マコト様が先に釘を刺したからか、ミカ様の余計な茶々も無く話が進む。
特に私が思う事は無い。聞いてるだけの内容としては、まずエデン条約の概要とそれについてのメリットデメリット。事前に予習しておいた事をそのまま聞かされただけですが、まあよしとしましょう。
ここまでの話はトリニティ側で主催している会議だからか、ナギサ様が進行役を務めている。マコト様とサツキ様は手元にある資料を眺めています。新鮮ですね。
実は私にも渡されたんですよこの資料。ただのメイドだというのにとてもお優しいんでしょうねナギサ様は。
「_____さて、ここまでの話でご不明な点等ございますか?」
資料通りの説明が一通り終わり、質問タイムに突入した。ここまでトリニティ側の反応を見ていましたが、そうですね……。まずナギサ様から行きましょうか。
是が非でもエデン条約を遂行したいという気持ちが伝わってきます。あくまで会議という場ですから落ち着いてはいらっしゃいますが、メリット部分に関しては力強く語ってましたね。ナギサ様自身のご意見を交えて説明してましたから、間違ってないんですけどね。
「不明な点か……」
で、次にミカ様。何となくですけど
でも、なんて言ったらいいでしょうね?この人の茶々って、別にふざけてるわけじゃないと思うんですよね。それこそナギサ様以上に自身のご意見をただ補足で述べているといいますか……。簡単に言えば、エデン条約に反対してるわけじゃないと思いますよ。決して、ナギサ様のやり方を良いと思ってるわけじゃなさそうですが。
「私は特にないわ。マコトちゃんは?」
「不明な点と聞かれたら無いだろうな。この資料が全てを語っている」
「では他の点ではあると?」
「ああ、だが今回は
さっそく仕掛けていきましたね。ここまではただの前座であり、悪く言えば無駄な時間であったと。そう言ってるようなものですね。
「先に言っておくが、エデン条約の内容自体に不満はない。これはそもそも連邦生徒会長が用意した案をそのままティーパーティーが引き継いだものだ。連邦生徒会長の時に既に完成されている」
「……つまり、我々トリニティ側に問題があると言いたいのですか?」
マコト様がいつになく真面目なので、ナギサ様が喧嘩腰に見えるのは気のせいでしょうか……。
「どちらかと言えばそうなるな。当然ゲヘナ側にも問題が無いとは言い切れない」
「そうかなぁ。どう考えてもゲヘナ側の問題だと思うけど……」
これは"偽の罠"でしょうね。その気がない、ただのミカ様の本心と言ったところでしょうか。
「ならばまずゲヘナ側の問題点を挙げてやろうか?」
「ううん、よく分かってるから別に言わなくても大丈夫だよ!」
これが"本当の罠"。マコト様のわかりやすい性格を利用したいんでしょうね。ですが甘く見られたものですね。
「ならばこのままトリニティ側の問題点を挙げてやろう」
「………」
「ええ、是非お聞かせください。我々内部からは分からない事もありますから」
何故マコト様が
あ、でも面白い姿見られないからダメか。
「誰でも知っている事だが、このトリニティ総合学園とは、トリニティ自治区に存在していた学校や分派が統合されて出来た学園だ。その多く存在する分派全てが、このエデン条約に賛成しているのか?」
「もう一つ、貴様らが率いる分派も同様だ。トップである桐藤ナギサ、聖園ミカ、百合園セイア。この三人がエデン条約に肯定的であるだけでその分派の答えが実質的にエデン条約に肯定的と見なされる」
「当然です。それが分派のリーダーというものですから」
「………」
「つまりそれは、
「それはちょっと考えを飛躍させすぎじゃないかな?」
「そうか?トリニティならあり得る話だ」
「………」
随分と大きな罠を置きましたねマコト様は。マコト様の"本当の狙い"もよく見えてきました。
「飛躍という意味で考えるなら、今度はトリニティ総合学園全体でも言えるだろう。貴様らティーパーティーは、トリニティを代表している。つまり……」
