第二の人生はアスパ☆   作:レーヴィン

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明けましておめでとうございます。

1月中に投稿する予定でしたが、9割完成したところで見返したらちょっと納得いかなくて最初から書き直してました。


☆4 美少女➕太刀✖️ヤンデレ=危険

「ほう、起きていたか。感心だ」

 

気分転換というべきか、何となく思い立って朝から家の掃除をしていたら人生が終焉を迎えようとする奴なんて俺以外いないんじゃなかろうか?

 

……何を言ってるって?待て待て俺は正気だ、寝ぼけてなんかいないし酒も飲んじゃいない。いや違う違う、現実から逃げるな。

 

恐怖に震える身体を何とか抑えつつ、目の前の存在を改めて認識する。

 

小柄な体躯に腰まで届く白髪、黒を基調とした着物、そして一際目を引くのが彼女の象徴とも言える太刀。

 

認識した所で今度は凍てついた思考を働かせる。大丈夫、今まで通りあしらえばいい。ただ決して恐怖は悟られないように、

 

「何を惚けている?……そうか、私が来た事が何よりも嬉しくて仕方ないんだな?全く、だったらその気持ちを言葉にして欲しい。ミサキが来てくれて嬉しいとか、会いたかったとか何でも構わない。私にとって君の言葉は他の何にも変え難い大切なものなのだから。……何故何も言ってくれない?君の生涯の伴侶が目の前にいるのに……ああそうか、こうだな?君は本当に不器用だな。抱きしめたいのならいくらでもすると良い。私も君の温もりと愛情を深く感じられて安心できる」

「……」

 

悪いなコマチ、もう夜這いの日々とはおさらばだ。

 

ヒメ、妹の暴走を何としても止めてくれ。

 

すまんなルカ、一緒に走った日々は忘れない。

 

ごめんなメガス……まだ一緒にやりたいゲームが大量にあるけどここまでみたいだ。

 

一癖二癖しかない少女達の顔が走馬灯のように浮かんでは消えて……何だこいつら消えてくれない。

 

 

 

 

文武両道、品行方正、堅忍質直、質実剛健。

龍ヶ崎美咲を知る人達は彼女をこう評価するだろう。一応この評価自体については異を唱えたりはしない。

 

ただ世間の評価と実際に関わっての評価は往々にして違うもの。

 

何が言いたいかと言うと俺はこいつが苦手だ。

 

「家の中は家主の性格が如実に反映される。君はかなりルーズだから幾度となく指導をしてきたがようやく自ら動いてくれたんだな。それとも私との将来を見据えてか?ふふ、何にしても喜ばしい一歩だ」

 

掃除道具や工具箱を見て満足そうなミサキ。普段凛とした女性の微笑みっていうのはときめくものなのだが……

 

「朝からやっているのか?ちゃんとご飯は食べているか?」

「え?……まぁ、ああ」

「……褒めたと思えばこれだ。待ってろ、軽く何か(こしら)えてやる」

 

そのままキッチンに入っていくと調理器具や食材を引っ張り出し始めた。もう大分長い間押しかけて来てる分、何処に何があるかは完璧に把握してる動きだ。あ、視線が合ってしまった。

 

「どうした、何かリクエストがあるなら作るが……ああでもピザとかはダメだぞ。この前の検診、医者から油物は控えた方が良いと言われていただろう?難しいようならミサキさんに管理してもらうのも手だと言っていたし。それとナースからもミサキさんとの将来を考えてるなら体調管理はしっかりしなさいと怒られたのを忘れたのか?」

「……」

 

それは新規オープンしたピザ店に行く途中で運悪く鉢合わせたミサキに強引に連れて行かれただけの話であるし、ビタミンCがちょっと足りないって言われただけで油物は控えてだとか将来がとか一切言われてないのだが。

 

「……いや何も無い。掃除の続きをしてくる」

「そうか、分かった」

 

バケツと雑巾を回収して部屋に戻るとそのままベッドに倒れ込むと同時に盛大に溜息をつく。

 

彼女は純粋……かはともかく好意をアプローチして来てるだけでそれに関しては悪いとは微塵も思って無いし、俺も普通に嬉しい。ただその好意があまりにもデカすぎる。

 

「助かってる部分もありはするが、気が休まらねぇ」

 

ハーレムものの主人公を見る度にこんな美少女達に迫られてるのに何て鈍感な奴なんだ、何で好意に気づいてるなら応えてやらないんだと悶々としていたが……実際に味わってみると安易に応えるのも考えものだし、鈍感なのも一概に悪いものだとは言えないもんだ。

