肌感覚で伝わる、明確なレイラの震え。理由さえも聞いていない私はただ、呼びかける事しか出来なかった。
「大丈夫……大丈夫だから……」
「大丈夫なわけあるか…!!」
どう考えても大丈夫なわけがない。"万魔殿のメイド"という鷺辺レイラの面影なんて一ミリも無いというのに。
……だが無理矢理に理由を聞くわけにはいかない。
「レイラ、少し触るぞ」
議長席に座った私の腰部分に抱きついていたレイラを持ち上げ、私が自らレイラを抱きしめた。議長席であるがゆえに少しばかり窮屈だが、私の上にレイラを座らせた方が良いだろう。
「お、お姉ちゃん……?」
私は答えなかった。いや、答えれなかったが正しいか。どう考えても大丈夫ではない。だが理由は聞けない。ならば黙って触れる事しか出来ない。こうすればレイラが落ち着くだろうと、私なりに考えだした答えだ。
「ありがとう……」
しばらく経ち、身体の震えも収まり、静かな時間だけが流れ続けた頃。
「おねーちゃーん、ちゅーしよー?」
唐突に、今までのシリアスな雰囲気はどこ行ったのか……謎のお願いが飛んできた。
「………」
「ねーねー、ちゅーしよー?」
「……冗談を言えるくらいにはマシになったか」
思わず頭を抱えるのも無理は無いだろう。だが、まだメイドの格好をしているにもかかわらず、ここまで甘えてくるのもやはり先程の出来事が原因か。たまには、こういうのもいいだろう。
ちぅ……
「…!!? っつ…!!?」
後ろから手を回したまま、レイラの口と私の口を合わせた。所謂"キス"というやつだ。突然のことだったからか、甘々迫ったにも関わらずとても驚いているようだったが。
「……どうして迫ったお前が恥ずかしがる?」
「いや……その……」
「本当にしてくれると、思ってなかったから………」
たまにはこういうのもいいだろうと。だが私としては別の理由がある。
「10年以上、レイラを見つける事も、レイラの傍に居てやる事も出来なかった。レイラの望みは、私に出来る事なら叶えてやるつもりだ」
そう、私の力では見つけることが出来なかった。レイラが自らキヴォトスに戻ってきたからだ。私では……いくら探しても、一生見つけることが出来なかっただろう。
「明日アリウスとの会談が控えてるが……どうする?レイラは辞めとくか?」
「駄目、お姉ちゃん一人で絶対に行かせない」
「そうか……」
レイラならそう言うだろうとは思っていたが……。
それで、レイラが
「大人……シャーレの先生……か?」
ヘイローを持たない、私達と同じ見た目をした大人……か。つまりレイラはその大人を見てこうなったのか?
「その大人は知ってる奴なのか?」
「ううん、全然知らないし見た事も無い人」
トラウマ、というやつか……。
「お姉ちゃんは私の件について何もしないで。これは私が自分で何とかしなきゃいけないから」
……。
私の沈黙がどういう意味か察したのか
「お願いだから」
と釘を刺してきた。
「あぁ、分かった」
言いたいことは山ほどある。だがその言葉をどんなに綺麗に見繕ってもレイラを傷付けてしまうと思った私は、そう返事するだけに留めておいた。
だが、シャーレの先生という存在については一から調べる必要がある。後で、サツキに連絡して情報部で調べてもらう事にしよう。下手に私が介入する必要は無い、よほどの事が無い限りはな。最悪イロハやチアキを使えばいい。
「……じゃあ、帰るか」
どうやら私も様子がおかしいようだと、自分で気づいた。もう用事も用件も終わっていたから、明日に備えて早く帰る事にする。それと、ちゃんとレイラには明日の集合場所を伝えておいた。学校では無いからな。
明日は大事な会談があるというのに、どうも何か気に食わない。
嫌な奴だ。この学園で、誰よりもな。
スランプ気味です...