TSメスガキ転生者がオタクくんをからかいたかった話   作:ソーラン節

5 / 6
涙目敗走

◆side出久

 

 僕とオールマイトの秘密の特訓が治優さんとかっちゃんに目撃されてしまった。

 

「それで、出久くん。なんで私に黙って知らない人とトレーニングなんて水臭いことしたの?」

 

 いつもの、どこか人を小馬鹿にするニュアンスのある笑顔はどこへやら、感情のない瞳が僕を射抜く。

 

「その……ごめん!!」

 

 僕の夢を笑わずに応援してくれて、あれだけ手厚くサポートしてくれている治優さんにこんな隠し事をするのは不義理だ。だけど、オールマイトの個性の秘密を教えるわけにもいかない。

 僕にできるのは謝罪だけだった。

 

「謝罪は求めてないよ。出久くんが理由もなく浮気するような人じゃないことくらい知ってるから。私が求めてるのは理由だよ」

 

 からかい抜きの真剣な問いだった。いつもと違って語尾にハートマークが付いていない。

 

「出久くんが私以外の人と特訓するのは、まあ、出久くんの自由だからいいよ。私は悲しいけどね。でも、それを私に相談せずに、隠してするのはちょっと酷いんじゃないかな。ねえ、さっきから気まずそうな顔をしてるのはどうして?」

 

 無意識に脚が震えた。気がつけば僕もオールマイトも、あのかっちゃんですら治優さんに気圧されていた。

 ど、どうしよう……。治優さんの言うことはもっともだ。今回の件は全面的に僕が悪い。でも、オールマイトの秘密を言う訳にもいかない……!

 

 僕が答えに窮していると、オールマイトが僕を庇うように発言した。

 

「いや、すまない修善寺少女! これに関しては私のミスだ! 緑谷少年にこの特訓を秘密にするように指示したのは私なんだ!」

「……おじさん、どうして私の名前知ってるの?」

「君と爆豪少年の話は緑谷少年からよく聞いているよ。彼の夢を応援してくれる良き友人だと!」

「ふぅん」

「友達じゃねェわ」

 

 オールマイトの言葉に、治優さんの圧のようなものが急速に収まっていく。代わりにオールマイトへの警戒が強くなる。

 

「それで、おじさんはどういう経緯で出久くんの面倒を見てるの?」

「その……ええと……ゲボォッ!!」

 

 オールマイトが返答に窮したところでタイミング悪く、あるいはタイミング良く吐血した。

 僕からすれば見慣れてしまった光景だが、治優さんとかっちゃんは酷く驚いて動揺した。

 

「えっ!? ちょっとおじさん、ええ……」

「申し訳ない、驚かせてしまったね……。気にしないでくれ」

「いや気にするよ。いいからおじさんちょっと動かないで」

 

 流石医療系ヒーロー志望というべきか治優さんが簡易的な触診を始める……が、オールマイトの腹に手を当てた時点で治優さんの動きが止まった。

 顔に焦りを浮かべた治優さんが、素早い手つきでオールマイトの着ているダボダボのTシャツをめくる。

 

「ひゃっ……!」

「嘘でしょ……おじさんこれ、正気?」

 

 乙女チックな声を上げるオールマイトの腹部には、痛々しい手術痕があった。

 

「触った感じ、いくつか内臓が……胃と、呼吸器系がイカれちゃってる。いや、胃に関してはそもそもない……? どんな無茶したらこんなことになるの……そりゃあ吐血もするよ。というかなんで生きてるの……?」

「ハ、ハハハ……いやあ、見られちゃったな。まあ昔ヴィランにちょっとやられてね」

「そっか……」

 

 重い沈黙が落ちる。

 あの伝説的ヒーローオールマイトが引退に追いやられる程の怪我だ。きっと、医療知識がある治優さんからすればその深刻さが分かるのだろう。

 

 僕は沈黙を破るべく一つの提案をした。

 

「そ、そうだ治優さん! 治優さんの個性でオ……おじさんの傷、治してあげられないかな!?」

「……無理だよ。私の個性は、使う人への好意で効果が変わる。会ったばかりの人に使っても、気休めにしかならないって」

 

 再び沈黙が落ちる。く、空気が重い……。

 

