「やだ、やめて!いや、いやいやいやいやいやいやいや!だってまだ何もしてない!生まれてからずっと...ただ一度だって...誰にも認めて貰えなかったのにッーーーー!!!」

 

「...させるか...こんな結末...絶対に、ダメなんだ!!」

 

...これが...ほんとの、最後だ。

 

レフの手の中にある聖杯...あれさえ奪えれば、全てが変わる!

 

「今だよ!!!マシュ!!!」

 

「はい、先輩!!!」

 

「何!?」

 

私は既に、マシュを召喚していた。

 

レフに気づかれないように、魔力の変化を最小限に留めながら。

 

この一瞬...レフが油断するその一瞬を狙ってた!!

 

「マシュ...だとぉ!?そんな筈はない!君は、確かに重篤な怪我を....ッ!!」

 

「失礼します、レフ教授!!」

 

マシュのタックルが、レフの身体を撥ね飛ばす。

 

衝撃で、その手から聖杯が離れた。

 

マシュは聖杯を奪い取り、私へと投げ渡す。

 

「ま...しゅ?」

 

「...はい、マシュ・キリエライト。今度こそ所長を救うべく参上しました。...言いましたよね、最善を尽くしますと」

 

マシュは、そう満面の笑みを浮かべて...再び退去した。

 

「貴様ァァァァアアアアーーッ!!!余計な真似を!!!!」

 

聖杯を、キャッチする。

 

...これを使えば、今度こそ私の役目は終わりだ。

 

私は、カドックの方を一度向いて、

 

「...短い間だったけど...一緒にいれて、幸せだったよ。...大好き」

 

「...りつ、か」

 

「...聖杯よ...どうか、願いを叶えて!所長を...オルガマリーを、助けてあげて!!!」

 

刹那...眩い光を、聖杯は発する。

 

光...いやそう見えたものは、もしかしたら魔力なのかもしれない。

 

はたまた、人の想いであるのかも。

 

聖杯のその光は、所長を優しく包み込んだ。

 

辺りの景色が、元の荒地に戻っていく。

 

それに伴って、所長に掛かっていた力は消えていった。

 

「...あぁ...あたた...かい」

 

光に呑み込まれた所長は...安心しきった表情を浮かべながら...消えた。

 

いや...転移したんだ。

 

『わ、わぁ!?突然所長が現れたぞ!?し、死んで...いや、生きてる!脈もある!!』

 

「...そうか、どうやら今回は、君たちの方が一枚上手だったらしいね」

 

レフは、気だるげに服についた砂埃を払うと...言葉を続けた。

 

「まぁいい、改めて自己紹介をしようか。私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ。聞いているなロマニ。共に魔道を研究した学友として、最後の警告をしてやろう」

 

『...なに?』

 

「カルデアは、もう用済みになった。貴様たちは既に詰んでいる」

 

「...どういう意味だ、それは」

 

「単純な話、もう終わってしまったという事実だ。未来が観測出来なくなり、未来が消滅したと言っていたな。まさに、希望的観測だ。未来は消滅したんじゃない、焼却されたのだ。カルデアスが深紅に染まった時点でな...結末は確定した。もはや貴様たちの時代は存在しない!」

 

『...存在しない?』

 

「カルデアスの磁場によって、カルデアは守られているだろうが...外の世界はこの冬木と同じ末路を迎えているだろう」

 

『...そうか、外と連絡が取れなくなっていたのは、通信機器の問題ではなく...そもそも連絡を取る相手が消滅してしまっていたから....』

 

「ふん、賢しいな。真っ先に殺しておけば良かったと悔やまれる...だが、いずれにせよ2015年を過ぎれば、カルデアも同じ結末を迎えるだろう。それを止める術は最早ない!何故ならこれは、人類史による人類の否定だからだ!!」

 

...そう...人類史の焼却...ここから、人理修復の旅、グランド・オーダーが始まるのだ。

 

...大丈夫。

 

きっとカドックなら...取り戻せる筈。

 

...次の瞬間、大地が大きく揺れ動く。

 

「おっと...どうやらこの特異点もそろそろ限界か。では、さらばだロマニ、そしてカドック・ゼムルプス、名も知らぬサーヴァント。こう見えても私には次の仕事があるのでね...君たちの末路を愉しむのはここまでにしておこう。時空の狭間に呑み込まれるがいい...私とて鬼ではない。最後の祈りくらいは許そう」

 

...そう言い残し...レフは消えた。

 

「...ハッ!ロマニ!レイシフトの用意を!」

 

『もうしているよ!ただ、申し訳ない!そちらの崩壊の方が早いかも...その時は、そっちでなんとかしてくれ!』

 

「なんとかって!?」

 

「人は宇宙空間でも数十秒は生きていられると言うだろう!?」

 

「...ほんとにこれは、神に祈る他なさそうだな」

 

カドックが、唇を噛み締める。

 

「大丈夫大丈夫、カドックは助かるよ」

 

「...だと、良いんだけど...って、立香!?」

 

カドックは、驚愕の色に顔を染めて...足元から徐々に退去の始まる私の身体を見た。

 

「うん、ごめん。私はここまでだね。聖杯に願ったから、今度こそ本当に聖杯戦争は終了した...私の霊基も、役目を終えたんだよ」

 

「......」

 

「...もう、私みたいな顔しないでよ。いや、勿論悲しんでくれることは嬉しいけどね!?...でも、カドックは前を向いてなきゃ。これから先、大変な旅になるんだからさ」

 

「...あぁ、分かってるよ。だから...言うべきことは、決めてるんだ」

 

「...言うべきこと?」

 

少しずつ、崩壊していく大地の中。

 

...カドックは、同じように崩壊していく私を抱きしめた。

 

「ありがとう...立香。君のお陰で、僕はここまでこれたよ...そして、所長を助けてくれたことも含めて。感謝が尽きない」

 

「...う、ん...そう言ってくれると、頑張った甲斐があったってもんだよ」

 

また、あの温もりに包まれる。

 

世界一安心できる場所に、私はいる。

 

一生、感じていたい...離れたくない...そんな想いが、再燃してくる。

 

...だめ、だめだよ。

 

決めたのに...最後は、笑顔で別れようって。

 

なのに、こんな、温かかったら...

 

「...泣いちゃうに、決まってるじゃん」

 

止めどなく、涙がこぼれてくる。

 

もう、自分の意思じゃ止められない。

 

退去が腰まで進んで、終わりはすぐそこだって言うのに。

 

私はまだ、泣きじゃくってる。

 

こんなつもりじゃなかったのに。

 

笑って送り出したかったのに。

 

私の方が、カドックに慰められてる。

 

(不恰好だなぁ...でも)

 

私は、身体のほとんどが退去して...最後の一欠片になったとき...思っていた。

 

(最後がカドックの胸の中で...幸せだったなぁ)

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