「終わったっすよー!」
「早……ああ、すまんなメガス」
「いいっすいいっす!それよりも早く使ってみてほしいっす!」
青髪ツインテが特徴の少女メガスから差し出されたコントローラーを受け取りつつ礼を述べる。アルバイトも何も無い日だったから新作のゲームをやろうとした矢先、コントローラーがイカれちまった。そこで機械に詳しいメガスの元に持ち込んだわけだが、10分も経たない内に戻って来た。
「分かった分かった、ええと」
「これ!これがオススメっす!」
どのソフトで試運転しようか迷っていたら一つのパッケージをめっちゃ顔面に押し付けられた。これは・・・昨日出たばかりの新作格ゲーか。出来ればFPS辺りで確かめたかったが、というかもうセットして起動してるし。
「じゃ、やるっすよー!」
「え?」
そしてそのまま流れるように対戦モードを選んでいた。
「遊びながら動作確認すれば良いじゃないっすか。一人でなんて面白く無いっす!」
まあ間違いでもないと思う。が、そこまで器用じゃないしそもそもメガス相手にしながらはまさにルナティック。
「じゃあゲームスタート、あ」
キャラを選び終わったタイミングで何かを思い出したようにこちらに寄って来た。まあ多分いつものだろう。
「ふふーん、分かってるっすねー」
胡座に座り直した所ですかさず上に座り込んできた。フワリと良い香りが鼻をくすぐるが、これやりにくいんだよな。しかもやけにメガスの動きが良くなるオマケ付き。
「じゃあスタートっす!」
・
「バグだらけじゃないっすか!」
「これはひどい」
いや本当にひどい。急に当たり判定がおかしくなり始めたのを皮切りに次々とバグが湧き出して来た。終いはUI崩れてアプリケーションエラーでゲームセット。
「どれだけ待ち侘びたと思ってるんすか、こんなのゲーマーとゲームに対する冒涜っす!」
検索してみたら他の購入者も同じ事になっているみたいだ。中にはハードそのものが破損したという悲鳴も。
「メガス、落ち着け」
スマホを閉じ、今だに唸り声をあげるメガスを宥めるが一向に収まる気配が無い。何か気を引くものが……あ。
「メガス、コントローラーなんだが」
「どうだったっすか!?」
「ターンテーブルか何か?」
何はともあれメガスの気を引く事には成功した。後は感想を……感想を……
「……」
「……」
やばい、全く出てこない。
「……まさか何も無いなんてこと、無いっすよね?」
まずい、ジト目になってきてる。何か変わった所は……
「L3とR3なんだが、押し込んだ時の感覚がダイレクトに」
「分かるっすか!そこは特に力を入れた所っす!」
一瞬で目を輝かせたのをみてとりあえず一安心。ちなみに当てずっぽうである。
「いくら気をつけててもつい力んで押し込んじゃうすっからね。だから強烈な負荷が掛かっても良いように基盤をガチガチにして、更に押し込んだ際の感触を伝わりやすいように改造したっす!」
「あ、ありがとう」
改めて押してみると指どころか肘にまで伝わって来ている。頼んだのは修理の筈なんだが、まあ善意なのは分かっているので礼は言っておく。
「他には!」
「え」
他?
「……」
「……」
やばい、どうしよう。
「……ボタンを磨いた、とか?」
「ぶー」
流石に2度も当てずっぽうは通用しないよな。
「L2とR2の感触が変わった」
「ぶーぶー」
「起動の有無が分かるように光が強くなった」
「ぶーぶーぶー」
メガスからの圧が強くなっていく。ちょっとまずいかもしれない。
「分からない、っすか?」
泣き始めた!本格的にまずい!実はメガスには同居人がいるのだがそいつに見られたら面倒な事になる。よく見ろ、何か変わって、あ。
「塗装?」
「今気づいたっすか?」
呆れ気味の顔を向けられた。まあ渡された時点で気づきそうなものを今気づいたのだから呆れられても仕方ない。
「あなたがどういう使い方してるか知らないっすけど、やけに薄くなってたからちょいと強力なやつで塗り直したっす。ちなみに心当たりはあるっすか?」
言われて思い返すが特にない。手汗が酷いわけでもないし。
「ないな」
「そうっすか」
「ああ、それで俺からも良いか?」
「なんすか?」
「メガスのコントローラーと全く同じ配色なのは何でなんだ?」
これも今気づいたのだが、寸分違わず同じ明度で同じ色。流石に偶然ではないだろう。
「それは……お揃い……に……」
なんか俯いてしまった。声も小さくて聞き取れない。聞いちゃいけなかったのだろうか?
