万魔殿のメイド   作:狐ノ陽炎

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13話 便利屋68

私は今、買い出しに出ている。

別に万魔殿の備品が足りないとか、そういう訳では無いんですけどね。まだ一箱残ってはいますが、ミルクティーをもう一箱発注しておきますか。

 

イブキちゃんがよく飲むものを切らすわけにはいきませんし、私も飲みますから。あとは……何故かマコト様がよく無くすボールペンとか、サツキ様が興味を持ちそうな催眠の本とか。それくらいですかね。

 

 

……思ったより早く終わってしまいましたね。

初めての買い出しだったのでもう少し時間が掛かるかなーって思ってたけど。やはり天才だからしょうがないかー。冗談です。

 

 

あ、そうだ。

せっかくここまで来たんですから、ついでに。まずはマコト様にメールを送っときましょう。

 

『マコト様、少し寄り道してもいいでしょうか?』

 

すぐさま既読がつき、返答が帰ってくる。

 

『構わん!だがあまり遅くならないようにな』

 

『承知致しました』

 

よし、即答でOKサインが帰ってきた。さーて、行こっか。

 

 

 

着いたのは、とある廃ビルの一室の扉の前。直近で聞いていた情報だとここで正しいはず。

 

コンコンッ

 

廃ビルだから当然インターホンは無い。

 

「いいよ、入ってきて」

 

「失礼しまーす」

 

扉を開けると、そこには見覚えのある方々が四人。

 

「レイラ!久しぶり、一ヶ月ぶりくらい?」

 

「カヨコ先輩、お久しぶりです」

 

便利屋68。

ゲヘナでは不良生徒だってよく聞くんですけど、この方々は私にとって命の恩人。実際いい人達の集まりだし、正直何が悪いのかよく分からない。

 

「あれ~レイラちゃんだったの~?残念だねアルちゃん、久しぶりの依頼かと思ったのに」

 

「い、いいのよ!大切な友人が来たんだもの。依頼以上に喜ぶべき事じゃない!」

 

「お、お久しぶりですレイラさん……!」

 

「ムツキ先輩、アル社長、あとハルカちゃんも!お久しぶりです!」

 

私から会いに行ったというのに、やっぱり嬉しくなってしまう。アル社長にはどれだけ礼を重ねても足りないというのに。

 

「せっかく来ましたから……こちらをどうぞ!」

 

ここに寄る時に決めた、買い出しついでに買ってきたお弁当とカップラーメン達。便利屋は基本的に金欠らしいですからね。これくらい万魔殿の経費で落としますよ。あ、事後報告はしないといけませんが。

 

「いいの!?本当にいいのかしら!?」

 

「あ…ああああありがとうございます!!!」

 

「今月も安定して金欠だからね~!ありがとうレイラちゃん!」

 

「ありがとう。この弁当は……今から食べる?」

 

「はい。ちょうど食べたかったところです!」

 

メイド姿だけど、皆さんは驚かない。"万魔殿のメイド"になった報告はカヨコ先輩のメールに一報入れていたから。写真も同封して送りましたからね。本当は直接見せて反応を見たかったんですけどね。

 

お弁当の内訳は一般的な唐揚げ弁当。エンジェル24で売っている普通の弁当。でも便利屋のみなさんは金欠だからか、とても美味しそうに頬張っている。こういう光景が、私はとても愛おしい。いつまでも見ていたくなる。

 

ムツキ先輩がしれっと社長の唐揚げ一個盗んだり、ハルカちゃんが気付かずとも社長に一個献上したり……。それに気付いた社長がムツキ先輩とじゃれあったり、ハルカちゃんに一個戻してあげたり。その騒々しい空間を黙って心地よく一つずつ食べていくカヨコ先輩だったり……。そんな空間を眺める事が、とても好き。

 

「万魔殿に入ったって事は、マコトとも会えたんだよね」

 

便利屋68が私にとって特別な理由。命の恩人ってのも当然の理由だけど、もう一つある。

 

「どう?お姉ちゃんの調子は」

 

私とお姉ちゃん、()()()()()と羽沼マコトの関係を全て知っている。

 

「変わらずですよ。私にとってはですけど」

 

社長が一番喋っちゃいそうではあるけど、こういう時の社長はなぜか強い。なぜなら去年から今までバレてないから。

 

「相変わらず大事な時だけ頭働くんだね。今でも」

 

日常的に風紀委員会が絡みすぎなんですよね。いや、マコト様から絡みに行ってるか。ならバカですね、間違いない。

 

 

 

「「「「ごちそうさまでしたー!」」」」

 

「ごちそうさま、美味しかったよ」

 

最近のコンビニ弁当は量が多くて助かります。万魔殿所属ということもあって給食部の作る学食が基本ですから、最近はあまり食べてなかったのですが。

 

「社長、せっかくレイラもいるし、どこか歩かない?」

 

「さすが課長ね!私も同じ事思ったわ!」

 

「くふふ~、今なら万魔殿の経費で色んな物買えちゃうかもね~」

 

それは……まあモノによりますかね。食料品とかなら大丈夫でしょうけど。

 

 

 

廃ビルである事務所を出て、適当に歩く。とはいえここはまだ廃ビル群だから、周りに何か目ぼしいものがあるわけでもない。こういう"日常"は久しぶりかもしれない。もう一度ゲヘナという地に来る前を思い出す……。

 

あ、少し話反れましたかね。

 

ドガーンッ!!!

