『もう一度……先輩って呼べる日が来るのかしら……』
ピッ……
「……」
静かに、レイラと繋げていた通信を切る。レイラが繋がったままの通信に気付かなかったのか、それとも意図的に無視していたのか。……恐らく前者であろうな。
大方私に対する暴言に気分を損ねて勝手に通信を切った、そう思っていたのだろう。確かに向こう側には通信を切ったかどうかなど言わないと分からないからな。
どういう経緯であれ、私の意見書通りになったのは偶然だろう。別にレイラだからこうするとか、そんな面倒な事は考えちゃいない。
「フン……」
今更空崎ヒナに先輩呼びなんかされても私が困るが。だがこれも全て私が撒いた種か……。
私が不機嫌そうな顔で肘をついて黙ってる間にまずサツキが帰り、チアキが一瞬見えたと思ったら帰り、イブキとイロハが一緒に帰っていくのが見えた。かなり時間はあったはずだが、まだレイラは戻ってきていない。
私同様にレイラも気分屋だ。呑気にゆっくり帰っている頃だろう。
ガチャッ!
……と思っていたが、そうでもなかったようだ。
「すみません、只今戻りました。マコト様」
「……」
別に何も考えちゃいなかったが、私は返事をしなかった。そんな私を見てもレイラは、特に慌てる様子も無く。
「なんですか?私、怒られちゃうんですか?」
「……」
やけにニヤニヤしているな。まるでこれから起こる事が分かっているかのように。
「……別に怒る事はしない」
「では謝った方がいいですか?」
「いや、むしろ謝るのは私の方だろうな」
実際全ての判断を任せたのは私だ。あくまであの時の私の"我儘"はただの意見に過ぎない。なのに無意味に不機嫌になってイロハやイブキに変な気遣いをさせてしまったからな……。
「少しだけ過去のマコト様について聞きました」
「………」
「どれが本当のマコト様なんです?」
「……お前と同じだ」
「というと?」
「"万魔殿のメイド"の時のお前と、ただのゲヘナ学園の生徒である時のお前。それと同じだ」
「空崎ヒナに嫌がらせをしている私も、イブキと遊ぶ私も、そして今の私も……。全て羽沼マコトだ」
誰かを演じた事は無い。もし誰かに演じていると疑惑をかけられたなら、それは羽沼マコトを演じていると答えるだろう。
「さすがですね。よく似ています」
「二人っきりの時ぐらい敬語は辞めろ。様付けで呼ぶのもな」
「いいの?誰かに聞かれても知らないよ?」
「……」
問題が無いわけでは無いが……。
「今ぐらい、浸らせてくれたっていいだろう?」
「うん……そうだね」
「お姉ちゃん」
そう、鷺辺レイラの本名は___『羽沼レイラ』。正真正銘、羽沼マコトの実の妹である。
「ねぇお姉ちゃん?」
「どうした?」
「いつか話してくれる?お姉ちゃんの過去」
「………」
こんな話、誰にも話す気は無かった。だがレイラになら、いとも簡単に話してしまうだろう。私とレイラの、失われた時間はとても長い。姉として、家族として出来る事なんてこれからあるのだろうか。
そんな似合わず弱気になって震えていた私に、
これからも私は変わらないだろう。誰かに接する時、風紀委員会の事も、全て。
手段を選んでいる暇なんて無い。あの後のように、私の胸に誓った事をやり遂げる為に。もう二度と、あの
私はレイラを守る為に生きている。レイラが無事に学園を過ごす事、これから何不自由なく生きる事。それだけを目標に私はこれからも行動し、生きていく。
「いつか……か。恐らくそう遠くは無い」
紛れもない本心。今"この時"、レイラと共に過ごす日々を大切にしながら。
多分、マコトはそれでも変わらないと思うよ
『変わったに決まっている。自ら約束を反故にしたんだぞ?それはもう私ではない』
でもそれって、意味がちゃんとあるんでしょ?意味も無しに、マコトがそういう事するとは思えない
今更出来てしまった可愛い後輩の為……とかね?
少しだけ"奴"に言われてしまった事を思い出した。そんな事は無いと言い返せなかった。可愛いの裏に隠れた本当の意味に気付いてしまったからだ。
結局羽沼マコトは羽沼マコトでしかないのだ。鷺辺レイラが、どうやっても羽沼レイラであったように。
「そろそろ帰るか」
「うん。着替えて来るね、お姉ちゃん」
「あぁ」
サツキやチアキ、イブキにさえ知られるわけにはいかない。全ては