TSメスガキ転生者がオタクくんをからかいたかった話 作:ソーラン節
私が出久くん育成計画を勝手に立ててから、出久くんの体はメキメキと仕上がっていった。
出久くん育成計画とは、その名の通り出久くんを強くする為の計画だ。何故そんなことをするのか。その答えはカンタン。出久はヒーローに
私は出久くん以上にヒーローに向いている人を知らない。それに出久くんがなりたいと言っているのだから、私はそれをサポートしなければならない。
だって、これから私は出久くんと二人三脚でやって行く約束をしたのだから。*1
未来のパートナー*2を支えるのはそのお嫁さん*3である私の定めなのだ。
とはいえ、いくら精神面が素晴らしいと言えどただの無個性がヒーローをやれる程社会は甘くない。いや、ヴィランが甘くない。
下手をすればプロヒーローの脚を引っ張ることになるし、最低限戦えるようになったとしても食べていくのに困らない程稼ぐのは難しいだろう。
職業ヒーローの悪いところだよね。
出久くんの頭脳と豊富なヒーロー知識・個性知識があればきっとヒーロー達のオペレーターとしてなら輝けるだろうけど、まあなんの実績もない無個性がそこの役職に至るのはなかなか難しいだろう。
そもそも、出久くんが憧れるヒーローは直接人を助けられるヒーローみたいだし、そこも合致しない。
さて、色々と現状の社会において無個性がヒーローをやる過酷さを説いたところだけど、それは
つまり、無個性の中でも外れ値に至れば話は別ってこと。
無個性だろうが、体を鍛えることはできる。知識や経験を積めばヴィランの戦闘に役立つ。サポートアイテムを上手く使えばそこらの個性よりも強力な力になる。
それこそ、常人なら耐えきれないような過酷な訓練を積めば無個性だろうとヒーローになることは可能だ。
現状、無個性差別が社会柄問題視されており、無個性権利運動が盛んなことも利用できる。反無個性差別の流れの矢面に立って、無個性でもヒーロー活動ができることをアピールすればマーケティング戦略としては十分だ。
「無個性の人々に勇気を与えるヒーロー」とくれば唯一無二。根強い人気を獲得できる。
そして、そこで役に立つのが私の個性だ。
出久くんには泥臭い戦い方が似合う。きっと、彼の勇気とガッツは人々に力を与えられるはずだ。傷だらけでも立ち上がり続けヴィランに立ち向かうヒーロー。そして、倒れても愛の力で
うんうん、なんだか創作に出てくる原点的ヒーロー像に合致するよね!
あとは、私の個性を利用して肉体改造を行えば、人間が理論上到達できる肉体強度の限界を叩き出せる。無個性の理論値のカラダ。
これって最高のヒーローだよね♡
「出久くんおはよ〜♡」
「お、おはよう治優さん」
ここ最近は流石に慣れたのか、こうして出久くんに後ろから抱きついても動揺しなくなってきた。でもちょっと顔が赤い。そういう所は変わってなくて可愛いね♡
「うんうん、いい仕上がりになってきたね♡」
「そ、そうかな……えへへ」
出久くんに抱きつきつつ、体を触る。いやらしい意味じゃないよ?