「我々三人がエデン条約に肯定的とみなせば、トリニティ総合学園はエデン条約に肯定している……そう言いたいのでしょうか?」
「あぁ、わざわざ私が言わなくても伝わったみたいだな」
ここで私が見るべきは、ナギサ様でもミカ様でもない。この二人の近くに居る、『使い』の反応。マコト様は言葉で、サツキ様は目線で二人を牽制してくれている。暫くの間は私への視線が途切れるでしょうね。その間に、視させてもらいますよ。
「聖園ミカ、貴様は我々ゲヘナに突っかかる余裕があると思ってるのか?」
「え?喧嘩売ってる?」
「……やめてくださいミカさん」
「
『過去の事』という単語を出した瞬間、ミカ様を除く全員から一定の反応が見られた。ナギサ様はなるべく表に出さないようにしたかったからか、一瞬でしたが。
恐らく連邦生徒会も探し出せていない"あの学校"の事ですね。
「……過去の事は確かに重要ではあります。トリニティ外の事を含めても私達が見逃す、もしくは無視する事が出来ないのも事実です。ですが、いつまでも過去に囚われていては成長する事も出来ません」
「………」
「ここでゲヘナとトリニティが共に手を取り合いエデン条約を結ぶ事。それこそが我々の成長であり、キヴォトスそのものの成長にも繋がります」
「………」
「私は貴方を高く買っています。一昨年、去年度の貴方の手腕と功績。そして______」
「____羽沼マコトさん、貴方の『本当の目的』の為にも。貴方の協力が不可欠なのです」
思わず私も、マコト様を見てしまう。
私からは、マコト様の表情は見えない。だけど、よく分かった。分かってしまった。
目に見えて表情が変わった。ナギサ様から特に"誘い"があったわけではない。マコト様の"攻撃"も外したわけではない。
"見えないカード"を切ってきたナギサ様に一本取られただけ。ただこの【一本】がどれほど大きなものか、それはマコト様にしか分からない。
「キシシ、キッキッキッキッ……!そうかそうか!!」
私の予想に反して、マコト様は笑った。いえ、むしろマコト様は
「この場で出す必要が無いと思っていたが、
「私の『本当の目的』の為にも、もう一つの大きな問題点を突いてやろう」
「………」
今この場において、ミカ様とサツキ様が入り込む余裕はない。事実上
「今回のエデン条約そのものの問題だ」
「……先程問題点は無いとおっしゃってませんでしたか?」
「内容は問題ない」
「今回の……?」
「……!!?」
何気なく出てきたミカ様の言葉に、ナギサ様も何かに気付く。
「連邦生徒会長が発案したものはゲヘナ、トリニティの間に連邦生徒会が入る事でエデン条約を結ぼうとしていた。しかし連邦生徒会長が失踪した事で連邦生徒会が間に入る余裕は無くなり、この案は空中分解しかけた」
「だが"今回のエデン条約"は桐藤ナギサが空中分解しかけたものをここまで立て直したものだ。内容はそのままだが、間に挟まる組織は存在しない」
「……間に挟まなければならないのですか?」
「キヴォトスの今後を考えるなら挟む必要がある。ここで結ばれるエデン条約は、今年のティーパーティーと万魔殿の口約束程度にしかならない。私達が卒業し来年、再来年以降もこの条約が守られるという保証はどこにもない」
「そ、そんなはずは……!!」
「無いと言い切れるか?」
「……!!!」
「………」
「本当にこの条約を結びたいのであれば連邦生徒会長が見つかるのを待つべきだ」
「しかしそんな余裕はどこにも」
「だからと言って焦りすぎだ。まだ失踪して一ヶ月も経っていない」
「ですが……!!」
「ナギちゃん」
「………なんですかミカさん」
「今日はもうお開きにした方がいいと思うな」
……私はこのままもう少し見ても面白いかなと思うのですが。
「まだ"私達の知らない部分"もよく見ることが出来たしね」
どうして"万魔殿のメイド"と目が合うんですかね。私の事は放っておいてもいいのでは?
「そうだな。あらかた今の課題は出切った。これ以上は時間の無駄だ」
「ゲヘナに帰るぞ。サツキ、レイラ」
「承知致しました。マコト様」
最後まで、聖園ミカとの視線を逸らさないまま。