第二の人生はアスパ☆   作:レーヴィン

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・鳳天会
ゲーム内情報が無さすぎてどういう組織なのかサッパリ分かりませんが、ゲーム内にて組の奴らはとか組長という表記があるので、ヤクザみたいなもんかなーと勝手に思っております。


☆3 鳳天会組長襲来

『開けるネー』

「どうするかな」

 

焼き上がったトースト一枚を皿に乗せ、その横にオレンジジャム、シュガー、マーガリンを順に置いて行く。

 

『開けるネー』

 

爽やかな甘味と少しの酸味が良い具合にフィットしたトーストのお供たるオレンジジャムか、ただひたすら味覚と心を甘い幸せで満たしてくれるシュガーか、シンプルにトーストの長年の友マーガリンか。

 

「迷うな」

『開けるのに迷う必要ないネー』

 

あまりにも悩ましいがかと言って悠長にしていては冷めてしまう。そうなっては意味が無い。身体の奥底まで行き渡る温かさ、焼きたて特有のパリパリ食感、そこにジャムやマーガリン、これらが揃ってこそトーストと呼べるのだ。

 

「あ、焼いた後にシュガー塗っても意味無いな」

『開けない意味が分からないネー』

 

そんなわけでシュガーは除外。残るは二つ。

ジャムの方に目を向けると塗ってくれと言わんばかりに中の皮とジャムが輝き始めた……ような気がする。今度は主張が控えめなマーガリンの方に視線を移す。特に輝いたりはしてないが、これは多分あれだ。角で覗きながら気付いてくれるのを待つ女の子みたいな感じだ。そう思うとちょっとマーガリンが可愛く思えてきた。

 

「可愛いな」

『そう思うんなら早く開けるネー。それで面と向かって言ってほしいネー』

 

よしマーガリンにしよう。ジャムはまた今度だ。今からでも遅くないと言わんばかりにジャムが激しく点滅……してるような気がするが悪いな、トーストがまだあったなら使ってたんだがな。

 

まだ温かいトーストの一面にマーガリンを余す事なく塗り終えた。後はじっくりと味わうだけだ。

 

「それじゃあ」

『ユメを呼ぶネ』

「何の用だ」

 

スマホからインターホンを起動し、凶行を間一髪阻止した。

 

『やっと出たネー!さあ入れるネー!今日こそお前の身柄と血判を貰い受けるネー!拒否は不要ネー!』

「流石組長。朝からセロトニンを減らしまくってくれる」

 

これで何度目か。画面の前に大量の書類を見せつけながら闘志を滾らせる親友……いや知り合いのヒメに意味の無い精一杯の悪態をつく。

 

「店は大丈夫なのか?」

『大規模改装中ヨ。今の所私がいなくても問題無いからこうして来たネ』

「そうかそうか、なら早く帰ってくれ。それで終わったら呼んでくれ」

『お前の耳は馬になったの?というかそういうわけにもいかないヨ。完了するにはお前のサインが必要だし。あ、これも血判ネ』

「馬は耳が良いらしいが……って改装に血判とか聞いたことないぞ。というか何で俺?」

『お前の名前で依頼したからネ』

 

インターホンを切り玄関へと直行。ロックを解除した瞬間、外側から思いっきりドアが開かれた。

 

「やっと開けてくれたネー!」

 

中華服の上に黒のコートを羽織った紅い瞳の少女ヒメはようやく俺が出てきた事が嬉しいのか書類を振り回しながらはしゃいでいた。だがそんな事はどうでもいい。

 

「俺の名前って何だ!?」

「そのままの意味ネ」

「何で!?」

「お前が鳳天会で活動しやすいように名声を広めてあげてるネ。あ、ちゃんとポストも用意してあるから感謝するネ!」

 

この世界に来てから人生の岐路に何度も立たされてきたがなんだかんだ何とかなってきた。だがそれもここまでかもしれない。だって岐路が見当たらないもん。

 

「さあ!まずはこっちを押してもらうネ!」

 

よく分からない内容の書類を押し付けられながらそれでも必死に逃げ道を考えている中、ぴょこぴょこと揺れる彼女のアホ毛が目についた。

 

「これか」

「何がってイタタタタ何するネー!?」

 

朝っぱらから訳の分からない事を聞かされた挙句、岐路まで潰される始末。

 

「このアホ毛を抜きゃ、そのアホも少しはまともになるだろ」

「しょ、正気を保つネー!?」

 

アホ毛を右へ左へ引っ張り引っこ抜こうとする俺とそれを書類をしっかり握りしめながら阻止しようとするヒメ。傍から見りゃ可愛い女の子の髪を毟り取ろうとしている不届者である。

 

……そして彼女がどういう存在か忘れて、不届を働いた俺に手痛い応酬がやってきた。

 

