ゲ ヘ ナ の ほ ら ふ き   作: 奥床式住居

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 二話目にしてライアが嘘をほとんど吐かない回が生まれてしまいました。
 この責任は富岡義勇と鱗滝左近次が腹を切ってお詫びします。

 評価と感想よろです。


『ゲヘナのほらふき』と『メガネの盗聴鬼』

「知っているかい? 実はね、昔のキャベツは白菜の亜種だと思われていたから緑菜と呼ばれていたんだよ」

 

「そうですか。それよりも手を動かしてくださいよ、手を」

 

 時は十九時、場所はミレニアムサイエンススクールの学生寮、現在二人で料理中。

 

 そう、料理中。

 洞口ライアと音瀬コタマが、コタマの部屋で夕食の準備中なのである。

 今晩の夕食は鍋。確かに春とはいえどもまだ少し肌寒くはあるので完全に時期ではないということもないだろう。

 

 今回作るのはキムチ鍋、またはキムチチゲ。

 王道とは言えないかもしれないが、キムチの辛みとうまみが鍋に溶け込んだ立派な鍋料理である。

 

 「いつも通り、私が火加減を調整しますから、ライアは具材を切り終わったらコタツにでも入って待っといてください」

 

「いつも通り、よろしく頼むよコタマ」

 

 ちょうど切り終わった所だったのか、様々な具材を種類ごとにステンレス製のざるやトレイに分けると、ライアはいそいそとコタツへと潜り込んでいった。

 

 なぜ未だにコタツを片付けていないのかと言われれば、この時期に鍋をチョイスする事も踏まえると家主(コタマ)、またはよく部屋へ来る訪問者(ライア)のどちらかが寒がりなのだろう。

 多分、潜り込んでいった様を見るに後者なのだろうが。

 

「よいしょっと」

 

 いつの間にかコタツの上に設置されていたカセットコンロで鍋に火をかけて、コタマもコタツへ足を入れる。

 

「今年は例年よりも肌寒い春だったからよかったですけど、このコタツもそろそろしまいますからね。ライア」

 

「あと一週間、いや……二週間だけ待ってくれ! それでも片付けると言うのなら、コタマの家に泊まり込みでコタツを死守し続ける!! ここは私の楽園なんだよ!」

 

 人の家のコタツを自身の楽園だと言い切ったライアに、コタマは少し口元を弧の様に歪ませる。

 

「泊まり込みですか……私としては同棲してさえくれればずっと出したままでもいいんですけど……」

 

「ごめん、コタツに潜ったまま会話をしているから何て言っていたのか聞こえなかったのだけど、もう一度言ってもらえるかい?」

 

 ここまでほとんど嘘を吐いていないライアに感動を覚えつつ、自分の漏れてしまっていた独り言がライアの耳に届いていなかった事に安堵する。

 コタツ、まだ出していて良かったですね……。と少しコタツをまだ出しておく方へと思考が揺らぎかけたが、ライアの保護者としての自認もあるコタマは決意を揺らがせない。

 

「いえ、そろそろ鍋が出来上がりそうだな。と言っただけですよ。それじゃあ、食べますか」

 

「そうだったかな……?まあ、良いか。そうだね、食べよう」

 

 コタツの中からもぞもぞと這い出てくるライアの姿は、まるで亀のようにも、猫の様にも見えたが、少なくともこの瞬間のライアはパッと見は気が緩んだただの美少女だった。

 

 コタツの上に顎をのせて完全にお世話待ちモードに入っているライアの鼻に、辛みを含んだ食欲を刺激する匂いが香ってくる。

 

「やっぱり、あの時に私が吐いた嘘は未だにファインプレーだと確信しているよ」

 

「ライアの家は元々、山海経や百鬼夜行の周辺がルーツだからお祝いの時にキムチ鍋を食べる……でしたよね。今聞くとまったくの意味不明ですし、そもそもあの頃のライアは辛いもの苦手でしたもんね」

