あなたを追いかけて   作:桂剥き

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願わくば我に美少女を!

□ アルター王国東部 クルエラ山岳地帯 山道 【???】ウェリン

 

 〈クルエラ山岳地帯〉

 その山々は、アルター王国第二の都市である決闘都市ギデオンとカルディナの国境線であると同時に、その二国の交易路の一つが通っている場所でもある。

 

 ギデオンは王国でも最大の規模の都市であり、カルディナは言わずもがなの商業の国。

 その金持ちな二国を通る交易品は当然、驚くほどの高値が付く。

 

 そんな品が、何の問題も無く二国を通っているのだろうか? 

 

 答えは……店から出た俺たちの目の前の光景が物語っている。

 

 肩に止まったトカゲを撫でる、モヒカンの痩せ男が舐めているナイフから唾液が地面に落ち。

 ニヤニヤ笑いの尖り散らかしたパンク髪の男が義眼を輝かせ。

 スキンヘッドの巨漢が肩に担いだ大砲から、俺の店に撃ちこんだ時に上げたであろう一条の白煙が天へと昇っている。

 

 あらゆる髪型と装備でありながら、どいつもこいつもガラが悪い。

 

 盗賊。

 

 美味しい獲物を求めて、交易路にゴキブリのごとく湧いた、ゴミ共。

 ここが国境地帯であるゆえに、他国を刺激できないせいで大規模な討伐が組まれず、結果として撲滅できないままだったこのクソ共は、近年、悪人プレイのマスターまで巻き込んで数を増やし続けている。

 

 オレタチの前に居るのもそんな盗賊共のほんの一部だろう。

 といっても30人以上は居そうだが。

 

 「はっはァ!!クソ邪魔な建物小突いてやったら中からネズミが出てきやがったぜ!!」

 「駆除してやろうぜ!! おれ撲殺な!!」

 「汚物は消毒だろぉー? 俺のは毒だけどよぉ……!!」

 

 品性の無さそうな事をのたまう、イカレ盗賊どものその手には一様に紋章が刻まれている。

 

 全員がマスターの盗賊。

 それもここで幅を利かせてんなら、レベルも相応に高いだろう。

 

 「素晴らしい!!そこそこのマスターで一杯だ!! いい装備、落としてくれそうだよウェリン君!」

 「「ああ!??」」

 

 変態イケメンであるアーカンサスが満面の笑みと共に放った一言は、ゴミ共のニヤニヤ笑いを怒りの表情に塗り替え、武器を構えた戦闘モードに入らせた。

 

 余計なこと言うなよ……せっかく油断してやがったのに。

 アーカンサスの馬鹿を睨むと、奴は肩をすくめた。  

 だが余裕の表情は崩さず、バカは懐に手を入れる。 

 

 「ごめんねェ? テンション上がっちゃった、だってさあ……」

 「クソが!! てめえからぶっ潰してやらぁ!!」

 「「「消えろやぁ!!」」」

 

 集団から一人の賊がショートソードを手にこちらへ突っ込んでくると同時に、その後ろで魔法の光が色とりどりに輝き、銃器の起動音や、獣の鳴き声と一緒にクソ共の喚き声が山々に響き渡り……

 

 「こんなに一杯の美少女候補ちゃん(エンブリオ)が居るんだもの!! ≪胚の子、胚の子、踊れや遊べ≫(オトギゾウシ)!!」

 

 取り出したアイテムを構えたアーカンサスの野郎から光の柱が立ち昇る。

 それは一瞬で規模を広げ、その場にいた全ての生き物の目を眩ませる巨大な光の奔流となって、ならず者の集団を飲み込んだ。

 

 「目くらましかッ……!? ああ!??」

 

 輝く光に取り巻かれ、その動きを止めた賊の一人の目が驚愕に見開かれる。

 

 幼女がいた(・・・・・)

 

 「「「は!?」」」

 「ひゃっほぉ!!!! クリクリお目目のワンピース褐色幼女!!! 最高!!!」

 

 急に脳に異様な情報がぶち込まれたせいで賊の動きが完全にフリーズし、幼女と腕をつないだまま立ち尽くす。

 そんな様子を見たアーカンサスは鼻血を出して絶叫し、片手のカメラを起動して幼女の撮影を開始し……

 

 「あ、ついでに動きも欲しいな!! 雄性の誘惑(メール・テンプテーション)!」

  

 ついでにもう片方の手に出現させたジョブクリスタルをぶち割って【亡八】のスキルを発動した。

 

 「……!!」

「おぐっ!?? ぐぇっ!?」

 

 顔だけは良いアーカンサスの野郎から放たれたスキルの影響で、変態に【魅了】されてしまった褐色幼女は、賊の野郎の腹に重い一撃をぶち込み、膝から崩れおちた賊に、さらにストンピングの追撃を入れていく。

 

 「え……ダレこいつ!? あがッ!?」

 「あ……あ、ええと……ヘブッ!?」

 

 そんな異常は目の前の賊一人に留まらない。 

 

