私の中には幽霊さんがいます(渡我被身子談)   作:カァイイは作れる

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なんかラストシーズン見たら書きたくなった。
続かないと思う


プロローグ

 私には2人の兄がいた。

 1番上の兄は傍若無人で、独占欲が強い兄。

 対して2番目の兄は、人の善性を信じて疑わない人だった。

 

「ダメ、イタイの……ダメ」

 

 そんなふたりの兄は、私から見ればよく喧嘩をしていたのだと思う。

 

 上の兄はその性格の歪み故か、他人から搾取することに何ら抵抗を覚えない人だった。

 自分を見ていないというだけで人を殺し。

 自分と遭遇したと言うだけで人を殺し。

 自分の前を通ったと言うだけで人を殺すような人だった。

 

 対して、下の兄はそんな上の兄の行いを見て見ぬふりできぬお人好しだった。 

 人が傷付けば涙を流し。

 人が死ねば慟哭し。

 人が不幸になればいつも胸を痛めている優しい性格だった。

 

 世間的に見れば、きっと彼の方が正義なのだと思う。大衆に聞けば、どちらの肩を持たれるかなんてものは明白だ。

 誰もが支持するような、そんな尊ぶべき感性を持っていたのは、確実に下の兄の方だった。

 

 しかし、私たち兄妹の世界となれば、それは間違いだった。

 

「――――、ぁ」

 

 いつものように、その時も、上の兄が下の兄を蹴り飛ばした。

 盛大に、遠慮もなく、ただ道端に転がっている石ころをどかせるような感覚で、足を振っていた。

 

 よくある光景だった。

 

 下の兄の体が、ボールのように地面に跳ね、まだ生え揃っていない歯は血で真っ赤に染まっていた。小さな肉体からはいくつもの擦り傷が見え、アスファルト上を転がったからだろう、血液を含んだ土埃が傷口に塗られる。

 上の兄はそれをぼんやりと眺めているだけで何も言わない。

 弟が肺を損傷し、脇腹を痛めたために蹲ろうとも、それでもその冷酷な艶のない瞳で見下ろすだけだった。

 

 どれもこれも、よくある光景だった。

 

 足元に転がる肉の塊も。

 鼻をさす愉快な鉄の匂いも。

 体のあちこちから感じる痛みも。

 私にとっては、どれもこれも日常だった。

 

 やがて上の兄は、咳き込む下の兄へと歩み寄り、同じように再度腹へと爪先を突き立てた。

 

 何度も、何度も。

 何度も何度も何度も。

 

 手加減はされている。

 していなければ、今頃、下の兄はそこらに転がる肉塊と同様、物言わぬ存在へと変容してしまっているだろうから。まだ咳き込んでいる程度で済んでいるのを見るに、先ほど虐殺された男たちより手心が加えられているのに間違いはなかった。

 

 どん、どん、と鈍い音が倒壊したビル群に響いていた。

 音が響くたび、「……ぁ、……ぁ」と小さな呻き声が、彼の口から漏れていた。

 私はそんな光景を、立ったまま見ているだけで、止めることはしなかった。

 

 ふたりの諍いは、いつも兄の暴力で収束した。

 それも当然だろう、なんせ下の兄はひとりで立ち上がるのすら困難な虚弱体質だったのだから。

 満足に足腰の筋力が育たなかったせいか、ひとりで歩くことすらままならず、いつも足を引き摺りながら(半ば這いずり回るような形で)、歩行していた。

 

 喧嘩というにはあまりに一方的な営み。

 同じ土俵にすら立たせてもらえていない。

 

 ただ、下の兄は上の兄に対し、決して折れることはなかった。

 いつも、その澄んだ目で艶のない目を見つめていた。

 血みどろになろうとも、骨が折れようとも、全身痣だらけになろうとも。

 

 だから後に、あの営みを私は兄弟の喧嘩と、そう認識するようになった。

 

「?」

「……」

 

 何かを尋ねるように、上の兄は首を傾げた。

 この時、言葉を使えたのは下の兄だけだった。上の兄は誰かとコミュニケーションを取る必要性を感じていなかったのか、特に言葉というものを覚えようとはしなかった。

 

