私の中には幽霊さんがいます(渡我被身子談) 作:カァイイは作れる
ちょっと続ける気が起きた
作者の落書き挿絵もあるので、見たい方は、
小説ページの右上の方にある「閲覧設定」→「挿絵表示」を「あり」に。
うまさは保証しない。ホリーの画風で描くの慣れてないので。
ついでに、アンケートもしてみる
時は遡り、スズメの血を吸ったあの日。
「つまり――――小鳥さんは、ユウレイさんってこと?」
『まぁ、厳密には違うけど、あながち間違いじゃないかな。どちらかといえば私は生きてるみたいなものだから、生霊に近いかもしれないね』
スズメの血を飲んだこの少女。
名前はトガヒミコというらしい。
どういう字を書くのは知らないが、今はそのヒミコの精神に居座る形で、私は存命していた。
『普通なら私の個性因子で君の主人格が眠りにつくんだけど、君の個性のおかげかな……? よかったよ、こんな年端もいかない少女を危うく殺すところだった』
「え、わたし死んじゃうの!?」
『……本来ならね。そこは私でも制御できない部分だから、本当に幸運だった。……一生、人に乗り移る気はなかったんだけどね』
私が、とほほ、とため息を漏らすと、難しい話はまだまだ小さいこの娘に分からないのか、こてんと小首を傾げる。
まぁ、無理もないね。
いきなり個性因子だの、主人格がどうだの、まだ両手の指の数すら生きてない子には到底理解できない話だ。
私もドクターから色々と話を聞いているから、自分の個性を大まかに把握できているだけで、あの医者がいなければ今でも自分の個性がなんなのか理解できていなかったと思うし。
『ほら、ヒミコ。お口が汚れてる。せっかくのかわいい顔が台無しだよ』
「ん、とれない……」
『血が体温で固まってきちゃったのかな? とにかく水洗いしておいたほうがいい』
私がそう言ったからか、ヒミコは素直に庭にあった蛇口を捻り、しゃばしゃばと自分の口を濯ぎ洗う。
意識体である私は、そんなヒミコの様子をぼうっと眺めながら、そして口を開いた。
『ねぇ、ヒミコ』
「ん〜? なぁに、ユウレイさん」
『ヒミコは、これからどうしたい?』
「?」
色々と試してみたが、どうやら私がこの子から離れることはできないようだ。
スズメであった私を食べたカラスに個性を移せられれば、一番良かったのだが、どうやら人間とカラスが相手では、私の個性は人間と深く結びつくものらしい。
個性因子を持っている生命体の方が融和性も高い……というよりも、私の個性が個性因子に根深く絡みつく性質を持っているせいであろう。
個性因子をより多く持つものを、自然と選定している気がする。
この子が無個性であれば、無理やり抜け出す事も出来たのかな?
しかし、今はそのような推論はなんの役目も果たさない。
現状を打開できない以上、残された道はふたつだ。
『私が君から他の者に転移する……いや、君の幽霊という表現を使うのなら除霊が正しいのかな……まぁ、どちらにせよ私が君から離れる方法は、今のところひとつしかないみたいだ』
本当は殻木先生なんかに会いにいき、診療してもらえれば別の方法も思いつくかもしれないけれど。
でもなぁ……会いたくないんだよなぁ……。
別に殻木先生に会いたくないというわけではない。むしろ私は、ドクターにはそこまで悪感情というものを抱いてはいない。ちょっと頭のおかしい人というくらいで、あの人は意外と可愛いものが好きだったりするので、そこは話が合うこともある。
だけど、ドクターに会いにいけば必然と余計なものまでプラスされてしまうのだ。
そう、あの兄である。
与一兄さんの方ではない。
死柄木全――お兄様のほうだ。
ドクターに会うということは、等しく、お兄様に私が生きていることを明かすということだ。
そうなればどうなるかは、想像に難くない。
ただでさえ、与一兄さんを自分の手で殺してから、私への執着がより一層過激になったあのメンヘラが、果たして勝手に姿をくらませた私を見つけて何をするかなど、想像に易いだろう。
まず間違いなくヒミコの人生は幕を閉じる。
それは物理的に殺されるのか、はたまた次世代の私の器として妙な実験台にされるのかまでは定かではないが、この子にとってろくな将来が待っていないことは予測なんかではなく、確信に近い域で想像できた。
あの筋肉ヒーローがせっかく色々と隙を作ってくれたというのに、また自ら身を晒すなど愚の骨頂でしかない。せめて、あのヒーローとお兄様の戦いに決着がつくまでは、ドクターと会うことも叶わないだろう。