「えーと」
「ただいまー」
タイミング良く、かどうかは分からないが同居人が帰って来た。
・
「お揃いにしたかったんでしょ?」
「ルカ!」
夕方、ルカの買って来たファーストフードを食べながら事の経緯を説明したらメガスの秘め事はあっさりと暴かれた。
「ル、ルカは同じ事聞かれたら素直に答えるんすか!?」
「答えるよ。別にお揃いにしたなんて隠すことじゃないし」
何でもないように話すルカにメガスは一瞬沈黙した。
「じゃあ…………スリーサ」
「答えるよ。むしろ知っといてほしいんだけど。あ、教えよっか?」
「見りゃ分かる」
「「え?」」
不意に話振られて反射的に頓珍漢な回答する事ってあると思う。
「な、は、え?」
「おー、流石多くの女の子侍らせてるだけあるね」
「ポテト食うのに集中してたんだよ」
メガスは顔を真っ赤にしながら自分の身体を弄り、ルカは謎の感心をしていた。あと侍らせてなんかいない。
ちょっとモヤモヤしつつポテトを摘み続けた。
・
「へぇ、だいぶ腕上げてるね」
「ど、どうも」
夕食後、ルカも交えてゲームをしていた。ルカの腕前だがめちゃくちゃ上手い。日頃からメガスのゲームに付き合ってるって以前言ってたからこの上手さもまあ当然なのかもしれないが。
「あたしの番っすね」
「すまん、もう帰る」
時計を確認したら丁度22時になる所だ。これ以上の長居は2人にも迷惑だろう。それに疲れたし。
「ぶーぶー」
「困らせたらダメだよ。今日はありがとう、また来てね」
「ああ」
忘れ物が無いか確認して玄関へと向かう。幸い明日はアルバイトは無いし風呂入って昼過ぎまで寝よう。そう思いつつドアを開けた、が、
「……マジかよ」
右へ左へと吹き荒ぶ熱を帯びた雨風、激しく点滅する街灯、色彩豊かな落雷、宙を舞う何処かの広告看板や消火栓、標識。
慌てて気象情報を確認すると一部地域で突発的な異常気象が起きているとのことだった。
「どうしたもんかな」
「泊まれば良いじゃん」
「うぉ!」
驚いて振り返ると真後ろにルカが立ってた。
「脅かすなよ」
「そんなつもりはなかったんだけど。そんなことより早く入って。濡れるよ」
急かされ家に再び入ると部屋の入り口からメガスが嬉しそうに顔を覗かせていた。
・
『現在車内から中継中です。見てください、トラックが横転して完全に道を塞いでしまっています。トラックから漏れてるのは何でしょう?何かの燃料でしょうか?あ、雷が燃——————』
『現場から中継です。今警官の方達が必死に避難誘導をしています。あちらの警官は誰かを止めようとしているみたいですが。ちょっと確認してみましょう。どうやら配信者のようです。警官の制止を振り切り只管実況中継を行なっているようで、あ、取り押さえられました。そのまま警官と共にパトカーに乗り込み……大変です!パトカーにトラックが突っ込んでって、あれこっちにも車が——————』
神秘的な出来事が当然のように起きる世界ではあるが・・・正直今だに慣れない。
「こりゃ暫く忙しくなりそうっすね」
同じようにライブ中継を見てたメガスはそう言うと、スマホを閉じて修理道具やアシスタントロボットの準備をし始めた。メカの造詣が深い彼女は主に修理関連のアルバイトをしているのだが、これがまた非常に評判が良い。正確かつスピーディー、しかも本人の意向で最低限の賃金しか受け取らない。更に場合によっては無償。曰く人助けが好きだからとの事。
……正直ちょっと分からないけれど。
ルカは家事中。そして俺はソファで怠惰を貪る。折角泊めてくれたのだから何か手伝いたいのだが機械は素人に毛が生えた程度の知識と技術しか無いし、家事はルカにやんわり断られた。まあ女の子の家だし見られたくないものだってあるだろう。
「ふぁ」
ふとあくびが出て来た。思い返せばトイレと夕食以外ずっとゲームしてたな。
「そろそろ寝ようか」
2人が寝支度を始めたのを見て、俺も近くにあった毛布を取る。タイマーは6時くらいで良いか。
「2人ともお休み」
