音が消え、目の前が真っ暗になった。私の真横にはチナツちゃんが居たはずなのに、まったく気配を感じない。私の目の前にはトリニティやミレニアムを含む数名と大人が居たはずなのに、まったく見えない。忘れ去りたかった私の中に深く刻みこまれた記憶をよく思い出す前に、目を閉じ一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
大人。
いい思い出が無い。
どうにかして美化するなら良くする事もできるかもしれない。でもそれ以前に思い出したくなかった。
目を開けると、眼前にはさっきの景色が戻っていた。数人位置が変わっている、どうやら数秒は経ったらしい。
目と耳で分かる情報はそれくらいで、今度は私自身に意識を向ける。
……。
とてつもない汗をかいている。チナツちゃんも誰も、まだ私の異常には気付いてないのは運が良いのか悪いのか。
「レイラちゃん?話聞いてましたか?」
「……ああいえ、少し考え事をしていました」
お願いです。今は、私の異常に気付かないでください。
その時、先生と呼ばれる人物と目が合った。本来であれば軽く会釈しているのがメイドというもの。でもその余裕が一ミリも無い私にとっては、その視線を逸らす事もできず、それどころか自分がどんな表情をしているかさえも分からなかった。表裏の無いであろう笑顔をこちらに向けてきたものの、それにも当然返す事は出来ず……。
ほんの数秒、目が合ったままだったものの、先生は異常に気付いたのかそれともたまたまなのか、特に私の反応や態度に触れる事も、他の誰かに話す事も無く終わった……。
「レイラちゃん!」
「……。あ……はい」
「大丈夫ですか…?」
「はい、大丈夫です」
「この先生は連邦捜査部『シャーレの先生』です。連邦生徒会長が指名された方だそうで」
シャーレ……?
まったく聞いた事も無い単語を聞いて、とりあえずそちらに思考を移す。"私達と同じ容姿をした大人"という存在を気にしないためにも、今はそれ以外の事を考えるのに集中するしかない。
だが、私の中に存在している『記憶』をどうやっても書き消せない。しばらく忘れていた、この世で最も嫌な記憶。恐らく、この"大人"が近くに居る間はもうどうにも出来ない……。シャーレという単語を考える事も忘れ、火宮チナツの言葉にただただ相槌を返す機械と化す。
どうやらどこかへ移動するみたいです。一度深呼吸した程度では現実に全てを引き戻す時間が遥かに短い。もう脳に届く音がどんどん遠くなり始め、身体も惰性で他の人達についていくもぬけの殻となる。
どこかに移動するのかも、これから何をするかも分からない中、身体だけは動き続ける。本能的に一緒に行動しなければならないと思っているのでしょうか。
前方には、チンピラや不良達が見えます。強行突破するのでしょうか、歩を進む足が止まりません。もう私の意志で動いている身体の部位はあるんでしょうか?
「はい、承知しました」
遂に口さえも私の言う事を聞いてはくれません。一体何の言葉に承知したんでしょうか?私の中では、何も聞こえなかったというのに。
いやだ、いやだ、いやだ
死にたくない!死にたくないよぉ!!
もう嫌だ!ころして!ころして!
あの頃の記憶。
目の前にいるのはただの不良のはずです。あの頃の記憶の中にある、援けを求め、嘆き、咽び泣く無数の
嗚呼……。
今持っている武器が、学生専用の物でよかった。そうでなければ、不良達の息の根を一人残らず止めている所だった。
たすけて!たすけて!
おうちにかえりたい!おとうさん!おかあさん!
どうやって、私に指示を出しているんでしょうか。痛みも、声も、身体も……何も分からないというのに……。
しばらく不良達を相手した後、目の前に大きな建物と共に一台の戦車が現れる。戦車なんて、私の前ではただのガラクタに等しいんですよ?むしろ的を大きくして今すぐにでも破壊して花火を上げてくださいと言っているようなものです。
砲撃が私に直撃しました。
痛みはありませんが、そんなに潰してほしいんですか?やっぱり敵も少しは永く息をしていたいじゃないですか。だからほんの少しだけ見逃してあげたというのに。私の好意を無駄にするなんて……仕方ありませんね。せめて貴方達の見えない部分から攻撃して、苦しむ事なく終わらせてあげますよ。
私はそのまま大ジャンプして戦車の視界から外れる。そのまま戦車の操縦席部分を私の槍で一突きする。が、確かな手ごたえを感じなかった。確かに操縦者の身体に触れ、一定の反応が感じられたが、明らかな手ごたえがなかった。
そこで私はそのまま戦車の破壊する事にし、前方部分を一突きする。小さな爆発音が聞こえ、そのまま戦車から離れる。距離を取った数秒後、大きな爆発音が聞こえ、あまり美しくない花火が上がる。嗚呼、美しいですね……。
………。
しばらく花火を凝視していた後、少しずつ目の前で鳴り響く爆発音を
そうか……。
相手を殺してはいなかった。
ここがキヴォトスだという事を、私は再認識した。
私に指示を出していた方……恐らく先生でしょうか。周囲に見えない事で、私の感覚が戻ったのでしょう。今のうちに、この場から離れないといけませんね。先生や他の方には申し訳ありませんが……。
「チナツさん……すみません……」
チナツさんに体調が悪いと誤魔化し、上手くその場を離れる事に成功した。どうやらチナツさん以外も私の様子がおかしかったことを認識されていたようで、特に言及される事はありませんでした。
えっと……。
とりあえず……お姉ちゃんに会わないと……。
もう、もたない……。