 

やっぱりゲヘナはゲヘナで良いところですよね。こういう爆発音然り、自由性の高いところだったり……これはマコト様のおかげになるんですかね?しばらく歩き、少し人通りの多いところに出た。多いと言っても廃ビルと比べてなので少ない方ではありますが。

 

「大変だ!チンピラ達がコンビニを占拠して…!!」

 

私がその場に居れば返り討ちにするんですけど……。あ、でも黙ってその場を見て愉しむのもありですね。

 

「社長どうする?向こうのほうは少し騒いでるみたいだし、もう戻る?」

 

「そうね……_____」

 

アル社長がカヨコ先輩への返答をしようとしたのも束の間、

 

ドカーンッ!!!

 

ダダダダダンッ!!!

 

「え~!?急に何々~!?」

 

何故か私達がいきなりどこかから攻撃を受けた。攻撃の方向は左斜め前方……しかも高所からの狙撃のようですね。ほんの少ししか見えませんでしたが、あれは……。

 

「……もしかしてさっきの騒動の犯人だと思われてる?」

 

「この攻撃、どう考えても風紀委員じゃない!!?」

 

これはちょっとまずいかもしれない……と同時に、少しだけこの後の展開を面白がってる私が居る。お姉ちゃんが居たら同じ事言うだろうな~。

 

「動くな!便利屋!!」

 

褐色肌の方の言う事なんか聞くわけも無く、とりあえずもと来た道をダッシュで駆け抜ける。強襲されましたから、少しだけ心の整理をさせてくださいな。

 

 

「ちょっとちょっと!私達何もしてないわよ!?」

 

「とりあえず一旦距離開けよう社長。応戦するにしても一回立て直した方がいい」

 

「だけどヒナが居たらどうにもならないわよ!?」

 

「あの程度の騒ぎで委員長が居るとは考えにくいけど」

 

「いえ、さっきの最初の攻撃でビルの屋上に居る空崎ヒナ委員長を見ました。何故か総力戦ですね」

 

「ちょっとヤバイ感じかも~?」

 

「ヤバイじゃ済まないわよ!!」

 

さて、少し試してみますか。

これは私がやりたい事ですし、それにこのままやられっぱなしも癪ですから。突然何の躊躇も無く冤罪を掛けられた便利屋の皆さんの為にも、ね。

 

「とりあえずある程度は距離を置けた。どうする?社長」

 

「いや逃げるに決まってるでしょ!」

 

 

「アル社長、私が空崎ヒナ委員長の相手をします」

 

「レ、レイラ!?」

 

「……つまりその間、他を私達が相手すればいいって事?」

 

「はい。それで構いません」

 

正直、空崎ヒナ委員長を除いた風紀委員会の実力なんて知らない。だけど、そうカヨコ先輩が聞き返してきたってことは、多分勝ち筋が見えてるって事。

 

単純に勝ちを目指してもいいんですけどね。でも私としては風紀委員の皆さんの反応が見たいだけですから。

 

「わ、分かったわレイラ!でも……絶対に無理しないで頂戴!」

 

 

「いい?少しでも危ないと思ったらすぐ退く事!」

 

「わかりました」

 

何より、気になるんですよね。私の実力を見た、委員長の反応とか、表情とか。

 

 

 

「アコ?本当に騒ぎを起こしたのは便利屋なの?」

 

『そ、そうです!間違いありません!!』

 

どこか歯切れの悪いアコの声を聞きながら、自分自身にも同じ質問をする。

 

新商品を誰よりも早く手に入れる為にエンジェル24を占拠する……。内容があまりにもショボい事だったけど、あの陸八魔アルがそんなチンケな事するかしら?

 

どちらにしろ一度捕まえてしまえばわかる事だけれど。

 

アコはやけに便利屋を気にするけれど、正直私はあまり応戦もしたくないし戦いたくもない。陸八魔アルがどうのこうのってわけじゃないけど、少し過去の事もあってあまり相性は良くない。あの子の性格的に、個人で話したら気が合いそうではあるけど。

 

問題があるのは、便利屋に所属している鬼方カヨコ。今の彼女と私はとても相性が悪い。私がちょっとした嫌悪を抱くくらいには……苦手。

 

『ヒナ委員長、便利屋はアビドス自治区付近の廃ビル群へ逃げました。地上部隊のイオリと共に追跡をお願いします!』

 

「ええ、わかったわ」

 

とは言ったものの、全然乗り気ではない。一度ため息を吐き、動こうとした……その時だった。

 

どこからか現れた、とても見覚えのある、メイド姿の人物。

 

「風紀委員長って案外大変なんですね。嫌な事も断れないんですか」

 

鷺辺レイラ、私の眼前に彼女は居た。

 

「……どうして便利屋と一緒に?」

「個人的に繋がりがあるだけですよ」

 

 

「私が貴方の相手をしますよ。空崎ヒナ委員長」

 

「……邪魔をするつもりなのね」

 

 

「言っとくけど、一年だからといって容赦はしないから」

 

「望むところです。今の私は"万魔殿のメイド"ではなく

 

 

"便利屋68の秘書"ですから」

 

だから問題ないとでも言いたいのかしら。本当に困るわ、自由すぎて。

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