 

「いやはや、それがすっかり辛いもの好きへと染められてしまったよ。コタマ、君のせいだぞ」

 

「報復の為にキムチ鍋を作りまくって、ライアに食べさせまくったら辛いものを克服出来て、なおかつ好きになるだなんて思いもしていませんでしたよ。

 実際、中学二年生までは信じてましたからね、私が作るキムチ鍋がだんだんと好きになってきてたのに苦手だと言い続けていたなんて……どこのまんじゅうこわいですか?」

 

「はいはい、すまなかったね。そんなことよりも、早く食べよう。待ちきれないよ」

 

 ライアの「染められて」や「君のせい」発言によってテンションがあがり、いつもよりも饒舌に昔話を語らうコタマをライアが宥め、ようやっと鍋を食べる雰囲気へと戻ってくる。

 

「はぁ、そうですね。」

 

 

「それでは……」

 

「「いただきます」」

 

 

 この後、昔話とライアのくだらない話に花を咲かせながら、キムチ鍋を食べた。

 

 ちなみに、コタツはもう少し出したままになりそうだ。

 

 

§ § § § §

 

 

「嘘と言えば、私は未だに根に持ってますよ……! ()()()()()()()の事!」

 

「はて……?」

 

「『はて……?』じゃないですよ!! あの嘘のせいでミレニアムに入学してからもミレニアム学園呼びが抜けなくて恥をかいたんですから!」

 

「ふぅん……あっ、この白菜は味が染みてて美味しいね」

 

「それはもちろん、鍋が一番美味しいタイミングの()は覚えていますから……って、話を逸らさないでください! 思い出したらだんだんと怒りが再燃してきましたよ……!」

 

「こんな話を知っているかい? 実はね、百鬼夜行では箸で戦う武術があるんだよ……! 喰らえ! 目潰しッ!」

 

「甘いです! 鼻フック! からの直デスソース!!」

 

「ぐあぁ!! 流石の私でもこれは効いたよ……!」

 

「ダメ押しの直デスソース!!」

 

「ちょっ! 待っ!? ぎゃぁああ!!!」

 

「悪は滅びまし……あれ、ライア……? 演技ですよね? 起きて下さいよ……ライア? ライア!? き、救急車──!!」

 

「ぷぷっ! 『き、救急車──!!』って! ぷぷぷ!」

 

「怒りの直デスソース! 三連!!」

 

「──────!! (声にならない叫び)」

 

「どうせまた演技でしょう。先に片付けをして、お風呂にでも入りますか……」

 

 

 次の日の朝まで、ライアは目覚めなかった。

 

 

 

 

ゲヘナのほらふきの嘘は続く──




洞口(うろぐち)ライア
 『おろかもの』。ライアの嘘でコタマが被害を受ける度に無理矢理キムチ鍋を食べさせられたせいで、ある日に脳破壊。辛いものが好きになった。
 ──と、本人とコタマは思っているが、食べられるようになったのは『キムチ』と『コタマのキムチ鍋』だけな事を彼女達はまだ知らない。

音瀬(おとせ)コタマ
 『キムチ鍋奉行』。小学生の頃に始めたキムチ鍋報復だが、せっかく食べさせるのなら美味しいものを食べて欲しいと思い、キムチ鍋関係だけ料理スキルが化けた。本人はこれしか料理が出来ない……というかこれ位しかしない。夏でも作る。

・コタマのキムチ鍋
 『ほらふき脳破壊料理』。入っている具材は、白菜,豆腐,豚肉,長ネギ,ニラ,タラの切り身。
 〆は米を入れてチーズで閉じて、リゾット風にして食べる。

・コタツ
 『ライアの愛人』。ライアは少しだけでも寒いとすぐにコタツに潜り込む。
 しかし、夏になるとクーラーに鞍替えされる。
 わたしの方がライアちゃんを癒やせるのに……!
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