「大丈夫そう?」
「大丈夫だ。だから早くヤれ」
声が聞こえる?何処から?それになんか重い?
諸々の正体を確かめるべく目を開けるが、全く何も見えない。脳はまだ寝ているからだろうか。
「嘘、起きた?」
「おい、ちゃんと仕込んだんだよな」
「間違いない。カゲもしっかり確認したでしょう」
朧げながらも段々と色彩と輪郭が浮かび上がってきた。目の前に誰かいるみたいだ。ふと肌を柔らかい何かが撫でるような感触がする。視線だけそちらに向けると布がヒラヒラと揺れていた。どうやらカーテンのようだ。開いた窓から時折入って来る風が気持ちいい。
「……んぁ?」
窓、開けて寝たっけ?目の前に人?一人暮らしだったような?
次々と違和感が押し寄せて来る。微睡んでいた意識が覚醒していく。やがてこれらの違和感を解消のカギであろう者の姿がはっきりと見えてきた。
袖なしのジャケット?ベスト?、黒の丸メガネ、ピンク色の髪、巨大な手裏剣の……髪留め?、一つ目のマフラーをした少女。
「コマチ?」
「カゲ!」
「おう!」
少女の鋭い声に呼応してマフラーが俺の身体に巻き付いてきた。
「ん、な!?」
「今日こそは穏便に行けると思ったけど仕方ない!」
一瞬で全てが覚醒したものの全く身動きが取れない。
「コ、コマチ!?どういうつもりムグっ」
起きたら知り合いの少女がいて、その少女のマフラーにいきなり拘束される。何をする気かと聞こうとしたが口まで塞がれてしまった。全く訳の分からない状況である。
「ふふふ」
少し気味の悪い含み笑いをしながらやたらズボンの辺りを弄っている。特にポケットには何も入れてないはず。
「脱がすの手伝ってやろうか?」
「いい。カゲはそのまま拘束しといて」
抵抗を諦めて2人の会話を聞いていたが、脱がすだの拘束だのやけに不穏な単語が聞こえて来る。何かの隠喩なのだろうかと視線をコマチの方へ向けるが、すぐに隠喩では無いことに気づいた。
「準備万端」
だってブラジャーとパンツ姿だったから。そして今から行われる事を察した俺は全力でカゲを振り解きにかかった。
「おいおい、お前如きが俺様に敵うわけないだろ!」
「むぐぐぐぐ」
思いっきり嘲笑されたもののそれが俺の根性に火をつけた。徐々にだが拘束を解いていく。
「ちょっとカゲ!」
「嘘だろ!?この俺様が!?」
余裕の態度から一変、驚愕に満ちた声を上げていた。その隙を突いて更に拘束を解いていく。
「させない!」
「まじかよ」
ここでコマチ参戦。動きを封じようとしてくるコマチに対し何とか自由になった片腕で牽制しつつ、残りの拘束を脱していく。
「今までもそうだったけどそんなに私とヤルのが嫌?」
「嫌じゃなくて、色々面倒になるんだよ」
「……そうだよね」
急に彼女の動きが止まりそのまま俯いてしまった。
「コマチ?」
「一線越えたら多分あんたも政府にカゲ」
「隙あり!」
「しまったくそ!」
咄嗟に反応できたから完全には拘束されなかったものの再び形勢は不利になってしまった。
「忍者は手段を選ばない。忘れたの?」
「忘れてるだろ。何回もこうやって襲撃してんのに全然対応出来てないんだからな」
愉快そうに目を細めるカゲを睨みつつもう一度抜け出そうとするが全く力が入らない。もう体力は残ってないらしい。
「一日千秋。ついにこの時が来た」
一方のコマチは薄い笑みを浮かべつつ歓喜に身を震わせていたが、不意に顔を近づけてきた。改めて見ても中々の可愛さ。絶対絶対の状況だというのに思わず見惚れてしまった自分に少々腹が立つ。
「一応聞くけどあんた他の女とヤってないよね?」
「ヤってない」
「知ってる」
今の質問は一体何だったのか。しかしコマチは身を引くと短刀を取り出して俺のズボンを切り裂く。身体もいつの間にかカゲにガッチリと拘束されていた。女の子との初めてはなんていうか初々しく?ラブラブ?熱く?少なくともこんな強姦紛いな形は望んでないのだが、もうどうしようもないだろう。せめて早く終わるよう、そして終わった後コマチを憎んだりしないよう祈りつつ静かに目を閉じた。
「……っ!やべぇぞコマチ!あいつらだ!」
「嘘!?もう嗅ぎつけられた!?」
覚悟を決めた矢先、急に2人が慌て始めた。
「くそ、何で」
「後にしやがれ!今は逃げるぞ!」
カゲは俺から離れコマチの方に戻って行ったが、コマチは踏ん切りがつかないのか窓の外と俺の顔を交互に見ている。
「コマチ!」
ようやくコマチは諦めて服を着ると不意に顔を近づけて来た。
「……今はこれだけ」
そう囁き、軽く口付けをすると窓から飛び出して行った。
「……」
喧騒から一転の静寂。あまりにも目まぐるしく変わる状況に対応出来ず放心していた。
「……」
ゆっくりと身体を起こして窓の外を見る。程よく涼しい風がカーテンを揺らし消耗した身体を労ってくれる。既にコマチの姿もあいつらとやらの姿もなく、月明かりの下時折道ゆく人や車が見えるだけであった。
・
「痛った……加減を知らんのかあいつら」
寝ようとしたがメラトニンも睡魔もどっかいってしまった。つまり眠れない。仕方なく小腹を満たしに台所を目指し始めたが、めちゃくちゃ身体が痛い。見れば一面青痣。しかもなんか骨が軋むような音が聞こえる。
「っー」
壁に寄りかかりつつ痛みを誤魔化すために声とも呼べない音を出す。一人暮らしで良かった。
やっとの思いで台所に着いたが思わず目を見張った。テーブルの上に料理が並べられているのだ。しかも作りたてらしく温かい。
「誰が……あ」
一枚の皿の下に紙が置いてあるのを見つけた。
『しっかり食べて コマチ』
簡素な一文。まあ彼女らしいと言えばそうだが。再び料理の方を見たがある事に気づいた。
使われている食材が牡蠣、秋刀魚、ニラ、エビ、大豆、ほうれん草にレバー。
「……これ精の付くもんばかりじゃね?」
保存しといて後で知り合い呼んで代わりに食べてもらおうと思った矢先盛大に腹が鳴った。
「……」
今すっごい顰めっ面してるだろうなと思いつつ、仕方なくもそもそと食べ始めた。
めっちゃ美味しかった。
「しっかり食べてるぜ、お前の料理」
「良かった。けど何で政府にバレたんだろ?」