万魔殿のメイド   作:狐ノ陽炎

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1. ゲヘナ風紀委員会
9話 内部調査


「内部調査、ですか?」

 

「それを言うなら内部監査……では?」

 

それは別にどっちでもいい。マコト様曰く、一昨日私が風紀委員会から回収した書類を見て、風紀委員内の内部調査をする必要がある……との事だった。

 

「言い方はともかく……」

「一応、理由をお聞きしても?」

「構わん!」

 

「今私の目の前に置いてある書類が、一昨日レイラが回収した今年初の戦術訓練の書類だ」

 

「で、イロハの目の前にある書類が、去年度の戦術訓練の書類だ。時期は知らん」

 

これまた重要な部分が曖昧ですね。イロハ様と一緒に去年度、そして今回の書類を確認すると、明確に私でも分かる、変わっている点が存在した。

 

「……予算ですか」

「その通りだ!!」

 

「去年度に比べて日数が変わらないにも関わらず、予算が目に見えて増額されている」

「去年よりも委員の数が増えただけでは?」

「当然想定はしているが、実態は私にも分からん。そこでだ」

 

私の出番、というわけですか。

明確に違う点というだけなら他にもある。当然去年の風紀委員長と今年の風紀委員長は違うし、日数は同じでも日程は違う。何というか、去年の方が上手く……というより効率がいい、が正しいかな?

 

あえてマコト様が『内部調査』と言ったのは今年度の風紀委員の構成を見る為でもあるのかな?

 

「風紀委員の内部調査をレイラに任せる」

「承知致しました」

「本来なら私が出向くところだが、イブキと一緒にかくれんぼをしなきゃならんのでな」

「それなら仕方ありません」

 

うん、仕方ない。イブキちゃんのお遊びを断るなんて、マコト様に出来るはずがない。多分私も出来ないし、誰にもできないか。

 

「よし、行ってこい!!」

 

 

 

 

「_______というわけで、参上させていただきました」

 

「いや、聞いてねーぞ!!?」

 

そりゃーマコト様ですもの言ってませんよ何言ってるんですかこの褐色肌の人。というか風紀委員ならそれくらい予測するのが当たり前では?

 

しかし、私の中では反論よりも気になった事がある。

 

「ところで、どうしてイロハ様まで?」

 

「……一応教育係だから」

「これは失礼いたしました」

 

 

「内部調査……具体的に何をなさるつもりですか?」

 

私も今一度、自分で確認をしておこう。

まず今回の目的は『今年初の戦術訓練の予算が大幅に増額したのを調査する事』である。内部調査という言い方をしているが、あくまで基本的には戦術訓練の事で間違いはない。マコト様も私に任せると言っていたし、最悪分からない所があればイロハ様かマコト様に聞けばいい。

 

「大したことはしません。要件としては戦術訓練の書類についてです」

「何か不備でもありましたか?」

 

えらい食い気味に聞いてきますねこの……なんですかその横乳は。恥ずかしくないんですか?

 

いや、いけません鷺辺レイラ。一メイドが他人の趣向を嘲笑するなど、あってはなりません。なので軽蔑ぐらいにしておきましょうか。

 

「不備という言い方が適切かどうかは分かりませんが、まずは……予算についてでしょうか」

「……ッ!」

 

横乳の方もそこは予想していたんでしょう。やけにわかりやすく顔が変わりますね。

 

「去年度の戦術訓練と比べてもかなりの増額傾向にあります。日程は違いますが日数は同じ、さらに加えて人員もそこまで差はないはずです」

 

一気に百も二百も増えるわけないでしょうから。さあ、上手く言い訳することが出来ますか?

 

「……基本的には、増額傾向にあるのは弾薬が多くを占めています」

「それは何故ですか?」

「風紀委員長が変わり、体制が変わったからですよ」

 

「去年度の風紀委員長は出来るだけ正面衝突は避け、少ない人員と限りの弾薬で場を凌いできました」

「良い事じゃないですか?」

「それではゲヘナの風紀を守る事は到底できません」

 

私も去年度がどういう体制でどういう思考で動いていたのかは分からない。ここは素直に先輩方を頼りますか。

 

「……だそうです。マコト様」

 

『キキッ!やはりな、その程度だと思っていたぞ天雨アコ』

 

「……!! 聞いてたんですかっ!!?」

 

「マコト様、去年の今の時期と今年、騒動および風紀を乱した者の数の差はどのくらいですか?」

 