 

「あ、モップ忘れた」

 

早く離れたくて部屋に戻ったのに……キッチンだったな、確か。

 

重い腰を上げて、部屋から出ようとした瞬間だった。

 

「進んでるか?」

「うおっ!?」

 

全然気付かなかった、完全に気を抜いてた。

 

「何をそんなに驚いているんだ?」

「いや、それよりもどうした?」

「おにぎりを持って来た。新たな一歩を踏み出した君を想いながら作ったんだ」

「そ、そうか。ありがとう」

 

若干大きめのおにぎりが三つ乗った皿を受け取って机に置くと雑巾に手を伸ばす。モップは後ででも良いか。

 

「食べないのか?」

「ゆっくり食べる」

「…………まさか、間食したんじゃあるまいな!」

「してない、だからゴミ箱漁るのはやめてくれ」

 

毎度の事だが、何の躊躇も無く男の部屋のゴミ箱に手を突っ込むとかどういう神経してやがるんだ。

 

何とかできないものだろうかとあれやこれやと思案していたが……予兆無くして危機を感じる事は出来ないわけで。

 

「おい、これは何だ?」

「っ」

 

暗く澱んだ気が辺りを瞬く間に覆い尽くしていく。あまりにも一瞬の事だったから、思わずたじろいでしまった。

 

「今の君の反応……何か隠し事があると見ていいんだな?」

 

ゆらりと立ち上がって振り向く彼女の手には少し前に買って食べたチョコ菓子の袋。

 

「説明してくれないか?これは何だ?」

 

一歩、一歩と近づいて来る度に一本ずつナイフに刺されていくような感覚がする。ふと背中に何か硬いもの……壁か、無意識の内に後退りしていたみたいだ。

 

「何で逃げるんだ?ただ私はこれについて聞きたいだけだ」

 

目の前まで詰めて来たミサキの目に光なんてなく、生きとし生けるもの全てを飲み込む何処までも深い闇が潜んでいるだけ。

 

「それは、だ、な」

 

落ち着け……これは初めての事じゃない。今までも何度かあったことだ。出来る限り目は直視するな、気をしっかり持て、じゃないと本当に飲み込まれる。

 

「数日前に……行きつけのコンビニで買ったやつだ」

「そうか、レシートは?」

「捨てた。俺が今までレシートとっといたことなんてあるか?」

「…………他の女狐どもから貰ったものじゃないんだな?」

「断じて違う」

「………………」

 

少し俯いたが、多分俺の言ったことが本当かどうか審議してるんだろう。一方俺は、今し方のやり取りを思い返す。コンビニで買ってレシートは捨てて食べた。うん、何も間違いは無い、間違いは無いはずなのに……なんか……嫌な感じがする。

 

「……そうか、そういう事か」

「……?ミサがはっ!」

 

何か呟いた瞬間だった。突如視界が反転すると同時に身体中に衝撃が走った。

 

「君は本当に不誠実だな」

 

明滅する視界の中、何処までも冷たくそれでいて確かな怒りを乗せた言葉が聞こえて来る。訳もわからず伸ばした手は突如として万力のように締め上げられ始めた。

 

「貰ったんじゃない、一緒に買いに行ったんだ。その後家に連れ込んで……」

 

ここに来てようやく自分の置かれている状況を把握できた。両手はミサキに掴まれ、当の本人は馬乗りになって俺を睨みつけている。

 

「この大掃除も女狐と一緒にいた痕跡を消すためのものだったわけだ」

「ち、違う」

 

ミシミシと嫌な感覚を覚え始める中、何とか否定するがミサキは一向に止まる気配が無い。

 

「やはり今のままのやり方じゃヌルすぎる。いつか君は破滅してしまう。なら……」

 

そう言うとミサキは自分の服に手を掛け始めた。

 

「お前、何して」

「少々乱暴な手段だが、お前が共にいるのは有象無象の女狐どもじゃなく、私だということを刻み込んでやる」

 

片手で器用に服を脱いでいく中、必死に拘束を解こうとするもまるでびくともしない。そうこうしてる内に上半身はサラシを胸に巻いてるだけの姿になっていた。

 

「さて始めるとしよう。だがその前に」

 

ずいっと顔を寄せて来る。嫌でも彼女の目を直視せざるを得なくなってしまった。

 