 しかし、何も発さず首を傾げるだけの動作だったせいか、下の兄からの返答はなかった。

 いや、少し前に――――正確には最後の蹴りから5発も前に――、下の兄さんは意識を手放していたのだから、返事なんてものはできなかったのだろう。

 

 うめき声も消えていたというのに、ずっと蹴り続けていた上の兄には分からなかったらしい。上の兄は足先だけで、下の兄の頭を転がすと、興味を無くしたのか、手首を引っ掴み、それをずるずると引き摺り始めた。

 

 まるで、物を拾ってきたかのような扱いだ。

 

 私はそんなふうに考えていると、決まって、上の兄はこちらを見た。

 

「?」

「……」

 

 言葉はなかったが、何を尋ねられているのかは、この時から何となく理解していた。

 

 お前も、僕に何か言いたいことがあるのかい。

 

 そう問われているのだ。

 無機質に向けられた艶のない瞳。そこに私の姿が映ることはない。

 

 私がそのまま意見も反論もしなかったのを、上の兄は自分への肯定だと思ったのだろう。下の兄を引き摺っているのとは別の手で、私の頭を上機嫌に撫でた。

 

「――――」

「……」

 

 言葉のないやり取り。上の兄は私をひとしきり撫でたあと、私の手首も、意識を失い地面に引きづられる下の兄と同様、乱雑に掴み取り、まるで引きずるように手を引かれる。

 

 行き先なんてものは知らなかった。

 これからどうするのかも知る術はなかった。

 なぜ手を引っ張られているのかも定かではないし、上の兄が私たちを手放す時がくるのかも不明瞭だった。

 

 ただ、そんな私でも、一つだけわかることはあった。

 

 冷たいのだ。

 

 上の兄の手からは、いつも温もりを感じられなかった。

 

 

 

===

 

 

 

 ――――百数十年後。

 

(あぁ……これは死んだね、間違いなく)

 

 澄み渡る青空の下、私は雲一つない快晴を睨みながら、内心そうぼやいていた。

 私の心模様とは違い、どうやら天候は恵まれているらしい。燦々と降り注ぐ太陽の光が、冷えていく体を温めるようである。

 

 体から大量の出血。

 カラスの嘴で啄まれた箇所を憎たらしげに見つめて、私はぐったりと首を垂らした。

 

(このままだと、あと数分といったところかな……)

 

 我ながら情けない最期だとは思う。

 魔女とも恐れられたこの私が、ただのカラスにやられてしまうとは。聞く人が聞けば、三日三晩は酒の肴にでもできるのではないだろうか。

 

 まさか自分も、こんな最期――スズメの体のままカラスに殺される――を迎えるとは思いもよらなかった。

 

(自然界は弱肉強食とよくいったものだね、とほほほ……これなら他の動物に個性を転移させるべきだったかな。個性因子がないからか、ろくに個性も扱えなかったし)

 

 私の個性は、肉体を摂取されることで転移する。

 それは生命であれば、どんなものにも発動可能な代物だ。

 動物が相手であった場合、その意識も含め、すべて私のものとなる。

 

 過去の己の過ちを呪いながら、私は自然界の厳しさとやらを痛感した。

 雀生たったの2カ月。最初は空を飛べて楽しいと思っていたものの、意外と不便なことも多かった。ここまで生物によって生きやすさが変わるなんて、逆に感心してしまうほどである。いかに人間が恵まれた環境下で育っているのか、改めて身に沁みた。というより、自分がどれだけ間抜けだったのかを理解させられた、というべきか。

 

 次移り変わるのは、多分さっき己を食い破ったあのカラスだろう。そこそこの肉体を食べられたし、なんなら直近(新鮮)だったということもある。 

 

 雀生のリベンジとまでは言わないが、まぁ、もう少しだけ鳥生を極めるのも悪くない。もしあのカラスになれたら、ちょっとはその狡賢さを学習させてもらうとしよう。

 人の生活ゴミを漁るのは勘弁だけどね。

 

「あれ、小鳥さん?」

(――ん?)