 大砲を構えていたスキンヘッドの男は、肩に乗っていた銀髪美人に首を絞められ。

 モヒカンの奴は、なぜか居た妙齢の美人の頬を舐めていた事に呆然としていた顔を、平手打ちされた。

 そして、義眼のパンク髪だったやつは。

 

 「ぐぅぁぁぁぁあ!!!???」

 「あ、ちょっと!! まだ撮影してないんだけど!? もうちょっと生きててよおお!!!」

 

 その顔を貫通して生えた血塗れの大和撫子により、頭蓋が砕け、脳髄が潰れて消滅した。

 

 「なんだ!?、なんなんだよぉぉぉぉ!!!」

 

 困惑と動揺が蔓延して統制が崩れ、クソ共は突然出現した美少女たちへの対応で、てんやわんやの大騒ぎ。

 もはやこっちへの攻撃など暫くできまい。

 

 やっぱ、こいつとこいつのエンブリオやべえな……

 

 「ブラボー!! ブラボー!! 最高の資料がまた集まるよ!! ああ!! そこの君もいい!!」

 

 そんな様子世迷言をほざきながら、恍惚とした表情で撮影を続けるアーカンサスの野郎を見て、俺は心からそう思った。

 

 □■□■

 

 美少女好きを標榜し、故にメイデンに執着するアーカンサス。

 そんな変態から生まれたエンブリオは、主の欲望を最大限まで叶える必殺スキルを持つに至った。

 

 【転生転化 オトギゾウシ】の必殺スキル≪胚の子、胚の子、踊れや遊べ≫(オトギゾウシ)の能力はエンブリオの擬人化(・・・・・・・・・)だ。

 

 この能力に囚われたエンブリオは武器や生物どころか、実態の有る無しすらも関係なく元の形を失い、メイデンや一部の人型ガードナーのような美少女へと変貌してしまう。

 

 肉体と一体化しているエンブリオなどは、部位によってはその肉体をぶち壊す凶器にすらなりえ、さらに厄介なことに、この状態において元の形状が必要なスキルは使用できないという極めて悪辣な効果が付随し、さらに女性としての特性まで付与される。

 

 通常のエンブリオが女性へと変化することへの耐性などあるはずも無く、その身に精神系状態異常に対抗できるスキルを持たない限り【魅了】の耐性など持ちえない。

 

 故に、女性特攻のアーカンサスのスキルは、彼女たちにとってこの上ない毒となる。

 

 己の相棒の姿を変えられた上で、自身に牙を剥かれる。

 マスターにとって、アーカンサスという男の脅威は計り知れない。

 

 □■□■

 

 「ふざけんじゃねぇぇぇぇl!!!」

 

 混沌とした状況から抜け出せていないクソ共から、一人の賊が飛び出した。

 血管が浮き出る程の怒りを込めて斧を握り、歯を剥きだした獣の形相で俺たちの元へと突貫してくる。

 

 変化した相棒を振り切って来たのかはたまた倒したのか。

 女性となったエンブリオのステータスは各々違い、酷く貧弱なものとなることも珍しくない。

 困惑から抜ければ、対応は出来る。

 

 「天・空っ!! 《唐竹割り》ぃぃぃ!!」

 

 ここに来るまでの犠牲者か、もしくは相棒の血か知らないそれが付着した斧で、頭をぶち割るべく、大上段に斧を構えて飛び上がりスキルを宣言した賊。

 

 おい、なんでこっちの方に来てやがる?

 

 得体の知れなさすぎるアーカンサスを避けたのか、その刃が俺の頭に狙いを定めているのに気づいたのは、間抜けにも……

 

 「マスター……マスター!!」

 「おごっ……ゲぇ……」

 

 頼りになる従業員が、身に纏ったローブとその拳を賊の血と臓物で汚したその後だった。

 斧を取り落とし、拳が貫通した腹を抱えて、賊は光へ変わって消滅する。

 

 クロコが店からいつの間にか駆けつけてくれたらしい。

 完ッ全に油断してたからマジで危なかった。

 

 「アア……アア!! 感謝致シマス!! コレデマタ私ハ……」

 

 ローブの汚れと共に消えた賊の事など気にも止めないまま、興奮を隠せないクロコは震える拳をその場で振り上げた。

 

 「良キ食品ヘノ一歩ヲ進ンダ!!」

 

 その拍子に、顔を覆うローブが外れてクロコの顔があらわになる。

 

 「なんだ、そいつはァ!?」

 

 こちらに何とか目を向けていた賊が、クロコの顔を見て叫ぶ。

 

 目も鼻も口も無い、真っ黒こげのアンパンの顔を。

 




  【転生転化 オトギゾウシ】
 〇アーカンサスのエンブリオ。エンブリオを美少女とか美女に変化させる。
 〇剣の刃に触れる事で発動するスキルとかは、刃が無いから使えなくなったりする。
 〇女性になるので≪雄性の誘惑≫が効く。

  クロコ
 〇正式名称クロコ=ゲパン
 〇現状超ハイテンション。
 〇食品にして生物だがエンブリオではないので、美少女になれない。
 
  アーカンサス
 〇大興奮

  ウェリン
 〇迂闊、危なかった。
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