「連れ込んだ女狐の名前を教えてくれ」

「だから、連れ込んでっ、ない」

「この後に及んで……まあいい、直に私しか見れなくなるんだから。聞き出すのはその後でもいいだろう」

 

俺の手を離すと今度は頭に手を添え始めた。何とか抵抗しようとするが、あまりの痛みに両腕は全く動いてくれない。

 

「ふふ、ようやく君を私のものに……」

 

恍惚とした笑顔を浮かべながら徐々に顔が近づけてきて……

 

ピンポーン

 

「っ……こんな時に!」

 

唇が触れ合うまで後数ミリという所で救いの鐘が鳴り響いた。

 

「……どいてくれ、出ないと」

「…………」

 

少しの逡巡の後、ゆっくりと上から退いてくれたが、相変わらず目に光が戻っていないから何を考えてるのか分からない。ミサキから視線を外さないよう、ベッドに置いてあるスマホに手を伸ばす。まだ酷く痛むのもあって操作に手間取りつつも外のカメラに何とか繋げる。

 

映し出されたのはスーツ姿の3人の男。一瞬、鳳天会の連中かと思ったが……これは……

 

「警察だな。見たことある顔ぶれだ」

 

後ろから覗き込んでいたミサキはそう言うと、服装を正し始めた。目に光は……微妙に戻った感じか。

 

「迎えるぞ。ここで居留守を使ってもしばらくしたらまたやって来るからな」

 

極度の緊張状態に晒されて上手く動かない身体を無理矢理動かして先に部屋を出ていくミサキの後を追った。

 

 

 

 

「どうも、ユニオン市警です。ちょっとお尋ねしたい事がって、ミサキさんじゃないですか!」

 

スーツの男の3人の内、その先頭に立っていた男がミサキに気づくなり驚きと尊敬の眼差しを向けてる中、俺は3人を観察していた。

 

先頭に立ってミサキと話してる男は確か知り合いの情報筋だと……あった、警部補か。後ろの2人は分からないが巡査部長辺りだろうか?

 

「この前の件は本当にありがとうございました。ミサキさんがいなかったらどうなってた事か」

「当然の事をしたまでだ。あんな不埒な輩を野放しには断じて出来ないからな」

「流石ミサキさんだ!これからもよろしくお願いします!」

「それよりも何か聞きたい事があって来たんじゃないのか?」

「ああ、そうだ。実は昨日の夜、この近辺で数件空き巣被害に遭っていまして。更には銃声まで聞こえたとの通報まであってですね。何かご存知ですか?」

「いや、知らないが……もしかして例の?」

「我々も例の奴だと睨んでおりますが……あなたは?この家の家主?」

「そうだが?」

 

こちらに視線が集まった所でスマホをしまう。とにかく家に上がらせずにお帰り願おう。こいつらを見ていると…………いや、今はそんな事考えてる場合じゃない。

 

「銃声は聞こえましたか?それか何か見たとか?」

「いや。疲れて寝てたから分からんな」

「おいおい、いくら寝てたからって銃声が聞こえねえわけないだろ」

「聞こえねえぐらい疲れてたんだよ」

「本当か?……警部補、こいつ何か怪しいですよ」

「は?」

 

それまで黙っていた後ろの1人が急に突っかかって来たかと思えば、今度は勝手に疑念を持ち始めやがった。もう1人も疑いの眼差しを向けてやがるし。

 

「……申し訳ないですが、少し家の中を見させてもらっても?」

「任意か?」

「そうですね」

「なら断る。見せるものは無い」

「あ?見せるものは無いだぁ?その態度といい、なんだ?なんか疾しい事でもあんじゃねえのか?」

「彼の言う通りです。ただ我々は見るだけ。貴方はそれを許可する。ね?簡単でしょ?それとも彼の言う通り何か後ろめたい事でもあるのかな?」

 

相変わらず言葉遣いは穏やかだが、片足に力を入れてるのが分かった。すぐに飛び掛かれるようにだろう。後ろの2人はスーツに手を入れてる……銃か。

 

「警部補、その職務に対する熱意と姿勢は私も常々見習うべきお手本だと思っているし、例の件が絡んでいる可能性があるが故に今まで以上に疑り深くなるのも、正義感から熱が入って躍起になるのも理解できる。私も同じ気持ちだ。だが……銃を抜こうとするのは短絡的と言わざるを得ない」

 

一触即発の空気になった所で、すぐにミサキがフォローに入ってくれた。相手も、特に後ろの2人は気まずそうに顔を逸らした。

 

