あなたを追いかけて   作:桂剥き

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 きっとこんなマスター達も居るんじゃないかと思って書いてみました。


恋する果てのストーカー

 □ とあるマスターの最初の記憶。 

  

 デンドロをスタートして30分。

 俺はどっか知らねぇ裏通りでぶっ倒れながら、俺から流れる血で赤く染まってく目の前の石畳を見ていた。

 

 土と石が頬に刺さって痛てぇ、けど体が全く動かせねぇ。

 肩から腰まで走る激痛に加えて、ぼんやり目も霞んで来やがった。

 

 街の中にいる間は痛覚設定っての切って楽しんでみるか!

 とか思ってた20分前の自分をぶん殴ってやれたらまだマシだったかもしれねぇが、いまさら後悔しても遅かった。

  

 「5000リルにアイテムボックス……やっぱ来たばっかのマスターってのはちょれえな」

 「成長しやがるととんでもねえが、ま、今はカモだな!」

 

 死にかけの虫みてえにひくつく俺の耳に聞こえてくるのは、糞野郎どものゲッスイ会話。

 

 ――おう兄ちゃん!こんなとこでキョロキョロしてるってことはあんた始めたばっかのマスターだろ?

 ――どっか行きてえとこがあんなら案内してやるぜ? ま!後々なんかで返してもらうけどな!

 

 アバター決めた後に急に空から落ちて、噴水の前で何すりゃいいか分かんねぇでウロウロしてた時に、こんな風に気さくに声をかけてきたやつらの声だ。

 

 街の歩き方のチュートリアルでも始まんのかとホイホイついて行ったら、近道だっつう暗くて人通りのねぇ路地裏に案内されて、数歩歩いた瞬間、背中をズバッとやられてこのザマ。

 

 おいおい、初心者狩りされるとか聞いてねぇんだが。

 と思ってもなんもできねぇから、俺は唯一まともに動く口だけをギリリと噛み締めた。

 

 デンドロがスタートして暫く経った後、この世界に生きてるNPCであるティアンの奴らはマスターってものが大体どんなものかを知った。

 

 殺しても三日で蘇り、無限のジョブ適正を持って、エンブリオとか言うオンリーワンの個性を持つこの世界の降り立った異邦人。

 

 まずよっぽどのことがねえ限り敵対するのが損になるというのがこの世界の共通認識だったが、それでも悪知恵の回奴らは一つの事に気が付いた。

 

 時折空から降ってくるマスターは、始めたばかりでジョブ()を持たずエンブリオ(可能性)だってまだ目覚めてねぇ無力な存在だ。

 しかもそいつらはこっちの常識だって持ってねえ癖に、小金とアイテムボックスは持っている。

 つまりそういう初心者マスターってのは、奴らにとっていいカモにしか見えなかったわけだ。

 

 俺はそれにまんまと引っ掛かったって知ったのは、このピンチから救われた後だ。

 

 ――そう、俺は救われたんだ。

 

 「あ! 初心者くんに手を出す悪ーい人、はっけーん!! えーい!」

 「あん? 何だこのアマ……ッ ぐぇっ!?」

 「お……おい……相棒!?」

 「はーい! あなたも!!」

 「待って……ちょっと待ってくれ!! おぐぅ……!?」

 

 急に元気のいい女の声が聞こえて来たと思ったら、打撃音とクソ共のきったねぇ絶叫が後に続き、最後はなんかゴロゴロと石畳をなんか重いもんが転がる音を最後に、路地裏に静寂が訪れた。

 

 「大丈夫?」

 

 そんな中、石畳を素足で踏むペタペタとした足音が俺の近くに寄ってくると同時に、トポトポとした水音と液体が掛かる感触が背中に走る。

 

 その感触が背中のケガをなぞると、たちまち痛みが消え去ってゆく。

 

 良い薬を使ってくれたんだ、とその時は理解できなかったが、それでもこの声の持ち主が俺を助けてくれたという事は分かった。

 