そう言うと頭から毛布を被る。瞬く間に睡魔が押し寄せて来て意識は底へ底へと沈んでい「何してるっすか?」く途中で少し浮上させられた。
毛布をずらすとメガスが覗き込むようにこちらを見ていた。
「どうした?」
「何でここで寝てるっすか?」
「何でって、あ、もしかしてダメだったか?」
「そう言うわけじゃないっすけど」
どうにも要領を得ない。当のメガスは少し顔を赤らめながら挙動不審な動きをしている。
「メガス?上手くやれて、ないね」
おそらく2人の部屋であろう所からルカが顔を覗かせていたが、メガスの様子を見て出て来た。普段彼女は髪を結んでいるのだが、今は解いてロングヘアーになっている。前々からそうなのだが髪を下ろしているルカについつい見惚れてしまう。
「先に部屋戻ってて」
「うん」
「それで何でそこで寝てるの?あんまり寝心地良くないと思うけど」
メガスと全く同じ質問をされるが、ここしか寝るとこ無くないか?あ、確かガレージがあったな。雨音と雷がかなり響くだろうが寝てしまえば関係無い。
「どこ行くの?」
「ガレージ」
「いや何で?」
肩を押さえられてソファに座る形になったが、ああくそ頼むからあんまり意識しないでくれ俺。
「とにかくそんな所よりも良い場所があるから」
ルカに連れられて歩き出そうとした所で急に立ち止まった。
「どうした?」
「いやさ、また見惚れてたなーって思って」
振り返ったルカは嬉しそうに少し笑ってた。対して俺は……どんな顔をしてたか分からない。
・
「じゃあ寝よう」
「待て」
「何?早く寝たいんだけど」
俺も早く寝たい。だが聞かずにはいられない。
「ここお前達の部屋だろ?」
「そうだよ」
「布団が二つしかないが?」
「2人暮らしだし」
「メガスの顔が赤いけど、嫌がってるんじゃないか?」
「本当ね、酒さかしら?」
「そんなわけないだろ」
こいつ正気か?布団二つで俺達3人。
「焦ったいな」
困惑してるといきなり背中から押された。踏みとどまることもできず、メガスも反応が遅れて逃げることができずそのまま重なり合うように倒れ込んでしまった。
「ぁ」
「ああすまん」
慌てて身体を起こそうとしたが何故かルカに阻まれた。
「ルカ?何を」
「あんたが見るのはこっち」
必要は無いと言わんばかりに振り向くのも阻まれたため、自然に視線はメガスの方に向く。
静かに揺れる赤く暗い潤んだ瞳、せつなげに漏れる吐息、紅潮した顔、押し倒した際にはだけたシャツから見える素肌。
普段の活発な彼女とは全く違う姿に思わず息を呑んでし……ん?
「メガス?」
メガスの様子が段々おかしくなり始めた。顔が真っ赤に染まり、目は焦点があってない。終いには何かぶつぶつ呟き始めた。
「どうしたの?」
ルカも心配になって覗き込んだ時だった。
「無理っすーーー!!!こんなの破廉恥っすーーーーー!!!!!」
「ぐえ!?」
「きゃ!」
錯乱したメガスは俺とルカを突き飛ばすとフルスロットルで部屋から飛び出して行ってしまった。
「私なりの応援だったけどちょっと急過ぎたかな」
「何の話だ、いてて」
何かを悪びれているようだが見てる感じそんなに反省はしてなさそうだ。しかしどうしたものか。このまま寝るのは少々無責任じゃなかろうか。悩んでいるとルカが立ち上がった。
「あんた寝てて良いよ。私がメガスを見てくるから」
一瞬俺もと思ったが、さっきの事を考えると逆に状況が悪化する可能性が大きい。ここは俺よりも付き合いの長いルカに任せるのが適任か。
「ありがとう、すまんな」
「それとさ」
部屋を出る直前でルカが振り向いた。
「やたら真面目ぶってるけどさ、もうちょっと正直になっても良いんじゃない?過去に私と何回か夜を越してるわけだしさ。まああんたの事情もあるだろうからそんな強くは言わないけど」
そう言い残し部屋から出て行った。
押し入れから枕を取り出し、2人の布団を見やった。そして布団の真ん中に陣取ると再び毛布を頭から被る。瞬く間に意識が沈んでいく。
今夜は良く眠れるかもしれない。
「じゃあ寝よっか」
「うん、ってあたしの布団の方で寝てるっすー!?」
(やるじゃん)