 

 私が今か今かと死の微睡みを楽しんでいると、頭上から少女の声が聞こえてきた。

 

 どうやら気づかなかったけど、よそ様のお家の庭に私は落とされたみたいだ。

 この子は、この家の娘なんだろう。やけに舌足らずな感じ、かなり幼い娘なのかもしれない。

 

「ケガ、してる……イタい、イタい?」

 

 瀕死状態の小鳥なんか見たら、大抵の人間は気味悪がりそうなものを、この少女は逆に私へ関心を持ったらしい。

 

(いやだなぁ、子供って妙に残酷な所あるし……これ以上痛い目にはあまりあいたくないんだけど……)

 

 子供は残虐ということを私は知っている。

 さすがに、あの上の兄ほど中々パンチの効いた幼児はいないだろうけど、万が一ということもある。できるなら、串刺しとか程度で済んでくれるとありがたい。焼かれたりすると、呼吸できなくて、痛いというより、苦しいになっちゃうから。

 

(やぁ、お嬢さん。私はもう死ぬから、そっとしておいてくれないかな。最期くらい静かなのが良いんだ、私は)

 

 そんな小粋なトークをかますことすらできず、私は少女の為されるがまま、手のひらの中に収まる。

 まぁ、声が届くなんてご都合主義、架空(コミック)だけの話だしね。現実なんてこんなもの。動物の体のせいで人語を話せないのは、こういう時に不便だ。

 

「〜〜♪ 〜〜♪」

(鼻唄、か……まぁ、死ぬ前に何かを聴くのは、良い心地だね……これから行われることを考えなければって注釈は入るけど)  

 

 最後の最後で思わぬハプニングとハピネスを与えられたことに、私はため息をつきたくなる。死に体の雀だから、実際にはため息は吐けないんだけどね。

 

 しかし、存外わたしの予想というのは当てにならないらしく、

 

「カァイイねぇ、カァイイねぇ、キレイだねぇ」

(ただ鑑賞するだけなんだ……)

 

 縁側に座った少女は、私を眺めながら、カァイイを連呼するだけである。いたぶられる事なく、かといって治療してもらえるわけでもなく、ただ鑑賞物として扱われている。

 

(これはこれで……恥ずかしいな)

 

 自分が死ぬところを間近で観察されるのは、その、着替えを見られるときのような気恥ずかしさがある。

 できることなら、いっそのことトドメをさしてほしい。

 いや、別に火炙りにされたいとか、羽をむしられたいとかではなく、ひとおもいに殺してくれという意味で。

 

 そんな私の願いが届いたのか――――。

 

(どうしたんだろう、動きが止まったけど……)

 

 さっきまで体を横揺れさせていた少女はピタリと体を止め、私をじぃと静かに眺めだした。

 

 

 しかし、少女は一向に私を捨てることはなく、

 

「ちゅうちゅう、してもいいかな……いいよね?」

(あれ、なんだか嫌な予感がする)

 

 恍惚とした表情を浮かべた少女は可愛らしく口を開け、

 

「カァイイねぇ、カァイイねぇ、小鳥さん……!」

(やばい……ね、やばいかも。このままじゃ、この子も――――)

 

 そっと私の傷口に歯を押し当てると、

 

「ちゅうちゅう、するね……?」

(危な――――――――)

 

 ちゅう、と私の血を吸ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、幽霊さん!? 私、カァイイ!? カァイイかな!? カァイイよね!?」

『うん。今日は一段とかぁいいく見えるよ、ヒミコ。でも、もう高校生になるんだから、食パンをくわえて登校するって夢はやめようか』

 

 あの日、雀の体で血を吸われた日。

 その日から私は、この世界一かぁいい娘(渡我被身子)の肉体を間借りする幽霊となってしまったのだった。

渡我被身子の進路先について。皆さんの渡我被身子像を知るためのアンケート。

  • 雄英高校ヒーロー科
  • 雄英高校普通科
  • 雄英じゃない高校
  • いくぞ!ヴィラン連合!(中卒確定演出)
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