万魔殿のメイド   作:狐ノ陽炎

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10話 空崎ヒナ委員長のいい事

「あれー?マコト先輩はー?」

 

「イブキちゃん?ちょっとマコトちゃん用事があるみたいだから、私と一緒に遊びましょ」

 

「うん!わかったー!」

 

上手くイブキちゃんの気を逸らす事は出来たけれど……。マコトちゃん、腕を組んで不機嫌丸出しの顔ね。

 

誰がどう見ても苛ついてる顔してるって分かるくらい、お手本みたいね。

 

「マコトちゃん?怒ってる?」

 

「………」

 

あらら、これは相当キレてるわね。それよりも、こんな状況下で今日この後、そして明日以降も。レイラちゃんとマコトちゃんが一体どうなるのか……。とても面白く思ってしまう私はやっぱり変かしら…ね?

 

「…………」

 

 

レイラの衝撃発言から数十秒が経ち、風紀委員会側は完全に空気と化していた。それもそのはず、仕える側であるはずのメイドから、万魔殿トップである議長に向かって"バカ"という暴言をいとも簡単に飛ばしたからである。しかも2回も。

 

誰よりも衝撃を受けていたのは、今回の予算を増額した件で一人懸念を抱いていた天雨アコである。増額を決めたのはそもそもアコ本人であり、空崎ヒナ委員長の判断ではない。もし問い詰められた際に言い返せるように事前にシュミレーションは一人で行っていたものの、結局空崎ヒナが居なければその防御壁は簡単に崩れてしまう。さらにそこで得体の知れないメイドが居るという、アコにとっては胃を痛めるどころかそのまま直接穴を開けられたような衝撃的な痛みを食らってもおかしくは無い。

 

だが結果を見てみれば、多少の予算は削減されたものの、しっかりと休息が取れるスケジュールを組まされただけである。

 

一連の流れを見てきたアコにとって、戦慄せざるを得ない状況だった。

 

 

「な、なあ」

 

「どうしました?」

 

「良かったのか?お前、万魔殿のメイドなんだろ?」

 

"メイドとしての微笑み"を一切崩さないレイラを見て、それが演技だと思ったのか定かでは無いが、心配そうに聞いてきた。

 

「ええ、大したことはありません」

 

「……本当ですか?」

 

「私はあくまでも"万魔殿のメイド"です。理不尽な要求を通すほど腐っているわけではありませんよ」

 

ここで天雨アコはもう一つ気付いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()を……。

 

「イロハ様、先に戻っていてください。私は空崎ヒナ委員長を待ちますので」

「……わかった」

 

 

「もう一度言うけど、私は知らないからね」

「はい」

 

万魔殿のメイドも同時に風紀委員会の教室を出た。多分、入口で待つことにしたんだろう。

 

 

 

 

「マコト先輩、戻りました」

 

「………」

 

はぁ…めんどくさい。こうなった時のマコト先輩は本当にめんどくさい。出来ればこうさせたくなかったし、こうなったらこうなったで極力関わりたくない。結局関わった所でほとんど何も返って来ないし……。

 

「………」

 

とてつもなく不機嫌な顔。ついさっきまでイブキと遊んでたとは思えないくらいの仏頂面。はぁ……どうして私がこんな事しなくちゃいけないのか。

 

「マコト先輩、別に庇うつもりじゃないですけど」

 

「………」

 

「レイラの言ってる事は正しいです」

 

「………」

 

「……あまり怒らないであげてください」

 

「………」

 

ほら、返答なんて返って来ない。

でも……少しだけ、ほんの少しだけ。後輩がこんな形で怒られるところを想像したくなかったから。

 

 

 

 

風紀委員会の部屋を出て、廊下で待つ。

ゲヘナ学園の廊下は、ひとつの大洋館並の広さかつ装飾をしている。ここだけ見ればキヴォトス三大マンモス校というのも不思議ではない。普段の治安がイカれてるだけで、それ以外はそうでもないのかもしれない。

 

「……あら、風紀委員会に用?」

 

何の用事か……多分誰かしら風紀を乱していたんだろう。だから長く待つと思っていたけど、そんな事は無く。

 

「いえ、ヒナ委員長に用事です」

「そう……」

 

私は先ほど風紀委員会内で決めた変更点をそのまま伝えた。予算が減らされた事、訓練内容が変更された事を伝えても、ヒナ委員長の表情は特に変わらなかった。

 

「……これ、貴方が独断で変えたの?」

「はい。マコト様は私に全てを委ねられましたから」

 

表情とか、気配とかは何も変わってないけど、ヒナ委員長は少しだけ考えたのか、3秒ほどの沈黙があった。

 

「そう……」

 

「何か、気になる事でも?」

 

 

「去年からだけど、戦術訓練には毎回マコトから意見書が送られてくるの」

「意見書、ですか?」

「ええ、いつもどうでもいい改善点とバカみたいな難癖しかつけてこないのだけれど」

 

「貴方の修正案と今回のマコトの意見書がほぼ同じだったから」

 

そう話すヒナ委員長はどこか嬉しそうだった。

……。

 

「………」

 

「最近ね、いい事あったの」

 

私が少しだけ気になった事を察したのか、それともそのままの流れなのか。聞いても無いヒナ委員長の最近あったいい事を話し始めた。

 

「風紀委員会の予算とか戦術訓練とか、基本はアコが考えてるの。私も一応見るけど」

 

特に聞きたくないわけでもなかったから、そのまま黙って耳を傾ける。

 

「アコはマコトの意見をどう思ったから知らないけど……修正されたって事は無視したって事なのね」

 

「……」

 

「それで、意見書が届いた日だったかしら……。マコトから、直接メールが来たの」

 

「……それは、ヒナ委員長のスマホにですか?」

 

「そう。なんて書いてあったと思う?」

 

………。

 

「『戦術訓練という時間を設けてやるから休め』って書いてあったの」

 

確かに、風紀委員会に嫌がらせしてる人とは思えない内容ですね。でも私からすれば、マコト様のモモトークをブロックしてなかったヒナ委員長の方に少し驚きましたけど。

 

「もう一度……先輩って呼べる日が来るのかしら……」

 

そういえばマコト様は一度留年しているとよく噂される。ヒナ委員長やサツキ様と同じ3年生だけど、年齢はマコト様の方が一つ年上だから。

 

マコト様の過去、少しどころかかなり気になりますね。

 

「それじゃあ、修正案は理解したわ。ありがとう」

 

そう言ってヒナ委員長は風紀委員会の扉を開け、中へ入っていった。

 

「ヒナ委員長が、マコト先輩呼び……か」

 

うーん…。

想像できないなぁ。

 

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