 「うわ……ひっどいな、麻痺まで掛かってる……初心者くんになんてことするんだこの人たちは!」

 

 そんな声と共にまた別の水音が聞こえて、俺の体は徐々に自由を取り戻していった。

 

 「あ、ありがとうござい……ま……す……」

 

 怪我も痛みも消えたが、血を流したことによる貧血のせいでいまいち力が入らねぇ。

 それでも四肢に活を入れて、ふらつきながら礼を言うためだけに立ち上がり、声の方に目を向けた。

 

 ――その途端、俺は言葉を失った。

 

 格好のいいワイルド系の顔立ち。

 動きを阻害しない最低限の装備を纏った、均整の取れた筋肉質の体。

 そして何よりこちらに向けてくる曇りのない笑顔。

 

 そんなとんでもねぇ美女が、俺の目に入り込んだ。

 

 「ん! なんとか平気そうだね!死ななくて良かった!」

 

 そう言った彼女は、俺の前に盗られた金とアイテムボックスを置くと、クソ男二人を肩に担ぎあげながら路地裏から表へつながる道へと歩いて行く。 

 

 「あ……あの」

 「なぁに?」

 

 彼女が振り向いてこちらを向く。

 心臓が高鳴る。

 彼女のその目が俺に向けられていると思うと、言葉が出てこなくなる。

 

 おかしい。

 俺は自分に戸惑っていた。

 

 「お……おれいをさせてください……し、しょくじでも」

 

 胸の動悸に耐えて、突然カラカラになった喉の奥からなんとかひねり出したのはそんな糞みてえな言葉が一つ。

 恩人にそれはねぇだろうと今でも思う。

 だが許して欲しい。

 そん時の俺は、もう、言葉を発するのさえやっとだったのだから。

 

 「んー残念だけど駄目! このあたりのレストランに生食できるとこないし、このわるーいひとたち突き出してこないといけないしね!」

 

 オコトワリの言葉が返ってきた、と認識した瞬間なぜか眩暈がした。

 手足が石になったみたいに動けねぇのに、脳みそとか内蔵が嫌に冷えていき、逆に胸だけが異様に高鳴っている。

 彼女の名前も聞いていない、そんなことにも気づかなかったのはこれまた後の事だ。

 

 俺がそんな状態だと、彼女は思いもしなかったのか、はたまた無視したのか。

 

 「最初から大変な目にあっちゃったみたいだけど」

 

 最後に飛び切りの笑顔を俺に向けて。

 

 「じゃあね初心者マスターくん! ようこそこの世界(Infinite Dendrogram)に!」

 

 彼女は俺のこの世界入りを寿いだ。

 

 胸の鼓動が高鳴り続ける中、もう一言だって言葉が出ない俺の目に、その笑顔が焼き付いた。

 

 ――俺は名前も知らない恩人に、惚れた。

 

 

 □ 【料理人】ウェリン

 

 「んで、その人の事が忘れられなくてこんなエンブリオになったんだから拗らせてるね!」

 「うるっせえわこの無銭飲食者!! 今までの分請求すんぞ!?」

 

 日光が指す採光のいい窓2つに、それなりの値が張ったインテリアがいくつかと、レジェンダリアで買った質は良いテーブル一つと小せえカウンター。

 

 俺のエンブリオたるちょいと手狭なこの店のカウンターにて、食後のコーヒーのカップを優雅に傾けるのは、なんていうか、物語の王子ってこんなツラだよなって感じの金髪イケメン野郎。

 こいつの名前はアーカンサス。

 レジェンダリア(変態の巣窟)で出会い、旅の道連れになったレジェンダリアン(変態)の【作家】である。

 

 一応俺のパーティーメンバーではあるのだが、旅の足をこいつが担当してることにかこつけて、度々俺の店をタダで利用していやがる。

 

 今回も腹減ったとか抜かすからとりあえず飯は作ってやったが、当たり前みてえに支払いは無かった。 

 

