ここは迷宮都市オラリオ。
この都市にはダンジョンがあり、地上に降りてきた神々から恩恵を貰ったヒューマンや獣人、エルフやドワーフなどが冒険者となり、日夜ダンジョンに挑み生計を立てている。
そんな都市の人気の飲食店【豊穣の女主人】でベル・クラネルは黒いマントを頭からすっぽりとかぶっている人物と食事をしていた。
「まさかオラリオで会えるとは思いませんでした」
「そうねん。ウサギちゃんは何処のファミリアなのん?」
ベルはこの黒マントとは知り合いだった。
何処で知り合ったのかと言うと、ベルがまだ幼かった頃、住んでいた村にこの人物が食料などを補給するために立ち寄った時に出会ったのだ。
その時にオラリオの事や、ダンジョンの事を話してくれ、更には体の動かし方などを教えてくれた。
この人物は、旅立時に自分とは友達だと言ってくれたことはベルにとってものすごく嬉しかった。
そんな人物と久々にオラリオで出会い、食事をしているのだ。
「僕はヘスティア・ファミリアです。オラリオにきた時にほとんどのファミリアに門前払いされてしまったところをヘスティア様が拾ってくれたんです」
「門前払い?それはロキ・ファミリアもん?」
「はい。お前みたいなひ弱そうなやつが天下のロキ・ファミリアに入れるものかって門番の人に槍を向けられながら言われました」
「相変わらずアホみたいなことやってるのねん」
黒マントはベルに聞こえないように小さな声でつぶやいた。
「ご予約のお客様ご案内にゃー!」
その声がした方を見ると、ロキ・ファミリアがゾロゾロと入ってきた。
「遠征お疲れ様やー!今日は思いっきり飲めやー!!」
ロキの掛け声と共に、団員たちはどんちゃん騒ぎを始める。
「ガレス!飲み比べや!!」
「ふんっ返り討ちにしてくれるわい」
「優勝者はリヴェリアの胸を好きにしていい権利をやるでー」
「えっ!じゃあ俺も!!」
「自分も参加っす!!」
「ひっく、じゃあぼくも〜」
「団長!!私の胸ならいつでも好きにしていいんですよ!!」
「ティオネも参加やと!!」
「私の胸は団長専用だ!!」
アホみたいな飲み比べが始めった。
しばらくして酔いが回り気分が良くなったベートが口を開く。
「よっしゃアイズ、皆にあの話を聞かせてやれよ」
「あの話?」
「5階層でミノタウロスをヤッた時の話だよ」
ベートがそう言った途端に、アイズは不機嫌になった。
「それってミノタウロスが逃げた時の?」
「そうだよ。そん時にいたんだよ、いかにも駆け出しって感じのヒョロイガキがよ!!」
アイズは心の中でやめて、これ以上話さないでと思うが、ベートはどんどん話していく。
「笑えたぜ!ウサギみたいに追い込まれて、ビクビク震えてやがった!!」
「そんで?その冒険者はどうなったん?」
「うちのお姫様が間一髪で助けたよ。そのウサギはミノタウロスの血を頭からかぶってトマト野郎になったがな!くくくっ腹いてぇぜ!!」
ベートは腹を抱えて笑い、他の団員達も笑う。
「口を慎めベート!あれは我々の失態だ!!」
「黙れババア!!雑魚を雑魚と言って何が悪い!!あんなやつが冒険者を名乗ってる事自体腹立たしいんだよ!!雑魚は雑魚らしく家で震えていればいいんだよ!!そうだろ?アイズ」
「そんなこと、ないです」
「じゃあお前はあのトマト野郎と俺、番にするならどっちがいい?」
「ベート、君酔ってるね?」
「うるせぇ!!アイズ!どっちがいい!どっちの雄にめちゃくちゃにされたい!!」
「そんな事言うベートさんはごめんです」
「ふっ、無様だな」
振られたベートを笑うリヴェリア。
その笑いには先程ババアと言われた恨みが籠もっていた。
「うるせぇババア!!あんな雑魚がアイズの番になれるはずがねぇ!アイズ、お前自身だってそう思ってんだろうが!!」
ベートの言葉にピクリと反応するアイズ。
「強いお前が雑魚になんか興味あるわけねぇ!!雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインにふさわしくねぇ!!」
ベートの言葉と同時にベルは店を飛び出していった。
「ウサギちゃん!!」
ベルには黒マントの言葉も届かない。
黒マントはため息を付いて、財布をミアにわたす。
「これウサギちゃんとあちしのぶんね」
「多すぎだよ」
「ちょっと騒がしくなるからそのお・わ・び♡」
「はぁ、店を壊すんじゃないよ?」
ミアは止めても無駄とわかりため息を付いて見送る。
黒マントは歩いてアイズに近づくと、自分と同じ黒マントを被せる。
「ッ!!」
いきなりのことで驚いたアイズだが、黒マントの正体がわかりなんでこんな事をしているのかと頭にハテナを浮かべる。
「ちょーっと協力してね」
黒マントはそう言って、右手でアイズの頬に触り、その後アイズを抱えて高速に回る。
そのせいでほかの人達からはどちらがアイズなのかわからなかった。
回り終わったら1人がフードをとると、中から出てきたのはアイズの顔だった。
アイズはそのままベートに近づいていった。
「ベートさん、さっきはああ言ってしまいましたが私」
「おっおおおう」
ベートはいきなりこんなに近づいてきたアイズに、心臓がバクバクしながらも対応していく。
「わたし、ベートさんが」
アイズはそう言いながらどんどん顔を近づけていく。
それはもう、キスをするかのように。
ベートは顔には出さないが、長年の想いが通じたと内心大喜びで、心のなかにいる小さいベートたちが『キースッ!キースッ!!』とコールしていた。
だんだんと近づいていき、唇が触れ合うまで後5センチと迫った時、アイズが動きを止めた。
ここまできて恥ずかしくなったのか?なんて考えていたベート。
アイズが自分の頬を左手で触れた途端に、ベートの目の前には派手な化粧をしたオカマが現れた。
「ずわんねぇーん!!あちしですた〜!!」
「ふr@#$%っ!!!」
いきなり現れたオカマのどアップ顔に、声にならない悲鳴を上げるベート。
「ンナーハハハッ!騙されたー!!」
「ボンちゃん!ボンちゃんやないか!!」
「そうよん!あちしよー!!」
ボンちゃんはバレリーナのようにくるくる回る。
「こんの!カマ野郎が!!」
騙されたベートは、顔を真赤にしてボンちゃんに殴りかかろうとしたが
「ベートさん、やめて」
ボンちゃんはすぐさまアイズに変身して、涙目でベートを見つめる。
「ッ!!」
変身だとわかっているが、ベートには惚れた女の顔を殴ることができなかった。
「まーたひっかかったわねん!!」
すぐさまボンちゃんは変身を解いてベートを蹴り飛ばす。
「ガハッ!!」
蹴り飛ばされたベートは店の外まで吹っ飛んでいった。
それを見て団長であるフィンはボンちゃんが怒っているのがわかった。
「ボン・クレー、なんでそんなに怒ってるんだい?」
ボンちゃんが怒るのは相当なのだ。
ふざけた格好やふざけた行動をしているが、仲間を何よりも大事にしている彼が、仲間に対してこんなに怒っているのだから相当なことをベートがしてしまったのだろうとフィンは思っていた。
「そんなのこのワンちゃんがあちしのダチをバカにしたからに決まってんじゃない!!冗談じゃないわよー!!」