「…………確かにそうですね。失礼しました」

 

警部補も姿勢を正すと深く頭を下げた。声色を聞いてる感じだと完全に納得してるかは怪しいところだが。

 

「君もだ。彼らは日々信念を胸に命を懸けて仕事に当たってるんだ。君の行動が罪の無い人達を苦しめてしまう可能性だってあるわけだし、回り回って自分に帰って来たってそれは自業自得だぞ」

「ん、すまない」

 

警察相手に喧嘩腰は悪手中の悪手。分かってはいたことではあるが……とりあえず謝罪は入れておく。

 

「長居してしまいましたな。そろそろお暇させていただきます」

「分かった。例の件に関しては私の方でも引き続き調べておく」

「ありがとうございます。ミサキさんがいれば解決したも同然ですな」

 

それでは、と軽く会釈して出ていく警察達。一瞬こちらに視線を向けたのは気のせいではないだろう。

 

 

 

 

「ふう、君」

「はい、あの男の監視ですね?」

「そうだ、直感だがあの男は何かある。明日から3日毎に報告を。もし不審な動きが長期間見られるなら無理矢理連行しても構わない。上には私から話しておくから」

「それ、俺にやらしてくださいよ。確実に尻尾掴んでやりますから」

「君には別の調査をお願いするよ」

「別?」

「三神教とあの男の関係性を調べてもらいたい。特にミサキさんとのね」

「それ自分も気になってたんですよ。何でミサキさんがいるんだろうって。やり取りを見るに知り合い以上だとは思いますが」

「それを今から調べるのさ。いつも言ってるが情報は銃や刃物よりも遥かに優れている武器だからね。できるかな?」

「分かりました。余す事なく情報を得てきてやりますよ」

「よし、2人とも期待しているよ」

 

 

 

 

「じゃあ……俺は少し休憩するぞ」

 

朝からミサキの来訪に部屋での一幕、警察共の襲来、最早大掃除どころか何かをする体力も気力も持ち合わせちゃいない。今は何が何でも休みたかった。

 

疲弊した身体を引きずるようにして部屋に戻ろうとしたら軽く服を引っ張られた。見ると両腕を目一杯広げている。

 

「……」

「……」

 

……めっちゃ真剣な顔で見てくるけど、これってもしかしてハグを求めてんのか?

 

「さっき私がフォローしなければ、君は取り押さえられていたんだぞ?」

 

ほら、と言わんばかりにまた目一杯腕を広げた。これで拒否しようものなら豹変待った無しなのはアデノシンで溢れかえった脳でも容易に想像できた。

 

ミサキの前に立つと静かに一呼吸入れて抱きしめる。ハグって不安感や疲労を大きく軽減してくれるものの筈なんだが、全く安心感が得られない。気づけばミサキも腕を背に回していた。

 

「足りない、もっと強く抱きしめてくれ」

 

言われた通り強く抱きしめていく。満足したのか小さく笑った。

 

「ふふっ、久しぶりの君の愛と温もりだ。とても安心する。何時までもこうしていたい。人の本当の心は他人から決して分からない。けどこうやって抱き合うだけで限りなく相手の本当の心に近い場所まで近づく事ができるんだ。抱擁というのは実に不思議なものだと思わないか?」

 

穏やかな声で何かいろいろ囁いてくるが、死神の抱擁ってこんな感じなんだろうなとぼんやり考えていた。

 

 

 

 

「ご飯が出来たぞ」

「……ん」

 

ご飯……ご飯……ああご飯か、ちょうど掃除もひと段落したし……

 

「……君は何をしているんだ?」

 

何を?道具を片付けて……

 

「んん?」

 

スッと意識のスイッチが入るような感覚を覚えながら辺りを見回す。

 

締め切られたカーテン、知り合い……顔見知りに押し付けられた画面通話から辺りの電波をジャックまで出来ちゃう使い所の分からないテレビ、ユニオンシティ全体の有りとあらゆる経済の流れをグラフやデータにして可視化できるようにしたこれまた使い所に困るモーター付きセンターテーブル、廊下の隅からコッソリとこちらを心配そうに見つめるお掃除ロボZ3000。

 

ゆったり過ごしたい思いとは裏腹に妙なハイテク機能搭載の機器がそこかしこに置かれたリビングのソファに俺はいつの間にか寝かされていた。

 

