無窮の魂   作:yumui

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無窮の魂

少女は無窮の魂を持って生まれた。それは彼女を自由への憧憬と創造力の深淵への探求へと駆り立てる力のはずだった。

 

だが、ジェスミア王国の首都での生活は、少女にとって非常に過酷だった。

 

死体の匂いは、ミアにとって故郷の匂いだった。

 

疫病が街を襲った年、死体の山が築かれた。焼却する薪も人手も足りず、遺体は路地に積み上げられ、蛆と蠅の楽園となった。その死体の山の隙間で、赤ん坊が泣いていたという。誰の子かも分からぬまま、孤児院に引き取られた。それがミアだった。

 

 

十二歳の冬、院長がミアを売ろうとした。

 

「お前は顔はいいからな」院長は黄ばんだ歯を見せて笑った。「娼館で働けば、少しは役に立つだろう」

 

その夜、ミアは孤児院の窓から逃げた。持っていったのは薄い毛布一枚と、厨房から盗んだナイフだけだった。

 

街の裏路地で、ミアは生きる術を学んだ。

 

行き倒れの死体から衣服を剥ぎ、靴を奪い、ポケットに残った銅貨を探す。だが、ミアには他の浮浪児にはない選ばれた者にしか使えない才能___魔術が使えた。死者の記憶を見ることができたのだ。

 

最初にそれに気づいたのは、ある老人の遺体に触れた時だった。しわだらけの手に触れた瞬間、ミアの脳裏に映像が流れ込んできた。

 

石畳の路地。隠された財布。レンガの三段目の裏側。

 

気づけばミアは老人の記憶の中にいた。老人の目で見た景色、老人の感じた不安、そして財布を隠した場所。現実に戻ったミアは震える手でレンガをめくった。そこには銀貨が三枚入った革袋があった。

 

それ以来、ミアは死体を見つけるたびに記憶を覗いた。財産の隠し場所、家族の居場所、未練。死者の最後の思いが、ミアの糧となった。

 

だが、魔術には代償があった。

 

死者の記憶を見るたび、ミアの正気は少しずつ削られた。使いすぎれば、自分が誰なのか分からなくなる。他人の人生に飲み込まれ、自我が溶けていく恐怖。ミアは常にその境界線を歩いていた。

 

十五歳の春、ミアは新たな生業を見つけた。

 

街の外れ、朽ちかけた教会に黒衣の男がいた。ダークプリースト――忘れられた新たなる神を信仰する異端の司祭だ。彼は死者の臓器を儀式に使うという。心臓、肝臓、脾臓。新鮮であればあるほど高く買い取った。

 

「また来たのか」ダークプリーストは無関心な視線を向けた。「今日の獲物は?」

 

ミアは布に包んだ臓器を差し出した。昨夜見つけた路地裏で刺され死んでいた商人の遺体から抜き取ったものだ。ナイフで腹を裂き、内臓を引きずり出す作業に、もう躊躇いはなかった。

 

「状態が良い」司祭は銀貨を二枚、ミアの手に押し付けた。「お前はいつも新鮮な死体を持ってくる…まさか魔術が使えたりするのか?」

 

ミアは答えなかった。魔術が使えることを知られれば、厄介なことになる。魔術師は貴重だが、同時に危険視される存在だった。正気を失った魔術師が街で暴れた話は、珍しくない。

 

司祭は肩をすくめた。「まあいい。お前が何者でも構わん。良い臓物を持ってきてくれれば、それでいい」

 

ミアは銀貨を懐にしまい、寂れた教会を出た。煙草を一本取り出し、火を灯す。安物の煙草だが、これがなければやっていけなかった。煙を吐き出しながら、ミアは灰色の空を見上げた。

 

世界は腐っていた。

 

戦争、疫病、怪物。人々は日々を生き延びることに必死で、死体は日常の風景だった。街の外では角人の軍勢が人間の村を襲い、森には怪物が徘徊する。神がいるというが、神もまた人を救わない。

 

ミアは煙草を地面に捨て、踏み消した。

 

生きるために、今日も死体を探さなければならない。

 

十八歳になったミアは、傭兵になっていた。

 

街の裏路地で死体を漁る生活に限界を感じたのだ。より多くの金を稼ぐには、より危険な仕事が必要だった。幸い、傭兵団は常に人手不足だった。戦争と怪物の脅威は尽きることがなく、剣を振れる者ならば誰でも雇われた。

幸いこの魔術は物の記憶も読み取れるらしい。

剣に触れることで剣士の動きを真似することができた。

 

最初に入った傭兵団は「灰狼団」といった。団長は傷だらけの元兵士で、酒と博打を愛する男だった。ミアは記憶の魔術を隠し、ただの剣士として働いた。

 

だが、傭兵の世界は裏路地よりもさらに過酷だった。

 

