万魔殿のメイド   作:狐ノ陽炎

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12話 元宮チアキ先輩

今日も今日とてメイドの朝は早い。

もう慣れてしまったけれど、まだ眠い時間ではある。今日も居ないだろうけど、万魔殿の扉を開け挨拶をする。挨拶はメイド以前に人として当然の行いですから。

 

「おはようございます」

 

「おはようございまーす!」

 

「……え??」

 

一切帰って来ないと思っていた返事が何故か帰ってきた。普通に油断して驚いた、声もまともに出ないくらいに。

 

「……チアキ…先輩?」

 

「やっぱ朝早いんだね~レイラちゃんって」

 

元宮チアキ先輩。

万魔殿の書記を務めていて、万魔殿に所属するメンバーとしてはかなりの常識人枠だと思っている。多分私よりも常識人。

 

万魔殿の定期新聞『週刊万魔殿』の作成に携わっているってのは聞いたけど……。

 

「昨日は大丈夫だった?マコト先輩かなり怒ってたみたいだったし」

 

ふむ……。

なるほど、チアキ先輩は私の心配をしてくれたんですかね。ただマコト先輩=お姉ちゃんだから別に何もなかったのがちょっと申し訳ない。

 

「はい、何事も無かったですよ」

「ほんと?でも帰るの少し遅かったみたいだったし……」

 

どうして知ってるんですかねこの先輩。ほーらお姉ちゃん?やっぱり誰かに聞かれてるかもしれませんよ?

 

「書類作業を手伝っただけです」

 

メイド時と変わらない態度で返事したせいか、チアキ先輩はやけに昨日の事を気にしてくる。だけどここ一週間でチアキ先輩を見て、あまり駆け引きとか好むような人じゃないと思っている。多分昨日の事は何一つ知らないんでしょうね。

 

"少し遅かった()()()"って部分が気になるんですよねー。

 

ガチャッ!!!!

 

「おはよう!!」

 

どうやらいつもより早く来たのはチアキ先輩だけでは無かったらしい。クソデカ大声で窓ガラス割ってしまいそうな勢いでマコト先輩が現れた。

 

「あ、おはようございます!マコト先輩!」

 

「チアキか、やけに早いな」

「昨日はどうしたんですか?」

 

私がはぐらかしたからか、マコト先輩に聞いた。普段なら普通にバカだから危ないけど、私関連の事だから特に心配はしていない。

 

「いや、特に何もない」

「レイラちゃんが何かやっちゃった……とかも?」

 

間違いではないけど、確証が得られてないのに勝手に私のせいにしないでください?新聞とか広報とか書いてる人の性なんでしょうか……?

 

「いや、昨日の事は私が悪い」

 

「レイラに全面的に任せていた件に対して不満を露わにした私が悪いからな。もう昨日で解決している」

 

「……なんか意外です」

「何がだ?」

「マコト先輩って謝る事出来たんですね!」

「……チアキ、私の事をなんだと思っている?」

 

ちょっと?人のお姉ちゃんをなんだと思ってるんですか?普段がバカなだけですから。風紀委員会が絡むとIQ5くらいになるだけで重要な時は頭いいはずですから。

 

「謝るというならチアキ、お前にもだな」

「え?」

「変な気を遣わせただろう?すまなかったな」

 

「あ……はい、大丈夫……です……」

 

マコト先輩に"謝罪"って単語が本気で無いって思ってたでしょうから、そりゃそういう反応をしますよね。普通に面白いです。イロハ先輩も同じ反応してくれないかな~。

 

「あ!それよりマコト先輩!少しだけレイラちゃん借りてもいいですか!?」

 

「……???」

 

「私は構わんが……どうした?」

「レイラちゃんの事、もっと知りたいんです!」

 

取材…と受け取っていいんでしょうかね?私は一向に構いませんが。

 

マコト先輩は一度私を見た。"メイドとしての微笑み"ではなく、"鷺辺レイラの微笑み"で返した私を見て、模範解答を瞬時に見つけたのだろう。

 

「ふむ、イロハやサツキには私から言っておこう」

「ありがとうございます!」

 

「じゃあ行こっか、レイラちゃん!」

「はい」

 