服越しに筋肉の具合を確認しているのだ。引き締まってずっしり重く、しかし柔軟性がある理想的な筋肉だ。そして、その下に感じる骨や内臓も、これまた理想的。まあ私が管理してるから当然だけどね。
もう既に、現時点で13歳の男子が獲得しうる限りで最高の筋肉・骨・内臓だ。下手な車に撥ねられても車の方が壊れるくらい丈夫な体だよ♡
「とりあえず肉体維持のために訓練は継続。食事も今まで通り私が指定した栄養素を規定量取ることを徹底してね。体の仕上がりはもう十分だから、あとは戦闘技術かな♡」
「たしかに、実戦経験はまだ全然足りてないかも……」
「まあ、この調子なら雄英受験も平気そうだね♡」
「そうだといいね」
と、私と出久くんがこれからの雄英高校受験、ひいてはヒーローへの道のりの作戦を立てていると。
「おいデクッ!!」
久しぶりにかっちゃんが突っかかってきた。
「てめェなんか勘違いしてんじゃねェか。没個性どころか無個性のてめェがあ〜、なんで俺と同じ土俵に立てるんだ!!?」
ほんとかっちゃん、出久くんのこと好きだよね。
かっちゃんは出久くんに妙に拘るというか、なんとしてでも出久くんを
かっちゃんは今までは出久くんが
実際の所、外野から見ている一般人からすれば出久くんとかっちゃんを見比べてどちらの方が優れているかと聞けば、大抵の人は後者と答えるだろう。
学力・身体能力・個性・戦闘センス・みみっちさ、どれを取ってもかっちゃんが優れている。
だけど、それは
ナードというレッテルを貼ろうと、無個性の落ちこぼれと蔑もうと、どうしたって隠すことのできない緑谷出久の才能。あるいは、異常性。人助けをしたいという欲求とそれの為なら自己犠牲を全く厭わないという精神異常性、あるいは
職業ヒーローではなく、原点の意味での「ヒーロー」であれば、間違いなく緑谷出久は爆豪勝己よりもヒーローに向いているのだ。
きっと察しのいいかっちゃんは薄々どこかでその事実に気づいていて、だけど認めたくない。だから出久くんをこき下ろすことで否定したいのだろう。かわいいね♡
ここ最近は出久くんが本格的に肉体改造をするようになってきて、つまり本気でヒーローを目指すようになってきて、かっちゃんはいよいよ焦っているんだろう。
あはっ♡ かっちゃん分かりやす〜い♡
「かっちゃん♡ そこまで言うなら戦って決めてみたら?」
「あ゛あ゛ん?」
「戦闘訓練だよ、戦闘訓練♡ もちろん雄英受験を控えた学生が暴力沙汰を起こすのはNGだけど、ヒーロー科志望の生徒二人が入試対策で戦闘訓練をするのは、全く問題ないでしょ?」
「……」
「え、ええ!? 僕と、かっちゃんが!?」
かっちゃんが思案する。
かっちゃんには、出久くんをボコせるというメリットが、出久くんには足りていない戦闘経験を積めるというメリットがある。
ま、かっちゃんからすれば出久くん側の目的が不明で不気味か。さっきから私と出久くんの顔を訝しげに睨んでいるし。きっとみみっちいかっちゃんの事だから何か裏があるんじゃないかと警戒してるのだろう。そんなことないよ♡
「あ〜♡ かっちゃん負けるのが怖いんだ〜♡ あれだけ吠えといて? いつもいつもオタクくんにマウントとっておいて? いざ真剣勝負となったら尻尾巻いて逃げちゃうんだ〜♡ ……だっさ♡」
「殺すぞてめェ!!! クソが!! ぶち殺してやるわクソデクてめェ!!」
「ええ!? ヘイト向くの僕なの!?」
かっちゃん扱いやす〜い♡
彼は適当に煽ってプライドを刺激すれば基本的に思いに乗ってくれる。出久くんが絡むと余計にね。
「と、というかその、戦闘訓練にしたっていきなりかっちゃんと戦うのはちょっと……」
出久くんが私に抗議してきたので、すかさず彼の手を両手で包み込み上目遣いでこう返した。
「大丈夫。出久くんなら勝てるよ♡」
「勝ちます」
出久くん扱いやす〜い♡
そんなわけで入試対策最後の仕上げとして、かっちゃんとのドキドキ♡戦闘訓練が始まった。
放課後、近所の堤防の河川敷でかっちゃんと出久くんが対峙する。
「最後にもう一度ルールの確認ね♡ どちらかがどちらかを拘束して戦闘不能にさせるまで戦うこと。気絶させてもいいよ♡ 公共の場で許可なく個性使用すると犯罪だから、今回はなしだよ。かっちゃんが不利だけどいいよね?」
「上等だクソデクてめェ。個性程度で勝敗は変わんねェんだよ」
「やっぱりヘイト向くの僕なんだ……」
さて、準備は整った。私がいる以上骨折程度の怪我までは許容範囲だ。あとは存分に戦って欲しい。
「じゃあ、よ〜い……スタート♡」
私の合図と同時に二人が動き出す。うわぁ、かっちゃん「死ねデクッ!!」とか言ってるよ。らしいけど、ヒーロー志望としてどうなの?