 「事実言われたからって怒らないでよ……僕ら【メイデンちゃん愛好会】の同じ穴の貉だろー? ストーカーくーん?」

 「ぐっ……」

 

 反論できねえ……

 食事を断られた後、生まれたのが食事を作る店って時点であれなのに、その後の行動を考えるとなおさらだ。

 

 

 この店が生まれたその後、あの人に一目会いてぇ一心に突き動かされ、俺は王都中を駆け回った。

 だが、分かったのはあの人がもう王都に居ねぇ事だけだ。

 

 名前も、どこの国へ行ったのかも分かんねぇそんな中、俺はこの世界での探索と同時に、現実のネットを漁ってみることにした。

 

 そして数週間の後、俺はとあるサイトを見つけた。

 各国の美少女を崇め奉るとかいうクッソ怪しい触れ込みのクラン【美少女研究会】とやらが主催するそのサイトには、各国の美麗なキャラメイクのマスターの画像や天然の美しさが光るティアンの情報、果ては妖しきモンスターの生態を事細かに書いたイラスト図鑑など、美少女の見た目なら何でも異様に愛好するやつらが、その心と確かな熱のままに打ちこんだ書き込みが連なっている。

 

 ここだ、こいつらだ。

 

 こいつらがあの人の美貌に惹かれねえわけがねえ。

 

 あの人の事が何か分かるかもしれねぇ。

 そう思っちまった俺は、アルター王国から遠路はるばるレジェンダリアのこいつらのクラン本部へと乗り込んだ。

 

 頼もう!と入って来た俺に面食らってた【美少女研究会】やつらも、俺が彼女の事を語ったとたんに諸手を上げての大歓迎。

 

 曰く、同志に協力は厭わねぇという事で、どうも同類だと思われたらしいが、好都合だとクランの奴らが保有する莫大な美少女データベースを漁った結果。奴らから独立したとあるクランがあの人の情報を持っていると判明した。

 

 

 そのクランの名は【メイデンちゃん愛好会】

 各国のメイデンの情報をキショイほどに収集してるそいつらの本部に俺は突撃し。

 そこで俺は、彼女がマスターでも、ティアンでもなくエンブリオであると知った。

 

 この世界を余す事なく楽しむべく、国に所属せずあるとあらゆる場所を旅するとあるマスターから生まれたメイデンであり。

 一つ所に留まらず、生食の食性を満たすべく、各地のモンスターを頭から齧りながらどこかへ向かう風来坊たちだった。

 

 彼女が人ではなかったことは正直どうでもいい、重要なのは彼女がどこにいるかだ。

 さあどこにいる? 

 そう息巻く俺にニヤニヤ笑いの一人の男が近づいて来た。

 それがアーカンサスだ。

 

 リアルでも美女、美少女が好きだが、あんまり主張が出来ねぇ嘆くコイツは、この世界で弾けた。

 古今東西に存在するの美しい女性の元へ赴き、その姿を絵に収め、魅力を文章にしたためる変態の【作家】としてこの世界を大いに楽しんでいる。

 

 そんな奴にとって、今のところ確認されている存在全てが美女か美少女であるメイデンという存在はその欲望を向ける筆頭だった。

 

 ――そこまでご執心のメイデンちゃんに僕も会って見たくてね、どうだい? 足は僕が用意しよう。

 

 故に出て来たそんなアーカンサスの提案に、俺が1にも2にもなく飛びついた結果、奴との旅をすることになったのだ。

 

 五つの国中に散らばる【メイデンちゃん愛好会】からの情報をもとにあの人をどこまでも追って走り回る俺。

 傍から見れば間違いなく、ストーカーに見えるだろう。

 

 「あっはっは! それだけの情熱で追っかけてるのに出会えないってのは悲しいねぇ! あ、コーヒーお替り―……!?」

 

  そんなおれの気も知らねぇで、クソむかつくほどのイケメン笑顔と共に無銭飲食者はカップをこっちに向けて来た。

 泥水でも入れてやろうか。と思ったが……その必要はねぇようだ。

 