『そんなもの調べなくても分かっている。今年の方が圧倒的に多いに決まっているだろう!?』

 

なるほど、調べてませんねこれ。私には何となく分かる、これは風紀委員への嫌がらせで勢いだと。まあ面白いのでそのままにしておきますが。

 

「なっ!?そ、そんな訳がありません!!」

「具体的に、そんな訳がない理由とは?」

 

「……ヒナ委員長が委員長になられた事で風紀委員の武力は一層厚みを増しています。これは風紀を乱す者から見れば脅威であり、風紀をより守っている事になります!」

 

『空崎ヒナは去年度も風紀委員所属だったはずだ。それなら大して変わっていないのではないか?』

 

「それは……!!」

 

でもまあ、アコ先輩……先輩だよね?

この人の言う事も一理ある。武力系統に特化した人がリーダーになるってことは、武力解決が増えていく。つまりもし風紀が少しでも乱れれば銃撃戦に発展し、脅威を植え付ける事だけならこれ以上の事は無い。

 

あ、だから弾薬の使用量が多いって事ですかね?規模にもよりますけど、よほどの敵が現れた時の想定……とか?

 

『追加弾薬分の予算はゼロにしておけ。どうせ大して変わらん』

 

「変わるに決まってるじゃないですか!!?」

 

「相変わらずバカですねこのタヌキは……」

 

なんかとてつもない悪口聞こえた気がするんですけど?

 

「レイラ、日程のところに書いてあるんだけど、多分いろんな想定の訓練を詰め込みすぎ。だからこんな日数なのに予算が増えるんだと思う」

「なるほど、ではここは減額で構いませんね」

 

「……くっ!」

 

とはいえ戦術訓練は風紀委員にとっても欠かせないもの。ゲヘナの風紀を守るためにも、ある程度は残す必要がある。

 

まあ一応聞いておきますか。

 

「マコト様、他に減額できる箇所はありますか?」

 

『レイラ……イブキが見つからん!!』

 

イブキちゃんちっちゃいですからね。探すの大変ですよね分かります。

 

「マコト様、減額できる箇所は?」

 

『くそ……サツキ、お前も手伝え!』

『無理よ、だって私知ってるもの』

 

『な、なら仕方ないかッ!』

 

『キキキッ!減額できる箇所だと?』

 

相変わらず遊んでる時とそれ以外とで差が大きい。私は笑って見れるから普通に楽しい。良い事しかありませんね。

 

『イロハの言う事がもっともであるなら、天雨アコ行政官。貴様にゲヘナの予算を回してやる権利は無い』

 

「ど、どういう意味ですか!?」

 

『そのままに決まっているだろう?貴様らに戦術訓練をやる資格など無い。予算はゼロだ』

 

「なんでそういう風になるんだよ!!」

 

『キキキッ!天雨アコ、去年の貴様はもう少し話の分かる奴だと思っていたんだがなぁ?主が変わって毒されたか!』

 

「ふ、ふざけんな!アコちゃんは……夜遅くまで日程とか訓練の内容とか必死に考えて……!」

「………」

 

『貴様らの都合なんぞ、知った事か!!キキキッ!キャハハハハッ!!!』

 

 

「はぁ……まあ、こうなると思ってた」

 

はい、私もですイロハ様。ですが、今回の件は私に一任されています。つまり私が答えを出さねばなりません。

 

 

というわけで

 

「バカマコト様の意見は放っておいて、内部調査の結果を発表いたします」

 

「「「はっ?」」」

 

「……え?」

 

『なっ!?』

 

 

 

「レイラ……今なんて言って……」

「もう一度言いましょうか?」

 

「バカマコト様の意見は放っておいて、内部調査の結果を発表いたします」

 

 

「まず日程についてですが、一日どこかに休養日を設けてください。その日の予算がほぼ浮きます」

 

「………」

 

「それで、各訓練日の訓練終了時刻を一時間早めてください。休息も立派な訓練の一環になりますから」

 

 

「……レイラ、貴方今、自分が何してるのか分かってる?」

「ええ、もちろんですよ?」

「ただの一メイドが、こんな事して「一メイドであるなら」…?」

 

「間違った道に進む主を呼び戻すのも、メイドの務めですので」

 

 

「……後は知らないから」

 

「ええ、もちろんです」

 

この件は私に一任されていますから。

 

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