それはさておき、勝負はいい具合に進んでいる。
日頃の観察の結果得たオタク気味な知識によって、出久くんはかっちゃんの動きを読んで動いている。大ぶりの右を避けて、続く攻撃も上手いこと読んでは捌いている。
あはっ♡ かっちゃん焦ってる焦ってる♡ そうだよね、あのナードのデクにいつの間にか動きが読まれてる上に、思いの外動けるようになってるんだもんね♡
そして、焦りからかかっちゃんが少しだけ体勢を崩してしまう。そこにすかさず出久くんが攻撃を仕掛ける。
狙い所、タイミング共に完璧な右ストレートがかっちゃんに刺さる。
が、しかし。
「……あァん?」
ぽすっ。そんな音が鳴った。狙い所もタイミングも完璧だけど、フォームがだめだめだ。
まあ当然だよね。今まで私は出久くんの肉体改造を行ってきたけど、鍛えたのは本当に肉体だけだ。強いて言うならランニングのフォーム改善はしたけど、パンチの打ち方は教えていない。
だから出久くんの打つパンチは腰の入っていないへなちょこの、あの日私を助けた情けないパンチのままだ。
「……デク、お前それで勝つつもりだったのか?」
これにはかっちゃんも困惑顔だ。
その後は、容赦のないかっちゃんの猛攻撃に為す術なく出久くんはやられ、最終的に馬乗りになって殴られ始めたところで意識を失った。
かっちゃん本当容赦ないな。止めなかった私が悪いと言えばそうだけど。
「……おいツインテ女。お前、何が目的だ」
出久くんが気を失ったことを確認したかっちゃんがこちらを向きそう言った。
「何って?」
「てめェ、何かデクとコソコソやってるだろ。体鍛えてるみてェだが、かと思えば急に無理な喧嘩をさせる。何が目的だ」
「言ってるでしょ、出久くんをヒーローにするためだよ」
「……これが、ヒーローに?」
これ。
そう言ってかっちゃんが顎で指した先にいるのは、白目を剥いて仰向けに伸びている出久くんだ。
私は出久くんを治しに向かいつつ、かっちゃんに答えた。
「なるよ。出久くんは誰よりもヒーローに向いているから」
出久くんの横に屈み込み、彼の頬にキスする。すると、出久くんの体が緑色の光に包まれ、みるみるうちに傷が癒えていく。
「……ッ!」
後ろでかっちゃんが驚いているのがチラリと見えた。そう言えば、かっちゃんはこれを見るのは初めてだったか。
私の個性は、対象への好意に依存して効力が変化する。だから、出久くんへの治癒の効力は常軌を逸している。
転んで擦った傷も、打撲痕も、骨に入ったヒビも一瞬で治っていく。出久くんに関してだけ言えば、部位欠損程度なら治せる自信がある。それこそ、生きてさえいれば治せるかも。
……にしてもかっちゃん、ほんとみみっちいな。骨折くらいは治す気概だったのに、後々問題にならないように明らかに攻撃が加減されてるし、服の下ばかり狙って怪我が目立つ顔や腕を攻撃していない。意気地無し♡
「出久くん、起きて♡」
「ん、んぅ……はっ!」
私が揺さぶると、完全に傷が癒えた出久くんががばりと起き上がった。
「そ、そっか……そうだった。僕はかっちゃんに負けて気を失ってたんだ……」
出久くんが手をグーパーと握っては開いてを数回して、体の調子を確かめる。傷もないし動きも問題ない。見たところ完全に治っていそうだ。
「出久くん、体は大丈夫?」
「うん、ありがとう治癒さん。もう治ってる」
「そっか、じゃあ──」
だから私は出久の背中を押して、かっちゃんの方に向けて言った。
「──二戦目行こうか」
「うん!」
「……は?」
普通に考えて、せっかく時間があるのに一回戦って終わりなんて
パンチの打ち方が分からないなら、見て盗んで打って覚えればいい。戦い方を学ぶなら、戦えばいい。出久くんの観察眼と私の個性による回復で試行回数を稼げば、それが最も効率がいい。