 「イイカゲンニシロヨ、ヒモ野郎様」

 

 片言の暴言がアーカンサスの隣から飛んだ。

 いつの間にやらアーカンサスの隣にいたローブ姿の従業員が、空のやつのカップを右の手の中に収めている。

 そして硬く握られた左の拳は、イケメンフェイスの目の前にあった。

 あと少しで顔面をへこますことが出来ただろうが、一応の警告として寸止めで済ましたらしい。

 

 「マスター馬鹿二スルナラ、一発クラワシテヤロウカ?」

 「あー……コーヒーはいいや……」

 

 カウンターにカップを置いて両手を上げるアーカンサスの姿を確認すると、従業員はウンと頷きその場を去った。

 

 この、ローブ姿で顔の見えない従業員は、クロコという。

 俺をよく慕ってくれる上に気も使えるし、真面目でよく働く、実に理想的なやつなんだが、俺を敬うあまりにこういうところで拳に物を言わそうとするところが玉に瑕。

 

 正直すっきりしたがな!

 

 「まったく……店員も店主も怖いね、執着強い人ばっかりだ!」

 「まあ……なあ……」

 「なんであの子はああなんだろ……女の子にしたらメカクレとかになりそうでベネなんだけど」

 「脳内で美少女化させんな変態」

 「ふふん! 誉め言葉と受け取るよ! だいたい変態じゃなきゃこんなとこまで旅するもんか!」

 

 伸びを一つしながら、アーカンサスは絵になる眼差しを窓の外へ向ける。

 そこにはクルエラ山岳地帯の山々が広がっていた。 

 アルター王国第二の都ギデオンの東方。

 その山々の向こうにある国こそが今の俺たちの目標だった。

 

 「次はカルディナかぁ、前のグランバロアからえらく移動したもんだね」

 「関係ないな、追っかけるだけさ」

 「ストーカー君は逞しいねぇ……だけどさ、大丈夫なの?」

 「何がだ?」

 「いやだな……」

 

 お金だよ。

 と指で輪を作り、アーカンサスの野郎はため息をついた。

 

 「入国の時の支払いと移動のお金と向こうでの滞在費……カルディナってお金かかるだろ?」

 

 王国の東に位置し、島国と海の国を除く五つの国と国境を接する、商業都市国家の集合体である砂漠の国カルディナ。

 金があれば人の生き死にすら買えるかの国は、金のない者の生存を許さない。

 

 「心配ねぇよ」

 

 だが俺に心配はなかった。

 なぜなら俺はここ、クルエラ山岳地帯で稼げる宛があるからだ。

 

 急に、店のガラスが砕け、店の壁に衝撃が走る。

 調度品がぶっ倒れ、皿が幾枚も砕けて店の奥からクロコの悲鳴が聞こえてきた。

 

 アーカンサスのやつも椅子から立ち上がり、やれやれと首を振る。

 その仕草はどこまでも洗練されていてその態度には腹立つほどに余裕を感じるが、今はそれでよかった。

 

 「さあ、向こうから金が来やがったぞ」

 「賊ねらい(こういうこと)ね……まあいいか!」

 

 纏っていたエプロンをアイテムボックスに仕舞いながら、アーカンサスを連れ立って俺たちは店の外へと足を踏み出した。




  
  ウェリン
 〇恋するストーカーかつ旅の料理人。
 〇シャイボーイながら行動力バツグン。
 〇実は不器用で料理は苦手。

  アーカンサス
 〇美女と美少女が大好きな外面だけイケメン作家
 〇旅のパートナーであるウェリンに飯をたかりつつ、からかって楽しく生きている。
 〇器用なのでウェリンより料理が出来る。

  クロコ
 〇ウェリンには素直なカタコト従業員。
 〇それ以外には拳も辞さない所存。
 〇料理は出来ないので、配膳とかを頑張っている。

 お読みいただきありがとうございました!
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