「何でリビングに?」

「覚えていないのか?私と抱きしめ合ってる内に君は寝てしまったんだ。それにしても」

 

近づいて来たため思わず身構えるが、特に気にした様子はなく微笑んで手を伸ばして来た。

 

「君の寝顔はいつ見ても可愛いな。なあ、もう良いんじゃないか?明日からでも私の家に」

 

手が触れる直前、俺の腹が盛大に鳴り出した。流石に恥ずかしくて少し顔を逸らしてしまう。一方ミサキは一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、小さく笑うと俺の手を取って食卓へと歩を進めた。

 

 

 

 

「ふふ、まだまだいっぱいあるからな」

 

日頃から心身の乱れだとか不誠実と言って心の有り様を説いてきたり、ほんの僅かにでも女の子が絡んでると思えば即座にヤンデレ化して実力行使すら厭わない傍迷惑な奴だが……料理は美味いし栄養のバランスが素人の俺から見ても絶妙だと言うのが良く分かる程優れているのが少々腹立たしい。

 

「ふぅ」

「ミサキ、ちょっといいか?」

「どうしたんだ?」

 

ミサキが席についたタイミングでお茶を流し込むと少し気になる事を投げかけてみることにした。

 

「さっき警察と話してた例の件って?」

「ああ、それか。君は5、6年前に連続強盗事件と殺し屋による殺人事件があったのを知ってるか?」

「…………いや。そもそも言い方は悪いが連続強盗も殺し屋の話も割とあるだろう?」

 

今いる街ユニオンシティは複数の区から成り立つ都市なんだが、区一つ一つの規模が半端ではない。

 

だが規模がでかいという事はその分だけ人の数も、悪意も、欲望も、相応に渦巻いているわけで。やがて他人の体に、心に、見える形でそれが顕現していく。

 

ミサキはスマホを取り出して少し操作するとこっちに手渡してきた。画面に映るのは黒塗りのパーカーを被ってマスクをした……男、と箇条書きに書かれた特徴。スクロールさせると一軒一軒の被害状況が幾つかの写真付きで事細かに打ち込まれたものが出てきた。

 

「見ての通りだが、当初は空き巣が中心だった。だが捕まらない事をいい事に企業の倉庫や高級住宅街にまで被害を及ぼし始めたんだ。偶然見つけて捕まえようとした人達もいたんだが全員重傷を負わされる結果に終わった。死者がいないのは幸いだがな」

「……ミサキの所は大丈夫なのか?」

「私は大丈夫だが、他の三神教関係者は被害を受けてしまった。大事な歴史的資料や神器も幾つか盗まれてしまったみたいだ」

 

一旦スマホを返すと、また少し操作してこちらに渡してきた。映っているのは黒塗りのパーカーに防弾マスクをした男。同じく被害状況と写真だが、どれもこれも凄惨なもの……ばかり……

 

「手が震えてるけど大丈夫か?」

「…………大丈夫。こいつが……殺し屋?」

「……そうだ。連続強盗からしばらくして現れた。犯罪グループの重要人物と警察関係者、もしくは何らかの形で関与してた者達が狙われた」

 

スマホを返すと、綺麗に骨が取り除かれた焼き魚に箸を伸ばす。程良い焦げ味が口の中に広がっていく。魚の風味も全く落ちていない。

 

「警察は捜査本部を立ち上げて取り掛かったんだ。三神教もこの男に対する捜査だけという条件付きで支援を始めた」

 

少し離れた皿に盛り付けられた焼き肉に箸を伸ばす。こっちはシンプルに美味い。

 

「調べていく内にある事に気づいたんだ。君は分かるか?」

「……同一人物だろ?」

「そうだ。微妙に差異はあるが手口は殆ど変わらない。強盗被害にあった人達も口を揃えてこいつだと言ったよ」

 

盛り付けられたサラダにドレッシングをかけて口に運ぶ。野菜がクッション代わりになって他の料理がより多く食べられると聞いたが、果たして本当だろうか?

