藍川レンはバイト先のカフェの制服を着たまま、ロッカールームの隅で小さく溜め息を吐いていた。
腰から下を包むタイツが、最近妙にきつく感じる――それは体重のせいではなく、腹の奥に小さな命がいるからだと知っている。
「……私、どうするんだろ」
別れた彼氏の顔を思い浮かべると、苛立ちと同時に胸の奥がチクリと疼く。クールで通してきた自分が、こんなに弱くなるなんて想像もしなかった。
一方の萌黄ホミは、陽光を浴びたプールサイドに立ちながら、何度もお腹に視線を落としていた。
水泳部の仲間には、まだ何も打ち明けていない。タイツ越しに脚をすべらせ、笑顔を作るたびに、秘密を抱えていることが胸を締めつける。
「わたし、ママになっちゃうんだ……」
彼女は呟き、いつも送り迎えをしてくれる車のシートに腰を落とすと、不意に涙が零れた。
二人は偶然、同じ産婦人科の待合室で顔を合わせる。
制服のスカートの下、透けるような脚を包むタイツが並んだその瞬間、互いに同じ匂いを感じ取った。
「……レンちゃん?」
「ホミ……?」
沈黙が流れる。だが次の瞬間、どちらも腹を押さえながら小さく笑った。
――押しに弱い藍川レンと、天真爛漫な萌黄ホミ。
二人の秘密は、同じ運命で強く結ばれていく。
彼女たちがこれから迎えるのは、恋でも遊びでもない。
妊娠という現実と、制服に隠した小さな命。
タイツの奥で震える脚は、もう後戻りできない未来へと踏み出していた。
病院の白い壁を見つめながら、レンは自分の手を無意識に下腹部へ置いていた。
タイツ越しに感じるふくらみはまだわずかだが、確かにそこにいる。
「……私、ほんとに妊娠してるんだ」
つぶやいた声が、思いのほか震えている。クールに振る舞ってきた自分が、こんなに脆くて弱々しい。カフェの常連に「最近痩せた?」と軽く聞かれただけで、心臓が跳ねて言葉に詰まった。吐き気でコーヒーの香りすら苦く感じる日もある。制服のベルトがきつく、座るたびに胃が押し上げられる不快感。胸も張って、タイツのゴムが擦れる部分が敏感に痛む。
ホミは家の広い浴室で湯船に浸かりながら、ぷかりと浮いた腹を両手で抱え込んでいた。
まだ大きくはないのに、指先でなぞると柔らかさの奥に芯のような硬さを感じる。
「もう隠せないかも……」
部活の練習中、息切れが酷くなり、水中で急にお腹を守るように腕を回したとき、先輩に「どうしたの?」と心配された。笑ってごまかしたが、バレるのは時間の問題。彼氏に裏切られた痛みよりも、身体の変化が一番怖い。脚に絡みつくタイツが日に日にきつくなり、鏡に映る自分の姿に「これは私じゃない」と目を逸らす。
再び病院の待合室で隣り合った二人。
レンがかすれ声で言った。
「ホミ……胸とか、痛くない?」
ホミは目を伏せ、小さく頷いた。
「夜、眠れないの。動悸して……泣きたくなっちゃう」
レンはその言葉に、堰を切ったように自分の不安を吐き出す。
「制服のウエスト、もう入らない。カフェでお皿持つだけでふらついて……怖い」
二人のタイツに包まれた膝が触れ合い、互いの震えが伝わる。秘密を共有した安堵と、どうしようもない不安が混じり、息が詰まる。
身体は確実に変わっていく。吐き気、倦怠感、胸の張り、腹部の膨らみ。
そして心もまた変わっていく。彼氏のこと、将来のこと、自分が母親になるという逃れられない事実。
制服にタイツをまとったまま、二人は少女から母親へと引きずり出されていく。