さて、冷や汗をかいてドン引きとでも言いたげな表情でこちらを見るかっちゃんをもう一度煽らなきゃね。
「ほら、出久くんヒーローに向いてるでしょ? ヒーローは負けても立ち上がるものだからね♡ で、まさかかっちゃんは、一回勝った程度で勝ち逃げなんてダサいことしないよね?」
「……あァ、何度でもぶち殺したるわ」
「そうして♡ 大丈夫、もしかっちゃんに限界が来ても、私が
だから、この
「……………………あァ、何度でもぶち殺したるわ」
頬を引き攣らせながら強がって笑うかっちゃんとは対象的に、流石治優さんとでも言いたげに嬉しそうな笑みを浮かべる出久くん。
やっぱり、出久くんはヒーローに向いてるよ♡
おまけ
◆side出久
治優さんの協力の元かっちゃんと戦闘訓練を初めて、十回以上戦った頃。正直回数なんて数える余裕がないから、もしかしたら何十回も戦っていたかもしれない。
僕はかっちゃんの動きを読んでまともに戦うことができるようになってきた……と思いきや、逆にかっちゃんがこっちの動きを読んできて結局終始押され気味な戦いをしていた。それでも、パンチのフォーム改善や戦いの場馴れができて、かなり動きが改善してきた。
ここにきてやっと、僕はかっちゃんにまともな一撃を食らわすことができた。治優さんのアドバイス通りキチンと踏み込んで体重を乗せた、まともなパンチがかっちゃんに刺さった!
……とはいえタフさが売りのかっちゃんだ。結局、その回も僕はかっちゃんに負けた。
問題はその後のことだった。治優さんがかっちゃんの怪我を診ると言い出したのだ。
いや、かっちゃんが怪我をしたのだからその怪我を治すというのは、全くおかしいことはないのだが、問題は
治優さんが治療を行うということは、その、つまり……ちゅうするということだ。かっちゃんが怪我をしたのはみぞおちのあたりだから、つまり、治優さんはかっちゃんの服を捲って地肌を出させて、そこにちゅうをするということに……。
「だ、だめじゃないかな!?」
そこまで考えたところで自然と声が出ていた。
普段自分がされている治療行為を棚に上げて、不健全だとか不純だとか、とかく騒めく胸の内に突き動かされて、僕は彼女がかっちゃんにそれをするのを止めていた。
「だめって……何が?」
「ソッ、その、あの……治療行為って、つまり……」
「つまり?」
「ちゅ、ちゅう、するってことだよね!?」
「しないよ?」
「だから……えっ、しないの?」
僕が前提条件が否定されたことに戸惑っていると、その間に治優さんがかっちゃんの
「前に言ったでしょ、私の個性って
「そうなの!?」
「おばあちゃんの個性はちゅ〜しなきゃダメだけど、私の場合はそうじゃないよ♡」
た、確かに……! リカバリーガールの孫というイメージが強すぎて無意識に同じ個性だと思ってたけど、個性は遺伝するとはいえ祖母と孫が全く同じ個性になるとは限らない!
……うん?
「じゃあなんで僕にちゅうしてたの!?」
彼女の説明は確かに納得できるものだが、しかしそれでは今までの行為の理由が説明できない。
僕は半ば思い込みで「治優さんは個性発動の為にキスする必要がある」と信じていたから治療行為の度のキスを受け入れていたのだ。それが必要ないというのなら、一体全体何故あんなことをしていたというのか。
「……その、ちゅうしたかったから。……ダメ?」
「ダメじゃないです」
薄々分かっていたことだけど、僕は彼女の上目遣いに弱かった。
なお、その次の戦闘訓練は「俺を出汁にしてイチャついてんじゃねェ!!!」と暴れだした治療済みかっちゃんの元気いっぱいな右ストレートで始まった。