万魔殿のメイド   作:狐ノ陽炎

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5話 羽沼マコト議長

風紀委員会から回収した戦術訓練の書類をマコト様に渡し、頼まれた仕事を完了させる。ちらっと時計を確認すると、もう下校時刻も近い。だけど私にはまだ仕事が残っている。

 

誰よりも早くに万魔殿に来る私は、誰よりも遅く万魔殿を出る。皆様がこの教室を出た後、掃除をするという仕事が残っているから。これはマコト様に頼まれたわけではない。ただ私が"万魔殿のメイド"ならどうするべきかを考えた時に思い付いた事の一つでしかない。

 

とは言え今日は少しだけ事情が違う。イブキ様……と一緒に帰る約束をしているから。どうしようかどうしようか表情に出さずに迷っていると、下校時間を知らせるチャイムが鳴り響く。

 

「レイラ、今日は掃除しなくていいぞ」

 

マコト様から最適解が飛んできた。私が言いだした以上、私から断りを入れるのは難しかったから。

 

「お前も分かっているだろうが、イブキを悲しませるわけにはいかん。戸締りは私がやっておこう」

「よろしいのですか?」

「今日お前が風紀委員から回収してきた書類に目を通さねばならんのでな」

 

ゲヘナ学園において知名度が低く、普段の行いから真面目に仕事してないと思われがちなマコト様だが、誰も見ていない所ではしっかりと仕事をしている。憧れるかどうかは分からないが、ある意味参考にはしている。

 

「分かりました。それではお先に失礼します」

「あぁ」

 

 

 

 

一度息を吐き、議長席につく。普段なら私の他にもサツキがよく残っているが、今日は用事があるのか私しか残っていない。

イブキの様子が気になり席を立つ。ここからでもゲヘナ学園の校門は良く見えるのでな。

 

バァンッ!!

 

急に扉が開く音が聞こえ、少し驚いた私は声も出す事もできずに少し跳ね上がる。

 

「申し訳ありませんマコト様。着替えるのを忘れていました」

 

勢いよく扉を開けた犯人はレイラだった。確かにさっきメイド服でここを出た気がしてはいたが。

 

「そ、そうか……」

「急いで着替えます」

 

 

 

「それでは、お先に失礼致します」

 

「あぁ、気を付けて帰れ」

 

イブキに万が一があってはならんからな。いや、そもそもレイラがついていて万が一には絶対ならんが。

 

扉が閉まり、再び静寂が訪れる。

私一人残る万魔殿などいつぶりだろうか。議長席に改めて座り、風紀委員会から回収した書類を一通り目を通す。

 

「フン……私の意見なんぞ初めからアテにしては無いという事か」

 

今回の風紀委員会の戦術訓練、今年初の訓練という事もあって、去年の予算案を参考にこのマコト様が考えた予算案及び意見書を渡していた。だがしかし、結果としては私の意見は一切反映されておらず、むしろ去年より予算は増額している。空崎ヒナへの嫌がらせをする必要も当然あるが、何より増額の内訳はハッキリさせる必要があるな。

 

そして戦術訓練の計画書か。

これも当然ながら意見書を渡していたが、まったくもって私の意見は反映されていない。私の意見としては去年の内訳から予算を減らせるところは減らし、効率よく戦術訓練を行えるようにしたつもりだったのだが、やはり私も風紀委員会の実情はよく知らない。

 

空崎ヒナが風紀委員長になり武力鎮圧が増えた事でゲヘナ地区の損害賠償金額というのはかなりの増額傾向にある。これが私に対する嫌がらせでは無いのは分かってはいるが、そう思えてもおかしくなく、私が軽くイチャモンを付けれるほど酷くなっている。だからこそある程度制御の利く戦術訓練で予算を減らすつもりだったのだが……。

 

まあいい、手はいくらでもある。

それに少し前とは違い、こちらには"万魔殿のメイド"がいる。今日会いに行った反応を見れなかったのは残念だが、お楽しみは取っておいた方が後々楽しさが倍増するからな。

 

「ふむ、増額傾向にあるのはやはり弾薬や銃か。去年よりも風紀委員の数も増えている……か」

 

弾薬は主にマシンガンの弾だ。空崎ヒナが扱っているあのやけに大きい銃の弾だろうな。大方奴の性格を考えるなら敵をまとめて倒す為だろう。

 

しかしそれにしては多い。まるで一つの大きな戦争を起こすかのような量だ。実戦であればあまりとやかく言うつもりは無いが、あくまで戦術訓練だ。

 

「……これでエデン条約を結ぶだと?正気か……?」

 

近々トリニティ側の生徒会、ティーパーティーとの会談も控えている。その時問いたい事は問うつもりだが、私はまずエデン条約を結ぶことに異を唱えている。

 

よくゲヘナ地区は治安が最悪だの、キヴォトスで一番危険な場所だの言われている。だが私から言わせてもらえば、あくまでゲヘナの治安を良くするのは風紀委員会の役目であり、万魔殿の所管ではない。なら万魔殿は何をするのかと言われれば、それらをまとめ上げる事だ。しかしそもそもゲヘナ地区という場所はあまり統制の利かない場所だ。少なくとも私にはそれらを抑える力が存在しない。

 

だから私はあえて何もしなかった。それだけ荒れようとも、ゲヘナ地区やゲヘナ学園は消えなかったからだ。本当に治安が悪ければ私自身の命も危ういが、それは今、全くもって感じない。

 

私はそれよりも、本当に治安が悪い場所はトリニティ総合学園だと思っている。まあ、それらも含めて、色々問うつもりだ。

 

「予算や計画書は、近いうちに問い詰めるか」

 

書類を机の上に置き、席を立つ。各部屋の電気が消えた事を確認し、戸締りをする。

 

 

明日、イブキに今日の下校時の感想を聞く必要があるな。

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