 

「そこで増員した上で捜査本部を二つに分けて、着実に証拠を集めていったんだ。だけど」

「だけど?」

「毎日強盗か殺人、必ずどちらかが起きてたのに、ある時を境に犯行がピタリと止んだんだ。捜査が行き詰まるのにも時間は掛からなかった」

「…………」

 

少しだけミサキの目線が下に向いた。その表情は悔しさと怒りがないまぜになったものだった。

 

「……結局、見つからなかったのか?」

「……ああ、だが諦めるつもりは無い。警察も捜査の規模は縮小したが打ち切ったわけじゃないからな。必ず罪を償わせる」

「……あんまり無理はするなよ?」

 

三神教教祖の補佐に護衛、神器や遺物の管理に慈善活動、そして数年前にこの街に神秘的な出来事を多数引き起こすきっかけとなった…………確か『天王落』事件?とやらの独自調査に俺への付き纏い、こんな面倒くさい奴ではあるがそれでも多少なりとも心配は出てくる。

 

「大丈夫、引き際はちゃんと見極めてる。さて辛気臭い話は終わりにして食べよう。まだまだ沢山あるからな」

 

そう言うと、空になった皿に次々と料理を補充していった。

 

 

 

 

「そろそろ帰るとしよう」

「マジで?」

「何で嬉しそうなんだ?」

 

頻繁に目の色を赤に黒にと身体に悪影響を無いのかと思いつつ、打開策を……あるわ。

 

「実はな」

「何だ?」

「エナドリ飲みまくれるなーって」

「何!?」

 

一直線に俺の部屋に入っていくと、隅に置かれた小さな冷蔵庫を荒々しく開け放った。そこには

色とりどりのデザインの缶がギッシリ……あれ?少し減ってる?

 

「またこんなに……飲むなとは言わないが……おい」

 

一段と低い声を出しながら振り向いたミサキの手にはちょっと前に知り合いの女の子と買いに行った期間限定パッケージチョコ。

 

「……やっぱり君はここで」

「ミサキ、それはだな、エナドリと一緒に飲むために買ったんだ」

「は?」

 

念の為言っとくがそんな冒涜は決してやらない。ただゆらゆらと近づいてくるミサキに焦って変な事口走ってしまっただけで。

 

「い、一緒に飲む?」

「コップに注いでそん中に2つ、3つ入れて溶け切ったところを一気飲み。最高だぞ」

 

想像するだけで強烈な吐き気を催すが、ここで嘘なんて言ったら次の瞬間には殴り倒されて永久に持ち帰りされるのは目に見えてる。

 

「………………」

「ミ、ミサキ?」

 

フリーズしたっぽい……まあこんな蛮行聞かされたらこうなるよなって、おや?ミサキの様子が……

 

「君はどこまで怠惰を極めれば気が済むんだ!!!」

 

小さく震え出した瞬間、キッとこちらを睨みつけてきた。全身から溢れ出す憤怒と威圧感に思わず後ろに下がってしまう。

 

「自堕落!不摂生!不養生!そこに正座だ!!」

「……不摂生と不養生は同じ意味「正座!!」はい」

 

 

 

 

「私は帰るが、次また私の想いを無碍にするような事をしたら」

「分かった分かった。少しずつ直していく」

「ああ、それから昼頃話してた事件の話だが、君も十分気をつけるんだ」

「もう活動してないんだろ?」

「また動き出す可能性だって十分にあるし、表沙汰になってないだけで今も活動してるかもしれない。とにかくそれらしい奴を見つけたら私か警察にすぐ連絡するんだ」

 

脅迫と忠告をしていくとエナドリとお菓子を詰め込んだ袋を手にミサキは帰っていった。

 

「やっと帰った」

 

肩どころか全身にどっと疲れがのしかかってきた。自室は2階だが、そこまでいく体力も気力も空っぽ。ヨロヨロとリビングに着いた瞬間、そのまま倒れ込んだ。

 

「うー」

 

短い呻き声を漏らしていると、軽快な機械音を鳴らしながらZ3000が近づいてきた。そういや居たなこいつ。

 

小さなディスプレイに心配した表情を浮かべながら俺の顔を覗き込んできた。心配はいらないと軽く撫でてやる。嬉しそうに機械音を鳴らすと、俺を器用に担いでソファまで運んでくれた。

 

「すまんな」

 

礼を言うと今度は上部の蓋が開いた。中を覗くとエナドリが数本……エナドリ!?

 

「何で……そういう事か!」

 

俺達の会話を聞いた後、回収しに行ったんだな。全部回収したら面倒くさい事になる事も考えて数本だけ。疲労を忘れてZ3000を抱きしめるとコイツも喜びを表すようにひたすら軽快な機械音を鳴らし続けていた。

 

明日はコイツと一緒に散歩でも行こう。




「ミサキお帰りー」
「教祖様、ただいま戻りました」
「またお兄さんの所に行ってたんでしょー?次はわたくしが遊びに行く番!」

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