万魔殿のメイド   作:狐ノ陽炎

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2話 万魔殿の定例会議

メイドになってから早3日。

学生生活がほぼ180度反転した生活を送っている私は、時の流れの速さにまだ慣れていない。いつのまにか給食部の昼食を食べ、議長が朝早く言っていた定例会議の時間がやってきた。

 

万魔殿の定例会議は万魔殿に所属する全員が参加するものでは無く、重役である戦車長や情報部。書記と飛び級の議員が一人、そしてメイドである私である。

 

一端のメイドである私がこのような重要な会議に出席してもいいものかと、私の中でとても面白い議題が出来上がっている。

 

「はい!定例会議を始めます!」

 

書記の元宮チアキ様が会議を進行する。

この3日間、生徒会らしからぬ仕事ぶりで、ゲヘナ学園の良さも悪さも兼ね備えた組織だなって思っていたけど、こういう会議はしっかりやるんだなと下っ端の立場ながら感心する。とはいえ元気一杯な書記に、自信満々で何を考えているのかわかる議長、今にも睡眠学習に入りそうな戦車長に、何故か五円玉を左右に振っている情報部長等々……絵面を見ただけだったらいくらゲヘナ生徒でも絶句しそうな面子である。

 

「まずは、ゲヘナ学園外の事から。情報部長から!」

 

「ええ、私からね」

 

情報部長の京極サツキ様。

マコト様曰く、重度の催眠術マニアとの事。恐らく人を従わせるのに使おうとしてるんだろうけど、私は既に従ってるからか、その光景を見れていない。遠目で一回だけ見てみたいものである。

 

「まず二週間程行方不明になっている連邦生徒会長についてよ」

 

「連邦生徒会を以てしても見つける事の出来ていない超人……か」

「ええ、私の情報でもまるで見つけられないわ。本気で探しているわけじゃないとはいえ、影も形も見つからない。消えたように、ね」

 

キヴォトス全域を管理し、治安や安定を保ってきた連邦生徒会。そのトップである連邦生徒会長が突然いなくなってしまった事により、普段治安の良いトリニティやミレニアムでも、治安が悪化しているという話を聞く。ゲヘナは比較する事は不可能だから、多分気のせいだと思っている。

 

「はい次、マコトちゃん」

「キキッ!そうか、私か!」

 

「この先に控えている、エデン条約についてだ」

 

連邦生徒会長は一度だけ中等部の頃に会った事がある。あまり記憶に無いけど、水色のロング……とても優しい方だったと記憶している。

 

「……本来であればその行方不明になった連邦生徒会長が指示した話だが、つい先日、トリニティの生徒会側から連絡が来た」

 

「連絡ですか?」

「あぁ、このまま連邦生徒会長が行方不明のままだった場合、トリニティのティーパーティーとゲヘナの万魔殿主導でエデン条約締結に向けて話を進めていく……との事だ」

 

「マコトちゃんはそれでいいのかしら?」

「返答はまだしていない」

 

「……でしょうね」

「そもそも私は、エデン条約締結に反対だからな!」

 

エデン条約。

一度だけ概要を見た事がある。とんでもなく簡単に言えば、仲の悪いゲヘナ学園とトリニティ総合学園がお互い仲良くしましょうねっていう条約だったはず。

 

「……ここで私から」

「はい!イロハちゃん!」

 

「はぁ……マコト先輩の意見も分かるけど、実際トリニティと衝突した時の弾薬や爆発物消費は洒落にならない。風紀委員会だけで事が済めばいいけど、そうじゃない時もある……」

「近いうちに返答は返すつもりだ。少なくともその時点で反対意見を押し通すつもりはない」

「なら……いいですけど」

 

戦車長の棗イロハ様。

まだ一度しか聞いてないから覚えてないけど、恥ずかしい名前の戦車を持っていた気がする。肩書の通り、万魔殿の武力担当という事になるが、そのやる気の無さからあまり強い気配は感じない。

 

「はい!では次、ゲヘナ学園内の事を。誰か何かありますか!」

 

「私からは特に何もないわ」

「……無いです」

 

「は~い!イブキから~」

 

「はい!イブキちゃん!」

 

丹花イブキ様。

学年としては私と同学年の1年生だけど、年齢は11歳と飛び級での万魔殿に加入している天才児である。私も地頭の良さには自信があるけど、この子には勝てないなーっと勝手に思っている。

 

「レイラちゃんがイブキのことイブキって呼んでくれないの!」

 

…………。

 

あら…?これは…一体……?

 

「イブキ、詳しく説明してくれるか?」

「レイラちゃんね、イブキのことイブキ様って呼んでくるの。おなじ1年生だし、おなじ議員なのに、おかしいなっておもって」

 

「……困りましたね」

「……」

 

万魔殿のほぼ全員がイブキ様の事を溺愛している。まあ年齢もそうだし、ゲヘナ生徒としてはあまりにも見ないトラブルを起こさないとてもいい子。私から見てもつい甘やかしてしまうほど可愛い子でもあるけど……。

 

「イブキ様。私は万魔殿のメイドなのです。イブキ様をイブキ様以外で呼ぶ事は出来ないのです」

「え~」

 

マコト様やイロハ様からも、助け舟はまったく飛んでこない。

 

「ですがある時だけ、イブキ様の事をイブキ様以外で呼べる時があります」

 

「さっきも言った通り、私は"万魔殿のメイド"です。下校時間になれば、メイドでは無くなります」

 

「いっしょに帰るとき?」

「はい、そうです。その時は、ぜひイブキ様の事、もっと近しい距離で見つめてもいいですか?」

 

そう言った瞬間、目に見えて分かるようにイブキ様の表情がぱあぁっと明るくなる。

 

「うん!」

 

 

 

「……そういえば一つ、忘れていた」

 

「はい!マコト先輩!」

「何日か前から、風紀委員会に次の戦術訓練の予算書類を提出するように催促しているのだが……一向に提出される気配が無い」

 

「……まあ、書類提出期限は明後日ですからね」

「何ィ!?」

 

風紀委員会への私怨が強すぎるマコト様は、時々こういう面白いミスをやってくれる。その時冷静にイロハ様に指摘されて動揺するマコト様はもっと面白い。

 

「でも風紀委員会って組織なら、早め早めの書類提出は基本なんじゃない?」

「あ、ああ、その通りだ!そこでだ」

 

「レイラ、お前の初仕事だ」

 

「はい」

「風紀委員会に行って、書類を回収してこい」

 

この時のマコト様は、何を考えているだろうか。万魔殿に突如として現れた謎のメイドを見せびらかす為だろうか。それとも、ただただ催促させたいだけだろうか。

 

「はい、承知致しました」

 

もちろん、理由は前者。

 

「キキキッ、見せてやれ」

 

もちろん、仰せのままに。

 

 

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