取材……ですか。似たようなものを含めたら今年で2回目ですね。

 

 

 

万魔殿の部屋を出て、しばらく廊下を歩く。鼻歌を歌いながら歩くチアキ先輩に続き、私は人として"至って普通の表情"をして後ろに続く。

 

この後何を聞かれるかーとか、どう答えるかーとかは一切考えていない。こういうものは脊髄反射がいいと勝手に思っている。

 

まだしばらく歩き、人気のないところに来た。私は私で、まだこのゲヘナ学園を完全に理解はしていない。まだ1年生で高校生成りたてですからね、理解してないくらい許してくださいメイドでも。

 

「この辺でいいかな」

 

何故か廊下に座る場所がある。取材をする為にいろんな場所に赴くチアキ先輩だからこそこういう場所も知っているのだろうか。

 

「はい!じゃあレイラちゃん!」

「……はい」

「さっそく聞いてもいいかな?」

 

「メイドとしてのレイラちゃんってこれからたくさん知れると思うから、普段のレイラちゃんを聞きたいな」

 

「構いませんよ」

 

「レイラちゃんってあれだよね?銃じゃなくて槍なんだよね?」

「ええ、槍ですよ」

「どうして槍なの?」

 

「どう言ったらいいでしょう……?あまり銃が好きじゃないってわけでもないんですが……」

 

「単純に、銃より槍の方が扱いやすいからですかね」

 

何より銃は照準を合わせる必要がありますが、槍だったらそのめんどくさい手間をすっ飛ばせる。それに『超近距離戦』が私の得意分野ですからね。わざわざ苦手分野に挑む必要なんかありませんよ。

 

「確か"神速の槍者"って言われてなかった?」

「……らしいですね」

 

誰がそう呼び始めたのか、私もよく知らない。大方同じ1年生の誰かでしょうけど。

 

だけどあの"噂"、割とすぐ消えちゃったんですよね。私としては目立つ事は別に悪い気はしないので少し気に入っていたんですが……。誰が消したんですかねー。

 

「レイラちゃんって人気あるの?たとえば目立ってるとか」

「槍使ってますから、嫌でも目立ちますよ」

「ああ、そっか。そうだよね」

 

私からしてみれば、特に不思議な事はしていない。ただ一つ槍として違う点があるとしたら、人体に貫通しない槍を使ってますね。貫通しちゃったら普通に人殺しになっちゃいますから、ある程度使用したら先端が割れる特殊な仕様の槍なんですよね。

 

「でもレイラちゃんって割と普通の人に見えるよね。角とか羽も、尻尾も無いし」

「イロハ先輩もそうじゃないですか?」

「確かに!」

 

例えば銃だったら弾無くなったらリロードしなきゃならないじゃないですか。私だったらそれがある程度使ったら先端が割れるのでそれを交換するんですよ。槍だからといって戦闘面で大きなリードがあるわけじゃない。

 

ある意味こういう世界で、私も学生だからだろうけど。

 

「学校生活……レイラちゃんから見て、万魔殿はどう?メイドとしてじゃなくて」

 

「皆さんとても優しいですし、サポートもしてくださって……とても助かってます」

 

メイドやりたいって言いだしたのは私でマコト先輩でも誰でもない。

 

にもかかわらずサボりたい言いながらしっかりサポートしてくれるイロハ先輩。

"万魔殿のメイド"という意味を理解して評価してくれるサツキ先輩。

後輩が怒られてるかもしれない…と、裏でしっかりフォローしようとしてくれるチアキ先輩。

同じ1年生で嬉しさ満点ながらも息抜きを手助けしてくれるイブキちゃん。

 

そしてその全てを受け入れて自由に行動させてくれるマコト先輩。

 

「……とても楽しくて、充実してますよ」

 

たぶん……今が一番楽しい時期なのかも。

 

 

「そっか。嬉しいな~」

 

私はその言葉を聞いて気付いた。私は今、"心の底から嬉しくて楽しい表情"をしていたんだと。

 

………。

 

少しだけ、成長したのかもね。羽沼レイラは。

 

「ありがと!それじゃあ戻ろっか!」

「はい」

 

チアキ先輩は取材のためにここに連れてきたわけじゃなかった。私の、()()()()を見たかったんだ。






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