「まあ、気休めでもないよりはマシだよね。おじさん、今から私の個性でちょっと治してあげるから、その後は直ぐに病院に行きなよ。頻繁に吐血が起きるのは流石にヤバいから」

「ああ、すまないね」

 

 治優さんがオールマイトの腹部に触り、いつもの優しい緑色の光が灯る。

 

 しかし、そこで異変が起きた

 治癒の緑色の光が強く輝き始め、オールマイトの腹部がボコボコと音を立て始めたのだ。明らかに過剰な治癒の力が働いていた。

 

「お、おおおお!? か、体が……!」

「え、え? どうして……。私、おじさんのこと、好きなんかじゃないのに……なんで……」

「ッ! てめェ何した!?」

「あっ、ちょっとかっちゃん、攻撃するのはやめて!」

 

 洗脳の類いを疑ったかっちゃんがオールマイトに飛びかかろうとするのを必死に止めつつ、治癒の一部始終を見守る。

 

 治癒の緑色の光は強くなり続け、オールマイトの全身を包み込んだ。そうして、その体を癒す。

 やせ細った体には健康な筋肉が付いていき、血色の悪かった肌には朱が差していく。

 

 そうして、治癒の光が収まりを見せた時。

 

 ボンッ

 

 そんな効果音を立てて、煙と共に「おじさん」の体は変化した。

 はちきれんばかりの筋肉に、彫りの深い顔、白い歯。迫力があり過ぎて画風が違うとすら感じてしまう存在感。そこにいたのは──。

 

「「オールマイト!?」」

 

 後にオールマイトから聞いた話だと、どうやら治優さんによる治療を受けた後は体調が()()()()()()()しまい、気を抜くとトゥルーフォームが維持できなくなってしまったらしい。

 

 なんにせよ、こうして正体がバレてしまった以上は仕方がないということで、僕とオールマイトは二人に事の顛末を聞かせることになった。

 

 

OFA(ワンフォーオール)……個性の継承。にわかには信じがてェ話だが……」

「目の前で出久くんが個性使うところ見せられたら、信じるしかないよね♡」

 

 あの後、僕とオールマイトは何とか二人へ事情を説明し納得させることに成功した。

 

「出久くんのヒーローの才能を見抜くとは、流石オールマイトだね♡ 見る目あるよ♡」

「あ、ああ、うん」

 

 突然纏う雰囲気が変わった治優さんにオールマイトが驚いている。オールマイト、こっちが彼女の素です。

 

「じゃあこれからは、かっちゃんも出久くんもお互い個性アリで戦闘訓練できるね♡ うんうん、よかったよかった♡ それじゃあ、そろそろ学校も始まっちゃうし一旦帰ろうかな♡」

 

 そうして事件は一件落着。僕たちは解散の流れになった──

 

「ちょっと待てや」

 

 ──のを、かっちゃんが治優さんの肩を掴んで止めた。

 

「……なあに、かっちゃん♡」

「まだ、解決できてねェ謎があんだろうが」

 

 にやり。かっちゃんが性格の悪い笑みを浮かべている。その笑みは、普段治優さんがかっちゃんをからかう時に浮かべる笑みに似ていた。

 

「お前の個性、相手への好意によって効力が変わるんだよな」

「……そうだよ♡」

「なら、さっき()()()()()()おじさんに個性使った時に、あんだけ強ェ効果がでんのはおかしいだろ」

 

 僕とオールマイト、かっちゃんの視線が治優さんへと集まった。

 

「……だよ」

 

 ゆっくりと振り返り、オールマイトの方を向いた治優さんが俯いたまま何やら呟いた。よく見れば耳が赤い。

 

「そうだよ! 私はオールマイトのファンなの! オタクくんをからかってる癖に自分もオールマイトオタクだってバレると恥ずかしいから隠してました! 私はあなたが好きです!! 悪い!?」

 

 治優さんが顔を真っ赤に染め、両手をぎゅっと握りしめ叫んだ。普段僕たちをからかっている治優さんからは想像できない余裕のなさだった。

 

「あ、ああうん、もちろん悪くないさ。応援ありがとう、修善寺少女」

「サインも貰うから!! いいでしょ、オールマイト!?」

「ああうん、もちろんさ。色紙に書けばいいかな?」

「今着てるTシャツの背中に書いて!!」

 

