万魔殿のメイド   作:狐ノ陽炎

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15話 鷺辺レイラの本性

「くっそッ!!コイツどうなってる!?」

 

レイラへ向かう弾丸の数は空崎ヒナとタイマンした時の比ではない。モブ達やイオリの弾丸を含めれば当たらないはずがない。

 

「お前1年生だろ!?なんでそんなタフなんだよ!!」

 

全く当たっていないわけではないが、あまりにもダメージを受けている気配が無い。委員長を含む風紀委員会の全員が、今目の当たりにした事実に驚かざるを得なかった。

 

 

____とはいえ、やっぱりレイラに対する攻撃頻度が高すぎる。ハルカ以上のタフさを持つレイラでも、あれ程の弾数は間違いなく多い。

 

「社長、イオリを誘導するからお願い」

 

『分かったわ!』

 

空崎ヒナは動いていない。というか、どう動くべきか迷っているが正しい。この子はまったく……なんというか……。優柔不断じゃないけど、少し部下に任せすぎな面がある。自分自身も好きに動くから、部下もそれでいいって思ってる。

 

「………」

 

裏でかき回していた第一フェーズとは違い、私自身も風紀委員会の目の前にいる。私が居る事に気付いたのか、ヒナと目が合った。そう、私とヒナは()()()()()が原因で相性が悪い。それさえ無ければ、個人で話せば普通に仲良くなれると思うけど。

 

「社長、今だよ」

 

パァンッ!

 

ヒナと私の目が()()()()()のを見たイオリが気付き、少し意識がこっちに向いた。その時、社長の撃った弾がイオリの脇腹を直撃し、倒れこむ。

 

「痛ってッ!!!」

 

「……」

 

 

「どこまでも邪魔するのね、貴方達は」

 

独特で強烈な殺気と共に、空崎ヒナがこちらへ向かってくる。

 

「……」

 

まともにやり合えば、私達四人がかりでも全く歯が立たない。それほどに今のゲヘナにとって空崎ヒナという人物の存在は大きい。

 

でもヒナの意識が便利屋(わたしたち)に向いてるってことは、どういう事か。ヒナもそれを失念している。

 

「……私達を先に潰そうって判断は、常時なら間違ってない」

 

「………」

 

一応元後輩だから、教えてあげようと思う。

 

「意識を逸らしたら、負けるよ」

 

「……!!」

 

ガァンッ!!!

 

ヒナの後方から凄まじい勢いと威力で、槍とマシンガンがぶつかり合った。いや、ぶつかるって表現は最適じゃない。ヒナが間一髪で防いだって言った方がいいかな。

 

「もう少し遊んでくれませんか?ヒナ委員長?」

 

たぶん、モブ達を蹴散らしてきたんだろう。イオリも社長や私達に意識が行っていたし、相手はヒナしか残っていない。

 

「くっ!!」

 

「貴方の目的は何なの!?」

 

 

「便利屋は関係ないって分かった!!だから撤収するって約束したじゃない!!」

 

ヒナは多分、鷺辺レイラという人物を勘違いしている。

 

「そうです、その顔ですよ。ヒナ委員長」

 

「えっ……?」

 

「貴方のその、心底驚いた顔が見たかったんです」

 

「ッ……!!!」

 

メイドというのは、いつでも微笑みを絶やさず、決してその裏に隠された本当の顔というものを表に出さない。冷静沈着に振る舞い、ただ主の命令を遂行する。私の中にあるメイドのイメージがこれ。多分ヒナが描いてるメイドのイメージもこれだと思う。どう?鷺辺レイラの本当の表情は。

 

ゾッとするよね。

 

ダダダダダンッ!!

 

相変わらずレイラに攻撃が当たっている気配はない。そう見えるだけかな、でも動きが鈍らないからそうなんだと思う。少しでも意識を私達に向けてみてよ。いくらヒナでも、狩られるからね。

 

 

「……!!」

 

速度が落ちない。威力も落ちない。どうすればいい?レイラの言っていた通り、持久戦に持ち込んで確実に勝ちに行く?耐えるだけなら何も問題は無い。だけどこの……

 

ガンッ!ギィンッ!!

 

レイラの動き……!とてもこのまま持久戦で勝てるような動きをしていない。まるで常に体力満タンで動いているような……!

 

 

プルルルルッ

 

プルルルルッ

 

 

どこからともなく機械音が聞こえてきた。その瞬間、レイラの動きが止まる。

 

「はい、私です」

 

『マコト様だ!』

 

スピーカーにしているのか、電話の相手がマコトであることが容易に分かった。今がチャンス……!!

 

ダダダダダンッ!!!

 

手ごたえがある……全弾が命中した……!煙が立ち込めてレイラの姿は見えないけれど……。

 

『お前今どこに居る?』

 

「アビドス自治区付近の……廃ビル群ですね」

 

『お前に頼みたい事がある。今すぐ戻ってこい』

 

「今すぐですか?」

 

その声と音を聞いて、愕然とした。平然と立っている。私の攻撃を真っ向から受けて。

 

ダダダダダンッ!!!

 

今度は手ごたえが無かった。上に避けられたッ……!

