万魔殿のメイド   作:狐ノ陽炎

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3話 万魔殿のメイドと風紀委員会

ゲヘナ風紀委員会は朝から慌ただしかった。

いや、正確に言えば普段でさえ慌ただしい。不良生徒や問題児の鎮圧からそれに続く書類整理まで、慌ただしくなかった事なんて今までほとんど無かった。だが今日は朝から本当に慌ただしい。

 

武力担当の委員長、空崎ヒナは朝から問題児の鎮圧で留守であったが、残った風紀委員はとある生徒を調査する事に時間を費やしていた。

 

そして、昼。

普段なら多少なりとも昼食を食べる時間を設けるのだが、今日に限ってはその暇も無い。

 

「……では、ヒナ委員長も戻ったので、調査報告会を始めます」

 

昨日の午後から今日の午前中まで、風紀委員会はとある一人の生徒を調べていた。空崎ヒナもゲヘナ地区で起きていた騒動を鎮圧させ、その威厳ある席に腰を下ろしている。

 

天雨アコ行政官のもと、調査報告会が開かれた。

 

「まず、3日前に突如として現れた万魔殿のメイド、鷺辺レイラについてです」

 

そう、調査対象は鷺辺レイラである。

 

「去年の夏頃、彼女はこの時にゲヘナ地区の中等部の学校へ転入しています」

 

風紀委員会がわざわざ総力を起こしてまで彼女一人を調べたのはいくつか理由がある。

 

「必要な手続きは去年の万魔殿のリーダーと風紀委員長によって為されています。そしてここに、その書類が残されています」

 

まず一つ目の理由として、風紀委員会の天敵と言っても過言ではない万魔殿のメンバーが一人増えたからである。

 

現在の風紀委員は、万魔殿のリーダー、羽沼マコトの嫌がらせで大量の書類を押し付けられ、学園の面倒事を巨大とはいえ一つの委員会で処理している言わば限界寸前状態である。その状況下において敵が一人増える……かもしれない状況に陥った事、また鷺辺レイラが敵かどうかを見定める為である。

 

「……転入前の経緯は?」

「それが……どの資料や書類を探しても見つかりませんでした……」

「そう……」

 

もう一つの理由がある。そもそも、風紀委員としてはこちらの理由こそ本命だ。

この何でもない時期において、唐突に万魔殿のメイドが何故誕生したのか、どんな理由で羽沼マコトがこの決断を下したのか、だ。

 

「彼女は入学試験にて銃では無く"槍"で参加し、トップレベルの成績を残しています」

「槍で?」

「はい……。どうして彼女が槍を選択しているのかは不明ですが……」

 

キヴォトスにおいて生徒会というのは外の世界における一国の首脳陣と言っても過言ではない。羽沼マコトの独断か、それとも気まぐれか。1年生の生徒が、何の重要役職でもない"メイド"として立場を与えられたこと。

 

ミレニアムやトリニティであればこんな事『ありえない』のだが、ゲヘナ学園は他校よりも遥かに自由度が高い。政治に疎い生徒が多く、羽沼マコトの支持率も一桁とかなり低い。

 

「一度だけ聞いた事あるな。確か"神速の槍者"だったか?1年生でとんでもない"槍使い"がいるって少しだけ話題になってた」

「はい。その名の通り彼女の槍の特徴は何と言ってもその速さと正確さです。ただ彼女自身に"欲"が欠如しているのか、その噂もすぐ消えてしまいましたが」

 

だが今回の謎の増員は、その自由度の高いゲヘナ学園を以てしても不可解としか言えない。それらを問題視し、調査に踏み切ったのが風紀委員会なのである。

 

「現在彼女は、自らを"万魔殿のメイド"を名乗っています」

「彼女の意志で?」

「恐らくそうだと思われますが……」

 

調査結果と推測、不明な部分が多々あるこの会議は、下校時刻を近づいても終わる気配が無い。たが突如として中断させられる。数回扉をノックする音が聞こえ、返事を待つことなくこの教室の扉が開く。

 

「失礼します。万魔殿のメイド、鷺辺レイラと申します」

 

「「「!!!?」」」

 

「数日前よりマコト様から戦術訓練の書類提出を催促されていると思われます。ですが一向に提出される気配がありませんので、私が直接書類を受け取りに来た次第です」

 

「あ、あの書類の提出期限は明後日ですよ!?」

 

「承知しています。ですがゲヘナ学園のお手本となる風紀委員たるもの、数日前に提出しておくのが基本ではありませんか?」

 

「…!!」

 

奇しくも今の調査報告会の対象であった鷺辺レイラ。彼女が今、ここ風紀委員会の教室に姿を現したのだ。

 

「……アコ、書類は出来てる?」

「はい……。出来てはいます……」

 

行政官が委員長の机の引き出しに入っていたクリアファイルにまとめられた書類を出し、レイラに直接手渡す。

 

「……はい、確認いたしました。ありがとうございます」

 

 

「初めまして、空崎ヒナ風紀委員長」

「ええ、初めまして」

 

「改めて挨拶致します。万魔殿のメイド、鷺辺レイラと申します」

「……単刀直入に聞いていいかしら?」

「ええ、構いません」

 

レイラは笑顔で応対する。裏表の一切無い、表情で。

 

「あなた、風紀委員に入る気はない?」

「ヒナ委員長…!?」

 

「万魔殿に居るにはとても勿体ない人材だわ」

「…申し訳ありませんが、丁重にお断りさせていただきます」

 

「理由を聞いても?」

「私は"自分の意志で"万魔殿のメイドとなった身です。これだけで、今の貴方達には十分な理由でしょう?」

 

そう、核心を突いている。とても正確に。

 

「そう……。ならせいぜい気を付ける事ね」

「はい。それでは失礼致します」

 

レイラは一礼をし、教室から出てゆっくりと扉を閉めようとした。が、閉まらなかった。

 

ヒナやアコからはレイラ本人は見えていない。だがその裏とも読める感情の無い独特の空気の声が、風紀委員会の教室に小さく響いた。

 

「ヒナ委員長の言葉、どちらかは問いません。ですが、ある一つの意味だった場合……」

 

 

 

「容赦は、致しませんので」

 

そう言い放ち、扉はゆっくりと閉まったのだった。

 

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