 その後、治優さんはオールマイトにサインを貰うと逃げるようにして走り去っていった。

 僕はそれを呆然と眺めるしかできなかった。ちなみにかっちゃんはゲラゲラと笑いながら見送っていた。あと、サインに関しては僕とかっちゃんもしてもらった。

 

 

◆おまけ

 

 出久くんがオールマイトに師事していたことが発覚した日の放課後、私はおばあちゃんの家に突撃した。

 幸い、たまたま仕事が早く終わったらしいおばあちゃんは家にいた。ピンポンを鳴らして出てきたおばあちゃんに文句を言う。

 

「ちょっとおばあちゃん! なんでオールマイトの傷のこと私に黙ってたの!?」

「……おやおや、会って早々それかね、治優。とりあえず座りなさいな」

 

 手招きするおばあちゃんに毒気を抜かれ、仕方なく靴を脱いで居間に上がり、いつも通りおばあちゃんの隣のお座布団に座る。

 

「オールマイトから話は聞いてるよ。治優に治されて、だいぶ体調が良くなったと」

「なんだ知ってるじゃん。で、なんでオールマイトのこと教えてくれなかったの?」

「あの傷は本来世に公開できない秘匿情報さね。実の孫と言えどそうそう話せたものじゃない」

「そりゃあ、そうだけど……」

 

 にしたって、私の個性があれば治せる可能性があったのに。というか実際治せたし。

 そう反論しようとして、おばあちゃんに頭を撫でられる。

 

「ちょ、ちょっとおばあちゃん?」

「にしても、ねえ。治優がそんなにオールマイトのファンだったとは知らなかったよ」

「うっ……」

「ファンだって言ってくれれば、治優に話を持ちかけたかもしれなかったのにねえ」

「……だって、格好がつかないし」

「恥ずかしいことはないさね。自分の好きなものには胸を張りなさい」

「うん……」

 

 気がつけばいつものようにおばあちゃんに丸め込まれてしまっていた。これが年の功というやつなのだろうか。前世を合わせても年齢勝てないし……。

 思えば、私は前世からおばあちゃん子でおばあちゃんには弱かった気がする。

 

「そうだ治優、また肩を揉んでくれんかね」

「も〜仕方ないなあ♡」

 

 結局それからは、いつも通りの肩揉みタイムだった。個性を使って体を癒しながら、筋肉の凝りを解していく。

 

「あはっ♡ こんなにカチカチにしちゃって♡ 肩凝りすぎ♡ 働きすぎじゃないの?」

「そうさねえ、最近ちょっと働き詰めてたからねえ」

「こんなになるまで人のために働いて誇らしくないの? おばあちゃんもう歳なんだから、もっと休んだ方がいいんじゃな〜い」

「そりゃあ誇らしいさ。生徒達の笑顔が喜びさね」

 

 一通り凝りを解し終えたら、今度は横にならせて腰のマッサージに移行する。

 

「あーあ、こんなに足腰痛めちゃって。よわよわ足腰♡ ヒーロー辞めちゃえば? 一緒に暮らそうよ♡」

「まだ定年には早いよ。治優が後を継ぐまでは現役さね」

「私じゃおばあちゃんの後はムリだよ♡ 誰にでも治療できる訳じゃないし〜」

「そうは言うけど治優、あんた昔からヒーローのこと大好きじゃないか。ヒーロー専門の医療系ヒーローなら全く問題ないさね」

「……おばあちゃん、私がヒーロー好きだって分かってるじゃん! なんでオールマイトのこと教えてくれなかったの!?」

「おやおやまあ、やぶ蛇だったかねえ……」

 

 私をからかって楽しそうに目を細めるおばあちゃんに恨めしい視線を送る。この人をからかうことのできる日は来るのだろうか。メスガキ生をかけても無理な気がした。




オールマイトは童貞(公式設定)だから一応は童貞おじさん×メスガキという王道コンビになるはずなんですが、ちょっとオールマイトの英雄性が強すぎて軽々しくおじさん煽りできませんでした。
冷静に考えて、あの世界に住んでてオールマイトを嫌いになるわけがないという罠。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。