「……なんだ、待っていたのか」
かれこれレイラやイブキ達が帰ってから三十分以上は経ったつもりだ。だけど私の帰る道に、レイラは居た。
「ぼーっとしていただけですよ。そうすれば答えがやって来てくれると思いましたから」
「……そうか」
どこか嬉しそうだな。いや、私ももちろん嬉しくないかと言えば嘘になる。
「それでは、帰るか」
「はい」
マコト先輩とは途中まで帰る道が一緒だ。普段は私の方が遅いから一緒に帰る機会なんてまず無い。……とは言ってもまだ3日だけど。
まず無いって私がまだ思ってるだけかな。私の個人的な理由も大きいんだろうと思ってる。一人でいるのがとても好きだから。
「ゲヘナ学園はどうだ?」
唐突に、質問が飛んできた。
「……それは治安の悪さとかですか?それとも、学園の生活ですか?」
「レイラが総合的に見て、だ」
「私は悪いとは思いませんよ。実害はまだありませんし」
「そうか」
実際何となくだけど騒ぎが起きている場所ってのが分かってきた。平和に過ごすだけならそこに行かなきゃいいだけだし、騒ぎを自ら起こす必要も無い。それと"万魔殿のメイド"となった事で、行動範囲が良い意味で狭まった。
「そういえば、風紀委員会はどうだった?」
「ええ、とても面白そうでしたよ」
少しだけ食い気味に答えた。もちろん嘘は言っていない。だけどこの返答は、マコト先輩の大好物だろうなって思った。
「キキキッ!そうか、そうか!」
「一度戦ってみたいものです。空崎ヒナ委員長と」
正直、ほかの風紀委員はどうでもいい。実力では敵わないかもしれないけど、一度は戦ってみたいもの。私はこれでも好戦的な方だから。
「なるほどな、さすがだ」
マコト先輩、とても嬉しそうですね。面白いマコト先輩も当然面白くて好きなのだが、嬉しそうなマコト先輩も限りなく好きである。姿を見なければ悪魔のようにも聞こえるマコト先輩の笑い声が数秒鳴り響き、そして聞こえなくなった。
ふとマコト先輩を見れば、そこには嬉しそうな顔は無い。
「少しだけ真面目な話をしようか」
「都合がいいな。レイラ以外に話すつもりの無かった話だ」
当然、私はこの話題なんか知る由もない。答えを待っていただけだが、これはそれ以上のモノまで引き当てちゃったかもしれない。
「来週、トリニティの生徒会である『ティーパーティー』とゲヘナの生徒会『万魔殿』で会談が行われる」
近いうちとは聞いていましたが、来週だったんですか。
「メンバー全員を連れていけるわけでは無いのでな」
「連れていくのはサツキとレイラの二人だけだ」
「私、ですか?」
「ああ、"万魔殿のメイド"として補佐を頼む」
一つ、疑問点が沸いた。
会談が行われる事は、今日の定例会議で既にマコト先輩が話されていたこと。サツキ先輩も連れていくのであれば、サツキ先輩もこの事は知っているはず。
つまり、話の本題はこれでは無い……?ただこの事を前振りして出てくる話……という事、なのだろうか。
「お前の考えている通り、話の本題はこれではない。トリニティ総合学園に関する事だ」
だから敢えて『ティーパーティー』の名を出したんだろう。
「学校でどこまで教えてくれるのかは知らんが、トリニティ総合学園はトリニティ自治区に存在していた学校や分派が統合されて出来た学園だ」
もちろん、ここに来た時にすべて復習している。
「その過去を探っていけば、トリニティはゲヘナ以上に問題を抱えた学園だ」
「本来であればエデン条約という他自治区に手を出せるほどの余裕は奴らには無い。だがそれは、結局『ティーパーティー』が決定権を持ち、それらの決断を下している」
連邦生徒会長が失踪したのちは、ティーパーティーと万魔殿主体で話を進めていくと聞いた。これを提案したのはティーパーティーだ。
「……過去にトリニティ自治区に存在した分派の一つ、アリウス」
あまり聞いたことの無い名前だった。
「現在のアリウス分校は学園自体は存在するものの、その環境は酷く醜いものだ」
誰にも話していないという事は、情報部長であるサツキ先輩も知らないこと。この方の情報収集能力も極めて高い。
「来週末の日曜、アリウス分校の代表との会談を約束している」
そしてサツキ先輩よりも行動力があり、実行力も少なからず存在する。
「連れていけるのは、レイラ、お前一人だ」
「私だけ……ですか」
「嫌なら私一人で行くが」
「いいえ、そうはさせません」
でも、こんな話を聞いた事がある。
アリウス分校は他の学園や連邦生徒会からの関係を一切絶ち、孤立状態になっていると聞いていた。一体どうやってマコト先輩はアリウスの居場所を突き止めたのか。そしてどうやって、会談までこぎつけたのだろうか。
元より彼らがトリニティ側である以上、我々ゲヘナの敵側という認識を私はしていたから、より気になっている。だからこそ、この会談について行けるのは運がいいのかもしれない。
「話は以上だ。それでは、また明日な」
「はい……。お疲れ様でした、マコト先輩」
「あぁ、二度目だが、気をつけて帰れ」
まだ3日目。
だけど今日もすごく充実した一日だった。明日からの期待を込めて、私は帰り路を歩いている。
「あっ……。今日の夕飯……」
すっかり忘れていた。まだスーパーやってるかな?