 

『周りが騒がしいな。何かあったのか?』

 

「只今風紀委員会と交戦中です」

 

『キキキキッ!キッキッキッ!!そうかそうか!』

 

『どうだ?風紀委員会、いや空崎ヒナは!!?』

 

まずい……。さっきのレイラの雰囲気なら…。

 

「そうですね」

 

 

「とても私では歯が立ちません」

 

……え?

 

「とても強い方ですよ」

 

『キキキッ!そうかそうか!』

 

想定外の返答に、想定外のマコトの反応。マコトなら、レイラの言葉に異を唱えてもおかしくなかったけど……。

 

『とにかく一度戻ってこい』

 

「はい、承知致しました」

 

ピッ!

 

 

「……というわけで、ここまでのようですね」

 

「このまま逃がすと思ってるのかしら?」

 

「……」

 

そんな虫が良すぎる話、あるわけない。レイラもよく分かってると思うけど。

 

「仕方ありませんよね。私の我儘ですし」

 

「ええそうね、大人しく……ッ!!?」

 

ガギンッ!!!

 

「くっ……!」

 

今までで一番重い一撃だった。私としたことが、思わず後ろに数歩よろめいてしまう。

 

 

 

イオリとチナツ、モブ達を相手にして数分が経った時だった。

 

「あそこか、見つけたぞ!陸八魔アル!!!」

 

 

「社長、位置がバレたから場所変えて。もう終わりにするから、私達の所に戻ってきて」

 

『了解よ!』

 

 

「逃がすかッ!」

 

ドガーンッ!バゴーンッ!

 

「のわっ!!?」

 

社長から逸らす為にムツキに頼んでおいた爆弾でイオリの意識を逸らす。こういうのって多分、経験の差なんだと思う。イオリはなんというか、凄く単純だからこういう罠によく引っかかる。チナツは引っかかりにくいけど、実力差で十分対処できる。こうもかき回されてたらアコも対処なんて出来ない。というか現場に居ないサポートなんてどこかに限界がある。

 

結局こいつらは空崎ヒナが居なければ所詮こんなもん。去年はこうも弱くは無かったはずなんだけどね。どうして弱くなったのか、ヒナ頼りであることを変えないと、考えない限りこの現状は変わらない。だからマコトからの当たりも強い。

 

 

「カヨコ先輩」

 

「レイラ……!」

 

爆発で舞った煙の中から、レイラが現れた。その表情はどこか、"鷺辺レイラではない感じ"がした。

 

「マコトに呼ばれた?」

 

「はい、どうやらここまでのようです」

 

 

「後は私達が相手しとくよ」

 

「……すみません」

 

数秒遅れて、ヒナも煙の中から現れた。

 

「逃がさないって言ってるでしょ!」

 

「……」

 

「大丈夫、行って。弁当美味しかったし、食料もたくさん貰ったから」

 

「……ありがとうございます」

 

 

レイラが礼を言って、数秒後……。まるで消えたような素早さで、ゲヘナ学園の方向へ走っていく。あの子足も速いんだよね。

 

「だから……逃がさないって!」

 

その姿を捉えられたのは、恐らくヒナと私だけ。

 

「今だよ、社長」

 

パァンッ!!

 

ピュンッ!!

 

社長の撃った弾は、ヒナの僅か数ミリをかすり、一瞬だけ意識がレイラから逸れた。そのヒナの反応を、私は見逃さなかった。

 

バァンッ! ガァーンッ!!

 

 

「くッ……うぅ……!」

 

「て、てめぇ……!」

 

私の能力で数秒恐怖状態にすれば、もう視線の先にレイラの姿は無い。少し考えればこうなることくらい分からないかな。

 

「……どこまでも邪魔してくれたわね!」

 

もうこれが不毛な戦いだった事など、今のヒナの脳内にはすっかり抜け落ちている。もう少しだけ教えてあげようかな。

 

「これ以上は戦うべきじゃない」

 

「どの口が言ってんのよ!?」

 

「この戦いに意味なんかない。あったとしたらそれはレイラだけ。便利屋にも風紀委員会にも、これ以上は不毛だから」

 

私達は濡れ衣を着せられただけだし、風紀委員会は怪我人を出しただけ。意味があったのはただ単純に遊びたかったレイラだけだから。

 

「散々彼女の手助けをしておいて、まだそんな事言うつもり!?」

 

はぁ……。

まったくめんどくさい。少しでも暴走したら周りが見えなくなる。

 

「今ここで私達に攻撃してみてもいいよ。でもそれだと、私には一生勝てない」

 

「ッ!!!」

 

明らかに表情が変わった。別に意識しろなんて言った覚えはない。かと言って意識する事も悪い事とは思わない。だったら真実を伝えてやればいいだけ。

 

このままやればどうなるか。それは私が一番よく分かってる。

 

「………」

 

 

 

「イオリ、チナツ、撤退よ」

 

「だ、だけど……!」

 

「……いいから」

 

「は、はい……!」

 

意識したうえで、気付かなければ一生これ以上の成長は無い。少なくとも私なんかに指摘されてしまうのはね。負けですって言い散らかしてるようなものだから。

 

「最後に一つだけ」

 

「……」

 

「そもそも私達に攻撃なんかしなければ、こんな事にはなってないから」

 

「……」

 

「もう少しその辺は、考えた方がいいよ」

 

「……」

 

誰からも、ヒナからも答えは帰って来なかった。だから成長しないんだと、誰も気付かないまま。





ゲヘナ風紀委員会編、終了です。
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