最初の裏切りは、怪物の巣の掃討作戦でだった。

 

森の奥深く、異形の怪物が巣を作っていた。六本足の獣、人の顔を持つ蜘蛛、腐肉から生まれた骸骨の群れ。灰狼団は報酬に目が眩み、無謀な突撃を敢行した。

 

「退くな! 前進しろ!」団長が叫んだ。

 

だが、怪物の数は予想を遥かに超えていた。仲間が次々と引き裂かれ、悲鳴が森にこだました。ミアは判断した――ここで死ぬわけにはいかない。

 

ミアは密かに戦列から離脱し、森の中に消えた。背後で仲間の断末魔が響いたが、振り返らなかった。生き延びた者だけが、次の日を迎えられる。それが傭兵の掟だった。

 

灰狼団は壊滅した。生き残ったのはミアを含めて三人だけだった。

 

二度目の裏切りは、もっと直接的だった。

 

次に入った傭兵団「紅刃団」で、ミアは団長補佐の地位まで上り詰めた。だが、ある依頼の最中、団長が敵の罠にはまった。このまま団長を助ければ、ミア自身も危険に晒される。

 

ミアは団長を見捨てた。

 

いや、見捨てただけではない。敵に団長の居場所を教え、見返りに銀貨の袋を受け取った。

 

その夜、酒場で煙草を吹かしながら、ミアは何も感じなかった。罪悪感も、後悔も。ただ、生き延びたという事実だけがあった。死者の記憶を見すぎたせいか、それとも元からそういう人間だったのか。ミアにはもう分からなかった。

 

三つ目の傭兵団に入った時、ミアは既に「信用できない女」として知られていた。だが、腕は確かだった。剣の腕前だけでなく、記憶の魔術を使った情報収集能力も、少しずつ評判になっていた。

 

そして二十歳の秋、ミアは運命を変える戦いに巻き込まれた。

 

他の領主の土地の請求権を捏造した領主が起こした、北の砦の攻防戦だった。

 

ミアが所属していた傭兵団「黒鴉団」は、領主に雇われて砦を守っていた。だが、攻めてきたのは噂に聞く白夜騎士団だった。

 

白夜騎士団――近年頭角を現した新興の傭兵団で、団長レガルドの名は各地に轟いていた。規律正しく、裏切りを許さず、依頼は必ず達成する。理想主義的な傭兵団として、ある者は称賛し、ある者は嘲笑した。

 

砦の城壁から、ミアは白夜騎士団の陣営を見下ろした。白い外套を纏った騎士たちが、整然と隊列を組んでいる。その中央に、金髪の男が馬上にいた。

 

レガルド。

 

噂通りの男だった。金色の髪、鋭い目、磨き上げられた銀の鎧。まるで物語に出てくる英雄のようだった。

 

目立つ鎧を着るような傭兵は馬鹿か目立ちたがりやだけだろう。

 

だが、戦いが始まると、ミアの考えは変わった。

 

白夜騎士団の攻撃は苛烈かつ統制されていた。梯子をかけ、城壁を登り、守備隊を次々と撃破していく。黒鴉団は混乱し、仲間たちは逃げ出し始めた。

 

ミアも逃げるべきだった。だが、その時、城壁の上に金髪の男が現れた。

 

レガルドだった。

 

彼の剣が閃き、黒鴉団の団長が倒れた。ミアは反射的に剣を抜いた。逃げる前に、この男を倒さなければ――そんな本能的な判断だった。

 

「お前がミアか」レガルドは剣を構えながら言った。

 

ミアは答えず、斬りかかった。

 

剣と剣が交差する。レガルドの太刀筋は正確で、無駄がなかった。ミアは次第に押され始めた。

 

「魔術は使わないのか?」レガルドが問うた。

 

「必要ない」ミアは息を切らしながら答えた。

 

「強がるな」レガルドの剣がミアの剣を弾き飛ばした。「お前の目は、死んでる」

 

ミアは地面に倒れ込んだ。レガルドの剣先が喉元に突きつけられる。

 

これで終わりか、とミアは思った。だが、レガルドは剣を下ろした。

 

「お前には価値がある」レガルドは手を差し伸べた。「白夜騎士団に来い。お前のような者が必要だ」

 

ミアはその手を見つめた。金色の髪、まっすぐな理想に向かって輝く瞳、差し伸べられた手。

 

何かが、胸の奥で疼いた。

 

ミアはその手を取った。

 

「後悔することになる」ミアは言った。

「仲間ならいくらでも裏切ってきた」

 

「知っている」レガルドは微笑んだ。「だが俺は、『予言の男』だ。誰もがそう信じている」

 

その日、ミアは白夜騎士団の一員となった。

 

そして、ミアの人生は大きく動き始めた。

 

 

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