俺と彼女の横に現れた黒い影。それが何なのか気付きはしたが身体は反応しきれなかった。

 

「いっ!」

 

アホ毛を掴んでいた腕に激痛が走り、慌てて手を離すと黒い影は俺とヒメの間にすかさず割り込み、血の付いたナイフをこちらへと突き出してくる。慌てて後ろに下がるがそれを読んでいたかのように腹に蹴りを入れられてしまった。

 

「ぐふっ」

 

蹴られた勢いで倒れた所を追い討ちの踏み付けで動けなくすると眼前にナイフを突きつけられた。

 

「組長!ご無事ですか!」

「組長!」

 

外からヒメを心配する声が複数聞こえる。背後に控えていた護衛達だろう。というか何で護衛達がいる事を失念していたのか数秒前の自分に問い詰めたい気分だ。

 

目の前の護衛は僅かに顔を後ろに逸らしていたが、ヒメに異常が無い事を確認するとこちらに向き直りナイフを喉元に押し当てて来た。

 

「組長はお前を大層気に入ってるようだが、狼藉を働くならば……報いを受けてもらう」

 

冷たく、静かな怒りと共に護衛はナイフを押し込み———

 

「止めるネ!!」

 

———熱く、心の奥底まで響くようなヒメの怒りがそれを阻止した。

 

「く、組長」

 

周りの護衛達を無視し、こちらにやって来ると今だにナイフを押し当てている護衛を睨みつけた。

 

「お前、今言った事が聞こえなかった?」

「し、しかし!こいつは組長に!」

「もう一度聞くネ。今言った事が……聞こえなかった?」

 

護衛のナイフが震えているがそれはそう、聞いているだけの俺でさえ呼吸を忘れる程の威圧だ。その威圧を向けられている護衛は俺の比ではないだろう。

 

やがて護衛は忌々し気に此方を睨みつけると俺から離れ、入れ替わるようにヒメが此方にやって来た。

 

「お前達はそこで待機ヨ」

 

一言告げるとドアを閉めてロック。そのまま俺に肩を貸して家の奥へ歩き始めた。ドアの向こうからは様々な感情を乗せた声が暫く響いていた。

 

 

 

 

「よし、一先ずは大丈夫ネ。後でちゃんと病院に行くんだヨ?」

「ああ、すまない」

「お礼は良いヨ……ってどこ見てるネ!」

 

さっきの横暴の謝罪も込めてアホ毛に軽く頭を下げる。アホ毛は軽く揺れたが多分許してくれたんだろう。知らんけど。

 

「しかし困ったネ。折角用意したポストにこれじゃ付かせられないネ」

「いや、いらないけど?」

 

真面目な顔して悩むヒメには申し訳ないが地位に興味無いんだよな。そして組織にも興味無い。折角の2度目の人生なんだしそれに……いや思い出すのはダメだ。とにかく何かに縛られず自由気ままに生きたいのだ。

 

うんうんと唸ってるヒメのスマホの着信音が響いた。思考を中断して画面を見たヒメは僅かに眉を顰めた。

 

「矢も盾もたまらず、ネ。ゴメン、一旦帰るネ。これ、病院代。余った分は好きにして良いヨ」

 

懐から確実に余るであろう札を1束置いていくと早足で部屋から出ていく。少しして玄関のドアが開く音が聞こえた所でドアを遠隔ロックしようとしたが間違えて外にあるカメラにアクセス。

 

カメラには心配する護衛達に囲まれながら家を後にするヒメの後ろで3人程の護衛が家に入り込もうとしてるのが見えた。慌ててドアをロックしてインターホンを起動。スピーカーの音量を上げてヒメの名を呼ぶ。振り返ったヒメが侵入しようとした護衛達に気づいた所でカメラとインターホンを切った。

 

「はぁ」

 

どっと押し寄せて来た疲労に流されるようにその場に倒れ込んだ。

 

「……」

 

切り付けられた箇所を見る。彼女は応急処置だとは言ったが、正直病院行く必要が無いんじゃないかと思うほど完璧な処置だった。俺も多少は心得はあるがこれには遠く及ばない。

 

「予約入れよ」

 

とはいえ、金まで貰ってしまったわけだし言われた通り病院に連絡入れたら勤めてる知り合いから「今すぐ来て!予約捩じ込んどきますから!」と言われてしまった。こうなった以上行かない選択肢は無い。行かなかったら?仲良くなって試してみるといい。依存の素晴らしさを存分に味わえるから。

 

なんて誰に向けた語りだと思いつつ冷え切ったトーストを食べながらふと思いついた。

 

夜はピザでも食べに行こう。




「良いなぁ。私もお兄さんに会いたい」
「あいつもお前に会いたがってたネ。今度の休みに行って来ると良いヨ」
「本当!?嬉しいなぁ、やっぱり相思相愛だったんだ」
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