まぁかといって、決着がついた後に、あの殻木先生がご存命であるかは分からないけれど。
あの人なら、警察とかに捕まった場合、お兄様の後追いで自殺とかしそうだし。
どのみち、ドクターと再会できるのは夢のまた夢かな。
『ヒミコ、君の体の一部を動物に食べさせてあげれば、もしかしたら私は除霊されるかもしれない。ただし、髪の毛の1本や2本じゃ話にならない。最低でも、腕一本は食べさせないとダメだ』
「え〜、イタイのヤ!」
『だね。私も流石にこれはないと思ってるよ。だから、必然的にこうお願いするしかないかな』
私はそう言って天を見つめて、もう一度彼女を見る。
『悪いけど、死ぬまで私はヒミコと一緒だ。社会福祉なんかでよく言う、揺籠から墓場まで。まさに君の人生そのものの単位で、私は君のプライバシーを侵害してもいいかな?』
「ぷらいばしー?」
『簡単にいえば、君の全てを私は知ることになる。寝る時も、何かを食べる時も、トイレに行く時も、お風呂だって。私はずっと君を見ていることになる』
「んん〜?」
『まぁ、そんなことを急に言われたって想像できないよね……今から、思春期が怖くて堪らないよ』
はぁ、本当にどうしたものか……。
目下の問題は非常に多い。
お兄様の存在もそうだし、あのヒーローの存在もそうだ。
他にも、今の私は力の半分も出せないことが非常に厄介でもある。この子の体に移ってから、私は自分の個性を制御している。出力する力の匙加減をミスしてしまえば、この子の体はたちどころに暴発するかもしれないから、下手に自分の身を守るために力を使うことすらできない。これは、動物に乗り移っている時も同じなのだが、それでも人間社会に潜む上では非常に心許ないことだ。
ほんと、さっさとお兄様とあのヒーローの決着がつけばいいのだが。
私がそう悩んでいると。
「ねぇねぇ、ユウレイさん!」
『ん? 何かな、ヒミコ……って、どうして、君は血をさらに顔につけてるのかな。さっきまで洗ってたよね?』
あちゃー、これじゃ本当に洗濯が大変だよ。
血ってなかなか落ちないんだからね? タンパク質が固まってとかなんとか。私も白い服が好きでよく着ていたから、血の落としずらさは人一倍わかるんだ。
仕方ない。
『いい、ヒミコ。血は意外と不潔なんだ。バイキンが多くて、変な病気になっちゃうよ? お腹も痛くなるし、熱も出るかもしれない。だから――』
そうしてくどくどと説教を始めようとしたら、ヒミコが今にも泣きそうな顔をしていた。
まるで、責められるのを恐れているみたいな……。
……いや、違うな。
この泣きそうな顔を私は見たことがある。
どうして分かってくれないんだ。
いつも、言葉にはしないけれど、そう言った表情で言葉を投げかけていた。
なぜ、どうして、どうやったら。
期待を捨てきれない。けれど、目の前の現実があまりに目にし難い時の目。
『与一兄さん……』
そうだね……うん、きっとそうだ。
きっと、この子を目の当たりにすれば、与一兄さんは手を差し伸べずにはいられなかっただろう。
いつだって誰かのために泣いて、誰かのために笑って、誰かのために頑張れる人だった。
ワンフォーオール。ひとりはみんなのために。
私は与一兄さんほどできた人間じゃないけれど、それでも、少しは思うところがある。
だったら、私もそうしてやるべきなのかもしれない。
『……ごめん。私はよく言葉を間違えるみたいだ。ヒミコがなんて言いたかったのか、改めて教えてもらってもいいかな?』
「ヤ……」
『じゃあ、私が質問するから、あってたら頷いてくれるだけでもいい。それじゃあ、ダメかな?』
私の問いかけに、ヒミコは頷いてくれた。
よかった、素直な子だ。
それとは同時に、そんな素直な子を、私は心無い一言で傷つけてしまった。
本当に、私という人間は度し難い人間だ。
『ヒミコは私のことが嫌い?』
私の質問に、ヒミコは首を横に振って答えてくれた。
質問に反応を返してくれるため、続けて質問を飛ばす。
『じゃあ、ヒミコは血は好き?』
今度は首を振らない。
代わりに、ゆっくりと、小さく、だがそれでも確かに頷きで返してくれる。
私は『そっか』とだけ呟き、質問を続けた。
『ヒミコは私の言葉が嫌だった?』
次は頷きも、首を横に振ることさえしなかった。
彼女の中では、さっきのが嫌だったかどうかは分からないのだろう。
まだ物心がついて、少ししか経過していない幼子に、自身の心理状況を言語化しろと言うのが、土台無理な話である。
子供というのは、時に何も考えず、感情のままに動く。
ならば言葉を変え、手をかえ、彼女が最もしっくりくる答えを見つけてやるのも、また大人である私の役割なのかもしれない。
『じゃあヒミコは、私に今の顔を見せたかったのかな?』
そこで、ヒミコは首を縦に振った。
そっか……そうなんだね。
血が好きで、べっとりとついた顔を私に見て欲しかった。
まるでどろんこ遊びをしている子供のように、彼女にとってはそれが普通で、それが良いものに映っていたから。
そこには、なんの悪意もない。
あるのはただの普通の子供が持つ、自分が好きなものを見せたいという欲求だけ。
私はそれに気づかず――いいや、気づこうともせず、心無い一言をけしかけてしまった。
つくづく、私という人間は言葉を間違えてしまう人種のようだ。
けれど、言葉は人を傷つけるのとおなじく、人を癒すこともできる。
私はそれを、ある人に体当たりで教えてもらった。
『ごめん、私にはヒミコの気持ちは分からない』
私がそう言うと、ヒミコはまたぼろぼろと涙を流して縮こまってしまう。
けれど、許してほしい。
上っ面の言葉を並べたところで、それはヒミコのためにはならない。どれだけ美辞麗句を並び立てたところで、そこに一滴の偽りが混じってしまえば、それはただのハリボテになってしまう。
私に、ヒミコの気持ちはわからない。
血が綺麗だとか、血を自分の顔に塗りたいだとか、死にかけているスズメの血を啜りたいだとかは決して思わない。
けれど、それでもね、ヒミコ。
『けど、うん……何かを好きなことは、きっといいことだと思う。それだけは間違いじゃないよ』
「……」
『好きなものに夢中になるのは、普通のことだからね。かくいう私も、車とか好きなんだ。特にMTとかね』
「……ほんと?」
そう言って、ようやくヒミコが私の顔を見上げてくれた。
ぼろぼろとこぼれ落ちる涙を見ながら、私は彼女の内部意識にそっと手を触れる。
『うん、本当だよ。だから、そのままでいいんだ、ヒミコ。君が君を殺す必要はない。君が君を否定することはない。時には自分を抑留する必要はあれど、自分を殺すのと抑えることじゃ、全然意味が違う』
そう、全然意味が違う。
生まれ持った素質というのは変わらない。
古代中国の孟子が唱えた性善説や、それに異を唱えるかのごとく論説された荀子の性悪説なんてものはどうだっていい。人はうまれもって善であるか悪であるかは、箸にも棒にも掛からない古代人の極論だ。
リチャード・ホーキンスは自身の著作物である「利己的な遺伝子」でこう語った。
生物とは遺伝子の乗り物だと。
私はそれを聞いて思う。
人には遺伝子を残すための
つまるところ、どちらもあり得るのだ。
彼女が、どちらを選ぼうとも、それは決して間違いではない。
ただ法治国家が主流となった現代において、是々非々を問われているだけに過ぎない。
故に、彼女は彼女であることを私は否定しない。
故に、彼女が彼女であることを誰も否定してはならない。
彼女は生まれ持っての異常ではなく、ただの人間だ。
普通の子だ。
結局、物事の善悪なんてひとつの物差しでは測れないのだから、勝手に型にはめようとするのは、社会のエゴである。
大丈夫。
人の生まれ持った素質というのは変わらない。
彼女が母親の母体から、五体満足に生まれた時点で、彼女は清濁併せ呑んだだけの、れっきとした普通の人間だ。
彼女にとっては生きにくい世の中であろうとも、それだけで彼女を否定する材料にしてはいけない。
社会に適合できないことと、その個人を否定することは、決してイコールにしてはならないのだから。
『だから、笑ってほしいな、ヒミコ。出会って少ししか経たないけれど、どうやら私は君の笑顔が好きみたいだ』
普通に笑っていいんだよ。
喜んでもいいんだ。
今この場には、私と君しかいない。
これから先の未来の不安も、君の子供ながらに感じているであろう生きにくさも関係ない。
そんなものは、どうとでもなる。
君が真っ向から否定される謂れはない。
君はまだ、社会という枠組みの中で、自分の生き方を模索しているだけの幼子だ。
だから、笑おう。
だから、楽しもう。
君が君であるために。
私がそう言うと、ヒミコは少し泣いた顔をしたあと、目を細める。
そして――。
「わたし、カァイイ?」
『うん……ヒミコは世界で一番、笑顔が似合うかぁいい女の子だ』
その笑顔を見て、私もまた微笑んだ。
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